テクノロジー TECHNOLOGY

sora:shareが夢見るSky as a Serviceという世界観

Yuka Shingai

モビリティとしてのポテンシャルや、市場に与えるインパクト、後発のイノベーションに対する影響力などHERO Xではこれまで国内外問わず、ドローンにまつわる事例を数々紹介してきた。福岡に拠点を置くスタートアップ、トルビズオンが運営するsora:share(ソラシェア)は空を貸し借りするというこれまでに類を見ないプラットフォームだ。ビジネス立ち上げの背景や、狙いはどこにあるのか。代表取締役社長の増本衛氏に空を取り巻く現状について話を伺った。

ドローン事業者の
三大課題は技術・制度・倫理

「ドローン自体はすでに出回っていて、それらが社会課題を解決してくれるのはすでに大前提。実現したい世の中のために、ドローンが飛ぶ空をいかに整備するかを考える未来志向のビジネスなんです」と増本氏は切り出した。

ドローンビジネスの黎明期から様々なドローン事業に携わってきた増本氏。ドローン空撮を特徴とした映像制作からはじまり、中国のドローン大手・DJIの販売代理店、サンフランシスコのスタートアップと提携した測量や災害調査、そして2018年にはNEXCO西日本のドローン部隊内製化のコンサルティングを任される。

2016年熊本震災で、NEXCO西日本と高速道路の被害調査を行う。

災害時におけるドローンの有用性が証明されたことを機に、革新的なテクノロジーだと声高に叫ばれ、ドローン活用の機運が一気に高まった。今後は人が送信機で操縦するのではなく、LTEを使った完全自動飛行、さらに長距離飛行や有人飛行までも可能になり、ドローンが列をなして飛び交う未来予想図が描かれるようになっていた。

「とはいっても今日、ドローンが飛んでいる様子を日常的に目撃するかというと、しないですよね。ドローンの可能性を確信していましたし、思い描く未来を実現したいと考えていましたが、散々実証実験を行ってきた立場からも、ドローンが危険であることは否定できません。100~200グラム程度の小型機ならまだしも、数十キログラム以上の中・大型機になると命にかかわる事故が発生する可能性もあるので、上空を飛行することに不安を抱える人がいるのは当然のこと。それらのリスクを考えるとドローン事業者は飛ばしづらいのが実情です」

増本氏いわく、ドローン事業者にとっての三大課題は技術・制度・倫理だ。
墜落しないドローンを作ることは100%とまでいかなくとも、技術的には可能だろう。また国が利活用する目途がつけば制度も緩和される見込みもある。しかし一番ハードルが高いのが倫理的課題、つまり「社会受容性」の問題だ。現時点でドローンには義務保険がないため、万が一無保険で事故が発生したときはドローン操縦者自身が補償する必要がある。事故の大きさに比例して補償費用も高くなるが、支払能力がなければ、巻き込まれた側が補償を得られない可能性もある。そうなると上空を飛んでほしくない、と思うのが当然であろう。またどの高さまでかはグレーだが、土地の所有権は上空にも及ぶ。事故が起きたときに補償を受けられない可能性があるなかで、所有地上空の飛行に合意する所有者がいるだろうか。

「リスクを許容できないのであれば、地権者側に航路の決定権を持たせよう、メリットがないならインセンティブを付与しよう、保証がないのなら空路そのものに保険を掛けようと、課題意識から生まれたのが現在のビジネスモデルであるsora:shareです」

緯度、経度、高度で上空を一意に。
空にDXを起こす

sora:shareの仕組みはこうだ。インターネットのドメインが数字の羅列(IPアドレス)を文字列(URL)にしているのと同様に、緯度、経度、高度で空間をひとかたまりとしてとらえ、空の住所「スカイドメイン®」を付与する。
土地所有者は上空をシステムに登録し、一般のドローンユーザーやドローンスクール、ドローン事業者などに貸し出す。一方、ユーザーはスカイドメインを入力するだけで簡単に航路を設定することができる。

すでにローンチ済のサービス「スカイマーケット」では飛行練習や空撮がメインだが、サービス化を目指す「スカイロード」は物流ビジネスとしての活用が期待されている。合意が取れた空域を繋げて「空の道」を作ることで、第三者上空の飛行を必要とするドローン利活用を促進すべく各自治体と連携し、実証実験を進めている。新聞配達、遠隔診療後に病院から薬を運ぶ、災害時に非常食を運ぶ…など、道ごとにテーマを設定し、網の目のように空の道を張り巡らせる「住み続けられる空のまちづくり」のためにドローンが機能している。ネクストステップとして取り組むのは「空の駅」の整備だと語る。

「ドローンは荷物を目的地であるポートに運び終わったら、すぐ出発地点に戻ってしまいます。無人であれば荷物を取られないようセキュリティの担保は必須ですし、充電装置や通信機能も必要になるでしょう。安全運航管理のためのデータやエンドユーザー向けの注文システムなど、すべてパッケージして空対応の『デジタル田園都市向けインフラ』としてソリューションパッケージを提供していく予定です」

電車やバス、タクシー、ライドシェアやカーシェアなどあらゆるモビリティをICTの活用によりクラウド化し、1つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念、MaaS(=Mobility as a Service)の空版、「SkyaaS(=Sky as a Service)」がsora:shareが最終的に目指す世界観だ。まさに空のDXと呼べるだろう。

しかし配送、見守り、点検、空中広告など、空の利活用が予想されるフィールドは幅広いものの、ドローンが1度に運べる重量はせいぜい数キロ。数十キロの荷重に耐えうるドローンは数千万円規模と非常に高額だ。コスト面からも物流ドローンがそう簡単に汎用化されることはないだろうという見解だが、防災用ルートとしての登録を先に進め、合わせて物流空路としての許可を申請している。

「災害が発生しそうな区域って大体は不便なところにありますよね。危険と思われる箇所をあらかじめスカイドメインに登録して点検や訓練を重ねていけば、実際の災害時には物流ルートとしても活用できます。ただドローンを飛ばすだけではない、周辺の住民の方々に安心してもらえるソリューションを提供することが重要だと考えています」

人とドローンが補完関係になれる社会を目指して

今年2022年は、航空法が一部改正されドローンの「有人地帯の第三者上空目視外飛行(レベル4)」が可能になる予定だ。機体認証制度や操縦ライセンスが導入され、政府目標としても都市部での利活用が掲げられている。しかし都市部や人口密度の高いエリアでドローンが行き交うということは墜落した場合の破壊力や影響範囲も甚大だ。ソラシェアも茨城県つくば市の住宅地で実証実験を行った実績があるが、どこに道を作るかはこれからより重要な議論に発展していくだろう。増本氏が大きな課題を前に今後をどのように捉えているのか尋ねてみた。

「ドローンが広く普及している中国などに比べると日本は国土も狭いですし、バイク便で十分という考えもあるかもしれません。しかし、これからの人口減と、いつまで続くか分からないコロナ禍を考慮すると、無人で非接触の配送ができるドローンは力を発揮するはずです。物流コストでもウェイトを占める人件費を削減することにも繋がります。もちろん、何もかもがドローンに取って変わるべきとは考えていません。社会受容されて初めて広がっていくものですから、周囲の方たちに理解、納得してもらった上で空路を拡大し、人とドローンが補完関係になっていくことが理想ですね」

大手企業がこぞってドローン物流に乗り出し、2022年が1つの契機となることは間違いなさそうだ。どこまでこの勢いが加速するのか、空を見上げることで確認できるかもしれない。

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(text: Yuka Shingai)

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モーターもセンサーも使わない、わずか540gのウェアラブル歩行支援機【今仙電機製作所:未来創造メーカー】

2015年度グッドデザイン賞を受賞した、株式会社今仙技術研究所による歩行支援機『ACSIVE(アクシブ)』。これは、脳卒中片麻痺や高齢などで歩く力の弱い方が、腰と片足の膝下にベルトで着けると、本来の歩き方を得たように膝を交互に振り出す力をアシストするという、ユニークな装置です。腰と膝下のベルトユニットと2本のカーボンチューブのみと、シンプルながらも、歩行ロボットの研究から生まれたもの。そして2017年6月には『ACSIVE』に続き、健康な人向けにも歩く力を助ける『aLQ(アルク)』が新登場。この『ACSIVE』『aLQ』を共同で開発した、今仙電機製作所 グローバル開発センターの鈴木光久さんと名古屋工業大学・佐野明人教授にお話を伺いました。

ベルト装着のみでスムーズに脚が振り出せるようになる『ACSIVE』。

外回りの営業や、日本百名山を踏破したいなど、健康な方の長距離を歩く力をサポートする『aLQ(アルク)』。

電気やモーターを使わず、バネと振り子の動きが作用し、歩行介助。

Q 『ACSIVE』『aLQ』はどのようにして歩きをスムーズにさせるのですか?

