スポーツ SPORTS

来たるべきスポーツビジネスとイノベーションの未来は?「スポーツ テック&ビズ カンファレンス 2019」レポート 前編

長谷川茂雄

日本では2019年から、ラグビーワールドカップ、東京オリンピック、ワールドマスターズゲームズと、3年続けてビッグなスポーツイベントが開催される。それに伴って、スポーツとテクノロジーを結びつけた今までにない観戦方法や医療の在り方、そして地方創生といった社会課題の解決策が提案されつつある。加えて、あらゆるビジネスも生まれようとしているが、それを見据えて「スポーツ テック&ビズ カンファレンス 2019」が開催された。パネリストに山本太郎氏(ホーク・アイ・ジャパン代表)、澤邊芳明氏(ワントゥーテン代表)、モデレーターに河本敏夫氏(NTTデータ経営研究所)を招いた特別講演のレポートをお届けする。

ホーク・アイがスポーツ観戦の
新たな価値観を生み出しつつある

ビッグデータ、AI、IoTといったテクノロジーの発達とともに、スポーツ界では新たなビジネス創出の機運が高まっている。「スポーツを取り巻く市場規模を2025年まで15.2兆円まで拡大する」という政府の目標は決して低いものではないが、グローバルな視点に立ったオリジナリティの高いビジネスが、そのハードルを越えるための鍵となることは間違いない。

そんな状況下で、スポーツビジネスとイノベーションに繋がるヒントを見出すべく、3月20日に「スポーツテック&ビズ カンファレンス 2019」が開催された。

今回は、「日本発のグローバルスポーツビジネス創出に向けた、スポーツテックの役割とビジネス化の要諦」と題されたカンファレンスの一部をクローズアップする。

山本太郎氏(以下山本): 本題のテーマは、スポーツのなかでテクノロジーの起こすイノベーションとその課題です。まず簡単に、弊社のスポーツ領域への取り組みとホーク・アイ社の提供しているサービスのインパクトについて、ご説明します。

ホーク・アイ・ジャパンの代表を務める山本太郎氏。

弊社の事業は、大きくはスポーツコンテンツの制作、VR、ARなどによる新しい視聴体験の提供、そしてホーク・アイによる競技の質向上・選手のサポートやファンエンゲージというものがあります。

ホーク・アイは、2001年に創業したイギリスの企業ですが、2011年に弊社(ソニー)が買収致しました。世界で浸透しつつある(ホーク・アイの提供する)審判補助システムは、様々なスポーツに対応して、公平性や選手の安全、ファンのエンゲージメントを高めていこうというモットーのもと、多くのサービスを生み出しております。

HAWK-EYE

ホーク・アイは、もともとはクリケット競技のテレビ放送に対応したボールトラッキングの技術からスタートしまして、(2018年の)サッカーのワールドカップで使われたビデオ判定(VAR)やゴールラインテクノロジーなどに代表される、正確な判定システムの提供へと発展してきました。

そのトラッキング技術は、野球のホームラン判定にも使っていただけますし、車のレースでは、車体のスキャニングをして、レギュレーションに則したサイズかどうかという判定にも使われています。

いまでは、トラッキング及びビデオリプレイの技術を使ったサービスが、90カ国、500スタジアム以上で実績がありまして、年間15,000程度の試合やイベントで活用されている状況です。

スポーツ界に与えた具体的なインパクトの例ですと、昨年(2018年)のテニスのオーストラリアオープンが記憶に新しいと思います。大坂なおみ選手が準決勝で勝利が決まったシーンは印象的でしたが、ホーク・アイのCGが出てきて判定がわかるまで10秒ぐらいの間、観客が祈ったり、拍手したりしていました。そういう行動を垣間見て、ファンエンゲージに関して新しい価値観が生まれたという実感がありました。

実際には、数値を見ればアウトかインかは瞬時にわかるのですが、コンピューターグラフィックを作成させて頂く10秒ぐらいを頂く事で、観客・選手を巻き込み、判定結果を想像して盛り上がるわけですね。CGにスポンサーのロゴを入れることで、新しいビジネスモデル、マネタイズの機会を与えることもできます。もちろんホーク・アイのボールトラッキング技術を線審の代わりに導入し、時短を実現する試みも行われています。

また、一球一球のデータを取っていますので、ボールのスピード、スピンの回数、そういったデータを大会のオーガナイザーにお渡しして、可視化することでコーチングに役立てることも可能です。

(昨年の)FIFAワールドカップでいいますと、VARが審判の補助という役割を担いました。放送では、1試合最低35台のカメラが使われていましたが、審判が一番見たい角度でプレーを確認することで、より確かな判定ができます。

全64試合中20回VARの介入がありましたので、だいたい3試合に1回ほどの割合です。PKの数は普段の大会よりも倍ほどに増えましたが、レッドカードに値する様なプレーは大幅に減り、プレーの質は確実に上がりました。

さらに新たなテクノロジーの導入は、判定だけでなく、選手の健康管理にも役立てようとする動きが強まっています。ラグビーの試合では、選手が脳震盪を起こしたプレーをピッチサイドのお医者さんが見ていて、スローにしたり、角度を変えて確認することで、顎や頭などへの衝突箇所を判断し、ケガをした選手への的確な処置を素早くすることにも活かされています。

