対談 CONVERSATION

ドローンによって世界はどこまで変革できる? Drone Fund代表パートナー・大前創希が見据える未来 前編

浅羽晃

建築・土木構造物の保守・点検、交通未整備地での医薬品の輸送、農薬・肥料の散布など、さまざまな分野ですでに有効利用されているドローン。ベンチャーキャピタルのDrone Fundはドローンの黎明期からその可能性に着目し、未来像を明確にイメージしてきた。Drone Fund代表パートナーの大前創希氏は、人口減少社会を迎えた日本でドローンの果たす役割は大きいと考えている。編集長・杉原が、ドローンによって実現しているソリューションの現状と未来について話を伺った。

ドローンが役に立つという
情報発信が増えている

杉原:どのような経緯でドローンファンドは設立されたのですか?

大前:千葉功太郎(Drone Fund創業者/代表パートナー)がエンジェル投資家として活動していくなかで、多くのスタートアップ、とくにシードラウンドのスタートアップにドローン関連が増えてきました。千葉自身が空を飛ぶものや操縦することが好きだということもあり、ドローンスタートアップに特化した投資をしていくという方向性もありなのではないかと考えたんですね。そこで千葉はドローンに明るいであるとか、技術に明るいであるとか、多方面に人脈があるとか、いろんな方々を集めてドローンファンドを始めました。かれこれ5年くらい前になると思いますが、ドローン関連のベンチャーが増えてきたという初期の流れを掴んだということですね。

杉原:すごいですね。あの頃ってまだまだドローンに対して疑心暗鬼の時代というか、ドローンの世界が来るとはわかっていても、それこそeスポーツが“こんなのゲームじゃん”と言われて始まったのと同じように、“ラジコンじゃん”と言われているところからの投資って、なかなか難しかったと思うんですよね。

大前:“ドローン、ドローン”と私たちが言っても、まだ技術がチープだったこともあり、仕事に使えるというイメージを持っている人はあまりいなかった。そのなかで、ドローンは今後こうなっていくというふうなことを話したり、ロボットとしてのドローンの方向性を話したり、はっきり言ってしまえば夢物語でね。それを信じてくれた方々が出資してくださったということです。

杉原:それがいま一気に来ているのは、ちょっと宇宙ベンチャーと似ているなと思っていて。いまは多額の投資が集まる。ドローンもそういう状況ですよね。

大前:そうですね。いまは集められるようになりましたね。つまり、ドローンの技術がなんらかの形で今後、役に立つということが理解されるようになった。

杉原:ドローンが生活を豊かにすると、一般の人たちに共感を得られたポイントってどこにあるんでしょうか?

大前:まだ、一般にはそういうふうな感覚を持っている人たちは多くないと思いますが、2019年はいろんな取り組みのなかで、いい形のニュースとして波及していきました。たとえば、楽天さんがやった猿島でのバーベキューの食材の空輸(横須賀市の無人島・猿島に対岸の西友から楽天ペイで決済する食材、飲料などをドローンで届ける実証実験)や、LINE、ANA、ACSL(自律制御システム研究所)などが組んだ玄海島の海産物の空輸(LINEで注文・決済した福岡市・玄海島のアワビやサザエを対岸の海鮮料理店などへドローンで届ける実証実験)ですね。若干、イベント的ではあるんですけど、世の中が便利になりそうな雰囲気を伝えるための情報発信が多くなり、“どうもドローンは役に立ちそうだ”という流れになってきましたね。

杉原:それって大前さんや千葉さんがつくった潮流ですよね。

大前:そういう流れになることを目指して、どんどんイメージを伝えてきました。

ペインの大きいところで
ソリューションとなる

杉原:ドローンによってできることをカテゴライズしていくと、どういう分野があるんでしょうか?

大前:ものすごく大きく分けると、1つ目は点検、検査、調査のような分野。2つ目は農業。3つ目は輸送で、物流とパッセンジャードローンに分けることができます。4つ目はエンターテインメント。ドローンレースやドローンショーです。

杉原:ドローンショーは中国がすごいですね。

大前:中国は1000機、1200機のレベルなんですね。日本では、2019年の東京モーターショーで、500機クラスのドローンショーをやっています。

杉原:4つのカテゴリーのなかで、どれが最初に来そうですか?

大前:すでに来ているのは点検業務ですね。もともとのドローンの技術要素のなかで多分に含まれていた、フライングカメラ、フライングセンサの機能を使っています。

杉原:すでに国土交通省が導入して、橋の点検とかやっていますが、世界ではどうですか?

大前:世界でもそうですね。また、オーストラリアやアメリカなど、毎年のように山火事が発生するエリアのある国では、火事に早急に対応するためのドローンが開発されています。地域ごとにペインのいちばん大きいところにドローンというソリューションを当てていく傾向はあります。

杉原:確かにそうですね。ルワンダでは血液を輸送しています。

大前:zipline(輸血用血液やワクチン、医療器材などをドローンで約20の病院に届けるシリコンバレー発のスタートアップ)ですね。これもペインの大きいところに対応しています。ルワンダは道路が未整備で、長時間かけて医薬品を送らなくてはならない。道が揺れるので、品質が劣化してしまうこともある。だったら空から一気に送ってしまえばいいということです。これはまさにメイクセンスで、ziplineはアフリカの物流を変えていく可能性があります。

5Gを使い、在宅で遠隔操作する
ドローンオペレーターが職業に

杉原:ペインということで言うと、日本は今後、何がペインとなるのでしょうか?

大前:日本のいちばん大きいペインは、人口減少ですね。人口減少をカバーするのにロボットを活用するというのが政府の方針であり、ロボットの活用になかにドローンが多分に含まれる状況になります。たとえば、日本の橋梁は、このままでは2040年までに使えなくなってしまうものがかなり多くある。足場を組んで、人間が見て、判断して、修繕計画を立てるという従来のやり方をいまのペースでやっていくと、時間的に間に合わず、使えるかも知れない橋を封鎖しなければいけないという状態になってしまう。この問題を解決するためには、ドローンを活用するのが有効です。ドローンを使えばコストの低減と時間の短縮につながり、人手もかかりません。フライングカメラとフライングセンサによってできることは、医療でいうトリアージですね。一次調査によって優先順位をつけて、状況をスピーディーに動かせるようにしていくことがいま求められています。

杉原:大前さんが考えられているこれからのドローンは、自動操縦ですか? それとも人が操縦するものですか?

大前:最終的には自動操縦になっていく方向性が正しいと思います。ただ、いろんなところで状況があまりにも違うので、状況の違いをカバーするのに人の手が必要でしょう。当面は、自動化されるとしても、一部は高度な技術を持つ操縦者が動かすということが求められると思います。

杉原:将来的には5Gを使った遠隔操作で、それこそ在宅でドローンオペレーターという職業が生まれるのは間違いないでしょうね。

大前:ありえます。物流ドローンの監視業務みたいなものはあると思います。ここで重要なポイントは、いまの日本の法律ではドローン1に対して操縦者1という関係性でないといけないのです。しかし、将来的には操縦者1に対して、ドローン10とか100というふうな運行管理技術が備わってくると、在宅勤務の優秀なパイロットが5Gを使って、アラートを出しているドローンだけをマネージメントするというふうな世界になっていくと思います。

後編へつづく

大前創希(おおまえ・そうき)
1974年、大前研一氏の長男として生まれる。2002年に株式会社クリエイティブホープを創業し、戦略面を重視したWebコンサルティングを展開。Web戦略の立案・ブランディングから、アクセス解析に基づく科学的サイト分析、Webサイトの設計・構築・運用に至るワンストップサービスを立ち上げ、自らもWebコンサルタントとして数々のナショナルブランドや国際的な企業・団体の大規模Webサイトを成功に導く。2014年末より個人的なドローンの活動を開始。2016年5月(株)ドローン・エモーション立ち上げに参画。2017年5月Drone Fund アドバイザリーボードに参画。2018年9月よりDrone Fund 共同代表パートナーに就任。ビジネス・ブレークスルー大学/大学院 教授(専門はデジタルマーケティング)。

(text: 浅羽晃)

(photo: 増元幸司)

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対談 CONVERSATION

スポーツで社会を変える。「Sport For Smile」梶川三枝の視点 前編

宮本さおり

万国共通に親しまれているスポーツ。スポーツを通して人間が受けるものはさまざまあるが、おそらく、スポーツで元気を得ることもそのひとつであろう。懸命に頑張る選手を見て、勇気をもらうこともあれば、自身がスポーツをすることで、健康や力を与えられることもある。そんなスポーツの無限の可能性を信じて活動する団体、一般社団法人 Sport For Smile の梶川三枝代表に話を伺う。

杉原:HP などいろいろと拝見させていただいたのですが、まずは、Sports For Smile について教えていただけますでしょうか。

梶川: 私たちはスポーツで社会を変えるということを謳っていて、普段スポーツをしようと思ってもできないような方々にスポーツをする機会を提供する活動、また「スポーツの力で社会を変える」を体現している団体や活動を紹介するイベントなどを実施しています。身体的、知的発達障がい者の方や、児童養護施設で暮らす子どもたち、ホームレスの方々など、日常生活が難しい状況にある場合、スポーツをするゆとりが生まれにくいのです。そういう方々にスポーツに触れる機会を与えることで、彼らが生きがいを感じて、より良い未来へと歩みだす手助けをするというのが主な活動です。ブラインドサッカー協会さんや(児童養護施設の子どもたちを支援している)ブリッジ・フォー・スマイルさんなどと連携していろいろな方法でスポーツを推進する活動をしています。

杉原:なるほど。具体的にいうと、どのようなものになるのでしょうか。

梶川:3つの柱があります。1つ目は、啓発イベントやセミナーを開催することです。先ほども申しました「スポーツの力で社会を変える」を体現している団体の方をお招きしてのセミナーなどを行っています。その方々の活動を紹介するだけでなく、背景にはどのような社会問題があるのかもお話いただくことで、普段はあまり社会課題に関心がないという人でも、スポーツには興味があるという方に重要なメッセージを届けることができます。スポーツに焦点を当てることで、聴衆の幅を広げられるため、ここがメリットだと思います。

杉原:スポーツをひとつのきっかけにして、社会課題に気づいてもらうということですよね。

梶川:そうです。

杉原:梶川さんは、スポーツを通じてソーシャルインクルージョンをするということを強く言われていると思うのですが、ここに行きついた経緯はどういうところにあったのでしょうか。

梶川:もともとは、世界でこういう動きが非常に高まっていたことがあります。日本ではすでにスポーツを日常的に楽しめている子どもたちに、プロの選手になるという夢や希望を与えられるというのがスポーツの力だと言われていた時代に、世界ではすでに、スポーツの力を活用して社会の問題や課題に取り組もうという大きな動きがありました。

国連の中にもスポーツ局というのがあったほどです。例えば、有名アスリートが国連の活動のアンバサダーになることで、それまではその問題に関心のなかった人々の目を向けさせることをしていたのです。

私は誰もが誰かの力になることができると思っていて、スポーツにはそれを可能にしてくれる力があると思っています。それを体感できたのが、スペシャルオリンピックス種目にもあるフロアホッケーだったのですが、ある時、フロアホッケーをする機会がありまして、杉原さんもおっしゃっていましたけれども、障がいのある方と何かをするとなった時、私たちはどうしても、なにか、少し手加減しようかな、と思ってしまいがちなのですが、実際はこちらが本気で、いや、むきになってやっても勝てないわけですよ。普段から練習されている選手は本当にうまくて、競技している姿を外から見ていると、誰が障がいがあって、誰がないのかなんて、わからないような感じになるんです。

この経験を通して、日常生活の中で勝手に想定してしまっている「救うー救われる構造」を、スポーツを通して“楽しく破壊する”ことができると感じました。

杉原:わかります、その感覚。

梶川:これを体感したことがすごく大きくて、スポーツってやはり、フェアだと思うんですよね。社会的ステイタスとか、身体的な障がい(ディスアビリティ)はハンディにはならないというか、努力をした人が報われるべきだし、ルール設定等の工夫によりそれができるのがスポーツの価値でもあると思うので、そうしたところからソーシャルインクルージョン(社会的包摂)ということを謳っているのです。例えばですけど、大統領とホームレスがサッカーをした場合、ホームレスの方がちゃんと練習して挑んだら、大統領に勝てる可能性がありますよね。そういうことです。また、身体的ハンディのある方にも、得点システムやルール設定を調整することで、参画の機会、勝利に貢献する体験の場を提供することができます。

杉原:そうですよね。

梶川:この場合、スポーツの試合という中では社会的地位は関係ありません。

杉原:確かに。

梶川:もうひとつ例を挙げると、すごく屈強な力士と、3歳くらいの子どもが競争をしたらどちらが勝つと思いますかという問いを私はよく使うのですが、そうすると、大抵の人が力士だろうと予想されます。だけど、競争していただくスポーツが三輪車レースですとなったら答えは変わると思うんです。力士って、そもそも三輪車に乗るのが難しいですよね。

どんなスポーツ、どんなコンテクストかによって、どちらが強いかというのは変わるわけです。それって日常生活の中で忘れがちなことなのだけれど、とても大切なことなのではないかなと思っていて、スポーツにはそれを思い起こさせてくれる力があるなと。

杉原:硬直化した見方を逆転させることができますよね、スポーツは。

梶川:そうなんです。この感覚を、できるだけ多くの方に体感いただけたらと思っています。また、Sport For Smile では2014年からスポーツメンタリングという活動を実施しており、現在はDV(家庭内暴力)の被害者家庭の子どもたち(小学校高学年)に大学生のメンターをマッチングして、月2回一緒にスポーツを楽しむ機会を提供していますが、、開会式ではずっと下を向いて何も言わなかった子が、信頼できるお兄さん・お姉さんや友達と一緒にスポーツをすることで、傷ついた心を回復させていくなど、心理的な効果もあります。PTSD(心的外傷後ストレス障害)で挨拶もできなかった子が、友達を見つけた瞬間にパッと顔が明るくなりその子に駆け寄っていくような光景は、活動の中でよく目にします。プログラム名をスポーツメンタリングと呼んでいますが、スポーツをうまくプレイするための活動ではなくて、心が傷つき、子どもらしい生活ができない子たちに、「安心して子供でいられるひととき」を提供すること、そして彼らが自信と人を信じる力を身に着けてもらうことを目的として実施しています。

後編へつづく

梶川 三枝
名古屋大学(文学部哲学科社会学専攻)卒業後、旅行会社勤務を経てパリに語学留学、長野オリンピック通訳、国際会議運営会社、外資系金融等で働き、2003年夏にオハイオ大学大学院スポーツ経営学科留学。NBAデトロイトピストンズ コミュニティ・リレーションズ部にて日本人女性初のインターンとして採用され、スポーツ経営学修士号取得。帰国後は世界バスケットボール選手権でのVIP対応、米系コンサルティング会社マーケティング・コミュニケーション部、2007年8月より東京オリンピック・パラリンピック招致委員会にて国際渉外、マーケティングマネージャーとして勤務。2010年、スポーツのチカラをよりよい社会づくりに役立てることをミッションとし、株式会社 Cheer Blossomを設立、Sport For Smile の企画運営事業とともに、スポーツの社会的責任に関するコンサルティング・サービスを提供、国連事務総長付スポーツ特別顧問や世界経済フォーラムのスポーツアジェンダ諮問委員会委員、アショカフェロー等を招聘してのセッションや世銀総会公式サイドイベント等を実施している。

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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