プロダクト PRODUCT

アップルと補聴器メーカーがタッグを組んだら、“第3の耳”が生まれた

田賀井 リエ

ここ数年の補聴器の進化がめざましい。デザインはぐっとバリエーションが増え、よりおしゃれ度が増したし、機能的にも、よりハイスペックなものが続々と発売されています。中でも、オーダーメイド補聴器の先駆者として知られる米国スターキー・ヒヤリングテクノロジー社とアップルが共同開発した「Halo(TM)(ヘイロー)」は、いままでの補聴器の枠を超えた画期的なスマートワイヤレス補聴器と言っても過言ではありません。

この商品が何よりもすごいのは、補聴器とスマホが連動しているという点。なんと、補聴器で電話を直接受けることができ、会話をすることができるのです。いま日本で主要なワイヤレス補聴器の多くは中継機器とのセットで動いており、中継機器は首からぶら下げたり、ポケットに入れたりしておく必要があります。しかし、ヘイローは、スマホ自体がその役目を果たしているため、中継機器を一切持つ必要はなく、とても便利だし、とても身軽だということがお分かり頂けるでしょうか。

Halo_1

さらに、画期的なのは、TruLinkアプリと呼ばれるスマホアプリを使うことで、スマホがリモコンとなり、補聴器を自分好みにカスタマイズできるという点。意識しないと気付かないかもしれませんが、私たちは、さまざまな音環境の中で生活しています。たとえば、図書館などの静かな場所と、居酒屋などのうるさい場所では、耳が拾う音は異なります。前者では、快適に聞こえた音も、後者では聞こえないといった問題も当然起こってくるのです。そんな時、自分で補聴器の音質を調整することは難しく、単にボリュームを変えたり、購入した店舗で設定したメモリーに切り替えることでしかその場をやり過ごすことができませんでした。それでも満足が行かない場合は、結局、購入先の店舗に足を運ばなければならないのですが、一度調整しても、また環境によって音質を変える必要性が生じる場合もあるわけで、結局、補聴器の利用者を減らすことにつながってしまっていました。そんな難点をクリアしたのが、TruLinkアプリ。このアプリを使えば、TPOに合わせて耳が拾う音を、いとも簡単に自分好みの音質に微調整することができるのです。

加えて、自分好みにカスタマイズした音質設定とともに、ジオタグメモリーで場所を設定しておけば、その場所に着いた時に、スマホが感知し、自動的に音質が切り替わるという機能も装備。つまり、いつもの居酒屋に行けば、前もって自分が設定していた、「騒音の中でもより言葉を聞き取りやすい音質」メモリに切り替わるというわけ。

この他にも、補聴器がスマホの中にある音楽や動画を直接再生する「ワイヤレスヘッドホン」になったり、大事な音源を録音する「ワイヤレスマイク」として利用できたり、そのサイズゆえに、無くしがちな補聴器を、アプリを使って簡単に探し出すこともできるのです。新機能のリリースとともにアプリは随時アップデートされていく予定。また、デバイスも進化し、ヘイローの第二世代となる「Halo2(ヘイロー2)」が誕生した。業界初の会話と音楽の同時パラレル処理を実現するという新機能が追加されたとのことだ。スマホと連動したことにより、無限大に広がる補聴器の可能性。進化を続けるヘイローに今後も注目していきたい。

(text: 田賀井 リエ)

(photo: 栗原 美穂)

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プロダクト PRODUCT

コロナウイルス影響化で進むバリアフリー。注目のプロダクト2選

Yuka Shingai

もはや生活の一部分になった感のあるマスク。素材や機能性を追求し、常時つけられるものが増えているが、先日、HERO Xでも紹介した口元が隠れないマスクが新たなスタンダードのひとつとなりつつあることをご存知だろうか。コロナウイルス対策としてある夫婦が始めたひとつの取り組みが、ノーマライゼーションを後押しするように、世界をゆっくりと動かし始めている。

聴覚障がいのある仕立て屋夫婦が
「口の動きが分かる」マスクを縫製中

欧州や米国に比べ、大きく報道されるケースが少ないものの、感染者数が急増している東南アジア諸国。なかでもインドネシアは感染者数が約15000人、死者数が1000人を上回っている。
スラウェジ島のマカッサル在住のBadaruddin夫妻は元々、仕立て屋としてクッションやシーツ、カーテンなどを製作していたが、ロックダウン以降、貧しい人向けにマスクの縫製に取り掛かり始めた。聴覚障がいを抱える2人が作っているのは自身と同じように耳が聴こえない人々、補聴器を使用している人も使える、口元がシースルー状になったもの。1日あたり約2ダースのマスクを生産し、1個10000~15000インドネシアルピー(約72~108円)で販売している。

「ある日、マスクをつけた人に話しかけられたのですが、私たち夫婦には聴覚障がいがあり、唇の動きを読まないと何を話しているのか分からないのです。だから私は自分自身のためのマスクを作ろうと思いました。耳が聴こえる人もそうでない人も着用できるマスクですから、人が話していることも理解できるし、耳が聴こえない人もコミュニケーションの機会を損なうことがありません」と妻のFaizah さんは語っている。

聴こえない不自由を知る当事者だからこそのアイデアとも言える透明マスクは、手話通訳者が着用していることで、昨今TVニュースや動画サイトでも目にすることが増えた。障がいによるコミュニケーションの齟齬を解消するデバイスやプロダクトの台頭が、バリアフリーに対する私たちの意識と理解を少しずつ変えてくれることは間違いないだろう。

次に紹介する「Dot Watch」も、障がいによるコミュニケーションの困りを解決するプロダクトのひとつだ。視覚障がいを抱える人の情報アクセスを、より簡単にしてくれるものである。

着信もテキストも点字でお知らせ!
新世代スマートウォッチDot Watch

韓国のスタートアップDotによる「Dot Watch」は、世界初の試みとなる情報を点字で表示してくれるスマートウォッチ。スマートフォンとBluetoothで接続し、着信やアラーム、スケジュールやメッセージなどの情報を文字盤に浮かび上がる点字から確認することができる。1回につき4文字表示され、クリアするタイミングは自分で調整が可能。

また、点字学習プログラムが内蔵されているため、デバイスの利用開始時には点字が完璧に理解できていなくても問題ないというのが嬉しいポイント。目が見える、見えないに関わらず、点字ってなんだか難しそう…と抱いていた先入観が払しょくできるかもしれない。
デバイスはわずか60グラムと非常に軽量で、防水&防塵加工も施されており、充電も1週間に1度でOK。アプリは9言語に対応、自動アップデートされるなど手に取るハードルがとことん低く設定されているところも非常に魅力的なアイテムだ。

障がいの有無やバックグラウンドに関わらず、誰もが意思疎通を阻害されないゴールを目指して、このようなプロダクトがどんどん生まれることに期待したい。

(text: Yuka Shingai)

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