対談 CONVERSATION

テクノロジーが失った余白を座敷わらしのような“妖怪ロボ”が取り戻す!? ユカイ工学が考えるロボットの未来

吉田直子

コミュニケーション型のロボットを数多く開発しているユカイ工学。テーマとしているのは「コミュニティの再構築」だという。スマートシティ化が進む現在、ロボットの役割は今後どうなっていくのだろうか。IoTによって家電がロボット化していく? 人間は、どんなふうにロボットとコミュニケーションしていくようになる? ユカイ工学CEOの青木俊介氏に編集長・杉原行里が聞く。

めざしているのは
コミュニティの再構築

杉原:最初に青木さんとお話をさせていただいたのは、今年のCEATECというイベントで、テーマが「スマートタウン」でしたよね。広義でも狭義でもどちらでもいいのですが、青木さんが考えるスマートタウンってなんですか。

青木:僕は、例えば交通的なインフラとか、割と大規模なインフラが必要なものはスマートシティと呼ばれるジャンルのものだと思っています。それに対して、スマートタウンは、人の足で歩いて回れる単位で考えられるものではないかと。特にIT技術が進んでくると、カメラとAIを組み合わせたりすることで、今まで分断されがちだったコミュニティが技術によって取り戻せるのではないかということを考えています。

杉原:スマートシティとスマートタウンの認識がそもそも違うという考え方が、かなり面白いですね。やはり青木さんにとって、コミュニティは大きなテーマですか?

青木:僕はそう思っていますね。コミュニティの再構築。

杉原:その再構築のもととなるイメージは、例えば時代でいえばいつ頃でしょうか?

青木:『ちびまる子ちゃん』とかでしょうか。

杉原:確かに僕らの時代は、『ちびまる子ちゃん』や『サザエさん』の世界でしたよね。家に帰って親がいないと隣の家に行きましたもんね。

青木:そうそう。友達の家に行ったら夕ご飯が出てきて、勝手に食べて帰ってくるみたいな感じでしたよね。

杉原:今はその余白みたいなのは少しずつなくなってきているということですか?

青木:そうだと思います。住居がオートロックだったりすると、小学生が友達の家に気軽に遊びに行くこともできないですよね。昔だったら「あーそーぼー!」って呼びに行っていましたが。今は遊びに行く前に携帯に連絡していかなきゃいけないとか。

杉原:「あーそーぼー!」って言っても、マンションとかだと家に入るまでに何個もボタン押さなきゃいけないですもんね。昔は携帯もないから、公園に行って誰かを待っていましたけど。

青木:行ったら誰かいるだろう、みたいな。あの感覚が面白いですよね。

杉原:一方では高度経済成長期を経て、テクノロジーによって多くのことがコンビニエンスになったり、マンションだったらセキュリティが向上したりといったメリットもある。全体的に裕福になったと思いがちだけど、今度はテクノロジーによって失ってしまった、もしくは失いそうなものを、ユカイ工学はテクノロジーによって取り戻そうとしているということでしょうか。僕がいつも感じるのは、青木さんは今の時代が悪いと言っているのではなくて、今の時代にあったアップデートの方法で、昔あったいいものを付帯させていく、融合させていくことを考えているのではないかと思います。

青木:おっしゃる通りです。

家電と会話できる
=ロボット化ではない!?

杉原:世界の潮流としては、どういうロボットが今後生活の中に入ってくると思いますか。

青木:僕たちが必要だと思っているロボットは、インターフェースの役割が大きいと思っています。例えば、皿を洗うとか洗濯をするといったことは、ロボットよりも家電のほうが効率もいいし安い。だから、皿洗いをロボットがやる日はこないと思っています。すでに家電の洗濯機は洗濯物の汚れ具合を検知して必要な洗剤量を変えるとか、かなり賢いことをやっているので、技術的に見ればもう家電はロボットです。でも、洗濯機に名前をつけて可愛がっている人はあまりいない。ロボットって名前をつけたくなるものですよね。

杉原:うちの娘が今5歳なのですが、ロボット掃除機のルーロを「ルーロちゃん」と呼んでいます。

青木:なるほど。ルンバとかもそうですけど、動き回るものって何か特別な感情を抱きがちですよね。

杉原:その中で白物家電みたいなものがIoT化されていく。

青木:そうなると思いますが、僕はその時に必要なのが冷蔵庫と直接会話できる機能かというと、たぶんそうじゃないと思います。顔がない家電に向かって人間がコミュニケーションをとることはなくて、なにかしらインターフェースが絶対に必要になる。それがこういうロボットだと思ったんですね。

杉原:要は翻訳家というか、通訳をする存在ですよね。

青木:そう、通訳をする人。例えば、室内の家電をコントロールする時も、何か顔のあるインターフェースが人間は欲しくなるはずだと思います。それがロボットの役割になると考えてまして、アレクサとかも機能としてはかなり近いと思います。

杉原:今後、インターフェース側はどんな進化をするでしょうか。

青木:さっきおっしゃったように、ロボット掃除機ってなんとなく愛情をもったりとか、ケーブルにひっかかったら助けたかったりしますよね。僕はそれがロボットのもっている一番の強みだと思っています。人に感情を起こさせるというか、人を説得したり、人のモチベーションを起こしたり、行動を促したりできるというのがロボット型のインターフェースの強みですよね。

杉原:とすると、これから出てくるかもしれないものは、ヒューマノイド的に人間により近づいた形状のものや、しゃべりかたが人間に近いロボットでしょうか?

青木:出てくるとは思うのですが、家で使うぶんにはまず、ヒューマノイド型は大き過ぎますよね。あとは日本語で会話をするとなると、ロボットが全部聞いているという前提で生活をすることになるので、さらにスマホとつながっていると自分の行動も全部そのロボットが把握していたりして、すごく嫌な感じになるじゃないですか。そういうのはダメなんですよ(笑)。

杉原:では、ロボット型インターフェースは『BOCCO』みたいなプロダクトがアップデートしていく?

青木:はい。例えば『BOCCO』は、お年寄りに「薬を飲んでね」という風に言ってくれたりします。今もユーザーさんがそのように利用しているケースが結構あります。すごく面白いのは、家族に「おばあちゃん、薬、飲んでるの?」とか言われると「うるさいわね」みたいに角が立つけれど、ロボットが言うと進んで飲んでくれるらしいんです。あとは夫婦で使われている方で、朝「火曜日はごみの日だよ」みたいなことを言ってくれるから、旦那さんがゴミ捨てをちゃんとしてくれるようになって夫婦喧嘩が減った、とか。

杉原:人間に言われるとイヤだけれど、ロボットにいわれると素直に聞きたくなるというのは研究テーマになりそうですね。仮に『BOCCO』をハードウェアととらえて、この中にどんどんアプリケーションを入れていくのであれば、僕は音声認識ソフトが入ると面白いと思います。例えば、高齢者の言葉のスピードや強弱で認知症の兆候というものが検知できるから、それを認識して家族に伝えるサービスがあれば面白いかなとか。あとは子どもだったら、共働きで親がいない時の様子を検知して、「実はこの子は明るくしているけれど寂しそうだよ」と言ってくれるソフトが出てくるとか。インターフェースコミュニケーションロボットを通じたビジネスやサービスが今後増えてきそうですよね。

青木:増やしたいと思っています。例えば語学学習やダイエットは、自分ひとりの力で続けようとすると、すごく大変じゃないですか。ロボットは人の行動を促すことが得意なので、語学の学習だったら定期的に英語で話しかけてきたり、ダイエットだったら「今週は、あと何キロは走ったほうがいいよ」とか言ってくれたりする役目ができると思います。

杉原:語学はすごくわかりますね。一人でやっていることを、ロボットが拡張してくれると嬉しいですね。

青木:サポートしてくれるものがほしいということだと思います。あとは、例えばお金を貯めるとかいうのもそうですよね。カードと連携して「使いすぎだよ」とか言ってくれると助かりますよね。

杉原:今月の請求額は……特にムダだったのは……って。それはイヤかもしれない(笑)。

裏テーマは「妖怪」。
そこにいるだけで幸せになれる

杉原:次に青木さんが考えているロボットはありますか? 期待しているはずですよ、みなさん。

青木:そうですね。BOCCOもそうですけど、わりとテーマが「妖怪」だったりします。家に一台置いておくと、家族が笑顔になる、幸せになる。座敷童というのが一応、BOCCOの裏テーマです。『となりのトトロ』でも天井裏に何かいるとか、妖怪っていろいろなのが潜んでいるじゃないですか。そういう世界観が近いと思います。

杉原:この前お聞きした二足歩行で玄関に迎えに来るロボットもいいですね。迎えに来る以外何もない。しゃべるとトゥーマッチですよね。

青木:家であんまりしゃべりたいとは思わないですよね。猫とか犬はしゃべらないからいいわけじゃないですか。

杉原:これからユカイ工学として、コンソーシアムも含め、様々な企業との掛け算というのは始まるんでしょうか。

青木:そうですね。ぜひやりたいと思っています。

杉原:ぜひ青木さんとRDSチームで何かやりましょう。今日はありがとうございました。

ユカイ工学株式会社 代表 青木俊介 (あおき・しゅんすけ)
東京大学在学中にチームラボを設立、CTOに就任。その後、ピクシブのCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。「ロボティクスで世界をユカイに」というビジョンのもと家庭向けロボット製品を数多く手がける。2014年、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」を発表。2017年、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」を発表。2015年よりグッドデザイン賞審査委員。

(text: 吉田直子)

(photo: 増元幸司)

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対談 CONVERSATION

ドローンによって世界はどこまで変革できる? Drone Fund代表パートナー・大前創希が見据える未来 後編

浅羽晃

20世紀、乗り物が都市の空を飛ぶ未来像はSF的なイメージだったが、ドローンの登場によって、夢物語ではなくなろうとしている。実験フィールドでは被災地を想定した実証実験も進んでおり、災害救助における実用化は近いだろう。ドローンを活用できる4つのカテゴリーを中心に話を進めた前編に続き、後編はドローンに欠かせない位置情報の最新技術なども含めて、編集長・杉原とDrone Fund代表パートナーの大前創希氏が対談する。

ドローンには精度の高い
位置情報が不可欠

杉原:現在、実験フィールドではどのようなことを行っているのですか?

大前:たとえば、福島ロボットテストフィールドというところでは、本物のように建てたプラントの縦坑に小さいドローンを入れてみて、内部がどのように見えるかとか、破壊された街にドローンを入れるときのシミュレーションとか、そういったことの実証実験をしています。ほかにロボットテストフィールドで注目を集めたのは、100機のドローンを一気に動かしたときにどのような状況になるのか、複数のオペレーターが複数のシステムでドローンを動かしたとき、どういう状況になるのかといった実験ですね。

杉原:ジャムしちゃうかもしれないし。

大前:そうそうそう。有人ヘリと無人ヘリを衝突ラインに乗せてみて、ちゃんと回避行動がとれるかという実験もあります。もちろん、安全に配慮しながらやるんですけど。

杉原:ドローンは、位置情報をどれだけ正確にするかっていうことが大事じゃないですか。最新技術にはどのようなものがあるのですか?

大前:日本には準天頂衛星があり、GNSS(Global Navigation Satellite System)という技術を使えます。GNSSの斜めからの位置情報をGPSと組み合わせることによって、より精度の高い位置情報を得ることができます。なぜ精度の高い位置情報が必要かというと、たとえば農業においては、10cmのずれによって農薬の空白ゾーンや農薬過多のゾーンができてしまう。農作物の品質を保つためにも、コストの無駄を省くためにも、精度の高い位置情報は絶対に必要なんです。いまはそれにプラスアルファして、RTK(Real Time Kinematic)というものを使います。RTKは、自分の位置情報は正しいということを前提としたマーカーを置き、それと通信しながら位置情報の精度を高めていく。農業のドローンはまさにRTKなしでは動かない状況になってきていますし、測量の分野でも使われています。

道路が寸断された被災地での
要救助者の発見や状況の把握に役立つ

杉原:大前さんが投資されているA.L.I.Technologiesも含めて、パッセンジャー系は多くの人たちに未来を想像させるものになっていると思います。パッセンジャー系はエンジンを使うのか、モーターを使うのか、どちらの方向に進むのでしょうか?

大前:パッセンジャードローンに限らず、未来の乗り物はすべて電力で開発されていくべきだと、僕らは思っています。ガソリンだと、都市交通網のアップデイトの難易度が高いんですよ。たとえば、ビルの上にガソリンスタンドをつくるわけにはいかないので、エンジンにするとパッセンジャードローンは常に地上に降りなくてはいけないという世界観になってしまう。SDGs文脈でも、エネルギー消費が環境に及ぼす影響を考えると、電力のほうがまだ影響は小さいでしょう。

杉原:大前さんが考えている近い未来のパッセンジャードローンは、どのくらいの高さを飛ぶんですか?

大前:A.L.I.が進めているホバーバイクという部類のものは、道の上を浮くというものになるので、それこそ数10cmということになります。ただ、彼らのつくっているものは、性能的には数m浮くことができるので、たとえば、自衛隊が災害救助に駆けつけるとき、4~5m程度の障害物を乗り越えることが可能です。山間部などは災害が起きたときに道路が寸断されて、駆けつけることが難しくなる。いまでもヘリはありますが、一部、陸路を使いながらドローンを飛ばすという方法論なら、要救助者の発見や状況の把握が早くできるようになります。

杉原:日本には超高齢化社会が来るじゃないですか。ドローンはどのような影響を与えると思いますか?

大前:高齢化が進むということは、労働人口が減るということです。そうなると、たとえば宅配業は、現在のように全国一律に近いサービスをすることが難しくなる。山間部などでは、人間が個配するよりもドローンで届けたほうが効率的ということになるでしょう。

ロボット技術が進むと
新しい仕事が生まれる

杉原:お話をうかがっていると、大前さんはロボットがイノベーションをもたらすという考えですね。そのひとつのツールがドローンだと思うのですが、日本はあと何年くらいで大きく変わりそうですか?

大前:いま、変わり始めているところです。10年後にはもっとロボットを活用していたり、人間がやらなくてもいい仕事はロボットがやる世界になっていると思います。

杉原:そうすると、僕たち、時間を手に入れられますもんね。

大前:そうです。今後、ふたつの大きな変化が訪れるでしょう。ひとつは、人間からロボットへの仕事の置き換え。これまで、技術は人間が人間に継承してきました。その技術自体は重要なものですが、なかには、もう人間が継承し続けることが難しい部分もあると思うんです。たとえば、高いメンテナンス精度が求められるような技術。人間がやっても重大事故につながるようなミスは起きるわけです。将来的に、メンテナンスはロボットが行ったほうが、高精度になると考えられます。

杉原:24時間、365日できますもんね。

大前:そうです。人間よりもロボットに適している仕事は置き換えられていくと思います。もうひとつ、ロボットのサポートによって、必ず人間が関わらなければいけない分野の効率化が著しく進みます。たとえば、農業は最終的に人間が関わらなければできませんが、大きいフィールドでロボットを使うと、圧倒的に効率が良くなります。

杉原:在宅で農業ができますね。

大前:新しい仕事が生まれる可能性は高いと思いますよ。人間は技術の発展とともに、新しい職種を手に入れてきましたから。効率が良くなり、収益性が上がれば、農業に就労する若い人も増えます。

杉原:プログラミングをはじめとして、僕らが小学校、中学校のときにはなかったカリキュラムが増えていますが、そのなかにドローンがあったら面白いですね。

大前:通信技術が高度に発達していくと、ロボットのサポートをする人間が必ず必要になってきます。特殊スキルを身につけておくのはいいでしょうね。

杉原:僕も早めに大前さんにスキルを教えてもらおう。

大前:ドローンなんて、勝手に飛ばせばいいだけ。もちろん、ちゃんとした場所でね(笑)。

前編はこちら

大前創希(おおまえ・そうき)
1974年、大前研一氏の長男として生まれる。2002年に株式会社クリエイティブホープを創業し、戦略面を重視したWebコンサルティングを展開。Web戦略の立案・ブランディングから、アクセス解析に基づく科学的サイト分析、Webサイトの設計・構築・運用に至るワンストップサービスを立ち上げ、自らもWebコンサルタントとして数々のナショナルブランドや国際的な企業・団体の大規模Webサイトを成功に導く。2014年末より個人的なドローンの活動を開始。2016年5月(株)ドローン・エモーション立ち上げに参画。2017年5月Drone Fund アドバイザリーボードに参画。2018年9月よりDrone Fund 共同代表パートナーに就任。ビジネス・ブレークスルー大学/大学院 教授(専門はデジタルマーケティング)。

(text: 浅羽晃)

(photo: 増元幸司)

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