鈴木さん:どちらも動力を使わず、「振り子」と「バネ」の機構によって動作します。名古屋工業大学の佐野明人教授が発見した原理を基に、佐野教授と、そして自動車部品メーカーから分岐し、日本で初めて電動車いすを開発した弊社とで開発しました。もともと佐野教授が15年以上にわたり二足歩行のロボティクス技術を研究し、その過程で人間の自力歩行の「歩ける原理」を解明しました。この『受動歩行』理論を基に、弊社は佐野研究室の受動歩行ロボットの設計製作をしました。受動歩行ロボットは、動力がいらず、位置エネルギーのみ、要は重力だけで歩くことができます。さらに佐野教授がこの原理を人に応用し、足を交互に踏み出す動作で生まれる「振り子の動き」と「バネの原理」を使えば、軽い装置で自然現象のように歩行を安定化して足運びを助けられると提唱し、2010年から共同研究を開始、2014年に『ACSIVE』を共同開発します。こうして『ACSIVE』は、モーターも電池もセンサーもコンピューターも持たない540グラムのウェアラブル歩行支援機として生まれました。簡単に着脱でき、ベルトで着けると歩行動作から腰部のバネに力を蓄えて、一歩一歩の膝の振り出しを静かにアシストします。

基となった受動歩行ロボットの研究では、佐野研究室は世界トップレベル

Q 四足歩行のボストン・ダイナミクスのロボットなど、歩行ロボット技術はアメリカが先行していそうですが、歩行支援ロボットの分野では日本も有望では。他にこのようなロボットの例は?

佐野教授:動力のある歩行ロボットの制御は、アメリカも進んでいます。日本でもサイバニクス技術を用いたサイバーダイン社のロボットスーツHALや、Honda歩行アシストなどがありますが、無動力のものはACSIVEくらいです。ACSIVEはモーターやバッテリーはありませんが、関節軸やリンクが備わっており、ロボット様式となっています。

鈴木さん:日本も歩行ロボットの歴史は長く、SonyHONDA、早稲田大学など世界に先駆けた二足歩行ロボットの研究があります。ロボット様式の私たちの『ACSIVE』『aLQ』の基になっている佐野教授の「受動歩行」の研究、「受動歩行ロボット」は、動力のない歩行という点が際立っています。無動力でトコトコときれいに歩き続ける受動歩行ロボットの研究では、佐野研究室は世界トップレベルだと思います。2005年に佐野研究室から詳細設計を請け負った受動歩行ロボット3号機は、私たち今仙の義足設計ノウハウを盛り込み、13時間45分をコンベア上で連続歩行してギネス世界記録認定を受けました。つづいて、2008年設計製作した成人サイズの『BlueBiped(ブルーバイペッド)』は連続歩行記録を27時間に更新します。国内では2008年度グッドデザイン賞を受賞しました。

佐野教授:受動歩行ロボットは、飛行機でいうところの紙飛行機やグライダーに当たります。脚の長さや重さ。円弧状の足の寸法。空中に浮いた脚(遊脚)の膝がまっすぐになった際にその反動で再び曲がらないように工夫(曲がって着地すると膝折れ転倒になる)するなど。肝となるところは他のロボットと比べてそんなに多くないです。また、ギネス世界記録を生み出した安定した歩行には、歩幅を一定にすることがとても大切です。

受動歩行の研究と自動車品質の開発技術、多数のモデルとの融合で最適化へ。

Q 歩き方は十人十色。『ACSIVE』の開発過程で最大の困難は?

鈴木さん:まさにその通り!! 一人ひとり歩きは違います。特徴の異なるそれぞれが『ACSIVE』を着けると、わずかながらも歩きにこの効果が影響し、さらに反応はそれぞれ。無意識下で身を任すのか、反射のように代償運動をおこすのか、その影響+代償を統合した運動を「アシスト」と感じたり、「邪魔・装着感がある」と感じたり様々です。装着感はウソがつけず、ファジーな部分が大きいため、数学的手法と多くのモデル数を得ることの両方を重視しました。

佐野教授:観察からというよりは、我々が研究開発している受動歩行ロボットの改良過程からの知見が大きいと思います。受動歩行ロボットは重力を巧みに利用し、2重振り子(リンクと呼ぶ棒が膝関節を介して2つ繋がっている)のような自然な動きをします。また、ロボットに取り付けるおもりの重さと位置を変えると、脚の振り出しが良くなったり、膝がより大きく曲がるようになるなど、ロボットの動きに変化が現れます。

鈴木さん:ロボットではおもりが歩行を調整しましたが、ACSIVEではどんどん引き算しておもりもなくし、本質的な部分が残りました。今仙技術研究所ではスポーツ義足のカーボンの板バネなど義足パーツも設計製造しております。その義足研究で培った「歩く」技術へのこだわりと佐野教授の受動歩行の研究とが融合し、ACSIVE誕生に至ったと思います。更に『aLQ』の開発では、開発チームを親会社である今仙電機開発センターで招集し、自動車の設計ノウハウや・品質基準を盛り込んでいきました。

佐野教授:誰しもロボットの動きを思い通りにしたいと思いますが、ロボットは好きに動きたいのかもしれない。受動歩行と呼ばれる歩行は自然に動きが生じます。ロボットが自ら歩いているのです。このように考え方を切り替えるのは少々大変で、今もそれが出来ているか自問自答しています。

鈴木さん:佐野先生のこのような視点は分かる気がします。私自身も、苦労して設計組付した受動歩行ロボットの等身大ヒューマンスケールを研究室に納品するとき、車のシートベルトを着けると(当然ながらサイズぴったりなのです)、感情移入から存在感が出るんです。帰路は助手席が空いて(巣立っていった)寂しい気持ちが湧き起こりましたので。

パラリンピアンのトレーニングから、日常生活、レジャーシーンまで。

Q 『ACSIVE』『aLQ』が拓くこれからは?

鈴木さん:リオデジャネイロパラリンピック400リレーで銅メダルに輝いた陸上競技の芦田創選手(トヨタ自動車)は、右上肢に障害があり、手首に装具を使用してバランスを巧みにとりますが、リオに行く前の約1年間、弊社の歩行支援ロボット『ACSIVE』を両脚に使っていただきました。おそらく各競技前のアップや強化練習のなかで足さばきのイメージトレーニングなどに使われたのでは。
こうしたイメージトレーニングなどの分野にも今後、『ACSIVE』『aLQ』は活躍していくかもしれません。かつてなら歩行支援機はあまり目立ちたくないものでしたが、『ACSIVE』も『aLQ』も、シンプルで軽く、充電もいらず、メガネのようなアイテムという印象で歩くことをサポートできます。ACSIVE』は、脳卒中、脳梗塞、脊柱管狭窄症、脊髄小脳変性症の歩きが弱い方にお試しいただきたい無動力の歩行支援機です。これまで杖をつくことに抵抗のあった方でも、着けて歩いていただければ、歩行姿勢がよくなり、体への負担が軽減され、数年前の自分本来のスムーズな歩き方を取り戻したように歩けるのではないかと思います。

麻痺のある方が『ACSIVE』を装着したビフォーアフター動画。『ACSIVE』装着前と装着後とでは、両足が連動した歩行時の体の左右バランスや速度の違いが一目瞭然です。

そして、この『ACSIVE』のノウハウを活かした『aLQ』は、より健康を目指す方へ手軽に装着しやすくした歩行支援機です。歩ける高齢層の方々が装着すれば、今まで以上に足が高く上がり、つまずきにくく、疲れにくく、ウォーキングやスポーツをアクティブに楽しんでいただけると思います。また、たくさん歩く方や旅行やレジャー、スポーツであちこち踏破したいといった場面にも、『aLQ』の活躍が期待できます。歩けることは心身の健康、生活の質とも関連します。だれでもいくつになっても元気に歩けて健康でいられる社会づくりに、『ACSIVE』と『aLQ』は身近なプラットフォームになれると思います。

Q 未来にどんなものがあったらいいですか?

鈴木さん:死ぬまでしっかり立てて歩けるもの。元気に歩けて健康になる道具。



鈴木光久(すずき みつひさ)
株式会社今仙電機製作所  IMASENグローバル開発・研修センター
兼任 豊橋技術科学大学 リーディング大学院 客員准教授


佐野明人(さの
あきひと) 教授
名古屋工業大学 大学院工学研究科 電気・機械工学専攻  


ACSIVE
長さ60×25×厚さ4cm 540g 脚長に応じてカーボンロッド交換(3種同梱)、ナイロンベルト(腰囲100cmまで対応)・右用/左用 180,000円(税別)
全国のACSIVE取扱店及び導入施設(義肢製作所・福祉用具取扱事業者/病院など)にて販売。


aLQ
両脚用 フリーサイズ(脚に合わせた長さ調整機能付き)760g 46,000円(税別)愛知、東京、静岡、京都、大阪の百貨店を皮切りに販売店は順次拡大予定。

株式会社 今仙技術研究所ACSIVE
www.imasengiken.co.jp

株式会社 今仙電機製作所aLQ
本社営業課 0120-80-2721
www.imasen.co.jp/alq.html

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