対談 CONVERSATION

エンジニアとして世界と戦う、終わりなき挑戦。Xiborg代表 遠藤謙 × HERO X編集長 杉原行里【サイバスロン】

中村竜也 -R.G.C

今回は、先日HERO Xでも記事が公開された、“すべての人に動く喜びを与える”をモットーに義足開発するXiborg代表の遠藤謙氏と、弊誌編集長・杉原行里(あんり)の対談をお届け。

実際にXiborg立ち上げにも関わった杉原だからこそ感じる鋭い視点から、義足を通じて世界に貢献するその意味を紐解いてもらった。それでは、友人同士ゆえに話せるざっくばらんな対談をお楽しみください。

杉原行里(以下、杉原):まずは、Xiborg所属の佐藤圭太選手、リオデジャネイロ・パラリンピック男子400mリレーでの銅メダル獲得おめでとうございます。

遠藤謙(以下、遠藤):ありがとうございます。

杉原:実際にテレビで手に汗握りながら応援していたんだけど、正直な気持ち、もっと上を狙えたんじゃないかなと感じたのが本音です(笑)。それは、エンジニアに対してもう少しハードな要求を誰かがしなくてはと感じているからこそなんですが。そこを踏まえて、同じく昨年開催されたサイバスロンでの結果は、世の中はどう思っているかは分からないけど、個人的には「魅せたな」と感じています。2015年からリハーサルを始め、少ないリソースでよくあそこまで完成させましたね。

遠藤:そう!本来作っている人間がこんなことを言ってはいけないと思うんですが、あの義足の完成度に誰も気づいてくれていないんです(笑)。

杉原:逆にあえて厳しい言い方をすれば、やっぱり自分たちのやっていることが世間に伝わらないと、あまり意味がないとも感じていて。

遠藤:よく分かります。

杉原: 本人たちが一番分かっていますよね。だとしたら、2020年の東京パラリンピックに備え、エンジニアを増やして完成へのスピード感を上げていくようなことは考えているのかな?

Xiborg代表の遠藤謙氏

遠藤:そこに関してはものすごく考えたし、それが正解かも分からない中導き出したのは、やっぱり僕は、自分で全てをハンドルできる規模に抑えながら面白いことをやっていくのが合っているんじゃないかという答えに辿り着いています。スケールアップするような事業の中に自分がいると、恐らく好きなことが出来ないんじゃないかという直感を信じました。とはいうもの、今の体制ではエンジニアが少なすぎるのも分かっているので、あと2、3人増やし少数精鋭で進めていきたいと思っています。

左 2016サイバスロン出場時の様子。右 Xiborg社で開発した義足。写真提供:http://xiborg.jp/

義足を通じて世界に貢献

杉原:次に聞きたいなと思っていたのは、“D-Leg (https://www.facebook.com/DLegJapan/)*1”について。各発展途上国の義肢装具士と連携して義足ビジネスでフォローしていくというプロジェクトについての進捗を知りたいなと。

*1 D-Leg(ディーレッグ)
発展途上国を中心とした世界中の切断障害者のために、安価で高機能な適正技師装具の開発やその普及を行っているMIT D-lab、MIT MediaLabからスピンオフしたNPO団体。

遠藤
:D-Legも自分が持っているリソースが限られている中で始め、どうやったら進めていけるかということをかなり考えました。MIT(マサチューセッツ工科大学)にいた頃は授業の一環としてやっていたから学部生の人たちと進めていたんですね。その時は時間が無限にあったので、まずはやる気で進めていくというプロジェクトだったんです。

それから帰国し、日本でこのプロジェクトを継続するためにはどうしたらいいかと模索していたところ、東京工業大学の学生が毎年インドに行っているから、何かできないかという話になったんです。そこで僕も義足を作り彼らに持って行ってもらい、僕が行かなくてもインド側のパートナーと手を組んでテストをするというサイクルが、去年の3月から再開し、今はいいペースで回せるようになってきているところです。

杉原:謙が言っている“動く喜び”というものを必要としている一番つま先にいる人たちって、義足なんか夢のまた夢と思っているそういう途上国に住んでいる方たちかなって思うと、D-Legってつくづく素晴らしいプロジェクトだと感じていて。だからこそスピード感を持って進めてもらいたいし、協力できることはどんどんしていきたいと思っています。もちろんサイバスロンは面白い試みなんだけど、実装をすぐにしなければいけないという部分と、大幅なコストが掛かるわけじゃないですか。そういう意味では現実的ではないとういうかね。

ビジネス面から見た、Xiborgの目指すべきところ

やはり企業としてやっている以上は、収益を上げなくてはいけない。なぜならニッチなことをやっているからこそ、先駆者はこれから同じ道を目指す人間にも夢を与えなくてはいけないという使命を持っているからだ。

杉原:会社設立から4年目に入り、企業としての成長はどう感じているのかな?

遠藤:もの凄くというわけではないけど、少しずつ伸びてはきているかな。ただ、2020年の東京オリンピックを目処に世の中がまた違う方向に動き出すはずなので、それ以降のことを視野に入れ、ちゃんと価値を見出す研究をしていかないと、とは考えています。正直、ビジネスとして収益を上げることに特化して、東京オリンピック・パラリンピックまでコンテンツを作り続ければ、間違いなく儲かると思うんだけど、やっぱり僕はそれに魅力を感じることができない。自分たちは、義足周辺の物に対して持っているテクノロジーを他にも展開できるよう突き詰め、しっかりと研究していく方向で判断しました。

なので、言っているように飛び抜けた成長はまだしていないけど、2020年以降に向けたやるべきことを、今まさに進めている最中です。物を作っていく過程の中で世の中のために役立つものがあり、それを横展開できた瞬間がもの凄く楽しいので、だからその瞬間を味わい続けられるように頑張っていきたいなと。

HERO X編集長 杉原行里

エンジニアとしての遠藤氏の本質

杉原:よくメディアでは、義足エンジニアとして紹介されていますけど、謙のことを実際にそう思ったことがなくて(笑)。それについてはどう感じているのかな?

遠藤:義足だけのエンジニアではないから、はじめは違和感あったけど今は慣れました(笑)。正直肩書きはどうでもいいです。僕は、生粋のエンジニアなので、まだまだ物作りに対する欲は尽きません。もっと時間をかけていい物をたくさん作りたいですね。欲深い人間なので(笑)。

杉原:僕らが共通して言えることは、お互い格好いい物が好きで、さらにそこにはこじ開けたい穴があるってこと。だからこそHERO Xとして色々なプロダクトやエクストリームなスポーツなどをフォーカスしていく中で軸があるんだけど、それは、記事として取り上げているモノやコトを文化として日本に根付かせていくために、定期的にイベントを開催することなんです。

失敗したとしてもそれを続けていかないと、意味のないものになってしまうような気がしていて、紹介してはい終わりじゃダメだなと。出る杭は打たれるじゃないけど、これからは人がやらないことをやり続けていかないと。その一つの方法が、エンターテイメントとしての見せていくことではないのかと感じています。

そこで最後の質問なんだけど、例えばHERO Xが立てた誰かと謙が組んで新しいものを作るとしたら、どんな人がいい?

遠藤:嫌われ者がいいです。なぜなら、無いものに対してチャレンジするのがすごく面白いと思っているので。その意味は二つあって、一つは新しいことをやろうとする人。もう一つは、失敗を恐れない人。そういう人って日本では煙たがられる傾向にあるんです(笑)。

“すべての人に動く喜びを与える”。このような志は誰もが持てるものではない。なぜならきっと、多くの人が他の誰かがやってくれればいいと思っているからではなかろうか。もしかしたら、少しの思いやりを世界中の人、全員が持てれば、もう少し優しい世の中になるのではと、遠藤氏の話を聞いていると少し夢を見てしまう自分がいた。理想や夢を口にすると冷めた目で見られることを恐れずに信念を貫く遠藤氏の動向を、今後もHERO Xでは追ってみたいと思う。

Xiborgオフィシャルサイト
http://xiborg.jp/

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 壬生マリコ)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

対談 CONVERSATION

スポーツで社会を変える。「Sport For Smile」梶川三枝の視点 前編

宮本さおり

万国共通に親しまれているスポーツ。スポーツを通して人間が受けるものはさまざまあるが、おそらく、スポーツで元気を得ることもそのひとつであろう。懸命に頑張る選手を見て、勇気をもらうこともあれば、自身がスポーツをすることで、健康や力を与えられることもある。そんなスポーツの無限の可能性を信じて活動する団体、一般社団法人 Sport For Smile の梶川三枝代表に話を伺う。

杉原:HP などいろいろと拝見させていただいたのですが、まずは、Sports For Smile について教えていただけますでしょうか。

梶川: 私たちはスポーツで社会を変えるということを謳っていて、普段スポーツをしようと思ってもできないような方々にスポーツをする機会を提供する活動、また「スポーツの力で社会を変える」を体現している団体や活動を紹介するイベントなどを実施しています。身体的、知的発達障がい者の方や、児童養護施設で暮らす子どもたち、ホームレスの方々など、日常生活が難しい状況にある場合、スポーツをするゆとりが生まれにくいのです。そういう方々にスポーツに触れる機会を与えることで、彼らが生きがいを感じて、より良い未来へと歩みだす手助けをするというのが主な活動です。ブラインドサッカー協会さんや(児童養護施設の子どもたちを支援している)ブリッジ・フォー・スマイルさんなどと連携していろいろな方法でスポーツを推進する活動をしています。

杉原:なるほど。具体的にいうと、どのようなものになるのでしょうか。

梶川:3つの柱があります。1つ目は、啓発イベントやセミナーを開催することです。先ほども申しました「スポーツの力で社会を変える」を体現している団体の方をお招きしてのセミナーなどを行っています。その方々の活動を紹介するだけでなく、背景にはどのような社会問題があるのかもお話いただくことで、普段はあまり社会課題に関心がないという人でも、スポーツには興味があるという方に重要なメッセージを届けることができます。スポーツに焦点を当てることで、聴衆の幅を広げられるため、ここがメリットだと思います。

杉原:スポーツをひとつのきっかけにして、社会課題に気づいてもらうということですよね。

梶川:そうです。

杉原:梶川さんは、スポーツを通じてソーシャルインクルージョンをするということを強く言われていると思うのですが、ここに行きついた経緯はどういうところにあったのでしょうか。

梶川:もともとは、世界でこういう動きが非常に高まっていたことがあります。日本ではすでにスポーツを日常的に楽しめている子どもたちに、プロの選手になるという夢や希望を与えられるというのがスポーツの力だと言われていた時代に、世界ではすでに、スポーツの力を活用して社会の問題や課題に取り組もうという大きな動きがありました。

国連の中にもスポーツ局というのがあったほどです。例えば、有名アスリートが国連の活動のアンバサダーになることで、それまではその問題に関心のなかった人々の目を向けさせることをしていたのです。

私は誰もが誰かの力になることができると思っていて、スポーツにはそれを可能にしてくれる力があると思っています。それを体感できたのが、スペシャルオリンピックス種目にもあるフロアホッケーだったのですが、ある時、フロアホッケーをする機会がありまして、杉原さんもおっしゃっていましたけれども、障がいのある方と何かをするとなった時、私たちはどうしても、なにか、少し手加減しようかな、と思ってしまいがちなのですが、実際はこちらが本気で、いや、むきになってやっても勝てないわけですよ。普段から練習されている選手は本当にうまくて、競技している姿を外から見ていると、誰が障がいがあって、誰がないのかなんて、わからないような感じになるんです。

この経験を通して、日常生活の中で勝手に想定してしまっている「救うー救われる構造」を、スポーツを通して“楽しく破壊する”ことができると感じました。

杉原:わかります、その感覚。

梶川:これを体感したことがすごく大きくて、スポーツってやはり、フェアだと思うんですよね。社会的ステイタスとか、身体的な障がい(ディスアビリティ)はハンディにはならないというか、努力をした人が報われるべきだし、ルール設定等の工夫によりそれができるのがスポーツの価値でもあると思うので、そうしたところからソーシャルインクルージョン(社会的包摂)ということを謳っているのです。例えばですけど、大統領とホームレスがサッカーをした場合、ホームレスの方がちゃんと練習して挑んだら、大統領に勝てる可能性がありますよね。そういうことです。また、身体的ハンディのある方にも、得点システムやルール設定を調整することで、参画の機会、勝利に貢献する体験の場を提供することができます。

杉原:そうですよね。

梶川:この場合、スポーツの試合という中では社会的地位は関係ありません。

杉原:確かに。

梶川:もうひとつ例を挙げると、すごく屈強な力士と、3歳くらいの子どもが競争をしたらどちらが勝つと思いますかという問いを私はよく使うのですが、そうすると、大抵の人が力士だろうと予想されます。だけど、競争していただくスポーツが三輪車レースですとなったら答えは変わると思うんです。力士って、そもそも三輪車に乗るのが難しいですよね。

どんなスポーツ、どんなコンテクストかによって、どちらが強いかというのは変わるわけです。それって日常生活の中で忘れがちなことなのだけれど、とても大切なことなのではないかなと思っていて、スポーツにはそれを思い起こさせてくれる力があるなと。

杉原:硬直化した見方を逆転させることができますよね、スポーツは。

梶川:そうなんです。この感覚を、できるだけ多くの方に体感いただけたらと思っています。また、Sport For Smile では2014年からスポーツメンタリングという活動を実施しており、現在はDV(家庭内暴力)の被害者家庭の子どもたち(小学校高学年)に大学生のメンターをマッチングして、月2回一緒にスポーツを楽しむ機会を提供していますが、、開会式ではずっと下を向いて何も言わなかった子が、信頼できるお兄さん・お姉さんや友達と一緒にスポーツをすることで、傷ついた心を回復させていくなど、心理的な効果もあります。PTSD(心的外傷後ストレス障害)で挨拶もできなかった子が、友達を見つけた瞬間にパッと顔が明るくなりその子に駆け寄っていくような光景は、活動の中でよく目にします。プログラム名をスポーツメンタリングと呼んでいますが、スポーツをうまくプレイするための活動ではなくて、心が傷つき、子どもらしい生活ができない子たちに、「安心して子供でいられるひととき」を提供すること、そして彼らが自信と人を信じる力を身に着けてもらうことを目的として実施しています。

後編へつづく

梶川 三枝
名古屋大学(文学部哲学科社会学専攻)卒業後、旅行会社勤務を経てパリに語学留学、長野オリンピック通訳、国際会議運営会社、外資系金融等で働き、2003年夏にオハイオ大学大学院スポーツ経営学科留学。NBAデトロイトピストンズ コミュニティ・リレーションズ部にて日本人女性初のインターンとして採用され、スポーツ経営学修士号取得。帰国後は世界バスケットボール選手権でのVIP対応、米系コンサルティング会社マーケティング・コミュニケーション部、2007年8月より東京オリンピック・パラリンピック招致委員会にて国際渉外、マーケティングマネージャーとして勤務。2010年、スポーツのチカラをよりよい社会づくりに役立てることをミッションとし、株式会社 Cheer Blossomを設立、Sport For Smile の企画運営事業とともに、スポーツの社会的責任に関するコンサルティング・サービスを提供、国連事務総長付スポーツ特別顧問や世界経済フォーラムのスポーツアジェンダ諮問委員会委員、アショカフェロー等を招聘してのセッションや世銀総会公式サイドイベント等を実施している。

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー