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ゴルフより楽しいかも…トヨタ自動車が“ボッチャ”にはまった!【2020東京を支える企業】

宮本さおり

オリンピック、パラリンピック、スペシャルオリンピックスこのすべてのワールドワイドなオフィシャルパートナーシップを持つのは現時点ではトヨタのみだ。そのトヨタは、国内では「日本ボッチャ協会ゴールドパートナー」と「日本車いすバスケットボール連盟オフィシャルスポンサー」としての支援も行っている。

ゴルフではなく「ボッチャ」を

パラスポーツ支援についてのトヨタ自動車の働きは、従業員による応援や運営ボランティア、全国各地の販売店を通じた競技の普及活動など、直接的なサポートも含めた多彩な活動が特徴だ。なかでも、従業員間での熱が高まっているのがボッチャ。障がいの有無や年齢、性別に関係なく楽しめるスポーツとして近年その知名度を上げているスポーツで、HERO Xでもたびたび紹介しているこのスポーツに従業員も首ったけになりだしたというのだ。

「オール経済界でオリパラを盛り上げる『オリンピック・パラリンピック等経済界協議会』の活動も進めており、弊社社長の豊田が会長を務めています。色々な垣根を越えてオリンピックとパラリンピックの精神を皆で学ぼうという試みの一つとして、昨年から、企業対抗のボッチャ大会Office de Bocciaを開きはじめたところ、すごい人気になりまして、東京、名古屋、仙台、福岡など全国主要都市ですでに何度か大会を開いており、弊社も参加させていただいております」と話すのは、トヨタ自動車でオリンピック・パラリンピック部 部長を務める伊藤正章氏。自身もなかなかの腕前だ。社内予選や、会社を越えた事前練習会を経て臨むチームもあり、さながら企業の選抜。各社工夫をこらしながら「オフィスでボッチャ」に取り組む。

これからはゴルフよりボッチャ!と笑顔で語る伊藤氏

トヨタでは愛知・東京の本社ビル内のレストランやロビー等にボッチャのコートを作り、従業員やお客様が気軽にボッチャを体験できるよう取り組んでいる。また、販売店の一部にコートを設け、車の購入に訪れた家族づれなどが楽しんだり、地域のパラアスリートの練習の場を提供したりしている。「こうした販売店内のボッチャスペースは今後も増やしていけたらと思っています」。今では各エリアともに社内の大会が行われるほど人気に。「経済界協議会のみなさんともこれからはゴルフではなくボッチャで交流をなんて呼びかけています」()

観戦でパラスポーツを盛り上げろ

トヨタ自動車の東京本社のロビー。ボッチャコートの反対には車椅子バスケットボールの展示がされていた

ボッチャのように自ら体験することでパラスポーツに親しむ方法以外に、応援という形でのパラスポーツの盛り上げにも力を注ぐ。アルペンスキー、陸上、水泳など、トヨタ自動車やグループ企業に在籍する従業員パラアスリートが出場する大会の応援を従業員に呼びかける取り組みも行っている。また、競技団体を支援しているボッチャや車いすバスケットボールを中心に、幅広く大会情報を社内で発信、従業員のパラスポーツ観戦の機会を増やしている。

本社のある豊田市で2017年に開催されたジュニア車いすの全国大会では約6000人のトヨタ自動車やグループ企業の従業員が観戦に訪れた。この大会、例年の観客数は数百人程度。会場を埋め尽くす歓声に「スゲー」と目を輝かせてプレーする未来のパラリンピアンたち、自然と試合も熱くなる。

「選手や連盟の方からは、かなり画期的なことだと言っていただきました。海外のジュニア大会で満席になることはあっても、日本ではまだ稀だそうです。はじめは見に行くようにと会社から従業員に動員をかけていても、2、3度見ると自発的に見に行く従業員が出てきます。パラ競技を広めるには、まず見て、触れて、知ることからではないでしょうか」と伊藤氏。そして、観客として見ることも、パラスポーツとの関わりのひとつではないかと話す。「半分仕事だと思って関わりはじめた従業員も、自分から楽しむようになっています。特にボッチャ、人気はすごいですよ」東京本社ロビーに設けられたボッチャコートで球を振りながら、笑顔で答えてくれた伊藤氏。各社の取り組みにより、ボッチャ旋風が巻き起ころうとしている。

(text: 宮本さおり)

(photo: 河村香奈子)

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スラロームの王者が再び狙う、世界の頂点 【鈴木猛史:2018年冬季パラリンピック注目選手】前編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

冬季パラリンピックの競技において、世界中からひと際熱い眼差しが注がれるチェアスキー。高校3年生の時、トリノパラリンピックに初出場して以来、三大会連続の出場を果たしたチェアスキーヤー、KYB所属の鈴木猛史選手は、バンクーバーではジャイアント・スラローム(大回転)で銅メダル、ソチではダウンヒル(滑降)で銅メダル、スラローム(回転)で金メダルを獲得し、世界の頂点に立った。“回転のスペシャリスト”の異名を持つ覇者は今、2度目の頂点を目指すべく、目前に迫るピョンチャンパラリンピックに向けて着々と準備を進めている。チリ合宿から帰国したばかりの鈴木選手に話を聞いた。

『スラローム』の本当の意味とは?

身体と技術の融合によって、極限まで追求された超絶技巧のパフォーマンス力と時速100kmを優に越えるスピードが、観る者を圧倒的に魅了するチェアスキー。選手たちは、1本のスキー板にシートを取り付けたマシンに座位で乗り、アウトリガーと呼ばれる2本のストックを自在に操り、雪上を滑り競い合う。

ダウンヒル(滑降)やスーパーG(スーパー大回転)が“高速系種目”と呼ばれるのに対し、鈴木選手が得意とする「スラローム(回転)」は、ジャイアントスラローム(大回転)やスーパーコンビ(スーパー複合)と並ぶ“技術系種目”。風と一体化して踊っているようなリズミカルで、溌剌たる滑りが特徴的だが、アウトリガーを駆使した絶妙なバランス感覚と高度なテクニックの共存がモノを言う難技である。

幸先良好。今シーズン初の合宿は、南米チリ

今年8月29日から26日間、今シーズン初となる日本のチェアスキー強化指定選手合宿が、南米チリで行われた。その期間中、鈴木選手たちが滞在したのは、標高約3000mに佇むホテル。日本を発つ当日の朝まで、JISS(国立スポーツ科学センター)で低酸素トレーニングを行うなどして、万全の体調で初日を迎えた。

「今回の合宿が初滑りということで、まずは滑りの感覚を思い出すことから始めようと思っていたのですが、予想に反して、トレーニング内容が少々飛ばし気味でして(笑)。基本的な練習を終えたとたん、最もスピードの出るダウンヒル(滑降)という種目のトレーニングに入ってしまったので、若干心配でしたが、問題なく滑ることができました。良いスタートが切れたのではないかと思います」

「僕は一人で戦っているんじゃない。
みんなで戦っているんです」

チェアスキー界を牽引する日本のトップアスリートのマシンは、全てのパーツがオーダーメイドで開発されている。鈴木選手の場合は、こうだ。スキーブーツの役割を担うシート部分は、多彩なパラ競技のシート関連製作を手掛ける義肢装具業界のリーディングカンパニー、川村義肢株式会社。スキー板とシート部分を繋ぐフレームは、業界No.1メーカーの日進医療器株式会社。走行中の風の抵抗を減少させるために装着するカウルは、自動車部品の老舗メーカー、IMASEN。そして、膝や足首と同じように、衝撃を緩和するクッションの役割を担うサスペンションは、鈴木選手の所属するKYB株式会社(以下、KYB)。

実に4社を越えるメーカーのエキスパートたちの渾身の技術とエネルギーが、1台のマシンに集結しているのだ。アスリートが、開発チームである各メーカーとタッグを組み、世界最速のマシンを作り上げ、皆で勝ちに行く。この戦い方は、ドライバーと、オリジナルマシンを製造するコンストラクターが、いわば一つのレーシングチームを成し、しのぎを削るF1とどこか似ている。

「チェアスキーは個人競技と言われていますが、完全にチームプレイです。僕は一人で戦っているのではなく、支えてくださる皆さんの力があったからこそ、スタート地点に立てたし、メダルを獲ることもできた。もしその方たちの力がなければ、成し得なかったと思います。とても心強く、ありがたいことです」

後編へつづく

鈴木猛史(Takeshi Suzuki)
1988年生まれ。福島県猪苗代町出身のチェアスキーヤー。小学2年の時に交通事故で両脚の大腿部を切断。小学3年からチェアスキーを始め、徐々に頭角を現す。中学3年時にアルペンスキーの世界選手権に初出場し、高校3年時にトリノパラリンピックに出場。冬季パラリンピックのアルペンスキー(座位)に3大会連続出場を果たし、バンクーバーパラリンピック大回転で銅メダル、ソチパラリンピック回転で金メダル、滑降で銅メダルを獲得。2014年、春の叙勲で紫綬褒章受章、福島県民栄誉賞受賞。2015年8月よりKYB株式会社所属。

[TOP動画 引用元]The IPC(The Internatinal Paralympic Committee)

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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