対談 CONVERSATION

【HERO X×JETRO】都市=メトロに風況情報ソリューションを提供。メトロウェザーの「風を読む」テクノロジー

HERO X編集部

JETROが出展支援する、世界最大のテクノロジー見本市「CES」に参加した注目企業に本誌編集長・杉原行里が訪問。京都大学初のベンチャーとしてスタートし、高性能ドップラー・ライダーを開発したメトロウェザー株式会社。大気中にレーザーを照射することで、数キロ先の風向や風速を測定できるという装置で、装置自体は他社でも作られているが、今までにない距離と精度を提供するという。さらにゲリラ豪雨の予測や、ドローンの実証実験にも貢献している。ドローン技術はもちろん、都市防災にも並々ならぬ関心をもつ編集長が、同社代表取締役CEOの東邦明氏に「風を読む」技術の可能性を聞く!

ゲリラ豪雨や強風の
予測を「光」で行う

(画像元:https://www.metroweather.jp

杉原:僕がメトロウェザーさんに興味を持ったのは、もちろん技術的な面もありますが、御社のウェブサイトにも掲載されている「風を制し、空の安全を守る」という言葉がカッコいいなと思ったからです。そもそも、なぜ「風」に行き着いたのですか?

東:もともと学生の時はゲリラ豪雨の予測というか、線状降水帯の研究をずっとやっていて風とは無縁だったのですが、京大大学院のポスドクで古本(京都大学生存圏研究所助教授、メトロウェザー取締役)の元を訪れてから、風に着目するようになりました。よくよく考えてみると、ゲリラ豪雨は夏の入道雲みたいな雲が急にわいてきて雨が降る。今もそうですが、当時はレーダーで予測できるといっても、10分前が限界で、誰が見ても雲が来ているのが見える。雲が急速に集まってくる時というのは、風が集積されて上昇気流ができるから、その風をとらえるともっと早く予測できるのではないかと考えました。あとは、大学の時にもうひとつやっていた研究が、滋賀県の強風だったんです。琵琶湖の西側で山と湖が非常に接近しているところがあって、そこは貨物列車が転覆するくらいの強烈なおろし風が吹くんですね。

杉原:あの風にうまく乗れたら、鳥人間コンテストでも戻ってこられますもんね(笑)。

東:そうそう (笑)。そこで、JR西日本の湖西線の電車がしょっちゅう止まる。その風を解明してほしいということで、共同研究していく中で、「風をとらえる」ということを始めました。最初は風見鶏みたいなものを置いていたのですが、それでは全体像がわからないので、リモートセンシングで測る方法として、海外のドップラー・ライダーを取り寄せてみたんです。それまで大学ではレーダーで風をとらえていたのですが、電波の場合は、どうしても四方八方へ広がることがあって、情報がノイズだらけになってしまう。あとは電波法の規制もあって自由に出せない。ドップラー・ライダーというのは、レーダーではなく光で風をとらえる装置です。でも、琵琶湖側に海外製のドップラー・ライダーを置いてみたら、当時は1キロメートル先もとらえることができなくて。

杉原:1キロ以内といったら、体感のほうが早いですよね。

東:そうなんです。僕は全然ダメだと思っていたら、古本が「自分たちで作ればいい」と言い出したんですね。それが2014年くらいで、2015年の5月にメトロウェザーを立ち上げました。

杉原:従来のものとは全く違うドップラー・ライダーを自社で開発されたということですが、信号処理技術、解析技術などを独自で研究開発されたということでしょうか?

東:そうです。当初は開発に5年もかかるとは思っていませんでした。基本的な原理や構成はレーダーとほぼ同じですし、信号処理の技術も、京大の大型レーダーで培ってきた信号処理技術を応用すれば、さほどハードルは高くないだろうと思って作り始めたのですが、いざ作り始めると、この部品とこの部品の組み合わせはNGとか、この部品とこの部品は相性がいいとか。

杉原:それは材質的な部分ですか?

東:部品メーカー同士の相性などです。どの組み合わせがいいのかは、組み合わせてみなければ分からない部分もあり、そうこうするうちに5年かかってしまいました。幸い、駆け出しのころにNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の補助金をいただいたり、「そういうチャレンジングなことをするのなら投資しよう」という投資家さんが現れたので、なんとか乗り切ったという感じです。

風を読む技術を
ドローン社会のインフラに

杉原:ドップラー・ライダーは10キロ圏内であれば、円としてセンシングできるんですか?

東:半径10キロ、条件がよければ15キロくらいの範囲をスキャンできます。もちろん、鏡を使ってレーザーをいろいろな方向に向けて円形にスキャンすることもできますし、斜め上に照射して三次元でとったりすることもできます。

杉原:やはり高い所に設置したほうがいいのでしょうか?

東:はい。見通しがいいところがいいので、おのずと鉄塔の上などがベストになります。

杉原:今、京大の中で研究しているということですが、仮に京都全域をドップラー・ライダーでセンシングするとなると、およそ何台くらい必要ですか?

東:京都盆地の中だったら、4、5台あればいけると思います。ざっくりとですが。

杉原:え? すごい。想像以上に少なかったです。でも、高い建物というだけではなく、障害物というのがキーですよね。これ、機材の大きさはどのくらいですか?

東:去年の3月にローンチしたタイプでだいたい1立方メートルくらい、重量がかなりあって350キロくらいです。ただ、今年の春には一辺が65センチ四方で重さが130キロくらいのものができます。

杉原:すごい。急に開発スピードが上がっていますね。いったん完成した後のスピードは、「今までなんだったんだ?」と思うくらいですよね。僕も開発しているので、わかります。ドップラー・ライダーはどういう場所で活用することになりますか? 企業のビルに業務委託の形で置かせてもらうのか、それとも公共の場所と手を組むのか。

東:最終的には、ドローンがこれからたくさん飛んでいく世界になった時のインフラにしたいと思っています。例えば、電柱や携帯の基地局に置いていきたいのですが、いきなりそこにはいけないので、今は協力してくださるビルオーナーのもとで、ビルの屋上などに置いているケースと、業務提携契約を結んでいるNTTコミュニケーションズ社の遊休鉄塔などを使わせてもらっています。

杉原:このドップラー・ライダーにはセンシングやアルゴリズムなど御社独自の技術があると思うのですが、出口がとても豊かだなと思います。いま東さんがおっしゃられていたドローン社会の到来もそうだと思うのですが、「風を制す」というところの中で、わかりやすいものでは、日本で社会課題になっている都市防災がありますよね。例えば御社のテクロノジーを使ったら、僕らが今こうむっている災害を防げるということはありますか?

東:防災の観点では、やはりゲリラ豪雨の予測ですね。東京の都市には地下空間がいっぱいあります。よく地下鉄の入り口に止水板が置いてありますが、ああいうものを設置するのに10分前予報だと間に合いません。これが30分前だと、なんとか間に合います。そういう形でドップラー・ライダーを使って浸水を防ぐ、なんらかの対策がとれる、というケースはよくお伺いします。

杉原:ゲリラ豪雨の特徴をもった特殊な風の集積ができた時に、それを感知して「あと30分後にゲリラ豪雨が来る可能性は何%くらいです」みたいな予報になるのでしょうか?

東:たぶん、そうなると思います。

杉原:うわあ、すごい。めちゃくちゃ傘が売れそうですね。

都市部で必要になってくる風の情報

杉原:あとはドローンのための風予測ですよね。今は長崎の五島列島など、人のいない場所で実証実験をやっていますが、都市部で飛ばす場合は、風が一番重要な情報といっても過言ではないと思います。

東:おっしゃる通りで、ANAの五島列島での実証実験で弊社のドップラー・ライダーが使用されたのですが、海の上は比較的乱れが少ないんです。都市に入って来た瞬間に、ビルや建物の影響がすごく出てくるので、風の情報が非常に重要になってきます。

杉原:ドローンに関しては、リアルタイムで24時間データを供給しながら、「今、どのルートがいいよ」と提案していくイメージですか?

東:そうですね。建物の情報はそんなに変わるものではないですが、唯一風の情報だけが時々刻々と変わっていくので。24時間365日の観測情報をドローンのオペレーターに提供していく形になると思います。

杉原:ということは、完全にオートメーション化していかないと、遅延が発生してしまうと、情報が全く違うものになってしまうということですね。

東:ええ。我々も今はほぼリアルタイムで風の情報を提供できるようになっていますが、「今の風」をいかに届けるかというのがポイントです。

杉原:具体的にはどのくらいの時期に実用化をめざしていますか?

東:ドップラー・ライダー自体はお客さんのもとに届いている状況で、サービスは今年中にはスタートしたいと思っています。今はユーザーインターフェース部分の開発を急いでいます。

杉原:それはお客さんによってユーザーインターフェースを変えていくということですか?

東:変えていかないといけない。基盤のところは変わらないのですが、どちらかというとドップラー・ライダーを売るというよりは情報を売るイメージです。だんだんITベンチャーチックな感じになっていくと思います。

ポスドクから
ベンチャー起業の前例となりたい

創業メンバーの四人で力と知恵を持ち寄り次のステージを目指すメトロウェザー。(画像元:https://www.metroweather.jp

杉原:最後に今、日本はポスドク問題のようなものも言われていて、研究室で若手が席を確保するのは至難の技だとさえ言われます。その中で、ポスドクの期間終了時に研究職一本で行くのではなく、起業という選択もあるのではないかということを、御社の場合は示されているのかなと感じました。

東:おっしゃる通りで、ポスドクでよく言われるのが「次がない」ということですが、起業する道もあることを示したいというのは、初期のモチベーションとしてはありました。ディープテック系で成功した事例があまりないので、その成功事例の一つになれればいいなと思います。

杉原:僕もすごく興味があります。今日は貴重なお時間をありがとうございました。

東 邦昭(ひがし・くにあき)
メトロウェザー株式会社代表取締役CEO。2009年に京都大学のポスドクに着任後、大気レーダーを用いた乱気流検出・予測技術の開発・高分解能気象予測シミュレーションの開発を行う。民間気象予報会社において2年間の環境アセスメントの実務経験も持つ。2014年にポスドクを辞めた後、1年間の起業準備期間を経て、2015年に古本氏とともに京都大学発スタートアップとしてメトロウェザーを設立。代表取締役。神戸大学博士(理学)・気象予報士。

(トップ画像:https://www.metroweather.jp

(text: HERO X編集部)

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変革期を迎えたデジタルアートの最前線

あらゆる情報がデータ化され、これまで見えづらかった事象が可視化されるようになった現在。エンタテイメントやスポーツ分野におけるデジタルテクノロジーの可能性について語り合った前編に続き、後編ではさらに突っ込んだデジタルアート、さらには金融や医療分野についても話が及んだ。まだ混沌としているブロックチェーン技術や、倫理の問題が立ちはだかる身体データの活用など、今を生きる我々が避けては通れないトピックスについてのヒントがここにある。いずれにせよ、しばらく真鍋氏の動向から目が離せないことだけは確実だ。

東京現代美術館にて展示された
《Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”》2021

《Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”》2021 「ライゾマティクス_マルティプレックス」展示風景(東京都現代美術館、2021年) photo by Muryo Homma(Rhizomatiks)

杉原:さて、今東京都現代美術館で開催している「rhizomatiks_multiplex」についてお伺いしたいです。僕はまだ動画でしか拝見していないのですが、実際に見た人の感想を訊くと、みんな口を揃えてすごい!って絶賛していますよ。

真鍋:お客さんにわざわざ足を運んでいただくだけの価値がある体験にしようというコンセプトがありました。生で、肉眼で見てもらって、リアルなオブジェクトを動かすことや空間を上手く使うことなどを感じてもらいたかったんです。

杉原:白いオブジェクトが動くのは、ルンバとかで使われているSLAM(自己位置推定と環境地図作成の同時実行)ですか?

真鍋:《Rhizomatiks × ELEVENPLAY “multiplex”》では、外からセンサーカメラを使ってオブジェクトについているマーカーを認識して位置と角度をトラッキングしています。外で動いているロボットはGPS、RTK-GNSSですね。映像だけでなくかなりたくさんのアナログ装置を用いています。残念ながら4月は丸々緊急事態宣言でクローズしていました。

杉原:もったいない! せっかくの機会だからもっと延期してくれればいいのに。コロナで気分が落ち込んでしまいがちですが、こういう時期こそアートやスポーツの力で、個々の価値観を再定義できたらいいと思っているのです。

NFTの抱える問題と可能性について

杉原:そうした中で、NFT(ブロックチェーン技術を使って固有の価値を持たせる)が昨年から急激に注目されるようになりましたね。知人が「真鍋さんの作品を買ったぞー」という話をしていて、びっくりしていたんですよ。

真鍋:今はほとんどのクリエーターが既存のマーケットプレイス、OpenSea、Rarible、Foundationなどで作品をミントしていると思うのですが、ライゾマは独自のマーケットを作りました。実践を通じて現状分析、未来予測を行うという意味合いが大きいですね。

杉原:ライゾマのNFTを使ったマーケット知らなかったです! とはいえ、この種のマーケットはまだきちんとしたプラットフォームになってないですよね。どちらかと言えばアイデア先行で始まって、まだアーリーアダプター向けなんですよね。

真鍋:6年前にドイツのカールスルーエ・アート・アンド・メディア・センターではビットコインのトランザクションのビジュアリゼーションや自動取引をテーマにした作品を展示したこともあり、ブロックチェーン関連は興味がある分野だったのでNFTも早くから注目していました。

杉原:この間、レブロン・ジェームズのダンクシュートの動画が2000万円で売られたことも話題になりましたね。

真鍋:NBAトップショットですね。いやぁ、海外の動きは早いですね。まだ黎明期で何が本命かは判断が難しいところもあるのですが、そこを含めて面白いと思っています。

杉原:ちょうどiTunesで楽曲を購入できるようになった頃、WinnyとかNapsterとか(ファイル共有サービス)が出てきて、問題になった時と似ていますよね。ある程度の不正には目を瞑りながらもサービス自体を普及させていくという。結局大事なことは、アーティストの権利をどう守るのかということですよね。

真鍋:NFTには可能性があることは揺るぎない事実かと思います。特に永続性の部分は大きいのではないでしょうか。例えば、YouTubeの画像はYouTubeのサービスが終わってしまったら無くなってしまいますよね。しかしNFTアートでよく使われているIPFSというハイパーメディア分散プロトコルを使えば、対改ざん性、耐障害性、対検閲性など作品が存在する上でのメリットがあります。もちろん、画像や動画、3DデータなどだけではなくDNAデータをアップロードするなど、貴重なデータを保存することにも使えますし、ゲームから始まってアートに移行して、これからはさらに広い分野でこの技術が使われるだろうなと思います。

杉原:遊休資産が一気に値上がりするパターンがありますよね。例えば、昔作ったプロモーションビデオの一部の切り取りを買える訳じゃないですか?

真鍋:眠っていたコンテンツがNFTをきっかけに蘇って価値が出てくるということもあるでしょうね。よく言われていることではありますが、音楽の流通やミュージックビデオも形態が変わっていくんじゃないかなと思います。日本ではまだまだ事例が少ないですよね。海外だとWarp Recordsの代表的なアーティストであるAphex Twinがオーディオビジュアル作品を出していたり、有名どころでも面白い事例もたくさんあります。
杉原:たしかBLURもやっていますよね。僕個人としては、今後さらにNFTを利用したサービスが支持されると思うし、自分自身でもライゾマの作品を購入したいと思っています。ただ気がかりなのがめちゃめちゃ薄型でかっこいいスクリーンというか、デジタルアート作品にぴったり合うモニターがあればいいなと。やっぱり自分が惚れ込んだ絵画作品には、それ相応の額装が必要になるじゃないですか? ライゾマの作品はライゾマのディスプレイとセットにして鑑賞したいですものね。

真鍋:まさにおっしゃる通り! 先読みされた感じがしました。作品を買った人がどうやって鑑賞するのかというと、結局ディスプレイが必要になります。ですから、僕らはウォレット搭載のNFTディスプレイの開発も検討しています。

先端医療におけるデータ活用とこれから

杉原:今回お話をして、ライゾマとRDSに親和性があるなと思ったことが、身体の可視化についてです。単純にデータを医療につなげようとしているのではなく、新しい項目を見つけて、今僕らが生活している中での当たり前をもう少し面白くできないだろうかと考えているのです。歩くという単純な行動が、ドラゴンクエストウォークとかポケモンGOとか、コンテンツが付与されるだけでエンタテイメントになる。そうした背景とかコンテキストみたいなのをぶち込んでいきたいなと考えているのです。そこで大事なことは、コミュニケーションでありUXなんですよね。僕らはあくまでもテクノロジーの基礎とツールを提供しているだけで、出口をどうするかが課題なんです。例えば、医療データを解析して「あなたの身体はこんな状態です」とぶっきらぼうに言われるような、しょっぱいUXだったら「そんなの要らない!」ってなっちゃうと思うから。

真鍋:たしかに、いきなりエクセルのグラフを見せつけられても興醒めしてしまいますよね。そもそもセンシティブな情報ですし、そんなこと知りたくないという人も多いですから。

杉原:真鍋さんの作品を見ていると、奥深いところにあるメッセージのように見えて、実はすでに身近にあったことを可視化してくれているのではと思ったのです。健康状態をダイレクトに伝えるだけではなく、どういう風に生活を改善した方がいいとか、コーチングから始めたらいいのかなと。だから、真鍋さんが取り組んでいるテクノロジーとアートを掛け合わせる手法を使って、1つのアライアンスになればいいなと。点と点が面になっていくように医療データを掛け合わせて、人々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)につなげていきたいのです。

真鍋:人の脳に埋め込んだ方がQOLが上がるというレベルまで行けるかどうか、いう話ですよね。個人的には早くやってみたいんです。この間も京都大学に行ってMRIのデータを取らせてもらって作品を制作したり、特任教授をやっているSFCでは藤井先生の協力を得てTMSと呼ばれる電気刺激を用いた作品制作を行っています。普段は主に医療に使われるものですね。

杉原:わっ! 痛そうですね。頭蓋骨も通り抜けて、脳に通電させているのですね。

真鍋:モーキャプのシステムとMRIのデータをTMSのシステムと組み合わせています。ちょっと痛いです(笑)。視覚野を刺激してどのような映像体験が出来るかを調べました。その時は思うような結果は得られなかったのですが、今後は作品の体験や制作に繋がればと思っています。

杉原:先ほども話しましたが、イーロン・マスクがやっていることにも通じますよね。デバイスを装着して脳に電流を流すことで、手を動かすことなくテレビゲームのキャラクターを動かすことができるという。

真鍋:それから最近面白かったのが、ドルビーの人たちと一緒にスタンフォード大学の研究所に1週間滞在して行った実験です。最近のテレビゲームはHDRが進化して、眩しいくらいに高解像度かつ高階調度になっています。それを利用してゲーム中の爆発シーンを見ると、本当に火災が起きたと思って顔の表面温度が上がる。脳波のデータはノイズが多くて使いづらいのですが、サーモのデータは使いやすいんです。

杉原:高所の映像を見ただけで手に汗をかく現象と同じですね。脳に刺激を与えることで、実際に火を使わずに火傷をさせることもできると聞きました。僕のプロジェクトでもサーモを利用した歩行実験で、その人の身体状態が大体わかるんですよね。

真鍋:僕は昔骨折したところがあって、ちゃんと治療せずにいたので歩き方がおかしくなっていると思うので、是非杉原さんのところで実験してもらいです。

今後のデジタルアートはさらなる変革期に突入

杉原:それでは最後に、コロナ以降のデジタルアートの展望について、どんな風に予想しているのかを教えてください。

真鍋:コロナの反動でリアルスペースに対する欲求が高まっている。それは来年の秋ぐらいまでには必ず戻ってくるでしょうね。

杉原:たしかにそうでしょうね。僕はデジタルに対してそれほど好意的ではなかった人たちが、コロナを通じて一気にデジタルにシフトしてきたと実感しています。

真鍋:本当にものすごく変わりましたし、実際アート界も変わってきています。現代アートの人たちはVRとかに懐疑的でしたが、そういう人たちですらオンラインギャラリーやバーチャルギャラリー、NFTを普通に使うようになってきた。もはやデジタル、リモート、オンラインは現代の必需品ですね。あっという間に人々が合意して価値観が変わった。

杉原:多くの人たちにとっては大変な時期だけれども、既にその前から取り組んでいた人たちからしたら、半歩先かなと思っていた未来が、もうここまで来たという感じですよね。

真鍋:もうここまで来て、あっという間にその先に行こうとしているというか(笑)。例えばミュージシャンがグリーンバックでオンライン配信ライブをやったり、少し前ならすごく特殊なことが今や普通のことになっていますよね。だから僕たちは、その更に先を行かないと。

真鍋大度(まなべだいと)
1976年、東京都生まれ。大学卒業後、大手電気メーカーに就職するが1年で退社。2002年 IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)に進学しプログラミングを学び、2006年Rhizomatiksを設立。以後、さまざまなアーティストのMVやライブ演出、スポーツイベントやファッションショーの演出を手がける。現在も東京を拠点に、アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマ、DJとして活動。

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