プロダクト PRODUCT

新型授乳スポットはマルチな意味でママパパの強い味方に 省スペースで設置できるIoTベビーケアルーム「mamaro®(ママロ)」

富山英三郎

赤ちゃんとお出かけしたくても、授乳やおむつ替えの場所を探し回るのが面倒で気軽に外出できない。それはお母さんだけの悩みでなく、イクメンなお父さんにとっても同じだ。一方、施設側としても費用対効果など諸事情の関係から無闇に増やすことができない。そんななか注目されているのが、約1畳ほどのスペースで完結する個室タイプのベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」。同社の試みは、ベンチャー企業への投資を通じて株主として応援ができる日本初のマッチングサービス「FUNDINNO(ファンディーノ)」でも高く評価され、募集開始から10分で目標金額に達したほどだ。

100万人のベビーに対して
授乳室は約1万8000箇所

ウッドを全面に使った、丸みを帯びた優しいフォルム。スライドドアを開けば白いソファがあり、正面にはモニター(デジタルサイネージ)も装備されている。ここは授乳やおむつ替え、離乳食など、赤ちゃんのケアができるプライベート空間。外装は横幅180cm、奥行き90cm、高さ200cmと畳一畳程度のスペースながら、室内は必要十分でゆっくりと過ごすことができる。そんな可動式ベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」が、全国の商業施設を中心に広がりを見せている。提供しているのは、横浜にあるベンチャー企業のTrim株式会社だ。

画像提供:Trim株式会社

「前職で立ち上げた、授乳室・おむつ交換台検索アプリ『ベビ☆マ』を買い取って2015年に起業しました。でも、これまでにない情報提供はできているものの本当の意味で子育て世代を救えていないと感じたんです」

そう語るのは、CEOの長谷川裕介氏。現在もTrimが運営を続ける、授乳室・おむつ替え無料検索地図アプリ『Baby map®』(『ベビ☆マ』より改称)は、利用者からの情報提供によって内容が充実していく。CGM(コンシューマー ジェネレイテッド メディア)と呼ばれるもので、口コミサイトは一般的にこの形式で運用されている。

「それまで1日100件とかのペースで授乳室のデータが集まっていたんです。それが、立ち上げから2年くらいでピタッと止まってしまった。総数でいうと1万8000弱くらい。理由として考えられるのは、全国でその程度しか授乳ができるスポットがないということ。少子化とはいえ毎年100万人弱赤ちゃんが生まれているのに、授乳できる場所が1万8000箇所程度しかないことに驚きました」

施設側もコンパクトに
設置できるなら置きたい

ベビーケアルームをなんとか増やせないものかと、長谷川氏は商業施設などに話を聞きにいった。すると、施設側にも増やせない事情があることを知る。

「皆さん取り組みはされているんです。施設によっては1000万円以上の費用をかけている、でも費用対効果が見えにくい。売り上げも厳しいなか、本当ならばそのスペースをテナントに貸し出したいというのが本音でした。それならば、コンパクトでどこにでも置けるものがあればどうか? と聞くと、皆さん良い反応を示してくれました」

ものづくりの経験はなかったものの、自ら慣れない手つきでスケッチを描き、アイデアを具現化してくれる工房を探し回ったという。ある内装屋さんが協力してくれ、まずは初号機を制作。しかし、施設側からすると大き過ぎるという声があがった。そこで、居住性はそのままにひと回りコンパクトにしたところ、設置してくれる施設が増えていったという。

「コンパクトにどこでも置けるというメリットだけでなく、お母さんたちのニーズにも適った。というのも、きれいな授乳室であっても、それぞれはカーテンで仕切られているのが一般的。すると、隣の子どもの声で起きてしまった、子どもにカーテンを引っ張られて開けられてしまったなど不満が多く、個室を求める声が高かったんです」

IoTを搭載した
子育て世代感激の個室空間

できあがった空間は、モーションセンサー(人感センサー)や熱を測るセンサー、利用時間の計測などができるIoTを装備。利用時間が長すぎる場合は、施設側にアラートメールが届く仕組みになっている。また、利用者数を個体ごとにカウントする仕組みも付与した。SIMを搭載しているので、Wi-Fi環境のない場所でも電波さえ届けば設置することが可能だ。

また、ドアが閉まるとモニターにはコンテンツが流れ始め、サイドボードに設置されたトラックパッドで見たいコンテンツを選択することができる。今後は協賛企業の広告が流れるなど、デジタルサイネージによるターゲティング広告の場としての収益も拡充していく予定だ。すでに、液体ミルクに関する東京都からの情報提供などの実績がある。

その他、すべての角を曲線処理し、ライトカバーをシリコン素材にするなど安全面にも配慮。コンセントを装備しているのは、まだ日本ではあまり馴染みのない搾乳機の使用を想定している。

「働く女性が増えているなかで、搾乳室の需要もあがってきています。8月には事業所としては初めて大日本印刷さまに導入していただきました。今後は、社内に設置する企業さまも増えていくと予想されます」

ベビーケアルーム「mamaro」の浸透により、意外なところからの問い合わせが増えている。それは神社なのだとか。

「お食い初め、お宮参り、七五三など小さいお子さんが来られる機会はあるのに、そういう設備がないところが多いんです。私たちも盲点でした」

改めて施設側のメリットを整理すると、これまで授乳スペースを作るには30平米くらい必要で確保が難しかったが、「mamaro」であれば1.6平米と最小サイズで設置できる。また、圧倒的にリーズナブルに運用が可能。商業施設においては、これまで子ども服売り場など1箇所作るのが精一杯で、ファミリーがその階に留まり回遊性が乏しくなっていた。しかし、「mamaro」であればフードコートをはじめ各フロアに設置できるので回遊性が増え、利用者数もわかるので効果を判定しやすい。その他、移動可能なのでイベントなど短期利用もできる。料金はサブスクリプション型で、契約期間の長さによって価格が変わっていくといったところだ。

将来的には子育てインフラにしていきたい

「一般的には授乳室だと思われていますが、私たちはベビーケアルームだと考えています。ここで赤ちゃんのお世話をするだけでなく、今後はヘルスケア領域にも着手していきたい。母子の健康状態がわかったり、小児科の少ない地方に関してはモニターを通じてお医者さんと繋がることができれば利便性も高まると考えています。住む場所を選びやすくなりますし、情報格差の解消にもひと役買うことができる。子育てインフラになっていければと思っています」

画像提供:Trim株式会社

Trimが掲げる企業ミッションは「All for mom. For all mom.」。そして、お母さんへの感謝を次の世代へとつないでいく善意のバトン「Pay It Forward」を広げていくことだ。ベビーケアルーム「mamaro」という製品への期待だけでなく、そのような志も注目され、ベンチャー企業への投資を通じて(未公開)株主として応援ができる日本初のマッチングサービス「FUNDINNO(ファンディーノ)」でも大きな成功をおさめた。

「スタートから10分で、目標額の1200万円に到達したときは驚きました。ファンディーノに参加したのは資金調達という側面もありますが、事業の公共性を高めていきたいという気持ちがあったんです。私たちはお母さんへの感謝のギフトを贈る気持ちで仕事をしています。その思いに協賛してくれる方、応援してくれる方が個人株主として参加できるのは面白いと感じたんです。
それと、IPOをした際にどれくらいのインパクトがあるのかを事前に見たかったというのもあります。私たちの偏見かもしれませんが、投資家さんはリターンを愚直に求めるドライな方が多いのかなと思っていたんです。そうであれば、弊社がIPOをしてもそんなにインパクトが出せない。でも、意外にも”応援”というカタチで投資される方が多くて心強かったです。もちろん、志やミッションという側面だけでなく、ビジネスとして大きくしていかなくてはサスティナブルではない。今後は両方を成長させていきたいと考えています」

将来は「海外展開も視野に入れていきたい」と語る長谷川氏。利用者、設置者双方のニーズを愚直に実現してきたサービスだけに、日本のみならず世界中に需要があることは間違い無いだろう。

2016年に出生数が100万人を切り、現在も右肩下がりの日本。即効薬はないが、さまざまな方面から子育てをサポートしていかなくてはいけないのは確か。そのひとつとして、授乳やおむつ替えの空間が増えれば、お出かけもスムーズになり社会も活性化される。また、働きやすさも生まれる。長谷川氏が思い描くように、今後ヘルスケア領域を含む子育てインフラへと成長していけば、社会的インパクトがさらに大きくなっていくだろう。

※一部画像提供:Trim株式会社

https://www.trim-inc.com

(text: 富山英三郎)

(photo: 増元幸司)

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使う人も、使う人の家族の安心も支えられる次世代の杖「Smart Cane」

吉岡 名保恵

それはまさに「転ばぬ先の杖」―。 今年1月4日から9日にかけて、ラスベガスで開かれた世界最大級の見本市「CES(コンシューマエレクトロニクスショー)」。ここで注目を集めていたのが、転倒したら家族へ自動で警報が送られる未来の杖「Smart Cane」です。

Smart Caneは一見すると普通の杖ですが、グリップの部分に「dring」と名付けられたアラートシステムが埋め込まれています。これは2013年設立のフランスの企業Nov’in社が開発したもの。Nov’in社は人工知能やデータ分析、製品接続などの分野で高い技術を持ち、安全や健康に関するアプリケーション製品のPlug&Playソリューションとしてdringアラートシステムを生み出しました。

dringアラートシステムは充電可能で長寿命のバッテリーを搭載しているうえ、小さくて軽いのでさまざまな製品に埋め込んで応用可能です。具体的には加速度計やジャイロスコープなど複数のモーションセンサーによって物体の加速度や傾き、方向などを検出。データを携帯電話網で送信し、GPSによる位置情報も参照します。サーバーに集積されたデータはAI(人工知能)が処理し、それぞれのユーザーの行動パターンや癖などを記録。データは厳重に管理されており、安全な方法で送受信されています。

ほかにも靴に埋め込んだ製品例がありますが、Smart Caneの場合は利用者が転倒すれば、自動で家族に電話したり、テキストメッセージやEメールの送信をしたりして警告を知らせます。警告は家族が確認するまで連続して送られ、確認が取れたことは利用者にも通知されるので安心です。

Smart Caneを作るFayet社は1909年創業で、“生きた遺産”にも名を連ねるフランス最後の杖メーカー。軽量、頑丈、かつ人間工学に基づいて体にフィットする美しい杖は老舗ならではで、dringアラートシステムはグリップ部分に違和感なく埋め込まれています。製品化にあたっては、パリのデザインスタジオ「Pineau & Le Porcher(ピノ&ルポルシェ)」ともコラボレーションしました。

Fayet、Nov’in両社にとって大きな挑戦だった、という「未来の杖」は、CESのイノベーション・アワード・プログラムで入賞。大きな評価を受け、来場者の注目を集めました。Ismaël Meïté氏と共にNov’in社を創業したVincent Gauchard氏は、「転倒することによって外出する自信を失い、食事に出かけたり、友人に会ったり、ということもしたくなくなる人がいます。この気持ちの負のスパイラルを断ち切り、高齢者が安心して外出できるためのツールとしてSmart Caneを開発しました。Smart Caneを使っていれば、転倒したときに家族や介護者に情報が伝わり、助けに来てくれることを知っているだけで、自信を持って外出できるようになるでしょう」と言います。また、「歩行頻度や活動量など、すべての歩行データを集約・分析することにより、機能の衰えなどの予測にもつなげられます。この情報をもとに、医師から適切な指導を受ける、といったことにも応用できるのです」と話し、まさに先進技術を利用した「未来の杖」であることをうかがわせました。

Smart Caneは2017年末、フランス国内やヨーロッパで販売開始予定。日本でも2018年末の取り扱いスタートを目指し、さまざまな確認を進めている最中だそうです。

問い合わせは、Nov’in社の問い合わせ窓口:infos@novin.fr.まで。
http://dring.io/en/the-connected-cane/

(text: 吉岡 名保恵)

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