テクノロジー TECHNOLOGY

もし、明日から手の指が6本になったら?人類の可能性を拡張する「第3の親指」

岸 由利子 | Yuriko Kishi

イギリス・ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アートは、世界で唯一、修士号と博士号を授与する美術系大学院大学。彫刻家のヘンリー・ムーア、映画監督のトニー・スコットやダイソンの創業者、ジェームス・ダイソンなど、多彩な分野の異才を輩出してきた名門校として知られている。今年6月24日から7月2日に開催された同校の卒業展で、ひと際注目を浴びたのが、ダニ・クロードさんによる「The Third Thumb Project」と題したプロジェクト。小指の隣に“第3の親指”を追加することで、人間の能力を拡張する試みとして制作された。

第3の親指は、自然な親指の動きを実現するために、弾力性に富んだ「ニンジャフレックス」と呼ばれるプラスチック繊維を使って、3Dプリンターで出力されている。靴の中に埋め込まれた圧力センサーをBluetoothで接続すると、操作が行える仕様だ。車を運転する時、ミシンを踏む時やピアノを弾く時などに連動する手と足の動きを活用しようと、クロードさんはこの方法を選んだ。2つのモーターが作動すると、デバイスの可動部をさまざまな方向に動かすことができる。

このデバイスは、義手や義足などの人工装具に対する従来の概念にチャレンジするために作られた。

「人間のオーグメンテーション(添加増強すること)を探索し、体の機能を拡張するものとして、人工装具を見直すことを目的としています」

プロテーゼ(人工補綴)という言葉には、本来“加える”という意味が含まれている。これにインスパイアされたクロードさんは、障害を治したり、置き換えるためのものではなく、能力を拡張するためのものとして、新しい人工装具の形を提案している。

第3の親指は、能力を拡張したい人なら、誰でも装着できる。片手で3個が限界のワイングラスをもう1個持てたり、いつもとは違う音色のギターが弾ける、トランプカードが多く繰れるなど、ちょっと面白い経験から、タブレットを片手で持ったまま、画面をスワイプできる、ペンチを器用に動かせるという実用的な用途まで、人の数だけ拡張の仕方もさまざまにある。

「第3の親指は、道具の一部であり、経験の一部であり、自己表現の一部でもあります」とクロードさんは話す。3Dプリント技術を使えば、人によって異なる手の大きさに合わせて、カスタマイズもできる。第3の親指が日本に上陸する日は、そう遠くないかもしれない。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

テクノロジー TECHNOLOGY

オムロン×スクエニ!?異色のタッグが進化させた卓球ロボ「フォルフェウス」

Yuka Shingai

オムロンが「人と機械の融和」を目指して2013年より開発を続けている卓球ロボット「フォルフェウス (FORPHEUS)」。 2019年夏に行ったフォルフェウス第5世代の取材では、第5世代でまだ実現しきれていない、ロボットとラリーするプレイヤーのモチベーションをいかに向上させるか、感情の部分に踏み込むかが今後の課題としている旨を伺ったが、ついにこの度、その課題部分がアップデートされた第6世代がお目見えとなる。1月7日からアメリカ・ラスベガスで開催される、「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)2020」に出展が決定している。

今回、オムロンが共同研究を行ったパートナーはスクウェア・エニックス。コンシューマーゲームから新型エンタテインメントまで、ゲーム業界の全分野を網羅するリーディングカンパニーとタッグを組んだ背景には、個々人のモチベーションを引き出すインタラクション技術の強化が求められていたことがある。

アスリートが競技に集中、没頭し、モチベーションが最大化されるさまを「フロー状態」→「ゾーンに入る」と称することがあるが、退屈気味の人には厳しい球を打ち込む、はたまた困惑気味の人には易しい球を返すなど、感情や能力に合わせてチャレンジ度合を調整することで、第6世代のフォルフェウスはモチベーションの向上を図るインタラクションを実現することを狙いとしていた。

スクウェア・エニックスはゲームプレイヤーの感情などを推定し、個々に適したコンテンツを提供することを目指すAI技術(メタAI)に関する技術と知見を豊富に備えている。ゲームAIはメタAI、キャラクターAI、ナビゲーションAIの3つのAIが連携しているが、その中でも状況を監視し、ユーザーの心理を推測し、キーとなる役割を適切なタイミングでエージェントに指示するメタAIを活用することで、どのようなラリー計画が人のモチベーション向上に寄与するかを検証してきた。直近では、プレイヤーのスキルや推定した感情に基づいて返球内容を導き出しているが、今後はその人の性格や欲求も考慮に入れていきたいとのことだ。

また、超初心者から上級者まで対応できる柔軟なロボティクス技術、人の能力を向上させる知覚/身体拡張技術進歩を並行しながら、プロの球も返せる、そしてプロのような球も打てるロボットを目指す予定。

機械が人を追い越し、人の役割を奪うだろうとAIの台頭が脅威として語られる場面はこれまで幾度となくあったが、フォルフェウスが目指すのは、機械と人が共に高めあい、成長しつづける世の中だ。代替とも共存とも、また一味違う「融和」の発展を追い続けよう。

(text: Yuka Shingai)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー