テクノロジー TECHNOLOGY

世界の食料問題を畜産スマートカメラが変える! AIと歩むコーンテック社の先進的な取り組み

富山英三郎

コーンテック社はこれまで、「自家配合プラントの構築」と「飼料マネジメント」を併せて提案することで畜産農家へのコンサルティングをおこない、「手間」と「コスト」を削減する試みをおこなってきた。その一方、深度カメラを用いながらAI技術を駆使し「畜産の見える化」に関する実証実験をおこなっている。彼らが目指す「スマート畜産」の現在について、CEOの吉角裕一朗氏に話を訊いた。

飼料を自家配合すれば
20~30%以上のコストダウン

コーンテックの主な事業は、「自家配合プラントの構築」と「飼料マネジメント」にある。そもそもなぜ自家配合プラントを勧めるかといえば、家畜の餌にかかる割合いが経営コストの60%以上を占めるほど大きい点だ。畜産が儲からない体質の要因であり、ゆえに後継者不足がおこりやすいという悪循環に陥っている。

一方、餌を自家配合にすると、地域の食品残さを利用して製造される「エコフィード」なども活用でき、輸入飼料だけに頼らない畜産リサイクルを構築することができる。事実、同社のシステムを導入した100カ所以上ある畜産事業者は、20~30%以上のコストダウンを実現させている。

「自家配合プラントは大きさもいろいろあり、飼育数100頭規模の業者から、1万頭規模の大企業まで導入できます」

AIを使い餌の最適な
配合バランスを導き出す

コーンテック社が面白いのは、そこにIoT技術を組み込もうとしている点にある。そこから得られるビッグデータをもとに、餌の最適な配合バランスをAI分析することで、これまで職人の勘に頼ってきた家畜の生育を「見える化」させようとしている。現在、実証実験をしているのは養豚だ。

「飼料の自家配合自体は難しいことではないんです。しかし、餌の栄養バランスの計算はとても複雑です。豚という生体が食べているものはデータも不規則で、これまではある程度の平均値でしかやれていませんでした」

家畜の生育には「気温」や「湿度」の影響が大きいことはこれまでも知られていた。家畜のエネルギー消費の半分は放熱によるもので、気温が暑ければ放熱しにくく、寒ければ放熱しやすい。夏と冬では食べる量が2倍程度違う。ゆえに、夏場はたんぱく質を濃くし、冬場は薄くするなどの経験値はあった。

「それもざっくりとした経験値であって、本当に機能していたかはあやしいんです。一般的に豚が出荷されるまでに160~180日かかります。最終的に110kgになりましたと言っても、体重が増えた要因を追うことができない。結果論でしかないわけです。
そこを追うためには、時間や日にちごとのデータを積み上げてグラフ化していくしかない。ある一週間の体重の伸びが悪い場合、それは台風がきて気圧が下がっていたからだと分析できたとします。すると、次に台風がきたときに対処ができるようになるわけです」

畜産スマートカメラ導入で
わかったこと

現在コーンテック社では、豚の高さや幅などを計測できる深度カメラを使用し、24時間体制の実証実験をおこなっている。肩幅や頭の大きさ、脛の長さなどの比率がわかれば体重を割り出すことも可能だ。

「体重以外にも、生死の判断、妊娠の判断、活動量の測定、何かしらの異変で豚舎の隅に豚が集まっているなどもわかります。今後はそういった挙動を観察することで、豚コレラなどの疫病を察知できるかもしれません。カメラを使えば、たとえ3万頭いてもすべてをロックオンできますから、人間が見たこともない数値が出てくることもありえます。今後新しいジャンルになり、ゲームチェンジが起きることが予想されます」

畜産スマートカメラを導入することで、上記のような「異常検知」や「人件費の削減」という点も重視しているが、コーンテック社の考えるミッションはもっと大きい。

「貿易の問題も含め、食料問題は世界的におこっています。そんな時代に効率よく食料を生産することは喫緊の問題であり、それこそが弊社のミッションです。畜産スマートカメラを導入することで、家畜は放牧したほうが良いという結果が生まれるかもしれない。そうなれば、近年欧米を中心に起きているアニマルウェルフェア(家畜の生活の質を高める飼育)の動きともリンクできます」

コーンテックのAI技術は
車の自動運転と近い

一般的に、畜産業は農業以上に技術の進化が遅れていると言われている。そんな業界にAIを持ち込むという発想の源は、吉角社長がかつてECサイトで車のバッテリーを販売していたなどIT畑出身という側面が大きい。

「車の燃費も、50年前ならリッター4~5kmが当たり前でしたが今や常識外れ。それはコンピューターのシミュレーション技術とデジタル制御によるものです。その裏側にはCPUの進化がある。コンピューターの精度が高まるほどに処理量の桁が変わり、試行回数が多くなって効率がアップする。畜産においても、生体をデジタル化しようとしてもこれまでは技術自体がなかったんです。でも、近年は高性能カメラも安くなり、いろいろと安価にできるようになった。弊社が取り組んでいるAIの領域も、車の自動運転に近くなっています。難易度は高いですが、そのぶん独自性が出るので面白い状況になってきています」

世界的に見ても、AIエンジンそのものを作ろうとし、サービスをクラウド化させようとする試みはほぼない。

「カメラや数値、データ、豚の飼育などは地域性もなく非言語の領域なので海外との垣根はないと思います。いまは豚が多いですが、今後は牛、鶏、馬、羊、山羊などに広げていければと考えています」

畜産業界を変える試みに
多くの個人投資家が賛同

この先見性と確固たるヴィジョンこそが、畜産業界に留まらず広く一般から注目されている理由でもある。その証拠に、ベンチャー企業への投資を通じて(未公開)株主として応援ができる日本初のマッチングサービス「FUNDINNO(ファンディーノ)」にて、2回の募集に対し500人、総額約5000万円の資金を調達している。

「農業や畜産業は業界が古いこともあって、マネーとの相性が悪いんです。そんな状況下で、VC(ベンチャーキャピタル)の都合で価格を決められるよりは、FUNDINNOのようなオープンな場所で、一般の方に買ってほしかった。市場が決めた価格のほうが正しいと思っていますから。ですので、自分たちの力を試す意味でも、よりパブリックになる意味でも、半IPOのようなかたちでスタートラインを切らせてもらいました」

結果を見れば、アグリテックの世界に関心を持っている人たちは想像以上に多いことがわかった。

「畜産スマートカメラの有料版は11月にリリースをする予定です。今回わかってきたのは、餌の領域だけではなく、これまで人間の目でおこなってきた観察や飼育の多くをカメラで置き換えられるということ。そうなると、必ずしも自家配合プラントとセットで販売しなくてもいい。また、実証実験を重ねることで、自分たちでは考えつかなかった発想が生まれてきています。これからどんなことが起きるか、私たちも楽しみです」

(text: 富山英三郎)

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テクノロジー TECHNOLOGY

あの“痛気持ちいい”を完全再現? 「甘噛みハムハム」の癒しが 今求められるワケ

長谷川茂雄

犬や猫と暮らしたことがある人なら、きっと「甘噛み」をされた経験があるだろう。その感覚を的確に表現するのはなんとも難しいが、ユカイ工学株式会社が世界的な家電見本市CES 2022で発表した“甘噛みハムハム”は、それを体感できるロボットだ。コロナ禍が世界を覆い、コミュニケーションの重要性が再認識されて久しいが、このプロダクトはそんな今だからこそ、日常に新たな癒しや気づきをもたらす画期的なツールになる可能性がある。そのユニークな魅力に迫ってみた。

あの幸せな感覚を
いつでも体感できれば……

ユカイ工学は、その名の通り“ユカイ”な会社だ。「ロボティクスで世界をユカイに」。そんなスローガンを掲げ、これまでも家族間のコミュニケーションをサポートするロボット「BOCCO」や、しっぽ付きのクッション型セラピーロボット「Qoobo」などを発表してきた。

壮大なビジョンを謳い、合理的な社会課題解決型プロダクトを前面に押し出すベンチャー企業は少なくないが、ユカイ工学の描き出すアイデアやプロダクトには、それらとは一味違う、どこか素朴で生活に寄り添う優しさとオリジナティが宿っている。そんな同社が2022年に米国ラスベガスで開催された見本市CESでお披露目し、一躍注目を集めたのが“甘噛みハムハム”だ。

なんとも脱力感のあるネーミングのこのロボットは、見た目は癒し系のぬいぐるみ。機能は、口に指を入れると甘噛みをしてくれる、という極めてシンプルなもの。

指を入れれば、即座に“甘噛み”が始まる。

開発チームの主要メンバーの一人、冨永 翼氏によれば、アイデアの出発点は実体験だという。

「自分の子供の歯が生え始めて、甘噛みされた時に味わった、あのなんとも心地いい感覚をずっと体験できたら……」。そんな発想からプロダクトイメージが具現化されていった。

ユカイ工学には、年に一度“メイカソン”と呼ばれるプロダクトを発表する社内イベントがある。全社員が5〜6名ほどのチームになり、アイデアを出し合いモノづくりをして発表をする。“甘噛みハムハム”は、そこで高評価を得て商品化に至った。

いつでもどこでも甘噛み体験ができる

一度指を入れたら
病みつきになる“ハムゴリズム”

ところで“甘噛み”と一口に言っても、感じ方は人によって違う。そのため、噛み具合は数十種類のバリエーションがある。指を入れるたびに、強さやテンポが変わる“ハムゴリズム”と呼ばれるプログラムが発動するのだ。それにより、一度指を入れると病みつきになってしまう人が多いという。

甘噛みは、された側がした側に対してポジティブな感情を抱くようになるという研究結果もある。強からず弱からず、心地よい塩梅で他者を噛むというのは、高度なコミュニケーションであることは間違いない。

“甘噛みハムハム”の開発メンバー。右から3人目が冨永氏。

とはいえ、それを体感するには、ペットや先述の冨永氏のように、歯が生えたばかりの乳児と接するしかない。それは限られた条件で、本来、お手軽にかつ日常的に誰もが味わえる訳ではないのだ。それをリアルにいつでも体感できるというのは、まさに盲点を突いたプロダクトだと言えるではないか。

自分の好きなキャラクターに
“甘噛み”されることも可能

昨今、日本のテクノロジー開発は、大国や新興国に対してさまざまな側面で遅れを取っているという話はよく聞く。一方で、人の感情や感覚をきめ細かく読み取り、それを元にケアをするというような、いわばソフトを加味したハード開発に関しては、独自性が極めて高く、世界でも注目を浴びることは多々ある。

今回発売されたのは、犬と猫の2体。クラウドファンディング:https://camp-fire.jp/projects/view/362297

“甘噛みハムハム”は、まさにそんな日本的な着眼点、発想が結実したプロダクトではなかろうか。今後、海外展開も視野に入れているとのことなので、世界では日本発の“甘噛み”に対してどんなリアクションがあるのかも注目したい。

この“甘噛みハムハム”の甘噛みを生み出す機構全体は、通称“ハムリングシステム”と呼ばれているが、同システムは、さまざまなぬいぐるみやキャラクターに移植が可能だ。

ハムリングシステムは、心地よいと感じる歯の形状にもこだわって作り込まれた。

加えて、現在、同プロジェクトは、CAMPFIREを介したクラウドファンディングで支援者を募っているが、「ハムハムデザイン券」と呼ばれるオプションチケットを購入すれば、自分のイラストなど、自由なアイデアを反映したキャラクターを原案に、完全オリジナルの“甘噛みハムハム”も制作できるという。

日常のふとした瞬間に、自分が愛してやまないキャラクターからの甘噛みタイムで一息つく。閉塞感の漂う昨今の事情を鑑みても、そんな新しい癒しを求めるニーズは、きっと高いに違いない。

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(text: 長谷川茂雄)

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