テクノロジー TECHNOLOGY

【イベントレポート】世界の叡智を結集!ビジネスカンファレンス「Innovation Garden」

小泉 恵里

ポストコロナ時代の日本流イノベーションを海外へ発信するビジネスカンファレンス「Innovation Garden」が、2020年10月9日(金)・10日(土)の2日間に渡って開催された。世界最高峰のイノベーター達をスピーカーに迎えたプログラムでは活発なディスカッションがオンライン上で繰り広げられ、盛り上がりをみせた。注目のカンファレンスや、編集長・杉原行里とプロデューサー佐藤勇介が登壇したワークショップを中心に紹介していく。

「Innovation Garden」とは

本年初開催となる「Innovation Garden」は「ARS ELECTRONICA」「BORDER SESSIONS」「C2」といった世界最先端の3つのカンファレンスが一堂に会し世界の叡智を集結させたイベント。オンラインとオフラインを融合させたカンファレンスで、東京・晴海の施設CLT PARK HARUMIを配信拠点にカンファレンスの模様が世界同時オンライン配信された。
時代を牽引する多彩なビジネスリーダーたちをゲストに迎え、国境や業種の壁だけでなく、登壇者と参加者の壁も越境するセッションやオンラインの手法を導入したワークショップが開催され、2日間の会期中、30以上に及ぶプログラムと、行動ログに基づくマッチングを体験するイベントとなった。

「共創と共生を生む日本型イノベーション」を共通テーマに、様々な業界を横断して価値観をぶつけ合い、そして混ざり合うトークセッションが繰り広げられた。登壇者には建築家の隈研吾氏、⼤阪⼤学基礎⼯学研究科教授・⽯⿊浩氏、台湾デジタル担当大臣 オードリー・タン氏、田村淳氏、三浦瑠麗氏という豪華な顔ぶれ。従来の一方的なトークセッションとは一線を画す聴講者参加型のスタイルで、参加者が自由に質疑応答やリアクション機能(♡、!ボタンなど)を使うなど、インタラクティブなコミュニケーションがはかられた。

DXの活用は、一人ひとりの豊かさ、
その人らしい人生に寄り添うためのもの

数あるラインアップの中でHERO Xが注目したのは、「超高齢化社会の幸福とデジタル」をテーマにサントリーウエルネス 代表取締役社長 沖中直人氏と、慶應大医学部教授の宮田裕章氏が行なうディスカッションだ。今後ますますDX(デジタルトランスフォーメーション)が進む医療業界だが、海外の例はどうなのか、今後期待できる分野は、そしてどのようにすれば高齢者たちにも使いやすいものになるのか、という問題解消に向けたビジョンも議題に上がった。

慶應大医学部教授 宮田裕章氏

宮田氏は、超高齢化時代だからこそDXによって一人ひとりに寄り添う医療が可能になるはずだと、DXが牽引する明るい未来について示唆した。
「超高齢化社会に突入する今、病気になってからの対応だけではなく、より早い段階からの対応が必要です。これまでの医療機関が保有するカルテなどのデータだけではなく、5G 環境下で活用可能になる IoT データや、個々のスマートフォンなどから得られるライフログデータが重要になります。例えば、一人ひとりを個で捉えるデータベースがあれば服薬歴なども把握することができますし、食事管理も可能になります。一人ひとりの健康が自然にサポートされる世界観がやってきているのでしょう。デジタルを使うことで、コストを大幅にかけることなく、医療が一人ひとりに寄り添えるようになってきた。これがDXの大切なところだと思います。また、病気の時だけではなく人生のいかなる時も、マイナーな不調がある時もカバーできるようなケアが必要です」

サントリーウエルネス 代表取締役社長 沖中直人氏

サントリーウエルネスの沖中氏は「サントリーウエルネスはデジタル技術を使って一律のサービスを提供するのではなく、個客起点でのDXに取り組みたいと考えています。我々は人間の影の部分を理解し、共感した上で個客一人ひとりの伴走者でありたいと考えており、これは社是にある『人間の生命の輝きを目指し〜』という考え方ともつながっています」とデジタル技術を駆使することで目指すべきゴールについて強く訴えた。

さらに沖中氏は、超高齢社会に突入するわが国の現状と、時代の変化に伴い、健康の定義をそろそろアップグレードする必要があることも示唆。「例え病気があっても、その人らしく人生を輝かせながら生きることができます。それは、人それぞれまた、瞬間瞬間で違うのです」(沖中氏)

「私は介護の分野も見ていますが、要介護レベルの方でもウェルビーイングを諦めるのではなく、散歩や手芸など一人ひとりが大事にしている趣味や生きがいに寄り添うことが大切だと思っています。一人ひとりの豊かさに寄り添うことにとって、その人がこの先の人生を幸せに生きていくことができる」(宮田氏)

