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日本にMaaSは定着するのか!?国内モビリティ改革の障壁とは?

HERO X 編集部

MaaS(マース)=Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)は、いまや欧米諸国では新しいムーブメントだ。移動のサービスをシームレスにつなぐMaaSは、現代社会とのマッチングもよい。しかし、日本国内では、まだ限定的な取り組みにとどまっている。課題はなんだろうか? 国内MaaSの問題点を探ってみた。

日本のMaaSはレベルゼロ!?
単なる「乗り継ぎ案内」では意味がない

MaaSを具体的に説明すると、乗用車以外のバス、電車、タクシー、レンタサイクル、シェアライドなどの移動サービスを統合的に提供するシステムのことだ。ITを活用して予約・決済なども一括で提供し、その時点で最適な移動サービスの組み合わせをユーザーが選択できる。交通の乗り換え案内情報は日本でもシームレスに提供されているが、MaaSの場合は、運用会社の壁を乗り越えて、単一のサービスとして提供していることが特徴だ。

例えば、MaaS先進国のフィンランドでは、ヘルシンキで「Whim」というシステムが稼働している。(参考記事:http://hero-x.jp/article/9470/)「Whim」アプリを使えば、電車、バス、タクシー、バイクシェアなどのサービスが統合的に利用できる。決済もスマホ上ですべて完了し、交通機関を使う際に決済画面を提示すればいいだけだ。画期的なのは都度決済のシステムに加え、定額で乗り放題になるサブスプリクションサービスを提供していることだ。今ではサブスクを利用する市民のほうが多いという。

「Whim」は日本でも昨年末から千葉県柏の葉エリアなどで実証実験がはじまっている。
動画元:https://www.youtube.com/watch?v=rgsr5ZwsY1Q

また、ドイツでも産官学が一体となり、ドイツ鉄道によるモビリティサービス「Qixxit」を実用化。鉄道だけではなく、飛行機や長距離バス、レンタサイクルなどのサービスも一括化した。アジアでは、台湾第二の都市、高雄でMaaSアプリ「MeN Go(メンゴー)」が実用化された。こちらも、官民共同の事業として推進されている。

高雄で使えるMaaSアプリ「MeN Go(メンゴー)」
画像元:https://apps.apple.com/tw/app/id1415685647

一方で日本はどうだろうか。現在、世界でのMaaSのレベルは
─────────────────
レベル0:統合なし
レベル1:情報の統合(アプリやWebで経路や料金を提示できる)
レベル2:予約・決済の統合(一括予約・決済ができる)
レベル3:サービス提供の統合(事業者間が提携し契約・支払いなどが統合される)
レベル4:政策の統合
─────────────────
とされているが、日本は0~1レベルにとどまっているのだという。

確かに、日本でも政府主導のプロジェクトを含めMaaSの実証実験がいくつも進められている。しかし、その内実は、民間の交通機関同士の連携にとどまっていることが多い。「モビリティを通じ、新たな価値や新たなサービスを生み出していくこと」がMassの概念であるはずなのに、日本では情報提供と決済のみの統合のような、小規模なものになりがちとの声も聞かれる。

この背景には、日本の法規制の問題があるとされている。日本の産業は業法の中で工夫して発展してきた歴史があり、その中で進化してきたのが日本モデルといわれている。ある専門家は「既得権益から発生する小さいビジネスに対応することは得意だが、そもそも新しいビジネスモデルが生まれにくい土壌がある」と話す。

さらに、日本の交通業者はサービスの囲い込みをしたがる傾向にあり、なかなか提携が進まない現状もある。MaaSのような複合的なシステムは、どこかが一社独占を狙っても、上手くはいかないだろう。

この状況を打破するためには、やはり法改正も含めた、官民一体となった改革が必要だ。前述の海外の例でも、欧州やアジアでうまくいっているケースは、政府や自治体が主導し、企業との連携を果たしている。日本のMaaSが小さくまとまらず、ブレークスルーを起こすためには、まずはMaaSとは単一のビジネスではなく、新たなモビリティの概念だととらえ、プレイヤー同士が協力していくことが大事なのではないだろうか。

(text: HERO X 編集部)

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人工筋肉ベンチャー「s-muscle(エスマスル)」に、世界が注目する理由

岸 由利子 | Yuriko Kishi

ついに、人間の筋肉を超える!? 細く、軽く、しなやかな人工筋肉の誕生 「大学発のベンチャー企業が、新たな人工筋肉を開発した」ーそんなニュースが話題になったのは、ちょうど1年ほど前のこと。s-muscle(エスマスル)とは、2016年4月1日に誕生した東京工業大学と岡山大学の両大学発のベンチャー企業で、その動向に国内外から注目が集まっています。同社の代表である東京工業大学工学院ロボティクス研究分野の鈴森康一教授によると、同社が開発している人工筋肉は、“マッキベン型”と呼ばれるものだそう。今回は、この人工筋肉の特徴と共に、s-muscleの活動についてご紹介します。

s-muscleが開発しているマッキベン型人工筋肉の大きな特徴のひとつは、その細さ。従来の人工筋肉の外径が約10~40mmであるのに対し、わずか2~5mmほど。ゴムチューブの外周にメッシュを編んだ構造で、ゴムチューブ内部に空気を送ることで軸方向に収縮します。

マッキベン型人工筋肉の原理は、1960年頃にアメリカで開発されたもので、現在、複数のメーカーが製造しています.そのほかにも高分子材料や静電気力を使ったものなど、さまざまな人工筋肉の研究が行われていますが、現段階では唯一、実用レベルの収縮率や力の大きさを持つのが、マッキベン型人工筋肉。同教授によると、「収縮率(収縮した長さを元の長さで割った値)が25%程度で、人間の筋肉に比べて3~5倍の力がある」とのこと。どれほどしなやかな人工筋肉であるかーなんとなく想像できたでしょうか?

新型ロボット、福祉介護パワースーツのブレイクスルーに

こちらは、鈴森・遠藤研究室がマッキベン型人工筋肉を使って開発した「人間型筋骨格ロボット」の紹介映像。ご覧になると、しなやかさをはじめとする機能の素晴らしさが、より腑に落ちるかと思います。太りながら収縮を繰り返す様は、人間の筋肉の動きをしのぐ精緻さ!

従来にない、細さ、しなやかさ、軽さ。さらに、力強さも兼ね備えたマッキベン型筋肉は、人間と同じようななめらかな動きを行う人型ロボットや超軽量ロボットなど、新しいロボットへの応用をはじめ、軽く、柔らかく、着心地の良い福祉介護パワースーツやコルセットの開発など、さまざまな用途が期待できます。

2017年春ごろには、顧客メーカーや研究機関と協力して、ロボットや福祉用具などのプロダクトの普及に努めていく予定だそうです。さらに、一般の小口ユーザーにもネット販売を開始する予定とのこと。マッキベン型人工筋肉が、私たちの社会の未来を変える日は、そう遠くないかもしれません。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

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