福祉 WELFARE

『ハード』と『ソフト』の両輪でダイバーシティな社会を目指す、NECの取り組み【2020東京を支える企業】後編

吉田直人

NECは東京2020のゴールドパートナーとして、パブリックセーフティ先進製品・ネットワーク製品を通じた支援を行う。生体認証技術の豊富な研究開発を生かし、同大会では運営の安全面やネットワークインフラの構築に貢献する。他方で、車いすテニスを始めとしたパラスポーツの競技会を継続的に支援し、競技普及にも取り組んできた。2016年にはパラアイスホッケー日本代表としてパラリンピックを戦った上原大祐氏が『障がい攻略エキスパート』として入社し、社員の視野も広がりつつある。2020年とその先の社会に向けてハード、ソフトの両面から取り組むNEC。今回は『東京オリンピック・パラリンピック推進本部』の山際昌宏さん、神田紗里さんにお話を伺った。

パラリンピアンを『障がい攻略エキスパート』として招聘

ハード面で東京2020をバックアップするNECだが、パラスポーツという文脈で見ても、以前から積極的なサポートを行っている。昨年12月には、1994年から締結している車いすテニスの競技会『NEC車いすテニスマスターズ』、『ユニクロ車いすテニスツアー』のスポンサー契約を2020年まで延長する事を発表した。また2016年からは、大会主催という形のサポートから、もう一歩踏み込んだ支援にも乗り出している。

転機となったのは、パラアイスホッケー日本代表・上原大祐氏の入社だ。上原氏は、トリノ、バンクーバーと2大会連続でパラリンピックに出場し、バンクーバーでは日本代表の銀メダル獲得に貢献。一度現役を引退したものの、今年のピョンチャンを前にカムバックし、三度パラリンピックの地を踏んでいる。

2016年、上原氏が『障がい攻略エキスパート』として参画すると、障がい当事者の目線から見た駅や街の改善点をフィードバック。それを受け、NECは街中におけるICTを活用した課題解決に取り組んでいる。

形になった事例が1つある。渋谷区の『すぽっと』という子育て支援施設での取り組みだ。“スポーツを通じた子育て支援”をコンセプトとする同施設では、上原氏も講師を務めているが、施設のトイレに課題があった。

前述の神田さんは言う。

「お子さんがトイレに入って内鍵をかけた時に、鍵を開けられずに閉じ込められてしまうことがあり、外鍵を高い位置に付けて、大人だけが入れる様にしていました。そうしたら、今度は上原さんのような車いすユーザーの方がトイレを利用できなくなってしまっていたんです」

そこで、トイレのドアにNECの顔認証システムを導入。予め登録している人がドアの前に来ると、自動で解錠される。

「その他にも、例えば車いすユーザー向けの多目的トイレを、顔認証による登録制にするというご提案を各所でさせて頂いています。というのも、健常者の方が使用していて、車いすユーザーの方が利用できない場合がある為です。弊社は全国に支社があるので、自治体との繋がりも深い。上原さんに、日本各地に訪問して頂いて、地域を巻き込みながら変えていく。ICTがその1つの手段になれば良いな、と」(神田さん)

上原氏の入社で変わった“目線”と“意識”

「上原さんが入社してから、(障がい当事者と)同じ目線で物事が見れる様になってきたのは、オリンピック・パラリンピック本部でも大きな変化です。それから、我々はスポンサーにはなるけれど、パラスポーツ自体の経験が今まであまり無かったんですね。『せっかくだからパラスポーツをやってみよう』と社内で『ボッチャ部』を作って活動しています。パラスポーツは障がい者だけのスポーツではなくて、健常者もできるスポーツ。車いすテニスもバスケットボールも、健常者がプレーしても良いんです。そういった意識は社内でも浸透してきたのかなと思います」(山際さん)

「社内外でパラスポーツの体験会を主催させて頂いて、障がいの有無に関係なくスポーツを楽しんでいると、障がい当事者の方が普段困っている点や課題に気づく機会にもなる」と神田さんも言う。

オリンピック・パラリンピックという世界規模のイベントは、システムの構築というハード面だけではなく、同時に、“人と人の関わり”というソフト面も欠かすことはできないはずだ。NECは、ITベンダーとして、東京2020における精緻なパブリックセーフティ・インフラを希求しながら、ICTの力でハンディキャップを埋める為に、人間同士の交流を通じて積極的にアイデアを吸収している。

そのバランス感覚は、かねてからハードとソフトの両輪に重きを置いてきたNECならではのものなのかもしれない。

前編はこちら

(text: 吉田直人)

(photo: 壬生マリコ)

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障がい者支援も、人工衛星開発も、三菱電機の考え方は同じだった!【2020東京を支える企業】前編

朝倉奈緒

東京2020において、エレベーター・エスカレーター・ムービングウォークカテゴリーのオフィシャルパートナーである三菱電機。また、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会や一般社団法人日本車いすバスケットボール連盟のオフィシャルパートナーでもあり、障がい者スポーツの本格的な支援も始めている。今回、家電製品から宇宙システムまで、私たちの生活と密に関わる製品を生み出し、開発し続ける三菱電機が、「共生社会の実現」に向けてどのように動いているのか、東京オリンピック・パラリンピック推進部長の松井久憲さん、次長の小峰即彦さん、推進担当課長の平山哲也さんに、課題も含めお話を伺った。

2020年に向け描く理想は、
心のバリアフリーがあってこそ
完成するもの

ーエレベーター・エスカレーター・ムービングウォークカテゴリーのオフィシャルパートナーとして、大会関連施設や周辺インフラのバリアフリー化を支えられるとのことですが、今それらの事業はどのくらい進んでいるのでしょうか。

新国立競技場はご存知の通り、基礎工事が始まって、これから建物が建っていくといった状況です。アクセシビリティガイドラインに応じた設計がされ、私たちのエレベーター・エスカレーターなどもそれに沿った提案をしています。設計はだいぶ進んでいますが、施工に関してはまだこれからです。また、駅周辺や空港から鉄道を使ってホテルに向かったり、駅から競技場へ向かうといったアクセシビリティを高めるという点において、日本の街はそれなりに進んでいますが、まだまだ不十分なところがあります。2020年に向けて、そのあたりも交通事業者の方々の計画立案をお手伝いしています。

ー都内の地下鉄の駅には数年前まではエレベーターのない駅もありましたが、ここ12年で設置されていたり、現在工事中だったりするのを見かけます。2020年まであと2年程で理想の形に追いつくのでしょうか。

2020年に向けて、鉄道各社は、急ピッチでなんとかしようという想いで進めています。ただ、物理的なアクセシビリティだけでなく、困っている人がいたら押しつけがましくなくサポートできるような、人の心のバリアフリーを築いていくことも大切です。人の気持ちや意識が変わっていかないと、全体のバリアフリーは進まないというのが私たちの考えでもあります。

企業が諦めずに取り組むことで、
2020年東京の街と人を変える

ー鎌倉市にある三菱電機大船体育館をバリアフリー化し、車いすバスケットボールチームへ練習場所として貸し出されていますね。こういった施設を、これから増やされていく予定ですか?

具体的な計画はまだないですが、増やしていきたいなとは思っています。ただ当社一企業だけが取り組んだところで、十分な練習機会の確保には至らないと思います。ぜひ様々な企業さんにも、お持ちの施設をコネクションしていただくなどし、今後そういう活動が広がっていけばいいなと思っています。

ー車いすバスケットをするには、体育館の予約も取りにくかったりという、困った現状もあります。このような取り組みを進めている御社の視点から、インフラをどのように整えていくべきだと考えますか?

体育館に関しては、サポート対応する人がいないとか、床に傷がつくかもしれないといったことで残念ながら断られてしまうところが多いと聞いています「当社も参画しているオリンピック・パラリンピック経済界協議会の参加企業でも施設の貸し出しに向けて、どのように協力ができるか考えていただいています。」東京都と(公財)東京都障がい者スポーツ協会では、競技者を受け入れるために、施設職員の対応マニュアル「障がい者のスポーツ施設利用推進マニュアル」をつくり、ソフトの部分での対応力を上げて、少しでも使える施設を増やすための働きかけをしているところです。

ー以前よりも、みなさんのパラスポーツに対する興味・関心が強まったり、競技との距離感が縮まっている実感はあります。

メディアのみなさんが扱われる機会が増えているというのもありますし、リオ2016やピョンチャン2018、そして東京2020と段階的プロセスでもって、より共生社会に向けた感覚というのは培われているはずです。ロンドンパラリンピックで「ロンドンの街も人も変わった」、と関係者の方が口々に述べている。東京2020もそうなって欲しいので、少しでもお手伝いできることを願っています。

後編へつづく

三菱電機東京2020スペシャルサイト
http://www.mitsubishielectric.co.jp/tokyo2020/?uiaid=top2013

三菱電機Going Upキャンペーン
http://www.mitsubishielectric.co.jp/goingup/

(text: 朝倉奈緒)

(photo: 壬生マリコ)

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