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下半身不随でダカールラリーのモト部門に出場!不屈のライダー、ニコラ・デュット

長谷川茂雄

興奮と感動に包まれながら幕を閉じた「ダカール・ラリー 2019」。例年と違わず、さまざまなドラマが生まれた“世界一過酷”と謳われるこのモータースポーツ大会の最高峰に、イタリアの車いすライダー、ニコラ・デュット氏が出場したことをご存知だろうか? 2012年に500kmのバハ・アラゴンを完走して世界を沸かせた彼が今回エントリーしたのは、もちろんモト部門。下半身不随のライダーが果敢に挑戦を続ける興味深いストーリーと、それを可能にしたプロダクトを追った。

前人未到の夢舞台を直走った超人現る

イタリアのピエモンテに生まれたニコラ・デュット氏は、「スキーに明け暮れた幼少時代」を過ごしたという。程なくしてモーターサイクルの魅力に取り憑かれると、その世界の最高峰であるダカール・ラリーを目指し始める。欧州のあらゆる大会に出場して頭角を現わすまでには、それほど時間はかからなかった。

2008年にはスズキとの契約を得て、順調にキャリアを積み上げていく。

そんな矢先の2010年に事故は起こる。走行中にバランスを失い転倒し、脊髄を損傷したのだ。下半身は不随となり、車いす生活を余儀なくされた。

誰しもが彼のライダー生命は終わったと確信したが、デュット本人はそう思ってはいなかった。それどころか、意気消沈することなく、事故からたった1年後には、バギーでバハ1000を完走してしまう。

そして二輪復帰を宣言すると、2012年にバハ・アラゴンに出場し、ライダーとして500kmを走りきった。それは下半身不随の人間が成し遂げた世界初の快挙だった。

彼自身の強靭なメンタルとチャレンジャースピリッツもさることながら、常に興味深い挑戦を支えているのは、デュッセルドルフに拠点を置くリハビリ器具の開発企業、VICAIRだ。

450EXCをベースにした彼のマシンには、同企業の協力のもと、下半身を支えるケージが取り付けられ、腰を固定するシートもかぶせられている。さらに、運転時の衝撃を下半身で吸収できないデュットのために、椅子には独自のエアクッションも装備した特別仕様だ。

そんなオリジナルマシンと卓越したドライビングテクニック、そして極めて高いモチベーションがあるからこそ、彼は数々の偉業を達成しているのだろう。

ついにダカール・ラリーという最高の舞台に立ったデュット。彼の飽くなき挑戦は、まだまだ始まったばかりのようだ。

[TOP動画引用元:https://youtu.be/_dnpM00DIQg

(text: 長谷川茂雄)

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CYBER WHEEL Xの体験も!【BEYOND PARK秋葉原】レポート

Yuka Shingai

東京都が推進するパラスポーツ支援団体TEAM BEYONDが9月23日にベルサーレ秋葉原にて、イベント【BEYOND PARK秋葉原】を開催した。日本を代表する5人のパラアスリート×マンガで描いたPR動画の最新バージョンのお披露目から、車いすフェンシングやパラ卓球、ボッチャ、そしてRDSも開発に携わったCYBER WHEELの体験、ラジオの公開収録など、バラエティ豊かなコンテンツが楽しめる本イベントのレポートをお届けする。

パラアスリート×人気漫画家による
キャラクターが新ムービーに登場!

小池百合子東京都知事による挨拶で幕を開けた本イベントでは、TEAM BEYONDのPR動画「FIND YOUR HERO」が矢井田瞳さん提供の楽曲「Cheer for you」でお披露目された。

人気漫画家によるイラストと自転車競技、ボッチャ、卓球、パラ水泳、車いすフェンシングで活躍するアスリートの競技シーンをフィーチャーしたムービーは、矢井田さんのエネルギーに満ちた歌声とギターサウンドがマッチして、競技の躍動感や臨場感、迫力をより一層盛り立てる仕上がりになっている。

イラストを提供された漫画家の面々には、浦沢直樹氏、高橋陽一氏、ちばてつや氏など、漫画好きのみならず、誰もが知るビッグネームもラインアップされ、会場内に設置されたキャラクターのパネルに見入る漫画・アニメファンも散見された。

秋葉原という立地もあって、会場内には通りがかりや買い物中と思しき来場者も多く、親子3人でパラ卓球の試技を楽しんでいたファミリーに声をかけてみると、小学生の息子さんは夏休みに車いすバスケを観戦してからかなりパラスポーツに興味津々だそう。学校ではパラリンピックやパラスポーツについて学ぶ授業があったとのことで、オリパラ教育の浸透が感じられる。

また、友だちへのお土産を買いに秋葉原にやってきたという外国人男性二人組もパラ卓球をプレイしたあと、「特にパラスポーツのファンというわけではないのだけれどすごく面白かった。来年のTOKYO2020も楽しみにしてるよ!」と満面の笑みを浮かべていた。

パラスポーツ大好き芸人、みんなのたかみちが
車いすフェンシングに挑戦!

パラスポーツを実際に体験できるだけではなく、アスリートによるデモンストレーションも見どころのひとつ。車いすフェンシングのブースでは、NPO法人日本車いすフェンシング協会の小松眞一理事長により、競技のルール等インストラクションの時間も設けられた。

「ピスト」という台に車いすを固定し、上半身だけで戦うのが、オリンピック競技のフェンシングと車いすフェンシングの最大の違い。

「ルールを聞いていると、自分でもできるんじゃないかなって気がして、一番興味があった競技なんです。もしかすると僕でも勝てるんじゃないかな?」と乗り気になったMCのみんなのたかみちさんがアスリートと対決することに。

防具を装着して、小松さんの「Êtes-vous Prêts?(用意はいいか?)」「Allez!(はじめ)」の掛け声で対戦がスタート。最初は剣先が空振りして「あかん!」「難しい!」と地団駄を踏んでいたが、終盤には攻撃を成功させ、パラスポーツ大好き芸人の意地を見せつけた。

(右)NPO法人日本車いすフェンシング協会 小松眞一理事長

トークショーでは、小松さんが「車いすフェンシングは車いすが固定される分、6畳くらいあるスペースならどこでもできる、体育館が必要ないというのがメリット。車いすを利用している人と、健常者が一緒に対戦することもできるということをこれからもっと知ってもらいたいですね」と競技の楽しみ方についてもコメント。

まだ競技人口はそう多くないものの、パラリンピックでの車いすフェンシングには期待が集まりそうだ。

元パラリンピアンの車いすマラソンランナーが
「CYBER WHEEL X」に挑む

この日のハイライトとなったTBSラジオ 「アフター6ジャンクション」の公開収録ではTEAM BEYONDのメンバーでもある女優の篠田麻里子さんがメインMC、日本パラ陸連副理事長で車いす陸上競技アスリートの花岡伸和さんがゲストとして登壇。

二度のパラリンピックの出場経験をもつ、車いすマラソンの第1人者とも呼べる花岡さんは、17歳のときにバイク事故が原因で車いす生活をスタートさせた。「入院していた病院にあった車いすマラソン大会のパンフレットに載っていた選手の姿がすごくカッコよくて。当時住んでいた大阪市の障がい者のスポーツ支援センターで、みんな活き活きとスポーツを楽しんでいるのを見て、僕も走りたいんです!と輪に入っていきました」と競技を始めたきっかけについて語った。

アテネパラリンピックでは6位入賞、ロンドンパラリンピックでは5位入賞という偉業を達成したが、「自分としては好きなことに取り組んでいたので、悩み苦しんで努力した、という感じではないんです。右肩上がりばかりではなくて低迷している時期もあったけど、それも含めて自分の肥やしかな、と」と現役時代をさらりと振り返る。

小学校・中学校とテニスをしていて、スポーツ大好きという篠田さんは、観戦も含めるとボッチャ、車いすテニス、車いすバスケ、ブラインドサッカーなどパラスポーツ経験も豊富。

東京2020を楽しみにしているパラスポーツファンとして、「来年、パラリンピックが東京で開催されるにあたって、復帰を予定している選手もいますが、花岡さんは東京に出場したい!という気持ちはないんですか?」という質問が。

これに対し花岡さんは「僕はロンドンパラリンピックの時に、ここを最後にしようと決めていたんです。今は現役を引退したものの、コーチとして選手をサポートする立場なので、東京パラリンピックはあくまでも、いち大会として迎えたいなと思っています。あまり特別視しているとしんどいじゃないですか。AKBのじゃんけん大会もしんどかったでしょ?」と、現在のスタンスを語りつつ、会場の笑いを誘った。

(左から) みんなのたかみちさん / 篠田麻里子さん / 花岡伸和さん / HERO X 編集長・杉原行里

コーナーの終盤では花岡さんと、みんなのたかみちさんによる「CYBER WHEEL X」が行われることに。

株式会社ワントゥーテンとともに「CYBER WHEEL X」の開発を手掛けた株式会社RDS代表であり、HERO X編集長の杉原もステージに登場し、誰もが花岡さんの圧勝を予想するなか、なんと結果はたかみちさんの勝利!

僅差で敗れた花岡さんは「マシンが動き出すと、体をどう動かしたらいいか分からなくて、汗びっしょりになりました。いいトレーニングになるから、皆さんぜひ体験してみてほしい。実際、障がい者とか車いすっていう切り口だとハードルが高いから、ゲーム感覚で入っていけばパラリンピックがもっと身近になるんじゃないかな。これがゲームセンターに置いてあったらいいですよね。」とコメント。篠田さんも「これがジムやフィットネスにあったら楽しそう」と「CYBER WHEEL X」のコンセプトに関心を寄せた。

この後も、パラ卓球、パラテコンドーの試技やトークショーが続き、イベントは盛況のうちに幕を下ろした。

東京2020を控え、各地で関連イベントの開催が盛んに行われる予定だ。パラスポーツ体験や、最先端の技術を間近に感じられる各種イベントは、ぜひ公式サイトでチェックしてみてほしい。

(text: Yuka Shingai)

(photo: 増元幸司)

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