テクノロジー TECHNOLOGY

今年も活況!「CES2020」で話題を集めた注目のアイテム5選

Yuka Shingai

1月6日から10日までラスベガスにて開催された世界最大級のテクノロジーショー「CES2020」。年々規模は拡大し、常連の大企業から原石のようなベンチャー企業まで、4500の出展者と1200のスタートアップがお披露目する新しいプロダクト、サービスはトータルで2万件以上。約17万人の来場者のうち3分の1以上が海外からのゲストというグローバルイベントだが、今年は一体どのような製品が会場を賑わせたのだろうか。

編集長との対談でも大きな話題を呼んだ
あの尿検査デバイスが受賞!

ハードウェアに周辺機器、ソフトウェア、ゲーム、スマートシティなど数多くのジャンルがひしめくなか、今年とくにボリュームが多く勢いを感じさせるのはヘルスケアやウェルネス関連のアイテム。以前HERO Xでも編集長との対談 (参考:http://hero-x.jp/article/8369/) をお送りした尿検査デバイスの「Bisu」が、CESプレスイベント会期中に開かれたIHS Markit Innovation Awardsを見事受賞。IoTで健康管理や未病へアプローチする流れは今後も長らく続きそうだ。

トレンド間違いなしのスリープテックは
“いびき対策アイテム” に注目

睡眠状態を計測、記録、分析することで入眠環境を整えたり、快眠をサポートするスリープテックは、これまで医療機関や研究機関での活用がメインだったが、2020年はいよいよ我々の日常生活にも大きく踏み込んだ活用についての機運が高まっている。CESでも多種多様な製品が登場したが、ネクストトレンドとなる予感を感じさせるのが「いびき対策」アイテムだ。『Motion Pillow』は一見、普通の枕と変わらない様子だが、独自のアルゴリズムによるテクノロジー Solution Box を搭載。睡眠中の頭の位置と呼吸のパターンを分析し、内蔵されたエアバッグに適正なデータを伝えて枕の形を調整することで、より鼻が通りやすくなり、いびきの緩和に効果が見られるようだ。今回対象を受賞したのは Sleep Number によるスマートベッドや mamaRoo sleep のかご型ベッドだったが、手に取りやすく、想定されるユーザーが限定されない枕のほうが汎用性も高く、スリープテックを推進するホープ的存在として成長が期待できそうだ。

分娩中に胎児の健康状態をリアルタイムで
モニタリングする子宮内診断ツール

スリープテックと並んで、ここ数年の市場規模が右肩上がりのベビーテック。主に子育て製品、サービスがそのメインストリームである印象もあるが、Prenatal Hope社が開発した VivO2 は分娩時の子宮内診断ツール。破水後の子宮内に VivO2 を入れ、胎児状態の診断と予後推定のために重要な意義を持つとされている胎児血の ㏗値を計測しながら、胎児が酸素不足や酸性血症に苦しんでいないかをリアルタイムで医師に伝えることができる。アメリカでは赤ちゃんの10人に1人が分娩中の酸素不足に苦しんでいるという報告結果もあり、不慮の事故を未然に防ごうとする試みは、母体と胎児の安全のみならず、結果的に保険会社や医師の負担を軽減するなど産科医療の現場に与えるインパクトも大きそうだ。

盲目の人の自由な行動をサポートし、
かつ孤立させないIoT杖

赤ちゃんだけでなく、高齢者や障がい者も暮らしやすい世の中を目指す上で、インクルーシブ、サステナビリティといったキーワードも今日のテクノロジーを語る上では欠かせなくなっている。韓国・ソウルにある漢陽大学校の研究室発、SEED Cane は盲目の人が1人で自由に行動するのをサポートするIoT杖だ。歩行中に赤外線センサーが周囲の障害物を検知し、振動と音声によるアラートで知らせてくれる上に、GPS機能で現在位置を確認することやナビゲーションシステムを利用することもできる。LEDライトが点灯して周辺の人々に「目の悪い人がいますよ」と知らせてくれるので、予期せぬ事故を防ぐこともできる。もし道を間違ったり、迷子になってしまった際には即時で利用者本人と介助者双方のスマホアプリに報告され、危険な状況に置かれたときに周辺の人々に「盲目の人が近くにいます」と通知するにあたり、Beaconを使うなど複数の技術が使い分けられていることも特徴。利用者の独立性と、利用者が決して孤立しない状況を同時に両立してくれる、理想の社会を体現するアイテムだ。

保険業界にデジタルトランスフォーメーション到来?
スマホのカメラだけで健康状態がチェック可能に

最後に紹介するのはイスラエル、テルアビブ発のスタートアップである binah.ai社の AI搭載健康チェックアプリ。血圧測定には専用の血圧計が必要であるのが一般的だが、binah.ai社の技術では、スマートフォンによる顔の画像から正確な血圧値の取得ができ、高血圧患者だけでなく健康な人も含め、日々の血圧の把握や管理をスマートフォン上で、しかもインターネット接続なしで行うことができる。SOMPOひまわり生命との協業により実証実験を進めてきたアプリは今年中に本格的にリリース予定とのことで、保険業界のデジタルトランスフォーメーションも加速していきそうだ。

(text: Yuka Shingai)

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テクノロジー TECHNOLOGY

「半分、青い。」に登場した、ピアノを弾くロボットハンドの生みの親とは?【the innovator】前編

飛田 恵美子

カシャカシャ、とロボットの指がピアノの鍵盤に触れ、「ふるさと」のメロディを優しく奏でる。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」で5月に放送された、印象的な1シーンだ。このロボットの手を製作した東京都立産業技術高等専門学校医療福祉工学コースの深谷直樹准教授は、独自の“からくり”による機構を使った高性能ロボットハンドの研究開発を行っている。ロボットハンドの現在地と未来予想図を、深谷氏に伺った。

人間の手や指の構造を模倣、
さまざまな形状の物を掴めるように

深谷氏が開発したロボットハンドの特徴は、とても単純な制御だけで、さまざまな形状の物を掴むことができる点にある。従来のロボットハンドには、果物や工具のように一つひとつの形や重さがバラバラなものを持つことが難しいという課題があった。指の一本一本、関節の一つひとつにセンサーやモーターを組み込み制御する方法では、多数の電子部品を制御する複雑なプログラムが必要となる。その分操作やメンテナンスの難易度が高く、電力の大量消費や耐久性といった点からも産業利用には壁があったのだ。

この課題を解決しようと深谷氏が考えたのが、独自の“からくり”だった。“からくり”とは、電子制御に頼らず望ましい動作を実現する機械装置の構造的な仕掛けを指す。

「人間の手や指の微妙な構造を模倣した独自の“からくり”を開発しました。すべての関節が機械リンクで結合していて、物体に馴染み、自動的にバランスを取るというもので、協調リンク機構と名付けています。センサーは使わず、基本的には1個のモーターのみで5本の指を動かします。

具体的にどう動かすかというと、つまみを引くだけ。私たちは普段、物を掴むときに“まず親指の関節を30度曲げて……”なんて思いませんよね。それと同じで、直感的に引くだけで勝手に手前にある物に巻き付くという構造なんです」

これまで、業界ではロボットの指は人間が設計した通り、1ミリ単位で精密に動くものという先入観があったと深谷氏は話す。それによって制御が複雑になっていった。しかし、過程はどうあれ、最終的に物を掴むことができればいいはず。こう考えて仕組みをシンプルにしたことで開発に成功した。

「人差し指と中指だけで、薬指と小指はねじれないんです。物を持つときに親指と人差し指・中指を使うことが多いから、ここだけ進化したのでしょうね。いままで見てきた解剖学の文献には載っていなかった発見でした」

解剖学や人間工学といった分野も横断しながら、深谷氏は少しずつロボットハンドを人の手に近づけている。

“からくり”を応用した3種類のロボットハンド

本研究の枠組みは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業において、ダブル技研と共に行っている。3者は今年1月、“からくり”を応用したロボットハンドを3種類発表した。「F-hand」「New D-hand」「オリガミハンド」だ。

「F-hand」は、人間の手の構造や大きさを模倣した5本指のロボットハンド。前述した果物や工具のほか、ストローなどの細いもの、3kg程度の荷物も持つことができる。

用途として想定しているのは、農作物の収穫や食品工場での箱詰めなど。将来的には、インフラ関係の設備メンテナンス、建築現場での施工、災害現場など危険を伴う場所での作業、家事ロボットとしての食器洗いや掃除などを代替していくことを見込んでいるという。

「New D-hand」は、前述の“からくり”、協調リンク機構を持つ指を3本にすることで「F-hand」とは違った特徴を持たせた産業用ロボットハンド。より大きくて重い物を掴むことができるのが特徴だ。物流・製造業における搬送、組み立て、加工工程等に適していて、既にダブル技研を通じて自動車メーカーや研究所などで使用されている。

金属でできた上記2つのロボットハンドと違い、「オリガミハンド」はその名の通り一枚の紙でできたロボットハンドだ。レーザーカッターで切り出した紙を折り曲げてのり付けするだけの簡単な構造で、つまみを引くと指が曲がる。

鮭やコロッケなど傷つきやすいものを優しく掴める上、金属部品などの異物混入リスクがないため、弁当の具材詰めなどに向いている。縮小・拡大印刷するだけでさまざまなサイズになり、プラスチック段ボールに印刷し強度を増すことも可能。安価で使い捨てができるので、介護ロボや手術ロボなど衛生が求められる現場での活用も期待されている。

なお、「半分、青い。」に登場したピアノを弾くロボットハンドは、「F-hand」を応用し、見た目を昭和55年に開発されたロボットWABOT-2に似せて製作したもの。実際のWABOT-2は指先でタンタンタンと力強くピアノを弾くというが、番組制作スタッフからの「ヒロインの幼なじみが夢を見つけるシーンだから、ドラマチックにしたい」という要望を受け、ロボット的になりすぎないよう、柔らかく滑らかに演奏したという。F-handが人の手に近い構造を持っているからこそ可能になった演奏だ。

後編につづく

深谷 直樹
東京都立産業技術高等専門学校荒川キャンパスものづくり工学科医療福祉工学コース准教授。工学博士。ものづくりを中心とした医療福祉・ロボット関連の研究を行う。

(text: 飛田 恵美子)

(photo: 壬生マリコ)

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