テクノロジー TECHNOLOGY

外来にかかる時間を短縮、医師も喜ぶ「AI問診Ubie」

HERO X 編集部

病院に通うたびに書かされる問診票。日本では病気になってから病院に通うケースが多いため、毎度この問診票の記入をゼロから行うことが多い。病気を見極める大切なファーストステップとわかっていても、記入は億劫になるものだ。また、患者の負担もさることながら、医師の負担も大きい。患者と医師、双方の時間的負担を減らす取り組みとして期待がかかるのがAIを使った問診票だ。2017年創業のベンチャー企業が開発した「AI問診Ubie」。今年は新たに大学病院をはじめとする6つの施設で試験導入がはじまった。

AIによる問診票を開発したのは東京都に本社を置くベンチャー企業のUbie。同社によればすでに100以上の医療機関で導入が始まっているという。問診は、すべての医療の入り口であり、医師が患者の容体を把握するために欠かせないプロセス。多くの内科的疾患は問診でおおよその判別ができることも少なくない。現在、多くの医療機関で使用されているのは、いわゆる紙の問診表。患者が記入した内容に沿って医師が診察室で問診し直し、ゼロから電子カルテに記載するというのが大まかな流れだ。こうした従来の流れは、医師がカルテ作成や問診にある程度の時間を費やす必要があるほか、問診内容にばらつきが生じる可能性も指摘されている。患者一人ひとりの診療時間に制約があるなかで、いかに問診にかかる時間短縮と問診の精度を高めることができるか。これは、外来医療の現場を担う多くの医師が抱える課題のひとつとなっている。

「AI問診Ubie」は、こうした課題を解消すべく、現役医師とエンジニアが開発した問診専用システムだ。約5万件の論文から抽出されたデータに基づき、AIが患者一人ひとりの症状や年代、地域に合わせた質問を自動で分析・生成する。患者は、受付で渡されたタブレットから出てくる質問に沿ってタッチするだけで、およそ3分で入力が完了する。入力データは即時に医師に送られ、患者が入力した問診内容が医療用語に変換された上でカルテに落とし込まれる。これにより、診察室では速やかに治療方針を決定することができる。当システム導入によるスムーズな診察は、医師の労働時間削減に向けて効果が期待されており、メーカー試算によると、患者一人あたりの初診問診時間が1/3になることで、年間約1,000時間の業務時間削減が可能となる見込みだ(100床程度の医療機関で、従来の初診患者数9,000人/年、一人あたり初診問診時間10.2分とし推計)。

小島英吾医師(長野中央病院副院長)は、「看護師の問診業務を受付事務でもできるようになり、いわゆる”タスクシフティング”を進めることができました」と導入効果を語る。問診業務を職種間で委譲(タスクシフト)することが可能になったことで、各担当者が本来すべき業務に集中できるようになり、現場の生産性向上につながっているという。現場の生産性向上は、医療の質の向上にもつながり、患者にとっても大きなメリットとなる。

また、従来のタブレット問診票では、高齢の患者などの入力が難しいという課題があったが、「AI問診 Ubie」はユニバーサルデザインを徹底しており、70代でも約9割の患者が入力可能。医療従事者と患者、双方の目線に寄り添った使い勝手の良さも、当プロダクトの持ち味だ。

「AI問診 Ubie」は、2019年7月より⻲⽥総合病院糖尿病内分泌内科、慶應義塾大学病院、社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、東京大学医学部附属病院、長野中央病院の6施設にて、試験導入および共同研究が開始されている。

患者一人ひとりの背景が多様化し、個別化された療養指導の必要性が高まっている昨今。医師をはじめとする医療従事者の負担増加が懸念されているなか、AIの力が、医療現場の強力な助っ人として大きく貢献しようとしている。

(text: HERO X 編集部)

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テクノロジー TECHNOLOGY

現場の声から生まれた “ケアテック”が 介護の未来を変える!?

長谷川茂雄

要介護者の排泄介助における負担軽減を目的として開発された「Helppad(ヘルプパッド)」は、オムツを開けることなく“においセンサー”で排泄を検知するシート型の排泄ケアシステムだ。この画期的なプロダクトは、千葉工業大学に在学中の学生が起業した株式会社aba(アバ)が中心となり、パラマウントベッド社と共同開発をしたもの。近年、超高齢化が進む日本で、同プロダクトに代表されるようなケアテックは注目を浴びているが、その現状とは? aba代表の宇井吉美氏に、現場のリアルと今後の課題を伺った。

介護の現場に立つ人を
プロダクトの力で支えたい

そもそも宇井氏が、介護ロボット開発の道を志したきっかけは、うつ病を患った祖母の介護だった。まだ中学生ではあったものの、人というリソースだけの介護に限界を感じていた彼女は、その後、高校時代に介護ロボットに出会うことで、ロボティクスの世界に興味を持ち始めた。

「介護ロボットの研究をしている先生がいる大学を探し、未来ロボティクス学科に入学しました。ただ、当初は排泄とは関係のないメンタルケアを目的としたコミュニケーションロボットを作ろうと考えていたので、少しでも現場の意見を聞こうと、多くの精神科に足を運びました。そういった活動をしている中で、医療現場に閉じず、もっと人の生活そのものの根本を支えるテクノロジーに興味が移っていったんです」

株式会社aba創業者で代表の宇井吉美氏。

介護施設で実習をする機会もあり、排泄介助の現場を目の当たりにしながら、介護に携わる多くの人をプロダクトの力で支えたい気持ちが固まっていったという宇井氏。ただ、排泄センサーの開発に関しては、自身のアイデアというよりも、介護現場で「どんなロボットが欲しいですか?」というシンプルなヒアリングの答えが、原案になっているという。

「私は、いつも斬新なアイデアがあるというわけではなく、どちらかというと現場の意見を聞いて、プロダクトに落としていくというプロセスを踏みます。『Helppad』は、“オムツを開けずに中が見たい”という介護職の方の意見が出発点になっていて、さらに “(被介護者の)体にできるだけ機械を付けないで欲しい”、“便と尿のどちらも検知するものにして欲しい”というニーズを満たす目的で生まれました」

獲得した排泄検知データは
かけがえのない財産

まさに現場の率直な要望を純粋に形にしたのが、シート型の「Helppad」ということだ。それだけに、現時点での理想を形にできているが、宇井氏曰く、自身の頭の中にあるプロダクト構想の達成率としては、10〜20%程度とのこと。

「最終イメージとしては、我々は布パンツにセンサーが縫われているようなプロダクトを目指しています。そのためには、センサーもモジュールも、場合によってはバッテリー部分も洗えるものにしなければなりません。もしくは、使い捨てのオムツにセンサーが内蔵されているものも考えていますが、その場合は、使い捨てしても構わないコストまで、値段を下げる必要がありますから、課題は多いですね」

自分たちは、まだまだ発展途上にあるという宇井氏。逆にそれは、これから多くのビジョンがあり、前向きな未来が見えているということでもある。同時に、起業してからこれまでの10年で積み上げてきたものの中で、何ものにも代え難い価値となっているものも少なくない。その一つが、排泄検知のデータだ。

abaの技術開発セクション“aba lab”には、大手企業からの協業のアプローチが絶えない。

「A I技術は、今後、介護の現場でも様々活用されていくと思いますが、ある目的実現のためにアルゴリズムを構築するためには、データがないと成り立ちません。我々は、2016年くらいから、介護施設の協力のもと、高齢者がいつ、どんな排泄をしたかというリアルデータを採り続けています。それは強みですし、正確なデータを長きにわたって回収できているという事実は、これからのプロダクト開発においても、大きなアドバンテージになると思っています」

確かに、要介護者のリアルデータを安定して採り続けることは難しい。それは超高齢化が進む日本だからこそできるストロングポイントなのかもしれない。もちろん、abaの地道な活動が身を結んだ結果でもある。そこから、排泄の量や臭いの物質から、疾病を読み取るという研究も進んでいる。

「現時点でも、キャリアのある介護職の方は、尿の臭いで排泄した人を識別することができますが、それをプロダクトが担い、さらに量や成分から疾病を判断することができるようになれば、排泄センサーの役割は、もう少し違ったものになると思います。新たな価値あるプロダクトとして認識されるはずです」

諸外国のケアテック業界は
凄まじい勢いで伸びている

そんなイノベーション構想が多々ある一方で、宇井氏は、ケアテック業界における諸外国のスピーディな発展に脅威を感じているという。それは、大きな潮流となって、今後、日本のケアテック業界の在り方を変えてしまう可能性もあると警鐘を鳴らす。

「ケアテック業界の海外の追い上げは、凄まじいものがあります。進化のスピードが桁違いに早く、中国などのスタートアップを中心に、常に多くの企業が参入してきています。このままでは、携帯電話や半導体などがそうであったように、将来的には、ケアテックプロダクトの多くを、他国から輸入するという事態に陥る危険性すらあると思います」

日本は、世界的にも稀な超高齢化社会。それだけに、それを取り巻く医療やケアテックに関しても、世界のトップ水準にあるという認識を持つ人は少なくないが、技術や資金面、そしてとりわけ成長スピードにおいて、諸外国が日本を凌駕してきている現状がある。では、打開策はあるのだろうか?

テクノロジーと人が調和すれば
日本はまだ世界と戦える

「今まさに、日本のケアテック業界が、世界をどうやってリードするかについて、明確なロードマップを描かなければならない時期に差し掛かっていると思います。日本は課題先進国で、課題“解決”先進国ではないということにならないように、我々のようなメーカーも、“介護とは何か?”というものを、もう一歩踏み込んで、各々が介護業界を牽引するぐらいの気概を持たなければならない。そう感じています。もちろん、今日も介護現場に立ってくれている、全ての介護職に敬意を持って」

超高齢化社会をひた走る日本が、ケアテック先進国として確固たる存在感を示すには、業界全体の意識改革と多くの努力が必要だと宇井氏は言う。そのキーになるのは、介護現場で働く方々と、プロダクトを作る側との共通認識や意思の疎通にあるようだ。

「諸外国は、オールハンドの介護だとむしろ質がばらつくので、機械を活用して、だれでも標準的なケアができるようにしようという意識がありますが、日本は、可能な限りオールハンドで介護をやりたいという思いが根強いんです。これ自体は悪いことではないのですが、ケアテックの浸透を阻害しているのも事実です。そうこうしているうちに、現場で働く側とケアテックやプロダクトを推進したい側が水と油のようになって、なかなか混ざり合っていかないです。このまま介護現場と技術現場が牽制している間に、日本のケアテックは消えていくと本当に危惧しています」

abaのプロダクト開発は、常に現場の声とスタッフ同士の意見を大切にしながら進められる。

とはいえ、考え方やテクノロジーの導入の仕方を工夫していけば、まだまだ日本の介護現場が活性化していく余地は多分にある。加えて、日本らしい気質は、世界と戦っていくための武器にもなると宇井氏は考えている。

「例えば日本のケアテックで生まれているAIは、素晴らしいノウハウを吸収した日本の介護職の人そのものになるはずです。そういった認識が業界内で浸透していけば、人と、人の生き写しであるテクノロジーが共に助け合うことは自然なことで、必ずムーブメントになりうると私は思っています。加えて、緻密なデータ収集や細やかな介護そのもののノウハウは、日本が最も得意とする領域です。まだ他国も追従ができていない。そういった強みを活かしていくことで、まだまだ日本のケアテックは存在感を高められると思っています」

宇井吉美(うい・よしみ)
中学時代に祖母がうつ病を発症し、その介護を経験したことから、介護者の負担を減らすべく、介護ロボット開発の道を志す。2011年、千葉工業大学未来ロボティクス学科在学中に、株式会社abaを設立。その後、多くの精神病院や介護施設でヒアリングを行い、実際の介護業務を経験する中で、排泄介助の現状を目の当たりにする。それを契機に、においセンサーで排泄を検知するプロダクトの開発に着手。2019年、パラマウントベッド株式会社と共同開発により排泄センサー「Helppad」を製品化。同年、文部科学省科学技術・学術政策研究所より「ナイスステップな研究者」に選出される。現在もケアテックの普及と新たなプロダクト開発を目指し、日々奮闘している。

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(text: 長谷川茂雄)

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