プロダクト PRODUCT

島国に必要なのは海のモビリティ! エイトノットが挑戦する自動運転によるオンデマンド型水上交通

富山英三郎

現在、日本には離島の生活に必要な航路が約300あるといわれている。しかし、その1/3以上がすでに赤字という状況。島の過疎化も進むなか、新たな水上交通の構築は喫緊の問題でもある。そんな社会課題を解決すべく、これまでロボット開発に従事してきたメンバーが目指すのは、環境に優しいEVを使った自律航行船によるオンデマンド型水上交通。その全貌に迫った。

自律航行技術の開発が今注目を集めている

クルマの自動運転や空飛ぶドローンなど、自律化したモビリティの未来はますます身近なものとなっている。そんな中、船舶をはじめとする水上モビリティへの関心も高まっている。

日本政府は2025年に自動運航船の実用化を目指すと発表。さらに、2040年には船による国内貨物輸送(内航船)の半数を無人化する計画もしている。実現した場合、日本財団の試算によれば1兆円の経済効果があるという。

そんな中、大阪堺市の堺マリーナ内に本社を置く株式会社エイトノットでは、「EVロボティックボートによるオンデマンド型水上交通」の実現を目指し、自律航行技術の開発を続けている。代表取締役の木村裕人氏に話を訊いた。

「私はもともと、ダイビングやサップ、クルージングなど、マリンレジャーが趣味だったんです。でも、海は広大なのに、ボートで行けるレストランなど目的地となる場所が少ないのが悩みでした。それを解決するためには、より多くの人にマリンレジャーやボートに興味を持ってもらうしかない。そうなって初めて、新しい経済圏やエコシステムが立ち上がってくるわけですから」

より多くの人に海を解放し、興味を持ってもらうためにはどうするか? そこで考えたのが、船の操縦を自動化・自律化させることだった。とはいえ、すでに日本政府も2025年に自動運航船の実用化を目指しており、大手造船会社が続々と参入している分野でもある。エイトノットはどのように勝負するのだろうか?

小型船舶の自律航行・自動運転は
まだ誰も完成させていない

「一番の違いは、社会実装までのスピードだと思います。大手造船会社による貨物やタンカーといった大型船の自律化は、より高い安全性が求められます。また、船長の役割り以外にも専門性の高い船員が担ってきた場所が多く、技術で置き換えなければいけない箇所もたくさんあります。

一方、我々がやろうとしているのは小型船舶であり、船長に委ねられている権限が多い世界。小型なので取り回しもしやすく、法律も大型船に比べれば厳しくないので、実証実験もやりやすい環境ではあるんです」

エイトノットが目指す「EVロボティックボートによるオンデマンド型水上交通」とは、簡単に言えば、新たな「水上移動インフラ」の構築にある。そのため、自律航行(決まった航路を走る)または、自動運転(目的地に向かって走る)できる船を作ることは手段であり、目的ではない。

「新しいテクノロジーやサービスは、良いものか悪いものか、実物を見るまで誰も判断できないですよね。社会にどういうインパクトがあるのかも含め、まずはモノを見せることが大事だと思うので、船というハードの開発から進めています。

というのも、小型船舶の自律航行・自動運転に関しては、まだ明確な完成形がどこにもないんです。海外でも研究されていますがプレイヤーも少なく、あったとしても無人貨物ドローンや無人の水上監視船のようなもの。我々は水上移動に関するインフラを作りたいわけで、そういったサービスを開発している会社は、私の知っている限りありません」

EVロボティックボートの参考イメージ

自律航行船による水上オンデマンド交通が
離島の生活を変える

同社が考えるサービスは、2021年4月にひろしまサンドボックス「D-EGGS PROJECT」に採択された。広島県が中心となって運営されているプロジェクトであり、ニューノーマル時代の課題をデジタル技術を通じて解決するアイデアを広く募集。採択されたあかつきには実証実験を行い、短期間で事業を成長させていく使命を持ったプログラムだ。

「瀬戸内海には離島が多く存在し、生活の足となる航路がたくさんあります。しかし、今やその存続が危うくなっているんです。理由のひとつは、離島エリアの過疎化により利用客が減っていること。また、現在運航している船の多くは30~40年前に建造されたもので、維持費や修繕費が経営を圧迫しています」

他にも、船員の人手不足という問題もある。小型船舶を活用したオンデマンド型交通が誕生すれば、大型船よりも維持費や保守費用が抑えられ、さらには必要なときにだけ船が行けばいいので大幅なコストダウンが見込まれる。

「完成形のイメージとしては、アプリで好きなときに呼べる水上版のタクシーです。離島では定期船のスケジュールに合わせて皆さん生活されています。そこが解消できれば生活に自由度が生まれ、離島の魅力向上にもつながる。ニューノーマルと呼ばれる時代において、離島でのワーケーションや移住も促進されるでしょう。海や島が好きで移住したくても、利便性の面で二の足を踏んでしまっている人は多いと思うんです」

実証実験は、2021年8月後半より開発拠点である大崎上島(広島の竹原港からフェリーで約30分の離島)で行われる。実証実験艇は20フィート(約6m)。実験とはいえ無人で走らせてはいけないため、小型船舶免許を持っている人が乗り込み、自動運転で走らせながら何かあれば手動に切り替える。

実証実験艇。「基本となるセンサーは、GPS、IMU、カメラ、そしてLiDARです。コストを下げるためにも、最初からセンサーを増やすのではなく、実験を重ねながら必要に応じて足していく予定です」

海という特殊な環境を
独自のアルゴリズムで制御する

同社の技術トップは、長年ロボット開発を行ってきた人物。大の乗り物好きで、2008年のロボカップ世界大会で優勝した実績もある。

「ロボットでも車でも船でも、動くものを制御するという意味では同じです。ただ、潮の流れや波など、水の動きの原理はまだ世界的に解明されていない。そのぶん制御が難しく、実験してみないとわからないことばかりですが、我々の強みは制御に関するアルゴリズムにあると考えています」

海という環境は秒単位で変化し、一度として同じ条件になることがない。さらには風の影響やデジタル機器の弱点でもある塩害など、さまざまな問題をクリアしなければならない。また、車と違ってブレーキがないという点も大きなハードルとなる。

「まずは大崎上島と生野島を往復させながら、日用品の搬入と不用品の搬出を行っていきます。そこでさまざまなデータを蓄積して、AIの精度を高めていければと考えています」

開発拠点であり実証実験の場となる大崎上島。島内には共同研究をしている広島商船専門学校もある。

実証実験を終えた後は、2023年を目標に物流サービス(貨物船)からスタートしていく。その後、2025年までに人を乗せる旅客サービスを展開していく予定だ。

「島の方々をはじめ、応援してくださる声が大きいことが励みになっています。皆さん日常生活で不便は感じていたものの、仕方がないと諦められていたようなんです。いつの日か、我々の技術で皆さんの笑顔を増やしていければと考えています。また、誰もがボートを使って気軽にレジャーを楽しむ時代がくればと思っています。日本は島国ですので、社会インパクトは大きいと確信しています」

木村裕人(きむら・ゆうじん)
株式会社エイトノット 代表取締役CEO 共同創業者
カリフォルニア州立大学を卒業後、アップルジャパンを経て、デアゴスティーニ・ジャパン入社。コミュニケーション・ロボット「ロビ」をはじめとするロボティクス事業の責任者を務める。その後、バルミューダにて新規事業立ち上げを担当し、フリーランスを経て起業。ボートやSUP、ダイビングなどマリンレジャーを趣味とする。一級船舶免許所持、AOWダイバー。

関連記事を読む

(text: 富山英三郎)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

プロダクト PRODUCT

いつか、宇宙に手が届くかも。仮想空間でモノに触れるデバイス「EXOS」【exiii:未来創造メーカー】

朝倉 奈緒

筋電義手「handiii」やその進化版である「HACKberry」などの開発、また画期的な福祉機器デザインで世界的な賞も多数受賞する注目の企業、exiii(イクシー)。今年1月に発表されたばかりの外骨格型の力触覚提示デバイス「EXOS」とは? CEO山浦博志氏とCCO小西哲哉氏に、開発に対する思いを聞きました。

浅草橋と馬喰町の間、衣料品店が立ち並ぶ街の雑居ビルの一室。重い扉を開けると、まるで大学の研究室のような活気と混沌に満ちたexiiiのオフィスに到着しました。手製だという木目調のテーブルの上には、開発中と思われる製品の試作品やそれらに繋ぐ配線のアダブターがずらり。その絡まった配線をひとつずつほどくように、exiiiについて紐解いていきたいと思います。

exiiiは、はじめは個人のものづくりプロジェクトとしてスタート

パナソニック勤務時代に、趣味で色々なものを作ってSNSにアップしていたという山浦氏。2013年頃家庭用3Dプリンターが普及しはじめ、以前大学の研究で作っていた義手(ロボットハンド)を、それで作れるということに気がついた彼が、同社で働いていたデザイナーの小西氏を巻き込み、本格的に製品化。筋電義手は国際的なデザインエンジニアリングコンペで世界2位を獲得。「自分たちのやろうとしていることは社会的に意義のあることなんだ」と盛り上がり、実際に「その義手を使いたい」と名乗り出る人に出会ったことも奮起になり、会社設立に至りました。

「義手の市場は大変狭く、国内で1万人も使う人がいない。製造業としてビジネスは成り立たないため、オープンソースという形で自分の作っているものを公開しました。そうして面白がってくれた人たちがどんどん開発に参加してくれるので、資金を大きく割かずに開発が広がっていく、というアプローチを取ったのです」と山浦氏。現在義手は開発した内容を上肢障がい者のために活動するNPO法人Mission ARM Japanに移管して、開発と普及を進めています。

EXOSで、将来深海や宇宙にあるものに触れることができる!?

さて、今年発表されたばかりの「EXOS」はVRを用いたゲームが楽しめたりと、より大きな市場が見込めます。

山浦氏が当時大学の研究で人間の指を外部から操作するメカを作っており、2016年に初めて体験したVRと組み合わせたら、「物に触った感触が表せる」と思いついたのがEXOS開発の経緯だといいます。VRの中で「存在しないものに触れることができる」革新的なデバイス、EXOSの実用性について聞いてみました。

「例えば、製品開発の課程で、通常ならパソコン上で図面を作成し、実際にそれを作ってある部分を削ってみたりするわけですが、EXOSを使えばVRの中で製品を組み立て、それを実際に触ることまで体験できるんです。もうひとつは、“手に触った感触を生み出すことができる”ということ。例えば遠くにあるロボットハンドを遠隔操作で動かし、ペットボトルをつかむ感触を感じることができます。それによって、原子炉内での作業が安全な場所でできたり、人間の入れない深海や宇宙にも行けるかもしれない。」EXOSのポテンシャルの大きさに、夢が広がります。

もともと趣味でやっていたものづくりが仕事にでき、会社まで設立したわけですから「毎日楽しくてしょうがないでしょうね」と思わず漏らしてしまいましたが、そうばかりは言っていられません。

「VRがビジネスで使われるようになったのがここ最近なので、市場がまだしっかりできていない。なので、EXOSのような新技術デバイスを使った新しいビジネスも一緒に作らなければいけないんですね。また技術面でいうと、人が使うものはデザインも技術も、身につけるゆえの制約がすごく多いんです。置いて使うものだったら重たくてもいいし、電源繋いでいいなら強いモーターとかも使えるんですけど、手でつかんで使うとなると、着け心地や重さなど、色々と制約が出てきてしまうんですよ。」と楽しそうに話す山浦氏。難解な側面を攻略するのも、研究者としての腕の見せどころのようです。

デザインによって受け手の価値観を変えていきたい

「僕の場合は義手や義足、下肢装具などのデザインに携わってきていて、そういう医療機器や福祉用具は機能がしっかりしていればいい、みたいなところがあるのですが、そこにデザインが入ると、色々なことが一気に進んだりするんです。世の中の目がそちらに向いたり、患者さんがそれを着けてみたい、と思ってくれたり、デザインひとつで受け手の価値観ががらりと変わったりするんですよね。そうやってデザインすることによって外に発信できたり、新しい展開になったりという前向きな力になったときが最高に楽しい。ですので、これからまだデザインされていないものをデザインによって変えていきたいです」と語るデザイナー、小西氏からは、落ち着いた物腰から滲み出る、デザインという仕事に対する情熱が感じられました。

「僕らは“プロダクトを通じて人間の可能性を広げる”、ということを目指しているので、たとえ他社の製品であっても、人ができることが増えるプロダクトを魅力的に感じますね。自分が好きな”ものづくり”には制約があって、それを3Dプリンター、VRが出現したことで取り払ってくれた。自分もそこに繋がるような新しいツールを作れたら、と思っていたので、自由にモノに触れることができるものであるEXOSが、今一番自分がやりたい、欲しいものなんですよね。」と山浦氏。

3次元のデータに自由に触れて、感じられて、操れて、というのができるようになるのが開発中であるEXOSのゴールとのこと。4/25(取材日の一週間後)には、一般の人にも公開する体験会を予定。

少年のように夢いっぱいの青年たちの元から飛び出すEXOSが、然るべきアイディアで社会的に大きく羽ばたいていくことになる日も近いでしょう。

株式会社exiii(イクシー)
http://exiii.jp

(text: 朝倉 奈緒)

(photo: 壬生マリコ)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー