福祉 WELFARE

スマホで召還、マウスで操作。健常者も乗りたい次世代車いす

小泉 恵里

スマホで召還、マウスで操作。健常者も乗りたい次世代車いす。車椅子のイメージを根本から変える、次世代の電動車いすが話題になっています。それが、2015年度の「グッドデザイン大賞」に選ばれたWHILLのパーソナルモビリティ「WHILL ModelA」。WHILLの創業者は日産出身の工業デザイナーと、ソニーとオリンパス出身のエンジニアの3名。「かっこいいこと」を大切に開発された車いすは、そのスマートな操作性にも注目が集まっています。渋谷ヒカリエで行なわれた「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」(2015年11月10日~16日開催)に登場した「WHILL ModelA」の試乗コーナーは、多くの人で賑わっていました。

2試乗してみると、ボタンの少なさに驚きます。左のアームレストにはオン/オフと、2km/h・4km/h・6km/hの3段階の速度調整スロットル。右のアームレストのコントローラーをマウスのように前後左右に倒すことで走行するという手軽さで、子どもでも自由自在に運転することができます。

3最高時速は6キロに抑えられているので、歩道を走るのに最適な速さ。四輪駆動のため砂利道や芝生、でこぼこ道も走破し、7.5センチの段差も乗り越えることができます。24個の小さなタイヤで構成された前輪タイヤにより、幅60cmのコンパクトな車体は後輪を中心にその場でぐるりと回転可能。小回りの良さは抜群です。

4そしてWHILL ModelAの最も未来的な特徴がスマホのアプリを使っての遠隔操縦が可能なところ。BluetoothでWHILLをiPhoneに接続し、細かい速度や加減速度の設定ができます。さらにリモコン機能を使えば、WHILLを降りた後に隅に寄せておく、車のトランクに載せるなどの操作も可能。iphoneを片手に「こっちに来い!」と車椅子を呼び寄せるとは、なんとも未来的でかっこいい。怪我をした、子どもの抱っこが辛い、施設内の移動距離が長い…こんな場面なら健常者でもきっと乗りたくなるはず。

普段車椅子に乗る人も、乗らない人も、乗りたくなるパーソナルモビリティです。

最高速度:6km/h(4.5 km/hにも変更可能)
充電時間:9時間
稼働距離:20 km
サイズ:長さ89cm×幅60cm
重量:116kg
価格:99万円(介護保険の適応可能)

(text: 小泉 恵里)

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世界的ファッションデザイナー、コシノミチコの協力のもと誕生した フリーペーパー「OVERTURE A.I.」

岸 由利子 | Yuriko Kishi

ファッションデザイナー・コシノミチコ氏へのインタビューがきっかけとなり、今年5月に創刊したフリーペーパー「OVERTURE A.I.」。2016年リオパラリンピック閉会式の東京2020プレゼンテーションに出演し、世界中から注目の的となった義足モデルGIMICOさんと、2016年ジャパンパラ陸上競技大会400メートルで57秒40の日本記録を樹立したスプリンター・池田樹生選手をモデルに起用した斬新なビジュアルが話題を呼んでいる。美しいイメージの数々に込められたメッセージを探るべく、OVERTURE A.I.のプロデュースを手掛けた徳永啓太氏に話を伺った。

デザイナー、コシノミチコとの出会い

原宿にあるファッションのコワーキングスペース「coromoza」のスタッフを務めながら、ライターとしても活躍していた徳永啓太氏。その間、クリエイターたちのものづくりをサポートし、コレクションショーを見て回るなど、ファッションの知見を独自のやり方で積んできた。そして、1年前に独立。その頃より、ある想いが芽生えた。

「2020年東京パラリンピックの開催に向けて、ファッション×福祉の切り口で、日本のブランドさんと手を携えて、何か一緒にアプローチすることはできないかと思い、色んな方にお声掛けするようになりました。デザイナーさんに直々に会いに行くこともあれば、知人を通してご紹介いただくこともありました。そうこうするうちに、オンラインセレクトショップ「Uggla」を運営している森一馬さんに相談したところ、“コシノミチコさんなら、興味があるかもしれない”と早速ご紹介を受け、インタビューさせていただく機会を作ってくださいました

ラフォーレ原宿で200部配布
言葉でなくても、カッコよさは伝わる

「インタビューでは、ミチコさんが活動の拠点とするロンドンと東京を比較しながら、ファッションやパラリンピックなどについて、独自の見解をお話いただきました。今回のフリーペーパーについて提案してみたところ、ありがたいことに、二つ返事でご快諾いただき、ミチコさんの協力を得て、OVERTURE A.I.を刊行するに至りました」

モデルは前述の通り、義足モデルのGIMICOさん、陸上パラアスリートの池田選手。フリーペーパーの中で、2人が着用している洋服は、すべてミチコロンドン。モデルをはじめ、フォトグラファー、ヘアメイクなどのクリエイティブチームのキャスティングは、徳永氏が担当した。

「ビジュアルは、若いクリエイターで実力のあるARISAKさんにフォトグラファーとしてお願いしました。雑誌やアーティストの写真などの作品を拝見していて、以前から仕事を依頼したいと。ARISAKさんなら、義足や義手を使用する当事者をファッションモデルとして、カッコよく撮ってくださると思い、お願いしました。そして彼女を筆頭に、エッジの効いた若手クリエイターたちと共に創り上げました。OVERTURE A.I.の裏テーマは、“サイボーグ”。5年ほど前、ウェアラブルデバイスが世の中に浸透しはじめた頃から、身体拡張という言葉を頻繁に耳にするようになりましたが、義足や義手も、身体の欠損を補うものではなく、より身体を拡張するためのものになっていくのではないかと。その考えのもと、未来は、手足などを自在にカスタマイズできる時代であると想定し、OVERTURE A.I.では、義足や義手をファッションアイテムのひとつとして捉えた独自の世界を表現しました」

この5月8日~17日には、ラフォーレ原宿2階の期間限定ショップを開いたUgglaの森氏の計らいで、一部スペースにコーナーを設置し、初の試みにもかかわらず、200部を配布することに成功した。

「ふらっと立ち寄って、興味を持ち、手にとってくださる人が多かったのですが、中には、私のtwitterの告知情報を見て、フリーペーパー目当てでお越しいただいた方もいました。“義足がカッコいい!”という20代の女の子をはじめ、若者たちからの好反響があったことは嬉しかったですね。このフリーペーパーを通して目指していたのは、“言葉でなくても、カッコよさは伝わる”ということだったので」

「福祉の世界では、前提を説明しがちな傾向にあるというか、説明あっての彼らという場合が多いのですが、OVERTURE A.I.の場合、そこにあるのは、彼らのビジュアルのみです。義足や義手という言葉をあえて使わずに、こういう概念もあるということを伝えたかったんですね。池田選手が店頭に立った日は、このフリーペーパーで彼のことを知り、魅力を感じた若者たちがサインを求める行列ができるほどの盛況ぶりでした。多くの方たちの価値観が変わる瞬間を垣間見たと同時に、ファッションが持つパワーの可能性を感じました。これまでパラリンピックなどに興味がなかったであろう若者たちにも、届けられたのではないかと思っています」

ファッションのパワーは絶大
日本のカッコいいブランドと、日本から発信していきたい

フリーペーパーOVERTURE A.I.が誕生した背景には、イギリスのファッションデザイナー、故アレキサンダー・マックイーンhttp://hero-x.jp/article/62/の存在があった。1999年ロンドン春夏コレクションのランウェイに登場したのは、葡萄のツタと木蓮のモチーフを精緻な手彫りであしらったトネリコの義足を履いた両足義足のアスリート、エイミー・マリンズ。

「あのルックは、好きというよりも、ものすごいショックを受けました。アレキサンダー・マックイーンという偉大なデザイナーが、義足を作ったということもそうですし、ビジュアルが完璧なまでに美しくコーディネートされていたことに圧倒されました。エイミー・マリンズが表紙を飾ったカルチャー雑誌『DAZED & CONFUSED』、一般雑誌の表紙を飾ったという意味で、ショックでしたね。義足などに対する人々の価値観を一瞬にしてくつがえしてしまうファッションのパワーを思い知らされたというか。だからこそ、今回、OVERTURE A.I.でも、ミチコさんからいただいたコメントのほかは何も語らずに、こんな世界感もあるということをビジュアルだけで見せることに徹しました」

現在は、第二弾の刊行について思案中だという。

「あと2年ほどで、東京2020が開催されます。さまざまな日本のブランドさんと手を携え、日本から発信していけたら理想的です。多くの人にとってそうであるように、自身の活動においても、2020年はひとつの節目であり目標とするところでもあります。今後、OVERTURE A.I.から派生して、パラリンピックに関係するビジュアル制作などに携われたら本望です。その一方、2020年以降も発信し続けられるよう、今は基盤づくりの時期であるとも捉えているので、初心を忘れずに邁進していきたいと思います」

OVERTURE A.I.は、“Take Art.” をコンセプトに、アートに溢れる衣食住のライフスタイルを提案する西麻布のテイクアウト専門店「PULPLISM(パルプリズム)」で入手できる。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 河村香奈子)

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