対談 CONVERSATION

不妊治療も子宮頸がんも予防の時代へ 子宮内フローラが教えてくれること

宮本さおり

国内カップルの5.5組に1組が悩むと言われる不妊。最近では不妊治療における保険適用の話が話題になったところだが、ゲノム解析の力を使って不妊症解決の糸口を見つけようとする動きが日本でもはじまった。その船頭を務めるのがVarinos株式会社 代表取締役・桜庭喜行氏だ。「腸内環境」や、「腸内フローラ」という言葉はだいぶ耳慣れたものとなったが、これと同様に、子宮内の菌のバランスが、女性の健康に大きく関わることが分かってきたと言う。不妊治療の最前線で活用が期待される子宮内フローラの検査、いったいどのようなものなのか。編集長・杉原行里が話しを伺う。

ゲノム解析で見えてきた
子宮の内側の秘密

杉原:今日はよろしくお願いします。ここ数年、日本でも不妊治療の話題をよく耳にするようになりました。不妊に悩むカップルは多いというのですが、桜庭さんのところでは、そんな不妊治療に役立つ検査をされていると伺いました。

桜庭:妊活している多くの方の間では、不妊の原因が様々あるということはよく知られるようになってきました。今の不妊治療では、何が原因なのかについては検査をしながら、当てはまる説を取り除いていく、消去法の方法が一般的です。受精胚が大事だということは分かっていたのですが、受け入れる側の子宮については、解明されていない部分がありました。なんとなく、子宮にファクターがありそうだけれども、調べるための検査がなかったのです。

杉原:今まで探りたかったけれども探れなかったところだった。僕も桜庭さんも男で、子宮を持っていないのですが、桜庭さんがこの事業をはじめるきっかけはなんだったのですか?

桜庭:我々の事業は、不妊治療としてフォーカスされていますが、もともとは、ゲノム医療をどう利用していくかを考えて立ち上がった会社です。ゲノム医療分野について、海外ではすでにいろいろな会社があるのですが、日本にはまだないんです。ネット検索しても、本当に出てこない。前職でイルミナという会社にいたのですが、ここはゲノムの技術を作っている会社でした。技術を応用していく会社は、それを使って検査をしたり、いろいろとやるわけですが、イルミナとしての売り先が日本にはなかったのです。これが起業のきっかけになりました。日本だけ置いて行かれるというのが悔しかったんです。

杉原:なるほど。日本の場合、人々のゲノムに対する考えや認識がまだ薄くて、受け入れ具合も海外と比べると遙かに遅いと思うのです。例えば、アメリカの場合、ゲノム解析は自分のルーツを知るというような、エンターテイメント的な要素で広まった部分はあるものの、とにかく、多くの方がゲノム解析をされています。僕自身は、ゲノム解析に興味があったので、数年前からやっているのですが、やはり日本はゲノムに対しての認知度が低いのは、エンタメ化が薄いからなのでしょうか。

桜庭:今杉原さんがおっしゃっているのは一般の方向けの遺伝子検査のお話だと思うのですが、それに関してはやはり、その通りだと思います。一方で、私たちが手がけている医療機関向けのものはまた違う側面がありました。やるためのプレイヤーがいないという悩みがあったんです。血液検査など、検査会社は日本にもあるのですが、ゲノムについてはいませんでした。海外では様々な企業が立ち上がっているのにです。

杉原:これだけゲノム技術の応用が遅れているのには、日本の保険医療制度も関わっているのではと思うのですが。

桜庭:それもあります。日本の皆保険医療制度は広く皆さんが使える制度としては、非常に良い制度なのですが、それが故に柔軟性がないというのも確かで、その弊害が、新しい技術を保険制度に乗せるまでに時間がかかるということかと。海外だと、出てきた技術をパッと医療に使えるようになるのですが、日本だと実際に現場で使えるまでに2、3年かかってしまう。ゲノム医療は、制度との狭間で苦しんでいるという状況です。

杉原:なるほど。しかし、ゲノム医療はやって悪いことは何もなさそうな気がするのですがね。

桜庭:おっしゃる通りです。

杉原:そんな中で、桜庭さんはゲノムという大きな枠組みの中から、子宮内フローラという、一般の人たちにとって、かゆいけれども届かなかったというところにフォーカスしてはじめられた。

桜庭:そうですね。産婦人科の先生方と話している中で、卵の方を調べる検査は海外でも沢山事例があったのですが、それだけでは妊娠率を高めることはできないという実感を持たれていると感じました。卵だけでなく、着床する側の研究も必要だということは、どの先生方も思われていました。2016年に海外で子宮内環境と妊娠の関連性についての論文が出まして、それを携えて先生方のところを回ったところ、「これはそうだよね」と、異口同音にして言われました。そこで、子宮内環境の検査ができるとしたら、お使いになりますかと聞いたところ、皆さん「やる」と言ってくれたのです。会社を一緒に立ち上げた長井陽子(取締役CTO)は、前職から仕事をしてきた仲間ですが、彼女はすでに、この検査を開発するだけの技術を持っていましたし、私も知識として持っていましたので、それではということで、子宮内環境を検査するためのゲノム解析に乗りだしました。

毎月400件の依頼がくる
子宮内ゲノム解析

杉原:課題と売り先を見つけた状態からスタートするというのは素晴らしいですね。

桜庭:マッチングはありましたね。

杉原:現在、どのくらいの検査を行われているのでしょうか。

桜庭:月間400くらいの検査を請け負っていて、延べでいうと1万2000件くらいはやっていると思います。

杉原:自分が利用したいと思ったら、病院に行って検査を受けるのでしょうか。

桜庭:はい、今はそうです。検査を導入している病院に行っていただき、ドクターが必要な検体を採って、私たちのラボに送ってくれるという流れです。私たちからドクターの方にフィードバックをするので、利用者は病院で結果を受け取ることになります。もっと気軽に検査をしていただけるように、今、自宅でできる検査キットの開発をしているところです。

杉原:だいたいどのくらいの期間でフィードバックはくるのでしょうか。

桜庭:2週間ほどです。

杉原:フィードバックがくるまで、すごくドキドキしそうですね。

桜庭:子宮内フローラについては、数値が良くなかったとしても、改善も簡単にできますから、気軽に受けていただければと思います。

不妊や早産 子宮頸がんの
予防にも繋がる子宮内フローラ

杉原:改善の仕方はどのようなものがあるのですか?御社で独自のメソッドがあるのでしょうか。

桜庭:先生方とも相談しながら改善方法を考えているのですが、健康な方の子宮には、ラクトバチルスという菌がほぼ100%の割合でいることが分かっているんです。実は、このラクトバチルスという菌は、子宮や腟の酸性の環境を作ってくれています。酸性の環境を作ることで、悪い菌がここにいられないようにしてくれているんです。女性の中にはこのラクトバチルスが少なくなっている人がいるのですが、調べてみると特に、不妊治療をしている方にこの傾向が出ていると。ラクトバチルスが少ないことで、他の悪い菌が生存しやすくなっている。それが、不妊となんらかの関係があるのではと言われるようになってきました。ラクトバチルスの量は、サプリメントなどを摂取することで、改善できます。

杉原:これは今まで知られていなかったのでしょうか。

桜庭:そうですね。これまでは、子宮の中は無菌、つまり、菌が居ないと言われていました。培養レベルでは検出されない菌のため、産婦人科の先生方でもいまだにそう思われている方もいます。しかし、遺伝子検査の発達で、子宮にも菌がいることが分かってきたのです。そして、いるだけでなく、バランスが大事だというのがここ数年で明らかになりました。

杉原:まだ知らないドクターもいるというのは驚きですが、触診からレントゲン、レントゲンからCT、MRIと発展してきたものに似ていますね。

桜庭:そうですね。技術の向上で分かることが増えてきて、分かったことを元に治療するという段階に今きているなと。

杉原:現状は保険適用外ですか。

桜庭:そうなんです。不妊治療はまだそのほとんどが適用外です。

杉原:今後、この子宮内フローラ検査は不妊治療だけでなく、女性の健康全般に役立てられる可能性はあるのでしょうか?

桜庭:あります。実は、今すでにいろいろな先生方からお声かけをいただいておりまして、例えば、産科でも、早産との関わりについて調べてみると、繰り返し切迫早産をされている方の場合、ウレアプラズマという菌が関係しているのではということが分かってきました。

他にも、月経の周期の乱れも菌環境の影響が考えられます。また、子宮内環境が整えられているかどうかによって、子宮頸がんの原因となっているHPVの感染率が変わることも分かってきました。今後、がんの予防という意味で、子宮内フローラを整えましょうという動きになっていけばいいなと思っています。

杉原:それは素晴らしいですね。子宮内のゲノム解析は、女性の健康診断の新しいプラットフォームとなるかもしれませんよね。今日はありがとうございました。

桜庭喜行 (さくらば・よしゆき)
Varinos株式会社 (バリノス株式会社)代表取締役。
1972年生まれ。埼玉大学大学院修了。博士(理学)。理化学研究所ゲノム科学総合研究センター、米国セントジュード小児病院等にてゲノム関連の基礎研究に従事したのち、GeneTech株式会社、イルミナ株式会社を経て、2017年にVarinos株式会社を設立。

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(text: 宮本さおり)

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対談 CONVERSATION

老舗でありながらパイオニア。睡眠科学と寝具を結び付けたIWATAの熱意 後編

宮本さおり

今でこそ、実験のデータをパンフレットで紹介し、これを売りにするメーカーも珍しくないが、こうしたエビデンスに基づいた寝具の研究がはじまったのはどうやら、最近のことのようだ。日本の寝具業界で、いち早く睡眠科学と寝具の結びつきに目をつけた京都の老舗寝具メーカーIWATA社長の岩田有史(いわた ありちか)氏と編集長・杉原行里(すぎはら あんり)の対談後編では、睡眠科学から生まれた寝具、そして、これからのオーダーメードについて語ってもらった。

杉原前回は主に、睡眠科学と寝具のリンク、良質な睡眠を得るために必要なことなどをお伺いしました。その基礎知識をふまえて、具体的なIWATAさんの商品開発について、お話を伺っていきたいと思うのですが。

岩田:質の高い睡眠には、寝床環境が大切だということをご紹介しましたが、では、その寝床環境を整えるのに最も適している素材は何かと探りましたところ、天然素材に優るものはないというのが結論として出ました。

杉原:天然素材、それはどのようなものでしょうか?

岩田:化学的につくられたものではなく、自然に存在するものです。夏に使うのは日本よりも暑いところで育った麻がいいですし、冬は、日本よりも寒い地域で生きているラクダなどです。これらをふんだんに使ってできたのが、当社が今販売している麻のパットや、ラークオールなどです。適材適所とでもいいましょうか、合った素材を使うことが一番快適な寝具をつくる近道だと分かりました。

日本ではその昔、畳がマットレスとしての役割を果たしていました。畳は蓆をつみ重ねて閉じたものでしたが、聖武天皇が使っていたベッドではヒノキの簀子状のものの上にこうした積層構造の畳を敷いていたことが分かっています。この積層構造を現代版に置きかえて、一番いい素材で作ってみようということでできたのがラークオールです。

杉原:なるほど。

岩田:ラークオールのマットレスの場合は繊維が細いものほど上に重ねていて、ぐっと圧縮して入れています。体から圧力が少ないところは細いものでよく、お尻みたいな部分は馬のような太い繊維でしっかり支える構造を作り出しています。

新宿のショールームには構造を見える化した展示がされている。

杉原:すごいですけど、これは作るのが大変そうですね。

岩田:うちは創業188年目なのですが、130年くらいは綿だけだった。そこに、羽毛という素材を持ち込み、今度はラクダというものを持ち込んだのですが、掛布団は、綿よりも羽毛の方が軽くて暖かくて使いやすいことに私の祖父が気づいていて、それを父が商品として実現化しました。敷布団で綿を超えるものを探していたのですが、ずっと出会わなかった。化繊の開発もありましたが、保温性や吸水性など、ピンポイントでいいものはありましたが、オールマイティーに優れたものというのはなかった。たまたま、1990年代、百貨店の方がモンゴルからいろいろな繊維をもってこられて、その説明をする場面に出くわしまして、IWATAさんで何か使えないかと言われたのです。当時、父と一緒に拝見したのですが、ラクダの毛というのは羊毛と違い、顕微鏡で見た時にスケールと呼ばれる角がないのです。角というのは、例えば、髪の毛を顕微鏡で見た時にキューティクルが整っているとツンツンしたものが出ておらず、滑らかに見えますが、これと同じで、表面に角がない。羊毛は角があるため、繊維が絡まって毛玉になりやすいのですが、ラクダの毛はそれがない。柔らかさがありつつ、もんでも毛玉になりにくい。面白い素材かもしれないと思いました。分析してみると、保温性はもちろんなのですが、乾くスピードが速いことも分かりました。

杉原:早く乾かないとラクダだって風邪をひいてしまいますよね、きっと。(笑)

岩田:そうなんです。だから、オールシーズンいけるのではないかと思いました。

羽毛で得たゴミをきちんと取る技術を活用して、ラクダの毛も同技術の駆使によって品質のよい製品を生み出すことを目指していました。ラクダの毛を製綿する機械の開発から入り、それを包む生地の開発に進みますが、綿ができても生地ができなくて、1年ほどキャメル毛のために作った綿の機械は遊んだままのような状態の時もありました。

杉原:岩田社長はどこか、パズルを組み合わせていくような感じですね。いろいろなパーツを組み上げていく理系的とでもいうのでしょうか。岩田さんのあくなき探究ですね。綿から羽毛へとバトンが渡され、今度はラクダと繋がれてきましたが、その次はなんだと思われますか。

岩田:これからはRDSさんがされているような計測が必要な時代になるかもしれないですね。

杉原:計測は面白いです。今、東京2020パラリンピックで優勝をめざしている車いすマラソンの伊藤智也選手の車いす開発に取り組んでいますが、車いすで走行している時の体の動きが計測できる機械を作り、そこから導き出された数値を彼のレース用車いすの開発に活かす方法を取り入れたところ、記録が伸びる可能性がでてきました。

岩田:ほう、それは素晴らしいですね。

杉原:僕はこれから、個人所有が注目される時代がくると思っています。特に福祉用具の部分でそれを感じています。伊藤選手をはじめとするアスリートの方々の車椅子開発から分かってきたことは、本当にその人の体に合った器具を使えば、もっと快適に日常を過ごせるということです。松葉づえにしても、車いすにしても、今の市場はレンタルが主流のビジネスモデルです。でも、福祉器具が必要な人は、一過性のケガや病気の人だけではない。生涯的に器具が必要という人もいるわけです。パーソナライズという視点で見た時に、計測を基にした寝具のパーソナライズというのは出てくると思われますか?

岩田:難しいところで、今一番信頼性のおけるものとしては、脳波を計測することだとされているのです。例えば、大脳が脳波の上では深い眠りについていたとなっていても、本人の感覚と一致しないことがあるのです。こうなると、計測でいい数値の方が快適な寝具の正解なのかというと、そうとは言い切れない。数値化か、感覚か、どちらがQOLを上げるのかは難しい問題です。

杉原:脳は解明されていない部分が多いですよね。

岩田:多分、一般の人は「脳波的によく眠れていますよ」と聞いても、実際の感覚と乖離していれば、満足はしないとも思うのです。

杉原:計測など、データを基にしたという部分では、最近は体圧分散を謳う寝具も増えていますが、こちらはどう思われますか。

岩田:姿勢と体圧分散は結構注目されるのですが、寝具で考えた場合、体と接している部分の温度と湿度をどうコントロールするかが、やはり一番大切なことだと考えます。体圧も面白い着眼ではありますが、これだけで寝床環境が良くなるかという点に私は疑問を持っています。

杉原:人間は自然と減圧をしていて、例えば、座った姿勢が長くなった時に、無意識のうちに少し体を動かしていることがありますが、あれは減圧するために体が動いているという説もありますよね。

岩田:なるほど。そのお話でいくと、興味があるのは車いすユーザーの方など、体に障がいをもった方はどのようにして寝返りを打つのかということです。人類進化ベッドを作った時に気付いたのですが、人類進化ベッドは腕が動くだけで、本体が心地よく揺れるため、もしかしたら、障がいをお持ちの方がスムーズに体位を変えられるのではないかと。

杉原:試してみてもいいですか?

岩田:ぜひどうぞ。

「人類進化ベッド」は世界で最も権威のある工業デザイン団体IDSAが主催するデザインコンテスト「IDEA」2018年のファイナリストにも選ばれた

杉原:これは確かに、腕を動かすだけで心地よい揺れがきますね。ゆりかごみたいです。

岩田:はい、構造を見ていただくと分かる通り、程よく揺れるようにしています。張り具合もお好みで調節できますから、ある意味、カスタマイズでしょうか。

杉原:寝心地も最高にいいですね。家に欲しいくらいです。確かに、障がい者の方に試していただくのは面白いかもしれません。

岩田:下半身が動かない方の寝返りの研究は、まだどこもやられていないことです。また、高齢者の方や、脳こうそくで半身不随になられる方など、どんな人も快適に寝られる寝具というものは今後、必要になると思います。

杉原:例えば、車いすユーザーの人に協力をお願いし、寝姿勢や寝返りを計測することができれば、そんな寝具の開発につながるデータが取れるかもしれませんよね。

岩田:計測は簡単にできるものなのですか?

杉原:解析には少し時間がかかりますが、計測だけならすぐにできると思いますから、是非やってみましょうか。バリアフリー寝具の開発、興味深いです。

前編はこちら

岩田 有史 (いわた ありちか)
株式会社イワタ 代表取締役社長。睡眠環境、睡眠習慣のコンサルティング、眠りに関する教育研修、睡眠関連商品の開発、寝具の開発、睡眠環境アドバイザーの育成などを行っている。睡眠研究機関と産業を繋ぐ橋渡し役として活躍する。著書に「なぜ一流のひとはみな『眠り』にこだわるのか?(すばる舎)、「疲れないカラダを手に入れる快眠のコツ」(日本文芸社)、「眠れてますか?」(幻冬舎)など。  

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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