もっと日常風景のなかにパラスポーツが
親しめる空間があっていい

澤邊芳明氏(以下澤邊):私は、ワントゥーテンというデジタルテクノロジーの会社の経営者です。様々な取り組みを行っていますが、ひとつは、テクノロジーを通してパラスポーツの普及に努めています。それを“サイバースポーツプロジェクト”と名付けておりますが、例えば、サイバーウィルという車いすのVRを活用したロードレーサーで400mを走る疑似体験をしていただいたり、サイバーボッチャを通して、ボッチャに触れていただく機会を作ったりしています。

澤邊芳明氏は、テクノロジーの力でパラスポーツを普及させてきた第一人者。

サイバーウィルで400mを走る場合、一般の方が全力で車いすを漕いでも、だいたい1分前後ぐらいかかります。ちなみに都知事の小池(百合子)さんがトライしたときは、1分39秒ぐらいでした。

ところがパラリンピアンがこれをやると20秒程度でゴールします。プロのラグビー選手や松岡修造さんでも30秒はかかりますから、いかにパラリンピアンがぶっちぎりかがわかると思います。


CYBER WHEEL

私は、難しく考えずにパラスポーツに関われる機会を設けて、多くの人が実際に触れて、体験して、理解していただくことで、パラスポーツの選手の凄さがわかってもらえるのではないかと思っているんです。

パラスポーツは、競技に対する理解者がなかなか増えないという課題があります。パラリンピックというのは、福祉スポーツという側面が強かったので、体験会やいろんなドキュメンタリーなどを通じて、選手や競技への理解がある程度は進んできたのですが、結局、「みなさん頑張ってるんだねぇ」ということで終わっていた。

そこから、実際に応援に行こう、試合を観に行こうという形には繋がっていないので、競技会場はガラガラなんです。その状況を変えようと思った時に、日常風景のなかに、もっともっとパラスポーツに親しめるような空間があってもいいのではないかと思うようになりました。

サイバーボッチャにしても、自動計測をして点数表示をして勝ち負けを判定するというものですから、簡単にのめり込めるんです。そもそもボッチャそのものが競技性が高いですし、カーリングみたいで面白いんですよ。

それもあって開催したサイバーボッチャのイベントは、非常に話題になりました。特に子供たちは、体験会よりもサイバースポーツですと、何回も行列に並んでまでやろうとするんですよ。しまいには、お父さんが、もう帰ると言い始める(笑)。そういう体験をすると、車いすの見方が大きく変わって、選手に対する見方も変わるんです。実際にイベントでは、「今度応援しに行こう」という声もたくさん聞きました。

もちろん分析面もありますけど、こういった新しいテクノロジーをエンタテインメントという形で楽しく理解してもらう。そして競技の支援に繋げていくというのは、パラリンピックのみならず、様々なマイナースポーツにも必要なのではないでしょうか?

後編へつづく


山本太郎(やまもと・たろう)

ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ スポーツセグメント部担当部長。ホーク・アイ・ジャパン 代表。米国の大学を卒業後、ソニーに入社。通算18年の海外駐在で、マーケティング及び新規事業立ち上げに従事してきた。2013年からは、インドのスマートフォン事業を統括。2016年に帰国し、現在は、スポーツテック・放送技術等を活用したスポーツや選手のサポート、チャレンジ・VAR等判定サポートサービスを提供するホーク・アイの事業展開を担当。

澤邊芳明(さわべ・よしあき)
1973年東京生まれ。京都工芸繊維大学卒業。1997年にワントゥーテンを創業。ロボットの言語エンジン開発、日本の伝統文化と先端テクノロジーの融合によるMixedArts(複合芸術)、パラスポーツとテクノロジーを組み合わせたCYBER SPORTS など、多くの大型プロジェクトを手がける。 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 アドバイザー。

河本敏夫(かわもと・としお)
NTTデータ経営研究所 情報戦略事業本部 ビジネストランスフォーメーションユニット スポーツ&クリエイショングループリーダー Sports-Tech & Business Lab 発起人・事務局長。総務省を経て、コンサルタントへ。スポーツ・不動産・メディア・教育・ヘルスケアなど幅広い業界の中長期の成長戦略立案、新規事業開発を手掛ける。講演・著作多数。早稲田大学スポーツビジネス研究所 招聘研究員。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 増元幸司)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

スポーツ SPORTS

F 1マシンが六本木ヒルズアリーナに上陸!

日本グランプリ2日後の10月15日(火)、Red Bull Toro Rosso Honda(レッドブル・トロロッソ・ホンダ)のF1マシン「STR13(2019年FIAフォーミュラ・ワン世界選手権出場カラーモデル)」をはじめ、RDSが開発した最新車いすレーサー「WF01TR」、車いす概念を超えるモビリティー「WF01」、車いすから身体データを取得する「SS01」が六本木ヒルズアリーナに集結。世界最高峰のエンターテイメント、そこに凝縮された技術を間近で感じることができるイベントです。会場では記念撮影会も開催します。

なぜ、F1?なぜ、車いすレーサー?
RDSが描くボーダレスな未来へのヒント

モータースポーツの最高峰F1で生み出された技術が、一般社会に落とし込まれているように、スポーツ・エンターテイメントから生まれた技術を、新しい日常に落とし込み、人々のQOL向上を目指す。株式会社RDSは、モータースポーツ・パラスポーツ・ロボットなどの先行開発によって生まれた技術を医療・福祉の現場に活用する多くのプロジェクトに取り組んでいます。

なぜ、F1なのか?なぜ、車いすレーサーなのか?二つのキーワードが遠い関係だと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、共に最先端のフィールドで技術を追求し、そこで生み出された技術は様々な形で私たちの新しい日常に落とし込まれています。

10月15日(火)のイベントは、RDSが考えるボーダレスな未来へのビジョンをリアルに表現し、肌で体感して頂く場です。車いす陸上の伊藤智也選手をテストドライバーに迎え、2020年のメダル獲得を目指し、開発した最新の車いすレーサー「WF01TR」、シーティングポジションやハンドリムを漕ぐ腕の力など、様々なパーソナライズされたデータを取得することができ、自分の最適解を導き出すことが可能な「SS01」など、9月に発表した2つの最新プロダクトをRed Bull Toro Rosso HondaのF1マシン「STR13(2019年FIAフォーミュラ・ワン世界選手権出場カラーモデル)」とともに展示。

また、専用のモーターを装着することで時速40kmの走行が可能な車いすの概念を超えるモビリティー「WF01」も合わせて展示します。会場では、記念撮影会や「WF01」の走行デモンストレーションも開催します。最先端の技術に触れるこの機会に是非ご来場ください。

イベント実施概要

日時 : 2019年10月15日(火)10:30〜20;00
会場 : 六本木ヒルズアリーナ(東京都港区六本木6丁目9−1)
内容 :「STR13(2019年FIAフォーミュラ・ワン世界選手権出場カラーモデル)」「WF01TR」「SS01」「WF01」の展示、「WF01」走行デモンストレーション、記念撮影会
料金 : 無料

株式会社RDS概要

URL    : http://www.rds-design.jp/
設立 : 1984年 3月
代表者: 代表取締役社長 杉原行里
所在地: 東京デザインオフィス 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-8-6、埼玉スタジオ 埼玉県大里郡寄居町赤浜1860

株式会社RDSは、オリジナリティー溢れる『アイデア力』『デザイン力』『技術力』を強みに、新しいモノ作りのカタチを世界に発信する研究開発型の企業です。これまでモータースポーツ、医療・福祉、最先端ロボットの開発など、多数の製品開発に携わってきました。グッドデザイン金賞を受賞した世界最軽量の『ドライカーボン松葉杖』や、ソチでは、パラアスリートへ技術開発提供で金メダルを含む計7個のメダル獲得に貢献。

メダルへの挑戦。感覚を数値化した最新車イスレーサー「WF01TR」

2020年に57歳でメダル獲得を目指す伊藤智也選手を開発ドライバーに迎え、2017年にプロジェクトがスタート。マシンの動き、走行中の伊藤選手のフォーム、力の分散バランスなどの力学なデータを、3Dスキャナーやモーションキャプチャ、フォースプレートなどの機器を使って計測。それらのモーションデータを元に伊藤選手の「感覚を数値化」。

プロトタイプを製作したあとは、テストを繰り返しながらマシンをアップデートし、月日を重ねることにマシンが進化。先端技術の詰まった最新の車いすレーサーが完成した。

URL:http://rds-pr.com/wf01tr/

シーティングポジションの最適化を測るシミュレーター「SS01」

車いすレーサー「WF01TR」の開発をきっかけに千葉工業大学未来 ロボット技術研究センター(fuRo)との共同開発によって生まれたシミュレーター。座った状態で座面に触れる身体形状の3Dデータやハンドリムの回転速度、回転トルク、重心移動など、様々なパーソナルデータを取得。データをもとに座面・背もたれ・ステップの位置、キャンバ角を精密に調整し、自分の最適解を導き出すことが可能。

また、シーティングポジションは、様々な分野で応用が可能で、将来的には、モータースポーツe-sports、オフィスワーカーや高齢者など、長時間座ってスポーツ・生活をする人への活用、パーソナライズの量産化が期待される

URL:http://rds-pr.com/ss01/

車いすという概念をも超える新時代モビリティー「WF01」

車いすの姿をした新しいカテゴリーのスーパーモビリティ。運動性能を上げて、軽い力で動かすために、ドライカーボン製の強固なメインフレーム採用し、必要な場所に柔と剛を適切に与えつつ、軽量に保つ。夜の街で存在を引き立たせるライトは安全性向上にも寄与するほか発光色はカスタマイズ可能。

スイングアーム、シート、ステップボードはそれぞれ用途に応じて選択可能。フレームに折り畳み機構を備え車への持込にも対応。専用のスポーツ車を持っていなくても、キャンバー角をつけることでテニスやバスケといったスポーツにも対応可能。

URL:http://rds-pr.com/wf01/

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー