福祉 WELFARE

『ハード』と『ソフト』の両輪でダイバーシティな社会を目指す、NECの取り組み【2020東京を支える企業】前編

吉田直人

NECは東京2020のゴールドパートナーとして、パブリックセーフティ先進製品・ネットワーク製品を通じた支援を行う。生体認証技術の豊富な研究開発を生かし、同大会では運営の安全面やネットワークインフラの構築に貢献する。他方で、車いすテニスを始めとしたパラスポーツの競技会を継続的に支援し、競技普及にも取り組んできた。2016年にはパラアイスホッケー日本代表としてパラリンピックを戦った上原大祐氏が『障がい攻略エキスパート』として入社し、社員の視野も広がりつつある。2020年とその先の社会に向けてハード、ソフトの両面から取り組むNEC。今回は『東京オリンピック・パラリンピック推進本部』の山際昌宏さん、神田紗里さんにお話を伺った。

56年の時を経て、新たに生み出すレガシー

「1964年の東京オリンピックは、初めて衛星中継が行われた大会でもありますが、これを実現させたのは、弊社の設置したパラボラ・アンテナ。当時は巨大でしたが、今は小型化されている。“テクノロジーの標準化”という形で、今もレガシーとして残っているものです」と山際さんは語る。

1964年から56年の時を経た2020年に、NECはゴールドパートナーとして新たなオリンピック・パラリンピックのレガシーを世に残そうとしている。それが『パブリックセーフティ』という分野だ。

目的は、「安全安心の大会運営」。そこに向けて、NECは主に顔認証や静脈認証といった生体認証技術と、映像を用いた行動検知・解析技術の導入をはかっていく。前者は空港での入国管理や競技会場のアクセスコントロールに、後者は競技会場周辺における危機管理に、それぞれ適用していくという。

「国際環境の変化によって、パブリックセーフティが重要な要素になると認識しています」と山際さんは話す。テロを始めとした地政学的リスクに加えて、AI、IoT、クラウドサービスなど、ITインフラの普及に伴うサイバー攻撃の脅威といったリスクが新たに浮上しているのだ。

「2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックでは、観客を含めて2000万人が集まっています。東京大会も同等以上の規模になるはず。ただ、今までの五輪と異なるのはオリンピック・パークが無く、広範囲(1都1道7県)で競技が開催される点です。オリンピック・パークを囲うのと、各競技エリアそれぞれを囲うのとでは、警備の難しさが異なってくる。それを如何に運営していくか。コンセプトは、『世界一、安全安心な大会の実現』です」

「100%に近い精度を出して、初めて導入できるんです」

パブリックセーフティ・インフラが機能するポイントは大きく分けて3つ。空港における入国管理、移動時の混雑緩和、競技場周辺の安全管理だ。今まで、これらの領域は人の動員によって主にまかなわれてきたが、管理を厳格にすればそれだけ時間がかかり、行列の要因にもなりうる。NECはそこにICTを組み込むことで管理体制の効率化を促進しようとしている。

「1つめは顔認証。人間が確認すると、60~70%程の精度と言われていますが、機械だと瞬時の確認で99%以上の精度がある。人の手でやる場合の3分の1程度まで時間を短縮でき、素早く高精度で本人確認を行うことが可能です。2つめは不審物の発見。防犯カメラを各所に設置しても、確認の為に何人も動員して交代制で見なくてはいけません。それを、ある場所に一定時間置かれている物があればアラートをあげて、画像を判断した上で警備員が該当場所へ向かうというワークフローを実施することができます。人間は動いてる物体は発見しやすいですが、置かれている物には気づきにくいんですね」

また、世界中から人が集まるオリンピック・パラリンピックでは、“群衆の行動”も普段とは異なってくる。混雑の解消や、密集地帯における安全管理にも、NECの技術は効力を持つ。

「例えば、会場周辺の混雑状況をヒートマップで可視化して、スマートフォンやタブレット端末と連携し、来訪ルートや来訪時間帯の提案を行うことができるシステムを検討しています。結果的に、混雑の分散や、スムーズな移動を促していきたいと考えています。また、他の用途としては、“群衆の異常検知”ですね。通常とは逆方向に人混みが流れている、普段人が集まらない場所に人が密集している、急に人が走り始めたり、人が倒れたり。様々な人間の動きをAIに学習させることで、事件・事故を未然に防ぐ助けになると考えています」

これらの技術は、既に2016年のリオオリンピック・パラリンピックにおける日本人選手の記者会見場や、世界各国の都市、国内の自治体で運用されており、各方面から高評価を得ている。顔認証を含めた生体認証技術は、現時点で70ヶ国、700システム以上の導入実績があるという。これまでは人的対応が主流であったオリンピック・パラリンピックの安全管理。テクノロジーによる効率化が図られつつある状況を受けて、山際さんは言う。

「正しく安全に運営する場がオリンピックなので、『精度はまだ未知数ですが、やりましょう』とはいかない。100%に近い精度を出して、初めて導入できるんです。逆に言うと、裏打ちされた技術が入るということ。2年後にようやく、ということではなくて、各方面での運用を経て更に改良した物が導入できると思います。結果として、警備の効率化をはかって、今まで動員していた人々に新たな警備・誘導業務に就いて頂くことができるのではないか、と」

後編へつづく

(text: 吉田直人)

(photo: 壬生マリコ)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

福祉 WELFARE

「障がいは人ではなく、社会の側にある」。LITALICOが目指す「障がいのない社会」

朝倉奈緒

「障がいのない社会をつくる」をビジョンに掲げ、働くことが困難な方への就労支援サービス、学習や友達との関わりが苦手な子ども向けの学習塾、またIT×ものづくり教室や、発達障がいのある子どもの家族のためのポータルサイトなど、特徴的な事業を展開する株式会社LITALICO(リタリコ)。

1985年生まれのLITALICO代表取締役社長・長谷川敦弥さんは、新卒で同社に入社後、24歳のときに現在のポジションに大抜擢された。長谷川さんが社長に就任後、LITALICOは急成長を遂げている。彼は著書『発達障害の子どもたち、「みんなと同じ」にならなくていい。』で「自分はADHDの傾向があった」と述べており、学校では授業中じっとしていられずクラスでも浮いてしまい、友達も少なかった。しかし大学時代のバイト先のオーナー夫婦が長谷川さんの個性を尊重し、認めてくれたことにより、才覚を発揮していくことができたと明かしている。

そんな長谷川さんがわずか2年で舵取りを任されたLITALICOの事業はどのようなものか。就労支援サービス「LITALICOワークス」は、一人ひとりを理解し、その人にあった目標やペースで、就職までの道のりをサポート。精神障がいなどの障がいがあり、働くことが困難だった年間900名以上の「自分らしく働く」を実現している。

また、幼児から高校生までを対象とし、彼らが社会で自分らしく生きるためのソーシャルスキルを“そのひとり”に合わせた方法で学ぶことができる「LITAICOジュニア」や、デジタルネイティブと言われる子どもたちの才能や創造性を引き出すIT×ものづくり教室「LITALICOワンダー」のほか、ネット事業では発達が気になる子どもを持つ保護者向けのポータルサイト「LITALICO発達ナビ」を運営。技術を活用した取り組みとして、子どもがゲーム感覚で日常生活におけるタスクをクリアすることをサポートする、オリジナルのアプリ開発も行う。

「障がいは人ではなく、社会の側にある。」

HERO Xでも根源となっているこの考えを共有するLITALICO。今後もボーダレスな社会を目指すパートナーとして、彼らの活動をフォローしていきたい。


長谷川敦弥

1985年岐阜県多治見市笠原町に生まれる。2008年名古屋大学理学部卒。2008年5月、
株式会社LITALICOに新卒として入社し、2009年8月に代表取締役社長に就任。

株式会社 LITALICO
http://litalico.co.jp

(text: 朝倉奈緒)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー