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心の不調感じてない?メンタルヘルスをチェックできるサービス2選

Yuka Shingai

行動の制限、感染に対する不安や孤独、景気の停滞など、長引く新型コロナウイルスの流行が、私たちに与えるストレスは大きい。徳島大学が今年の2月、緊急事態宣言(20年春)の対象7都府県の18~89歳を対象に行った調査では、約2割の人が気分が落ち込むなど「治療が必要な抑うつ状態」と推定されるという結果も出ているようだ。ストレスの大小や老若男女問わず、先々の見通しが立たない中で、メンタルヘルスには気を付けたい。技術の進歩により、日々の何気ない動作からも計測できるようになったメンタルメルスに関するサービスについてご紹介しよう。

ストレス具合が計測できる
瞳孔反応解析技術


ストレスチェック、メンタルヘルスチェックというと、何十問にも及ぶ設問を一つ一つ解いて…というイメージも根強いのではないだろうか。2015年12月より、50人以上の従業員を抱える事業所には厚生労働省の「ストレスチェック制度」が義務付けられているが、働き方が多様化する今、求められるのはより個に寄り添った柔軟なチェックかもしれない。
夏目綜合研究所によるアイトラッキング(視線計測)を含む「瞳孔反応解析技術」は、これまで取得できなかった「人間の無意識の反応」に着目している。交感神経が活発になると拡大し、副交感神経が活発になると縮小する自律神経によって動く瞳孔は意識的に操ることができず、自律神経の乱れはストレスや疲労、何かしらの不調を察知するカギとなる。近赤外線センサーとモニターで瞳孔の収縮・拡大や視線を追っていくことで、ストレス度合いがチェックできる。
メンタルヘルスと近しい領域である医療はもちろんのこと、エンターテインメントやマーケティングなどでも活用が期待されているとのことで、人間が「目」から受け取る情報量の多さを物語っている。

記事を読む▶“目は口ほどに物を言う”心や身体の不調が瞳で分かる時代へ! 日本が誇る「瞳孔反応解析技術」

これからの新常識になるか?
睡眠計測サービス「インソムノグラフ」

食事と並んで健康のバロメーターとも言える睡眠。リモートワークやオンライン授業、外出自粛による運動不足、もちろんストレスも合わせると、寝つきが悪くなった、眠りが浅くなった、しっかり寝たつもりでも疲れが取れないなど、コロナ禍における睡眠の悩みは例年よりも大きくなっている。グーグル検索でも「不眠症」という言葉の検索が60%も多くなっているようだ。
筑波大学発のベンチャー企業、S’UIMIN(スイミン)社による睡眠計測サービス「InSomnograf®:インソムノグラフ」は、AIの活用によって、これまで検査入院しないと測定できなかったレベルの睡眠計測を自宅で簡単にできる。睡眠時の脳波に加えて、目の動きや一部の筋電も含めて計測する。3つの電極が付いたシートを額につけて、左右の耳の後ろに2つの電極を装着し、デバイス本体と接続。寝るときにボタンを押下して計測を開始し、起きたときに再びボタンを押せば計測は終了。スマホやPCにつないで直近のデータを取得するほか、5日以上計測して総合評価も行う。
同社が今後目指すのは、睡眠脳波計を家庭用血圧計くらい身近にすること。仕事やスポーツのパフォーマンスにも大きく影響する睡眠をモニタリングすることは今後、検温や血圧チェックのようなルーティーンになっていくかもしれない。

記事を読む▶【HERO X × JETRO】睡眠の謎に挑み続けるベンチャー企業「S’UIMIN」

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(text: Yuka Shingai)

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自宅でも唾液1滴でがん検査! 私たちのライフスタイルを変えるバイオテクノロジー × AIの最前線

富山 英三郎

唾液1滴でがんのリスクを判定する「サリバチェッカー」が話題を集めている。がん細胞から分泌される代謝物と呼ばれる分子をチェックし、AIを駆使することでがんの種類(肺がん、乳がん、大腸がん、口腔がん、膵がん)までも絞り込んでいくというものだ。しかも、自宅に届く検査キットに唾液を採取して冷凍便で送り返すだけという簡便さ。近年注目されるバイオテクノロジー × AIの最前線は、私たちのライフスタイルを変える可能性を秘めている。株式会社サリバテックの代表取締役・砂村眞琴氏に話を訊いた。

研究の進化と技術革新が後押しする
セルフヘルスケア領域

東洋医学では病気になる前の状態を「未病」と位置づけ、古くから健康管理に対する意識がある。一方、西洋医学では発病してからの対処方法(治療)に重きが置かれてきた歴史を有している。しかし、近年は「セルフヘルスケア」の領域が欧米をはじめ世界的に注目されている。

背景には、バイオテクノロジーを始めとする技術革新により、生命がどのような構造で成り立っているのかが細かな点まで判明してきたことも大きい。その進化は急速で期待値も高い。

「21世紀のイノベーションは、生物学とテクノロジーが交わる場所から生まれるだろう。ぼくが息子の年頃にデジタル時代が始まったのと同じように、新しい時代がまさに始まろうとしている」
スティーブ・ジョブス

「いま自分が少年だったら間違いなく生物学をやっていた」
ビル・ゲイツ

遺伝子研究だけでは
見えなかったがん細胞の全貌

慶應大学発のベンチャーであるサリバテックの代表取締役・砂村眞琴氏は、消化器外科医として主に膵がんを専門としてきた。膵臓は肝臓と同じく「沈黙の臓器」と呼ばれ、がんが発見されたときにはすでに治りにくい状態となっていることが多い。ゆえに平均余命は半年以下といわれる。

「約15年前、当初私がイメージしていたのはコンピューター上にがん細胞を作り出すことでした。それができれば、さまざまながん細胞の性格がわかり、治療薬の効果が測れるだけでなく、治療薬の開発もできるだろうと。そこでまずは遺伝子研究をするわけですが、それだけではがん細胞を構築できないことがわかりました」

「がん化」は、何らかの原因でDNAが損傷することから生じる。それならば、遺伝子を研究すれば全貌が見えるかと思いきや、そう簡単な話ではなかったということだ。

ちなみに、コンピューターが0と1の組み合わせからできているように、生命はATGCという4文字(塩基)の組み合わせで成り立っている。そのなかの3文字の組み合わせからアミノ酸が生まれ、アミノ酸がつながるとタンパク質ができ、タンパク質によって身体の臓器が作られ、人間全体が作られていく。

また、アミノ酸がタンパク質になるために欠かせないのが、COVID-19のワクチンでも話題のメッセンジャーRNAという物質。DNAが「このタンパク質をつくりなさい」とメッセンジャーRNAに設計図を渡し、彼らがアミノ酸を運んでくっつけてタンパク質を作っていく。

「DNAとRNAによる一連の仕組みのなかで、どこの情報が狂うとがんが出やすいのかなど、いろいろなことがわかってきました。しかし、基本的な4文字(ATGC)情報が狂っていないがんというのも現実には起こるわけです。それはなぜだろう? という研究のなかで注目されるようになったのが“メタボローム(代謝物質)”です」

代謝物を見れば身体の中で
起きていることがわかる

DNAやRNAといった遺伝子の構造や働きだけでなく、そこからどんなものが生まれ、どんな動きをし、どのように細胞に損害を与えていくのかなど、身体の中にある分子(代謝物)を解析することで解明してく。代謝物を研究することは「メタボロミクス(動的な代謝反応の量的な解析)」という。

「遺伝子解析するためには針を刺して組織を採るので、患者さんの苦痛もあって何度もできないんです。しかし、代謝物の解析に組織は必要なく、血液や尿を採ればわかる。そんな折、サリバテックを一緒に起業することとなる杉本昌弘(取締役)が、UCLAの口腔外科の先生と唾液の研究をしていた。その代謝物を見ていたら、ここから面白いことがわかるのでは? と気づいたわけです」

分析にあたり活躍したのは、同社の研究拠点である慶應義塾大学先端生命科学研究所が所有する「キャピラリー電気泳動」だった。

「液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフォーといった分離器はどの研究室にもあります。でも、それだときれいに分離することができないんです。一方、キャピラリー電気泳動の性能は桁違い。血液、尿、唾液などで分析しましたが、もっともデータがきれいに出たのが唾液でした」

サリバテックの拠点である鶴岡市先端研究産業支援センター

サリバチェッカーでは代謝の解析後、AIを使った計算をかけてがんのリスクを検査する。

「がん細胞に関連する代謝物は10個弱あるのですが、それらを単体ではなくトータルで評価しようということでAIを導入しました。大腸がんと膵がんでは数式が違いますし、乳がんでも数式が違ってくる。同じような物質を見てはいますが、人工知能を使って計算することでだいたいの傾向がわかってくるわけです」

AIを組み合わせることで
疑われる臓器を絞り込む

AIによるリスク検査の元になるビッグデータには、膵がんを例にすると東京医大、慶應大学、東京女子医大、山梨大学、杏林大学など、さまざまな先生および患者さんの協力があって成り立っている。現在、サリバチェッカーで検査可能なのは肺がん、乳がん、大腸がん、口腔がん、膵がんの5種類。今後、胃がんや前立腺がんなども各種データが揃い次第、同じキットで 検査できるようになるという。

「がんであるかの最終判断は、画像診断ができて初めて成り立つわけです。がんの確率が高いよといっても、どこにあるのかを探すのはひと苦労。AIを組み込むことで、疑われる臓器をある程度絞り込むことができる。そこがサリバチェッカーの特徴のひとつです」

がんは早期発見するほど身体に優しい治療で済み、根治に至る可能性が高くなる。とくに胃がんや大腸がんであれば外科医の手に渡る前に、内視鏡を使い、粘膜を削り取るだけで終わってしまう。

「会社員であれば年一回の健康診断が義務付けられていますが、その扶養者は受けていないわけです。市町村の健康診断もありますが受診率は低い。そういう意味では健康診断がすべてをカバーできているわけではない。また、医療機関に行くのは意外にハードルが高いんですよ。そうなると、その手前にあるセルフヘルスケアが重要になると考えています」

早期発見が身体にも社会にも
優しい医療につながる

サリバチェッカーは、キットを注文して自宅で唾液を採取して冷凍便で送り返すだけ。医療機関に行くのは検査結果を聞きにいくときのみだ。現在、山形県鶴岡市のふるさと返礼品にも選ばれるなど、気軽なものとなっている。
費用は保険外診療なので3~4万円。結果はABCDの4段階評価で表され、CやDの場合は何らかの検査が推奨される。感度7割(真の陽性率)、特異度9割(真の陰性率)程度であり、従来型のがん検査と遜色はない。

「肺炎や糖尿病、心臓病などに関しても私たちの技術は応用可能で、そこを進めている最中です。現時点での目標はさまざまな病気の早期発見ですが、最終的にはAIを活用した予防医療を目指していければと思います」

セルフヘルスケアは数年前から関心が高まっていたが、新型コロナウイルスによる世界的なパンデミックが起きたことでますます注目されている。日本は国民皆保険という充実した制度のおかげもあり、何かあってもすぐ病院に行けるゆえ、他国に比べて検診率が低いとも言われる。しかし、パンデミックや医療崩壊という事態を目の当たりにしたことで、セルフヘルスケアへの意識は高まるだろう。また、病気を早期発見することで身体への負担の少ない低侵襲医療が可能になり、医療費の負担も少なくなる。まさにいいことづくめだ。

そんな時代に、自宅で唾液を採取するだけでがん検査ができる、いずれはさまざまな病気の検査も可能になるサリバチェッカーの役割りは大きい。これがさらに普及すれば、病院の少ない田舎への移住もしやすくなるなど、私たちのライフスタイルを大きく変化させる力も持ち合わせている。

砂村眞琴(すなむら・まこと)
弘前大学医学部卒業後、東北大学消化器外科で主に膵がんの診療・研究に尽力。米国Pittsburgh大学癌研究所に文部省在外研究員として出張。英国Cancer Research UK研究員を兼任。2007年より大泉中央クリニックの院長に就任し地域医療に携わる。 東京医科大学八王子医療センター兼任教授、慶應義塾大学非常勤講師としてメタボローム研究を展開。 2013年に株式会社サリバテックを起業。がんの早期発見、早期治療をテーマに活躍している。

 

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(text: 富山 英三郎)

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