医療 MEDICAL

ゴールは歩けること。世界初、治療機能搭載の車いす「Able Chair」

Yuka Shingai

ある時は飛行機のビジネスシートのようにフルリクライニングし、またある時は脚立感覚で高い棚にも手が届く。椅子に座った状態からそのまま立ち上がることもできるし、座面を下げて床にスライドすることもできるこの乗り物は、世界初の歩行の治療機能を備えた車いす「Able Chair」だ

車いすユーザーは1日平均10~14時間、車いすに乗って過ごし、6~12回乗り降りが発生するという統計がある。施設に入っていない場合、着替えや食事、トイレといった日常生活動作から、買い物や公共交通機関などでの移動のような手段的日常生活動作まで、介助を受ける時間は週に平均31.4時間、コストにすると314ドルにも及ぶとも言われている。

また、常時車いすを利用することで臀部など体への大きく負担がかかることも懸念事項であり、車いすユーザーの自立性や安全性を高めるべく開発されたのが、この画期的なモビリティだ。

Able Cairは、傾斜も座面も全方位に調整でき、常に心地よい姿勢に変えられるという。体への負担を軽減した姿勢でいられることは、骨密度や肺機能、血流の改善など身体的なメリットをもたらしてくれる。

また、座面の高さを自在に調節して、同じ目線で他者と会話できることは心理的な利点にもなり得るし、シンクやカウンター、棚の高い場所などに手が届き、生活の利便性も向上する。

走行面でも数秒で歩行モードに切り替えることもでき、早期回復にも繋がるなど、あらゆる角度から利用者を支えてくれるのだ。制限速度設定、電磁ブレーキ、運転レバーも搭載し、折りたたんで車に乗せることも可能なので、億劫な外出もこれさえあれば心強いサポーターになってくれそうだ。

現在はアメリカ国内のみでの配送となっているが、今後は全世界で利用できるようになることを期待したい。

 [TOP動画引用元] https://www.youtube.com/watch?v=XKzd52ZZ2l8

(text: Yuka Shingai)

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医療 MEDICAL

新世代の担架「Lenify」は、患者を持ち上げずに“すくい上げる”

Yuka Shingai

常識は、いつ、どこで変化するか分からない。だから、世の中は面白い。事故現場やスポーツでの負傷をはじめ、急病人が出た際に迅速に患者を搬送する担架。この担架の常識を変えてくれる存在が出現した。担架をおろし、患者を担架に移動させる。一見、簡単そうに思えるこの動きだが、メディカル現場の人たちは細心の注意を払っていることをご存じだろうか。体位を動かした衝撃で、患者の様態が悪化するなど、二次被害が起きる危険性を孕んでいるからだ。注意を怠れば、患者を落下させてしまう可能性もあるという。専門的な知識がなくても患者の負担を最小限に抑えられる担架の開発が、アメリカで進んでいるようだ。

「Lenify」はアメリカのカリフォルニア州の美術大学、アートセンター・カレッジ・オブ・デザインでプロダクトデザインを専攻していたDanny Ta-Chin Lin氏によるプロジェクト。幼少期から物を分解したり、組み立てることが好きだった彼が手がけた担架は頭部、上半身の右半分と左半分、下半身、と4つのパートに分離させることができる。この画期的なデザインは国際的なプロダクトデザイン賞で知られるレッド・ドット・デザイン賞を2013年に受賞したほか、同年のインターナショナル・デザイン・エクセレンス賞でファイナリストに選ばれるなど注目を集め、デザイン系のウェブサイトやビジネス誌でも特集が組まれた。

使い方はいたってシンプル、分離した担架を体の下にすべりこませ、ハンドルを回して結合するだけ。患者の体勢が崩れるのを最小限に留めつつ、体のそれぞれの部位をすくい上げることができるのは、このユニークな構造と形状によるもの。体を包み込むようにカーブがついていたり、持ち手がつかみやすくなっていたりと、きめ細やかな配慮がうかがえる。

旧来の担架は患者を持ち上げてから、搬送先で下ろす2ステップが必要だったが、「Lenify」は乗せるだけでOK。患者をより簡単に、安全に搬送することができるのだ。

近い将来、担架は「分離するのが当たり前」という“常識”が、世の中に普及するかもしれない。まだ一般市場での流通には至っていないが、患者の安全を担保する存在として実用化を期待したい。

[TOP動画引用元:https://www.dannylinconcept.com/lenify

(text: Yuka Shingai)

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