「人間の命の輝きは誰かに見ていてもらわないと分かりません。そこで最後はコミュニティーが大事だと思います。生きている実感は人との支え合いがあるからこそ感じる幸せなんだと思います。一人で生きていくことができないからこそ、デジタルというツールを使って人との繋がりをサポートしていければと思います」(沖中氏)

一人ひとりに寄り添う、共有する価値づくりへと時代は変化している

 

一方、社会がデジタル化していく中で高齢者の方々はデジタルを活用することができずに取り残されてしまっているという話もある。これに関しては、わが国でも早急に取り組むべき問題のひとつだ。

「どういうきっかけがあればデジタルを使いたくなるのか、利用する側に立ってフックとなるものを作っていくしかありません。例えば中国では、お孫さんへのお年玉はスマホを使ってアリペイであげるようです。また、お見舞いに行くのは大変だったけれどZOOMお見舞いで対話すればもっとゆっくり話せるし、ラクです。韓国でも高齢者のスマホ利用率は90パーセント以上です。日本だけが高齢化社会という訳ではないので、今後はデジタルをどう使うかのきっかけ作りが必要です。日本はDXで世界に遅れをとってしまいましたが、デジタルがあればコストを大幅にかけることなく、一人ひとりに寄り添えるようになる。これがDXの大切なところです」(宮田氏)

コロナ禍、さらに注目される
“防災” イノベーション

イベント参加者も参加できるワークショップのコーナーでは「ポストコロナの防災プロダクトをプロトタイプする」の回に弊誌編集長・杉原行里と日本での「BORDER SESSIONS」開催に携わる弊誌プロデューサーの佐藤勇介も登壇した。

現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響により生活様式が大きく変わるなか、防災に関する意識が高まっていることをご存知だろうか? コロナ禍で豪雨等の災害に見舞われたここ日本でも、感染を恐れて災害時も「自宅で待機する」「車中泊をする」「親戚や知人宅で待機する」という人が多くみられ、たくさんの命が危険にさらされる恐れがある今、防災プロダクトも新たなものが求められているはずだ。
また、その一方で、防災産業の市場規模は年々拡大傾向にあり、テクノロジーの進化とともに、様々な防災プロダクトが誕生している。今回のワークショップでは、斬新なアイデア、実例を含めて世界中から気鋭のプロダクトメーカーやデザイナーたちのプレゼンテーションが行われた。

冒頭では、テクノロジーと災害事例について紹介。英国北部向けの専用ヘリコプター緊急サービスを運営するGravity Industriesが開発したジェットエンジン搭載スーツ(ジェットスーツ)を用いた山岳救助向けテスト飛行実験した様子が映像紹介された。生き埋めになったしまった人の微弱な電波を検知し、探索と救助に役立てる。人間がジェットスーツを着て空を自由に飛び、山岳で怪我をした人をいとも容易く発見する様子は圧巻だった。

また、オランダのデザインチーム・SAFE CASTからはフィリピンの洪水地域に住む人々の生活をFloating Homes という “水に浮かぶ持続可能な建物” が救った例が紹介された。

編集長でRDS代表の杉原行里は、モータースポーツで培った技術を防災産業に活用すると話した。
「新しいモノ作りのカタチを世界に発信する研究開発型の企業のRDSは、F1チームをはじめ、モータースポーツ、医療・福祉、最先端ロボットの開発など、多数の製品開発に携わってきました。RDSの技術力や培ってきたノウハウを使い、全国で頻発する自然災害に対して、防災意識の向上や災害時でも平時でも活用することができる移動手段、デュアルなプロダクトの開発・販売に取り組んでいきます。日常の暮らしも便利になるモビリティ・プロダクトの開発が可能で、ロボットが遠隔操作で危険な場所を調査・捜索、また災害時の避難サポートをしたりすることで逃げ遅れる人を助け、一人でも多くの命が救われるようにしたいです」

また、ワークショップ参加者のなかには、日本ではおなじみのポイントに目を向けて防災に繋げるプロジェクトを立ち上げたBOSAI POINTの亀山淳史郎氏の姿も(関連記事:http://hero-x.jp/movie/9138/)。参加者のなかでも注目されたこのプロジェクトについて次のように説明した。

「日本には、ポイントサービスが数多く存在しており、その9割が使用されずに失効しています。『BOSAI POINT』は、お買い物時に得たポイントを使って寄付することで、未来の被災地に支援を届けるポイントドネーションシステムです。寄付されたポイントはお金に換算して、非常食や充電機器などの支援品の購入にあてられます。未来の災害に備えてストックし、災害時に全国各地の避難所に届けています」

弊誌プロデューサーの佐藤勇介は、「今回参加されたさまざまな企業がコラボレーションを行ない、新しいプロジェクトや製品が生まれたらいいですね。また近いうちに集まりましょう」と、参加者がそれぞれの強みを生かしながら次なるステップにつなげていきたいと意欲を話した。

新型ウイルスの感染拡大という未曾有の時代に遭遇し、私たちはいま正解の見えない世界に生きている。一体どこに進んだらいいのか……。そんな時は、世界の叡智を集めて意見を聞いてみるのもひとつの手だ。柔らかな発想から生み出されるハイテクな防災プロダクトが世の中に出てくるのも楽しみ。日本発の果てしない可能性を感じたカンファレンスだった。

(text: 小泉 恵里)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

テクノロジー TECHNOLOGY

コロナで窮地のANAが力を入れる新たなビジネス“ドローン宅配便”

宮本さおり

「空気と景色は綺麗だけれど生活するにはちょっと不便」そんなイメージの離島暮らし。ところが、こうした固定概念を覆すサービスが始まろうとしている。ドローンイノベーターも注目する離島での実証実験。その取り組みはいかなるものか。

“欲しいものが思い浮かばない”
いきなりぶち当たった利用者からの言葉

「運んでほしいもの? 特に思いつかないね~」長崎県にある五島列島でヒアリング調査を行っていた保理江裕己氏は正直、面を食らった。五島市が2019年に立ち上げたドローンアイランドプロジェクト。プレゼンを勝ち残り、実証実験の実施企業に選ばれたANAホールディングスでこのプロジェクトを仕切るのが同社のデジタル・デザイン・ラボ ドローン/エアモビリティ事業化プロジェクト(当時)のリーダー、保理江氏だ。ワーケーションや小中学生の「しま留学」など、近年面白い取り組みを続けてきた五島市が、新たなプロジェクトとして考えたのがドローンを使って島民の暮らしを便利にするということ。ところが、当事者である島民にニーズを聞く調査では、なかなか希望が上がらない。この島での暮らしで満足している島民にとって、「運んでほしいもの」という質問は漠然としすぎた難しい質問だったようだ。しかし、いざ自分の暮らしに直結する便利さを経験すると、風向きは変わった。

五島列島の一角にある五島市は、長崎県の西方海上100キロメートルほどに位置する大小152の島々からなるエリア。11の有人島と52の無人島があるのだが、中には、商店などが全くないという島もある。島で暮らす人々は、そこでの暮らしが当たり前となっており、いざ「欲しいもの」と聞かれても、何が必要なのかがなかなか見えてこない。そんな中、ドローンでの輸送実験に最初に手を挙げてくれたのは医療機関だったという。

それぞれの島を結ぶのは船。運行表では、便は毎日あるのだが、実際はそうでもない。海が荒れた日は当然のことながら船は出航しない。もちろん、緊急時には医療ヘリも飛んでくるが、本島で受けられるような身近な医療サービスについては不便な状態が続いていた。「例えば、血液検査をしても、結果が翌週まで伝えられない状況がありました」(保理江氏)。

島の医療関係者に物資を手渡す保理江氏。

小さな島では医師が常駐していないこともある。巡回診療を行う医師が診療所や患者宅で血液検査のための採血をしても、検査機関のある本島に血液を運ぶ手段は船しかないため、たとえ船が出航しても結果を受け取るのは翌週となる。「医師は、翌日には別の島で往診するため、次の巡回診療まで、検査結果を伝えられないんです」と保理江氏。ところが、ドローンを使うと患者は即日データを手にすることができるようになった。

「午前中に採血してドローンで福江島に飛ばし、即検査にかけると、午前中の間に検査データを知らせることができたんです」(保理江氏)。つまり、島内に医師がまだいる間にデータを医師に渡せるため、結果を敏速に伝えることが可能になったのだ。こうして利便性を実感した島民を皮切りに、次々とリクエストが上がるようになった。

ドローンで商品の即配を実現
コンビニとのコラボ

長崎での実験に平行して動いていたのが福岡市での取り組みだった。実は福岡市にもいくつかの離島がある。2010年には玄界島という島での実証受験を開始、続いて実験をはじめたのが本島側の船着き場から船でわずか10分のところに位置する能古島(のこのしま)だ。数年前に島で唯一の商店が廃業したため、島民は日用品を揃えるのにもわざわざ船で渡る必要があった。他の離島に比べると本島との距離は比較的に近いとはいえ、日々の暮らしのこととなれば島民にとってはかなり負担だ。そこで、本島側の船着き場周辺に店舗のあったセブン-イレブンが、月に数回、移動販売車で島に渡り、島内数カ所で移動販売を行うようになっていた。とはいえ、常時、移動販売車が来るわけではないため、島民は船で本島まで買い物に出てこなければならない。

「ドローンを使えばわざわざ船で渡ってこなくても、品物を届けることができます」(保理江氏)。都心ではすでに導入が進むネットコンビニという仕組みを、ドローンを配送手段にして行う実験がこうしてスタートすることになった。

新しいことにつきものの法律という壁

実は現在、ドローンで物を運ぶには法律でいくつかの規制がかかっている。その一つが重量制限の問題だ。機体と荷物の重さを合わせて25キロまでなら空を飛ばすことができるのだが、それを超えると法律にひっかかる。機体の重さを差し引くとドローンで運べる重さは5キロほど。それでも、大きな買い物袋2袋分くらいは運べるという。

とにかく、やってみなければ便利さは伝わらない。セブンイレブンジャパンと協力し、“ドローン宅配便計画”が始動した。「お惣菜も頼めるの?!」島民がウキウキしながら注文画面をクリックすると、1時間程で島民の元に品物が届いた。「これは便利!」噂は広がり、当初の予想を上回る多くの注文が入ってきた。面白かったのがアイスクリームという注文だ。

能古島に向けて物資を運ぶドローン

注文されたのはちょっとリッチな気分が味わえるアイスクリームメーカーのアイス25個。「いつもはクーラーボックスを持参して購入後は急いで家に帰っていたそうです」(保理江氏)。保冷剤をいくらつめても、自宅にたどり着くまでには少し溶けることもあったというアイスクリームが、ドローン配送では溶けずに自宅に届いたのだ。「これはよかね!」こうして利用者の4割がリピーターとなり、5日間行った実証実験では約50件ものオーダーが入った。

「僕たちが目指しているのは“空飛ぶ三河屋”です」と保理江氏。かゆい所に手が届く、ちょっとした品を気軽に頼める御用聞きのような存在だ。コンビニエンスストアなどと組むことで、島の暮らしに“三河屋”を提供することができるのは、小回りのきくドローンならではの利点だろう。

ピンチに遭っても歩みは止めない
知識と経験を生かすドローン空輸

しかし、ANAといえば日本を代表する航空会社。今回のコロナ禍で業績的には大きな打撃を受けているのは周知の事実だ。まだ先の見えない新規事業を続けるには厳しい状況と言えるのだが、ドローンについては歩みを止めないことを決めたようだ。

「もちろん、簡単ではありません。国や自治体など、実証実験費用を拠出くださる制度にいろいろと応募して、なんとかやりくりしています。しかし、会社から“止めろ”と言われたことはなく、むしろ応援してくれています」

というのも、ドローンのプロジェクトが立ち上がったのは2016年だった。リーマンショックの経験から、次なる危機の到来に備えるためにと、社内では新たな事業の創出にむけての動きが活発化していた。主力の旅客事業含め、多様なメンバーが集まってできたのが現在、保理江氏が所属するデジタル・デザイン・ラボだった。

「元々ドローンに興味があったんです。お客様を乗せた旅客機を運航するには機体の整備から航路の計算まで、技術的なことはもちろん、人的にも様々なことが必要です。僕たちANAは普段からお客様の命を預かっていますから、“万が一は許されない”という現場で常に働いてきました。安全を第一に考えてきたANAの人材と技術を使えば、ドローンを使った取り組みをより早く広げられるのではと思ったんです」

今のところ、人の行き交う上空で荷物を積んだドローンを飛ばすことは法律で規制されている。だが、来年には、この規制が緩和される兆しが見えてきた。人の視線に入らない高さの上空ならば有人地帯での運航を認めようというのだ。

「飛行機を使った運航全般を担ってきた旅客機事業同様に、ドローンも自社で機体を開発するのではなく、運用をする方向で考えています。ANAが航空業界で培った知識と経験を活用し、ドローンという新しい輸送手段の確立を牽引していこうと思っています」

保理江裕己(ほりえ・ゆうき)
2009年4月全日本空輸株式会社入社、航空機運航における運用技術や航空機整備における技術業務に従事した後、2016年7月よりデジタル・デザイン・ラボにて新規事業を担当。

現在、エアモビリティプロジェクトを担当(ドローンプロジェクト兼務)。

経済産業省 始動Next Innovator 2017 最終選抜、内閣府宇宙ビジネスアイデアコンテストS-booster2018ファイナリスト。

関連記事を読む

(text: 宮本さおり)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー