対談 CONVERSATION

モノづくり起業はいばらの道か!? “物欲”を掻き立てるプロダクトこそ鍵 小西哲也 後編

宮本さおり

大手家電メーカー勤務という安定の職を手放し、起業の道を選んだプロダクトデザイナー小西哲哉氏。前編では波乱の起業についてお話を伺った。現在は編集長杉原行里が代表を務めるRDSでもデザイナーとして活躍するが、デザインとはいったいなんなのか、後編ではデザイナーの先輩(⁉︎)でもある杉原が小西氏と共に、プロダクトにおけるデザインの価値について対談していく。

当たり前とはなにか
変化を受け入れる準備

杉原:福祉プロダクトに関わるようになり、福祉業界の今までは…という切り口をよく耳にするようになりました。大抵の場合は「福祉用具でもカッコイイものを」などという声なのですが、僕は少し違うのではないかと考えています。福祉用具を特別視する視点自体がもう古くなる。むしろ、皆さんが変わる準備はできていますか?という時代が来ているなと。小西くんは義手の製作に関わられるようになって、そのあたり、思うところはなかったですか?

小西:健常者が欲しいと思えるものがあってもいいのではないかと思っていました。企業に勤めていた頃は家電製品のデザインを担当していたのですが、「欲しい」という欲求を起こさせることは結構大事なことだと思っていて、福祉分野でも機能性だけでなく、そういう「欲しい」と思う、欲求を満たすものがあってもいいはずですよね。

杉原:所有欲を駆り立てられるものですよね。

小西:カッコイイと純粋に思えるものがあってもいいんじゃないって。でも実は、義手でそれをやろうと思った時、はじめは少し躊躇もあったんです。『義手でそんなことしちゃうなんて、何を考えているんだ』的なことを言われるのではないかと。でも、実際に出してみたら、皆さん意外と温厚な反応でした。健常者と障がい者と分けて考えてしまいがちなのだけれど、みんな同じ人間ですし、「カッコイイ」と思うことに健常者と障がい者の隔たりはないのだなぁと。

杉原:僕もそう思います。今僕らが考えているプロダクトは多分、将来的には当たり前になるものだと思うんです。例えば、こんなにメガネ人口が増えるとは誰も予想していなかったと思います。そこから派生して、目の中に直接レンズを入れてしまうコンタクトレンズが生まれましたけれど、当然、開発した当初は『直接目に入れるなんて』という意見もあったでしょう。でも、今はもう当たり前になっています。福祉プロダクトにおいてもそれが起こっていくと思います。受け入れる側がその変化についていけるかどうかではないのかなと。日本は2025年には人口の30% 以上が高齢者になるのですから、モビリティーという枠組みは絶対に不可欠になる。今は車いすユーザーがそれほどマジョリティーではありませんが、高齢化が進めば利用者は増えるでしょう。ただ、車いすという枠組みだけで考えていたのでは広がりを見出せない。ならば、車いすを飛び越えて、モビリティーとしてカッコイイと思えるものを作り、一石を投じたい、僕の場合はそんな気持ちが沸き起こりました。

小西:単純に、時代が変わってきているという感覚はありますよね。

デザインがもたらす選択肢

杉原:小西くんがやってこられた家電で例えると、炊飯器は米が炊ければいいという機能面だけでなく、キッチンに置いた時に許せる存在、デザインかどうかも購買者は選ぶポイントにしているはずです。つまり、皆がデザイン性を気にするようになってきた。多くの人にとって炊飯器は自分自身が使うものだから、自分ごととして考えられるため、カッコイイに越したことはないと。技術が進み、炊飯器の炊き上がり具合に大差が見られなくなると、人々が選ぶ指標として考えるひとつに、必ずデザインがあるはずです。でも、福祉業界の用具にはまだまだその選択肢が少ない。

小西:なんでないのか?というところですよね。RDSのメンバーの方々と車いすの開発に携わらせていただくようになり、はじめて車いすのデザインを手伝っていますが、RDSの皆さんと一致しているのは「自分でも乗りたいと思うものを作る」ということだと思います。

杉原:ここが一致していないと、なかなか一緒には作れません。

小西:ところが、これが非常に難しい。それぞれに良いものを作るぞという気持ちを深く持っているだけに、お互いの「これだ!」が噛み合わさるまでの道のりが一番大変だった気がします。

杉原:「乗りたい」と思えるものの感覚は各々で違うからでしょうね。また、世の中にまだ無いものを作り出そうとしているからってこともある。カッコイイと思えるかどうかは、感覚的なものだから、難しい部分はあります。

小西:「WF01」の原型ができたあたりから、やっと「これだ!」という方向が見えてきた。こうやったら面白そうだとか、もっとこうしたらいいなど、意見も出るようになっていきました。そうなるともう、高齢者とか体が不自由な方に向けてというよりも、自分が乗りたいものはどれだという感覚に近づき始めました。

杉原:それがすごく大事なことだと思っています。ボーダレスな製品を作るには、いかに自分ごと化できるかだし、そこがなければ目指すものは出来上がらない。今年も一緒に境界線を突破していきましょう!

前編はこちら

小西 哲哉
千葉工業大学大学院修士課程修了。パナソニックデザイン部門にてビデオカメラ、ウェアラブルデバイスのデザインを担当。退職後、2014年にexiiiを共同創業。iF Design Gold Award、Good Design Award金賞等受賞。2018年に独立しexiii designを設立。現在ウェアラブル、ロボット、福祉機器など幅広いカテゴリーのプロダクトデザインを中心に、さまざまな領域のプロジェクトに取り組んでいる。

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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文化を生む“きっかけ”をデザインする。小橋賢児が「東京2020 NIPPONフェスティバル」に託す想い 後編

宇都宮弘子

日本だけでなく、世界を圧倒させた花火と音楽、ダンスなどのパフォーマンスを融合させたエンターテイメント「STAR ISLAND」。伝統的な花火の世界観に新たな息吹を吹き込んだのがプロデューサーとして指揮を取った小橋賢児氏だった。小橋氏が次に見つめているものは何なのか。「HERO X」編集長の杉原行里が前編に引き続き切り込んでいく。

同調圧力の中にいる日本人

杉原:5月に発売された小橋さんの著書、「セカンドID」についてお話を伺いたいのですが、既に4回の増版がかかっていますね。どんなところに読者が惹きつけられているのでしょうか?

小橋:先ほども少し触れましたが、日本人って、そもそも同調圧力の中にいるから、自分のアイデンティティを見つけることがすごく難しいなと感じていたんです。今のこの情報社会のなかでは、何かを目指そうと思っても、既に誰かがつくった足跡でしかない。それを追ってしまうと、その人と自分との差に苦しんでしまうけれど、目の前の自分の枠から少し離れて、ちょっと違う何かにチャレンジすることで見えてくることもある。目の前で起こる不都合な出来事や不条理な現実に出会うことによって、そこから導かれるということだってあります。自分の人生っていうのは本当は自分の目の前にしかないのに、世の中にあふれる情報に影響を受けすぎて、というか、なりたい指標が多すぎて、自分自身を惑わせてしまっている。そのなかでトライ&エラーを繰り返した先に、自分も想像していなかった未来が生まれるんだと思って書きました。多くの方に読まれているのは本当に嬉しいです。

杉原:トライ&エラー、それが楽しみなんですよね。それから、「セカンドID」ってタイトルがものすごくいいですよね。もっとみんなアイデンティティクライシスを起こすべきだと思っているんです。幼い頃から築き上げたものを意味もなく守れというけれど、そんなの壊してしまっていいんですよ。壊してしまってもそれがゼロになるわけではない。パズルのようにまたやり直せばいい。

小橋:そうなんです。僕は、くすぶっている人たちや大人になって枠にはまってしまっている人たちに向けて、そんな可能性がみんなにもあるんだっていうことをこの本の中で書いたつもりです。そもそも人間って変化していく生き物なのに、大人になると変化を恐れたり、変化しちゃいけないものだと思いがちになってしまう。情報過多によって、みんな情報から逆算して自分を作ってしまう。今は過渡期から本質へと変わっていく時代なんじゃないかとも思っています。全ての人間に気付きを与えるというのは難しい。でも、ひとつ形を作れば、それに触発されて、僕らもこういうふうにやってみようって徐々に変わってくると思うんです。

自分の役目はきっかけを作ること

杉原:フラッグシップモデルを作るということですね。

小橋:そうですね。未来に向かうことというのは、テクノロジーが進んでいくだけではなくて、過去のものが正されて本質に向かう、ある意味での原点回帰。例えばサステナビリティやオーガニックも、そもそも古来から人間がやってきたことだったりするんですよね。モノがあれば豊かになるという価値観が、人の道徳心を失ってしまった。そして21世紀に情報革命が起きて、溢れる情報に囲まれて苦しんで、ようやく “心”  が大事だということに気付き始めた。

よくAIによって人間の仕事が奪われてしまうと言われますが、そうではなくて、逆にAIがあることによって、考えなくてもできる労働をAIが代わってやってくれるので、人間に “余白” が生まれてくると考えています。僕は、“余白” があることで直感的になれるのかなと感じていて、美しいものを見る目とか、感覚とかセンスを磨くことってものすごく大事だと思っています。

杉原:かつての物質文明が決して悪いわけではなくて、物に満たされて豊かになったからこそ、心っていうものが一番大事なんじゃないかってことに気付くことができたわけですよね。

小橋:アメリカで開催されているエレクトロニック・ダンス・ミュージックのイベント「ULTRA」を2014年に日本で「ULTRA JAPAN」として初めて開催したのですが、これをきっかけにいろんなところでダンスミュージックのフェスが増えました。「STAR ISLAND」で花火をエンタメ化したら今度は日本の花火のイベントが増えた。“きっかけ” を作ったことで周りが少しづつ変わっていくんですよね。ひとつの気づきを作ることで、周りが触発されて変わっていく。一気に全部を変えてしまうと “余白” がなくなってしまうから、文化は生まれにくいけれど、そこにひとつの思想を作ることによって、周りが気づいて、それぞれが能動的に、真似するだけじゃなくていろんな行動をし始める。

杉原:これが、小橋さんのおっしゃる “きっかけづくり” なんですね。東京2020のオリパラの期間を通じて、新しいひとつのフラッグシップモデルが出来てくる。僕はパラリンピックが今年に入って少し変わってきたなと感じていて、パラ選手がハンディを持つまでの経緯より、記録更新の方に注目しはじめた。僕は日本人のこの柔軟さ、ある意味切り替えの早さって素晴らしいなと思っています。

小橋:そうなんですよ。日本人ってすごい。気付くとパァッとそっちに行ってしまえる。だからすぐに行列になっちゃう(笑)。これがポジティブに働くとすごくいいですよね。

杉原:そのポジティブを小橋さんはイベントに、そして僕は “HEROⅩ” とかパラリンピックに向けていきたいですよね。このムーブメントを日本だけで終わらせたくないですね。

小橋:もちろん、みんながここから始めていきたいと思ってやっています。まずは来年にフォーカスしていくところからですね。

前編はこちら

小橋賢児(Kenji Kohashi)
LeaR株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター 1979年東京都生まれ。88年に俳優としてデビューし、NHK朝の連続テレビ小説『ちゅらさん』など数多くの人気ドラマに出演。2007年に芸能活動を休止。世界中を旅しながらインスパイアを受け映画やイベント製作を始める。12年、長編映画「DON’T STOP!」で映画監督デビュー。同映画がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティ アワードとSKIPシティDシネマプロジェクトをW受賞。また『ULTRA JAPAN』のクリエイティブディレクターや『STAR ISLAND』の総合プロデューサーを歴任。 『STAR ISLAND』はシンガポール政府観光局後援のもと、シンガポールの国を代表するカウントダウンイベントとなった。 また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会主催の東京2020 NIPPONフェスティバルのクリエイティブディレクターにも就任したり、キッズパークPuChuをプロデュースするなど世界規模のイベントや都市開発などの企画運営にも携わる。

Born August 19th, 1979 and raised in Tokyo. At the age of 8, he started his career as an actor and had played roles in various dramas, films and stages. He quitted his acting career in 2007 and travelled the world. Experiences through the journey inspired him and eventually started making films and organizing events. In 2012, he made his first film, DON’T STOP, which was awarded two prizes at SKIP CITY INTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL. In the event career as creative director, He has acted as Creative director at ULTRA JAPAN and General Producer at STAR ISLAND. Not only the worldwide scale events, he produces PR events and urban development

(text: 宇都宮弘子)

(photo: 増元幸司)

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