福祉 WELFARE

やさしさのバトンを繋げ世界を変える。
一般社団法人PLAYERS「&HAND」【the innovator】

中村竜也 -R.G.C

誰もがいつでも助けを求められ、そして誰もが手助けをできる社会の実現を目指し、一般社団法人PLAYERSが展開する「&HAND」。主にBEACONデバイスやLINEといった今身近にあるテクノロジーを活用しながら、身体・精神的な不安や困難を抱えた人と、手助けをしたい人をマッチングさせ、具体的な行動をサポートすることを目的としている注目のサービスなのだ。

「困っている人に手(ハンド)を差し伸べ、取り合われた手と手から安堵(アンド)が広がっていく」、そんな世界を実現したいという想いから名付けられた「&HAND」だが、具体的にどのようなマッチングサービスを行っているのか、このサービスを始めた理由とともに一般社団法人PLAYERS主宰タキザワケイタさんにお話を伺った。

「私の妻が妊娠中に切迫流産になってしまい、自宅で安静にしていなくてはいけないくなってしまったんですね。当時は、引越しをしたばかりだったので、主治医に診てもらうためには長い時間電車に乗らなくていけない上に、帰りは帰宅ラッシュの時間帯という状況。私としては当然、妻を座らせてあげたいですよね。でもなかなかそうはできない状況で、こう言ったら失礼かもしれませんが、そういう雰囲気ではないサラリーマンの方がすごくスマートに席を譲ってくれて助かった経験があったんです。

そして私自身も妊婦さんが付けるマタニティーマークというものをあまり知らなかったことで、席を譲れていなかったのに気付いたタイミングで、自分の娘が妊婦になった時に、まだ今のような社会だと恥ずかしいなと感じ、それを変えたいと思ったことがきっかけです」そう語ってくれたのは、一般社団法人PLAYERSのタキザワケイタさん。

「それから改めてマタニティーマークのことを詳しく調べっていったんですね。そんななか気付いたのが、グーグルでこのワード検索すると、関連ワードとして “嫌がらせ” とか “嫌い” “付けるな” といったようなネガティブなワードが最初に出てくるんです。これっておかしいじゃないですか。こういった風潮は改善しなくてはいけないですよね」

そして生まれたスマートマタニティーマーク

スマートマタニティーマークと専用アプリ。

実体験の中から生まれたこのアイデアを具現化するためには、なぜマタニティーマークに関するネガティブなイメージが生まれてしまうのか、また、知識のなさから生まれる無関心を改善する必要があった。

「スマートマタニティーマークを作っていくなかで、電車やバスの座席に座るとほとんどの方がスマートフォンをいじるので、妊婦さんの存在や、マタニティーマークに気付かないということに注目しました。そして自らがそうだったように、マタニティーマークに関する正しい情報が届いていない。このふたつを解決すべき課題としてまずあげました。そこから生まれたのが『みんなの優しさを見える化しよう」というコンセプト。

どういうことかと言うと、よく交番にある今日事故が何件ありましたという掲示板のように、今日席譲りが何件ありましたというのを可視化させる。それがあることで、席譲りまでいかなかったとしても、安心が生まれるのではないかと考えたのです。それを元に完成したのが、このアプリとデバイスになります。マタニティーマークがIoTになったということです」

「使い方としましては、まずこのデバイス(左)を妊婦さんに付けてもらいます。そして、電車に乗り立っているのが辛くなった時にデバイスのボタンを押す。そうすると半径2メートルくらいにいるサポーターの方にプッシュ通知が届きます。席を譲れる場合は、譲りますを押すとマッチングが出来るといったシステムです。譲る側にも「譲ります画面」というのがありまして、それを見せることで、声を掛けなくても、この人がサポーターになっているのが分かるというシステムです」



LINEを利用したマッチングサービス

やさしさのバリアフリーを目指す必要性

困っている人がいたら手を差し伸べる。こんなにも当たり前のことが、いつのことからか出来ない世の中になってしまった。そこには気づいているのに誰かがやるだろうという日本人特有の意識が根深く我々の中に刷り込まれてしまっているからではないだろうか。

「席を譲れない理由の一位が、妊婦さんなのか少しふくよかな方なのか分からないというのが本当にあるんです(笑)。もし間違ったら失礼だから結果的に声を掛けないという。

そんなデータを踏まえた上で、鉄道博物館に置いてある中央線の車両を使い、新しいアプリの体験会ということで実証実験を一度やりました。もちろん来場者にこの仕組みのことは伝えていません。そして、参加者には優先席に座ってもらい、いつも通りにスマホをいじってくださいという形をとります。そこで、右手前にマタニティーマークを付けた妊婦さん。左手前にスマートマタニティーマークを付けた妊婦さんに立ってもらい、マーク自体と通知が来た時に気づくのかを実験したんです。

結果は、半数は顔が上がり、気付かなかった残りの半数についてもデバイスが光ることで94%の方が気付けました。ほぼ全員ということですよね。席を譲るってこと自体は大した行為ではないけれど、意外と出来ない方が多い。そう考えると、この仕組みで背中をちょっと押してあげ、成功体験をさせてあげることが重要なんだなと。

先ほども話したグーグルの検索結果にネガティブな内容が出てきてしまうようなことは、無くさなくてはいけないので、最終的にこの仕組みがなくても手助けし合えるような社会を目指したいという問題提起を我々はしているのです。自ら考え、意見を表明することが本質でなければいけないと考えています」

今後は新たなサービスの展開も。

「今、ボタンを押した感がないようにぎゅっと握るだけというコンセプトで、聴覚障がい者向けの新しいサービスをLINEと連携させ作っていて、それがこの卵型のデバイスです。これは押すという行為をなくすことで、より使いやすくなるのではないかと思い、この形状になりました。助けを必要としている人が、どう気軽に知らせることが出来るかに重きを置くことが、今後は課題になってくると考えています。サポーターが助ける前に、助けを求められないと助けられないので。

このような我々が進めているサービスを起点とし、東京2020までに東京圏内のほとんどの人がサポーターになってもらえるよう、これをインフラ化することを目標として動いています。日本が誇るおもてなしの心を、外国人の方に体験をしてもらえたら素敵じゃないですか」

ある人からすれば、席を譲るくらいなんてことないかもしれないが、今やその考えの持ち主こそマイノリティーなんだとタキザワさんと話しをしていて感じた。絶対にそんな図式であってはいけないのだ。やさしさからやさしさが生まれる社会を実現させることで、いずれこのようなサービスが必要としなくなる世界が、まさに理想と言えるのかもしれない。

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 壬生マリコ)

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福祉 WELFARE

「超福祉展」の仕掛け人、須藤シンジ氏に聞いた「ピープルデザイン」という仕事【the innovator】後編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

従来の枠に収まらない新たな発想から生まれた“カッコいい、カワイイ”プロダクトや“ヤバい”テクノロジーを備えた福祉機器を数多く紹介し、国内外から注目を浴びている渋谷発の「超福祉展」。仕掛け人であるNPO法人ピープルデザイン研究所代表理事・須藤シンジ氏の活動は、同展をはじめとする“コトづくり”のみならず、モノづくり、仕事づくり、人づくりなど、領域には多岐に及ぶ。その根底に流れるは、人々の意識をデザインするという形なき思想、「ピープルデザイン」。この生みの親も、また須藤氏である。ピープルデザインが目指す世界とは? 今後、超福祉展はどのように発展していくのか? 須藤氏に、HERO X編集長の杉原行里(あんり)が話を伺った。

モノづくり、コトづくり、仕事づくり、ヒトづくり。
打てば響くのは、次世代を担う若者たち

杉原行里(以下、杉原):世界に先駆け、超高齢化社会に突入している日本ですが、マイノリティや社会的に弱い立場に置かれている人たちと混ざり合う社会づくりにおいて、他の先進国のほうが、より進んでいるような印象を受けることもしばしばあります。その点については、どのようにお考えでしょうか?

須藤シンジ氏(以下、須藤):非常に難しい質問ですが、ひと言で言うなら、もともと遅れている、ということになるかと思います。1996年に母体保護法が制定・公布され、その後、障がい者自立支援法が2005年に制定され、2006年に施行されましたが、それ以前のこの国の障がい者は、いわば、法律的には人として認められているとは言い難い現実があったわけです。先進国比較でいくと、社会福祉などの面では、およそ50年は遅れているのではないでしょうか。

遅れというのは、すなわち、不都合な現実。だからこそ、キレイな言葉を並べるより、その不都合な現実を直視して、掘り下げていき、埋めるべき穴は埋め、捨てるべき部分は捨て、作り直す部分は作ることが、必要だと思います。その一方、この戦後70余年の間に築き上げられてきたやり方では、おそらくこの先、永続性が担保できないだろうし、新たな選択肢が必要になってくるだろうというのが、個人的な意見です。それゆえ、ここ6年間ほどは、「モノづくり」、超福祉展をはじめとする「コトづくり」、障がい者のための「仕事づくり」、そして、次世代の作り手や送り手を育んでいく「ヒトづくり」の4つの領域をベースとした活動を通して、さまざまな提案を投げかけることに力を注いできました。

杉原:周囲の反応はいかがですか?

須藤:圧倒的に言えるのは、学生さんなど、次世代の反応が極めて高いということですね。打てば響くという実感があります。学生に関係する活動をいくつかご紹介させてください。まず、この「JOYFUL」は、昨年の春から、都立高校と県立高校で使用されている英語の教科書です。「A Cool Way to Live Together」という見出しと共に、ピープルデザインのモノづくりやイベントなどをご紹介いただいています。僕たちの活動をピックアップしてくださったのも、非常に若い研究者たちが集っている教科書づくりのメーカーさんです。

国際、大学、自治体。
多彩な連携体制で実現した認知症プロジェクト

須藤:もうひとつは、この2年間に渡って、国内外の大学生と共に行ってきた認知症の共同開発プロジェクト「People with Dementia Project」。これは、オランダのデルフト工科大学との国際連携、慶應義塾大学大学院 博士課程教育リーディングプログラムPLGS、青山学院大学 法学部 法務研究科、教育人間科学部、専修大学 ネットワーク情報学部 ネットワーク情報学科との大学連携、認知症フレンドリージャパン・イニシアチブ(DFJI)との団体連携など、多様な連携によりスタートしたプロジェクトです。学生たちは、現場に入り、各自がピックアップした問題点に対する解決策を提案します。それらを単なるアイデアに留まらせるのではなく、渋谷区や川崎市との自治体連携によって、社会で実装・実験していくというものでした。

今日ちょうど、ここに来る前に、この認知症プロジェクトの最終報告会を行っていたのですが、例えば、認知症の当事者の状況が体験できるVRの開発や、祖父母が元気な時から、孫が聞き手となって、さまざまな想い出を書き留めていき、もし、認知症になった時は、家族との間での会話を促進させていくためにそれらを使うというものなど、学生たちからは、さまざまな提案が上がりました。

また、認知症の進行によって、時間と場所の認知能力が低下することを踏まえて考案された、朝夕の歯みがきの時に、灯りが点く歯ブラシフォルダーや、外出中に自分の居場所が分からなくなるなど、困りごとがあった時に握ることで、家族にSOSを知らせることができるアクセサリー的なものなど、デルフト工科大学の学生からは、今あるテクノロジーを使い方ひとつで実装できる提案などがありました。なかには、ケーススタディとして研究成果を掲げているものもあり、仕入れ値から販売場所に至るまで、社会実装を踏まえたディテールが微細に渡って考慮されていました。

杉原:海外の大学や大学生の学生たちは、社会に繋がるチャンスが多いですよね。国は異なりますが、僕もイギリスの大学でプロダクトデザインを学びました。大学内で行う課題のプレゼンテーションなどは、企業の方などが普通に見に来られたりしますし、そこで披露した提案や研究内容が魅力的であれば、「一緒にやりませんか?」と、ダイレクトに声が掛かります。言うなれば、プロの世界に直結しているからこそ、真剣度が違う。

須藤:その通りだと思います。企業や投資家が、有能な学生本人にアプローチした一例として、2014年当時、デフルト工科大学大学院の1年生だったAlec Momont君の動画プレゼンテーション「Ambulance Drone」をご紹介したいと思います。

須藤:毎年、ヨーロッパで心停止に陥る人は100万人にも上るが、従来の応急手当では、対応に極めて時間を要することから、ほんの8%の人しか助からない。そこで、目的地に1分以内で到着できる、時速100kmで飛行するAED搭載アンビュランス・ドローンを設計。これによって、生存する確率を80%に上げることを可能にした――。この新しいドローンの開発と、通報からわずか1分足らずで迅速に対応できるという方法論の提案は、非常に高く評価され、Alec君は、ある有名企業のシニアマネージャーに大抜擢されました。特筆すべき点は、この動画が発表から4年ほどで、約946万アクセスに達していること。すごいですよね。

同大学の人間工学博士のリチャード・グーセンス教授は、教え子であるAlec君の開発内容を、第1回目の超福祉展で登壇した際に話してくださいました。また、ピープルデザインは、同大学最先端研究所のコンセプトのひとつにもなっています。

杉原:素晴らしい展開です。

須藤:高齢者が増加の一途を辿る中、そこにあるさまざまな課題解決の過程を可視化していくことは、超福祉展のタイド(潮流)のひとつでもあります。

超福祉展、ピープルデザインがもっと面白くなる
二つの“種まき”

杉原行里:超福祉展では、WHILLをはじめ、スズキセニアカーやヤマハ発動機株式会社さんの電動三輪コミューターなど、毎年さまざまなパーソナルモビリティが披露されています。今後は、どのような展開を予定しているのですか?

須藤:世界的には、2015年9月の国連サミットで採択され、2016年1月1日に正式に発効された17の「持続可能な開発目標(SDGs)」を実現するために、2030年に向けて、各国での準備が着々と進められていますし、日本では、超高齢社会に突入するとされる2025年がやがてやって来ます。より広い視点で見ると、大切なのは2020年の先だったりしますが、皆さんと同じで、超福祉展も、2020年をひとつのメルクマールとして捉えています。

モビリティも、さまざまな困りごとを解決するために生まれたプロダクトやサービスなどについても、今後、2018年、2019年、2020年の3回の開催において、ホップ・ステップ・ジャンプの段階を踏みながら、未だ見ぬ将来の芽吹く時期に向かって、それぞれの針路をきちっと見せていきたいと考えています。プロトタイプが本格的に社会実装されていくその過程において、「こういうものがあるんですけど、どうですか?」と提案を投げかけながら、世に顕在化させていくことは、イノベーションを起こす人たちが“種まき”する姿も可視化させていくということですね。

2016年下期より、デフルト工科大学のリサーチフェローに就任させていただき、最近では、オセアニアの大学でも、教鞭をとらせていただいていますが、前編でもお話したように、僕たちの活動領域のひとつである「ヒトづくり」においても、より一層、種まきに精を出して、次世代を育てていきたいと思います。

前編はこちら

須藤シンジ(Shinji Sudo)
1963年、東京都生まれ。有限会社フジヤマストア/ネクスタイド・エヴォリューション代表、NPO法人ピープルデザイン研究所代表理事。デルフト工科大学/Design United/リサーチフェロー。大学卒業後、大手流通系企業に入社。販売、債権回収、バイヤー、宣伝、副店長など、さまざまな職務を経験する。次男が脳性まひで出生したことにより、37歳の時、14年間勤務した同社を退職し、自身が能動的に起こせる活動の切り口を模索し始める。2000年に独立し、マーケティングのコンサルティングを主な業務とする有限会社フジヤマストアを設立。2002年、ファッションを通して、障がい者と健常者が自然と混ざり合う社会の実現を目指し、ソーシャル・プロジェクト「NEXTIDEVOLUTION(ネクスタイド ・エヴォリューション)」を開始し、現在に渡り、「意識のバリアフリー」をメッセージする活動を展開中。その後、「ピープルデザイン」という新たな概念を立ち上げ、障がいの有無を問わずハイセンスに着こなせるアイテムや、各種イベントをプロデュース。2012年には、ダイバーシティの実現を目指すNPOピープルデザイン研究所を創設し、代表理事に就任。2015年より、従来の枠に収まらないアイデアから生まれたクールな福祉機器やテクノロジーを紹介する「超福祉展」を主催している。2016年下期より、デルフト工科大学/Design United/リサーチフェローに就任。

NPO 法人ピープルデザイン研究所
http://www.peopledesign.or.jp/

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 佐藤 拓央)

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