テクノロジー TECHNOLOGY

人工眼で失われた視力を取り戻す!?人生を変えるテクノロジー「バイオニック・アイ」

岸 由利子 | Yuriko Kishi

「網膜色素変性症(もうまくしきそへんせいしょう)」って、聞いたことがありますか?これは、網膜の視細胞が、数年から数十年かけて、ゆっくりと退行変性していく遺伝性の眼の病気。米・メリーランド州の「ナショナル・アイ・インスティチュート」(The National Eye Institute)によると、世界の約4000人に1人が発症すると推測されています。

暗いところでものが見えにくい「夜盲」や視野が狭くなる「視野狭窄」、「視力低下」などの症状が見られますが、進行度も重症度も、個人差が大きいことが特徴です。生涯良好な視力を保つ人がいる一方、中途失明の三大原因のひとつでもあり、視力を失う人も少なくありません。

(引用:curechm.org)

網膜色素変性症により中途失明した人にとって、希望の光となり得るのが、米セカンド・サイト社の開発した「アーガスⅡ・バイオニック・アイ」と呼ばれる人工眼。システムが少し複雑なので、ステップ・バイ・ステップで説明したいと思います。

まず、患者の眼球内に光受容体が搭載された「人工網膜」を移植します。網膜のインプラントとも言い換えることができますが、この移植だけで、裸眼による視力が回復するわけではありません。

(引用:futurism.com

「アーガスⅡ」は、「VPU(ヴィデオ・プロセッシング・ユニット)」という外部デバイスと、ビデオカメラを搭載した専用サングラスを通して、人工網膜に映像を転送することで、視覚情報を再現できるシステム。網膜色素変性症の患者にとって、初の実用的治療だと言われています。

ここで注目したいのは、イギリスの国民保健サービス「NHS(ナショナル・ヘルス・サービス)」の取り組み。網膜色素変性症により視力を失った10人の患者を対象に、アーガスⅡの効果を測るための臨床研究を実施するのです。

「この極めて革新的な取り組みは、患者に真の約束を示すもの。人生を変えることも可能でしょう」とNHSのジョナサン・フィールデン博士。

対象者は2つのグループに分けられ、2017年中に、マンチェスター・ロイヤル・アイ・ホスピタルと、ムーアフィールド・アイ・ホスピタルで治療を受ける予定で、術後は、1年をかけて、じっくり経過観察を行い、有用な治療法であることを証明していく方針です。

イギリスのガーディアン紙によると、現在、同国内で網膜色素変性症を患う人は、約16,000人。そのうち、アーガスⅡの治療を受けるに相応しいのは、160~320人と推測されています。より多くの人が光を取り戻せるよう、まずは臨床研究の成功を祈るばかりです。

[引用元]curechm.org / futurism.com

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

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メカニズムのヒントは「きゅうり」!?自己質量の650倍を持ち上げられる人工筋肉ファイバー

Yuka Shingai

ロボットや義手・義足、医療用アプリケーションなどの駆動源として人工筋肉のニーズが高まっている。水力システムや自動制御装置付きモーター、形状記憶合金などの技術を用いたこれまでの人工筋肉繊維は重量やレスポンスの遅さが課題となっていたが、この度、マサチューセッツ工科大学の研究チームによって開発された繊維は、驚くほどに軽量でレスポンスも向上し、多分野での活躍が期待できそうだ。

開発者である同研究チームの博士研究員 Mehmet Kanik 氏と大学院生の Sirma Örgüç 氏によると、この繊維の特徴は1つの繊維の中で2種類の熱膨張率が異なるポリマーを結合させたことにあるという。熱を加えた際に、膨張率の高い方のポリマーがより早く伸びようとするが、膨張率の低いもう片方のポリマーによって動きが抑えつけられることで、繊維全体がカールし始める。これが繊維の伸縮性となっているわけだ。

このメカニズムの大きなヒントとなったのは、なんとキュウリ。支柱などにツルを巻き付けて上へ上へと成長することで、より太陽の恵みを受けようとする自然の仕組みを模倣して生みだされた繊維は強度も伸縮性もかなりアップし、テストの段階で、単一の繊維の質量の650倍もの重量を持ち上げることが可能だったと報告されている。

また、熱膨張率が異なる2種のポリマーであれば、どのような組み合わせでもうまく機能するので、使える素材がほぼ無限にあることも、大きなメリットであると Kanik 氏は語っている。より軽量で、より丈夫、そしてさらに開発が手軽になっていく人工筋肉は、まさに縁の下の力持ちと呼べる存在になっていくだろう。

[TOP動画引用元:https://youtu.be/q6ZtmLiB8bo

(text: Yuka Shingai)

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