対談 CONVERSATION

移動センシングが営業戦略と直結!? プラットフォーマーを狙うベンチャー

宮本さおり

ハンドルを握るだけで、ドライバーが行きたい先や、やりたいことを予測してくれる、そんな車との付き合い方ができる世の中が目前に迫ってきている。移動を軸にセンシング技術を駆使することでそんな未来を描くひとりが、株式会社スマートドライブCEOの北川烈氏だ。DX2.0という構想を掲げる北川氏に直接お話を聞いた。

データ蓄積が可能にする
一歩先の日常

杉原:DX2.0を掲げておられますが、具体的にどういうものなのでしょうか。

北川:DX2.0というのは移動にまつわるデータを集積し、可視化だけでなく問題解決のために活用して試みです。ドライブレコーダーはもちろん、今後は様々な移動にまつわるセンサー、コネクティッドカーなど、様々なデバイスのデータを蓄積し、つなげていくと、いろいろなことができるようになると思っています。その中で、プラットフォーマーの役割を担うのがスマートドライブの役目だと考えています。例えば、車を購入したとします。車を安全に動かすためにはタイヤの減りに合わせて交換するなど、メンテナンスが必要になりますが、それを定期点検ではなくデータに基づいてする方はあまり多くありません。

杉原:そうなんですよね。僕は車が好きで、運転も好きなので、タイヤを交換しない人は信じられないと思うのですが、タイヤの減りが原因でスリップ事故に繋がる例はいくつもありますから、メンテナンスは大事ですよね。

北川:そうなんですよね。だから、例えば、タイヤの減り具合をセンシングして、替え時を教えてくれるようにするとか、そういうこともできてくる。

杉原:僕は北川さんの事業に大変共感していて、そのデータというものが、優位性を保ちながら取れる状況になってくると、いままで普通に生活していたものが、バリューになってくるわけじゃないですか。例えば、僕は高齢者が増えていることって結構ラッキーなことだと捉えています。高齢者が増えた分だけモニターが増えた!と。

先進国という言い方が合っているのかは分かりませんが、他国と比較してもいち早く超高齢化社会を迎えるということは、ソフトウェア・ハードウェアを含めて新たなサービスが生まれやすい環境ともとれます。そして、それを輸出できるわけで、仮に、高齢者にまつわるデータバンキングができれば、それをトレースすることだってできる。

北川:そうとも言えますよね。

杉原:前回の北川さんのお話からすると、このDX2.0ともうひとつ、企業運営に関わる移動にまつわるセンシングをされていて、そちらはDX1.0と呼ばれていますが、スマートドライブさんで手掛けられているこの2つの事業というのは、どちらも同じくらい注力されているんでしょうか?

北川:そうですね。例えるなら…プレイステーションとかそういったものに近いかもしれません。いろいろな方が弊社のプラットフォーム上にサービスを作って欲しいと考えていますが、プレイステーションのように各自で色んなゲームを作ってもらい、あとは放置というわけにはいかず、自分たち自身でもおもしろいソフトを作ったり、パートナー企業の支援もしないと誰もこの上に作ろうと思わないというのと同じで、私たち自身もプラットフォームを使って、いいなと思えるサービスを作るし、それがあるからパートナーがこの上に何かを作りたいと思ってくれる。そこの両輪だと思っているので、どちらも同じくらい力を入れています。

狭い意味のMaaSだけでは
価値があぶれる時代へ

杉原:お聞きしたいのが、御社のビジネスの側面で切り離せないのが、世の中で言われている『MaaS(Mobility as a Service)』だと思うんですけど、僕は東京でのMaaSについては少し厳しいのではないかなと感じているんです。日本は海外と比べると既にMaaS化されているというか。個人的には日本においてモビリティーサービス的なソフトウエアが必要になってくるのは、過疎化が進んでいたり高齢者の多い地域なんじゃないかなと。

北川:私もそのとおりだと思います。実際東京に住んでいたら、グーグルマップとスイカがあれば全部できてしまうので、MaaSというのはニーズが低いかもしれない。やはりあるとすれば、杉原さんのおっしゃる通り地方とか過疎化の進んでいる地域なのかなという気はしますね。

私がよく言っているのは広義のMaaSと狭義のMaaSで、今注目されているMaaSって、もっと広い領域までカバーされていて、我々のようなデータプラットフォームもそうですし、お客様のデータを集約してお客様と接点を持つような会社もMaaSと言われることが多いと思うんです。これまでは自動車メーカーは○○がいい、保険会社は○○がいいといったようなBtoCで顧客に直接個別のマーケティングをしていたものが、間にMaaSの事業者が入っていくことで、エンドユーザーからすればどんな車だろうが保険だろうが関係ない。これまで直接顧客接点を持っていた自動車メーカーや保険会社が、MaaS事業者を相手にする比率が高まり、そういうBtoBのビジネスに変わっていくというところが一番大きな変化かなと。そういう意味では我々もお客様の情報を預かって、データによっていろいろと最適化していくことで、ある意味ではMaaSに近い領域をやっていけるんじゃないかなと感じています。

杉原:広義となると、僕らの手掛けているモビリティーなんかも入ってくると思うんですけど、狭義なところでいくと、2025年には約30%が65歳以上になるといわれていますが、それは中央値であって、地方に至ってはすでに40%近い。データサイエンティフィックなところで言うと、バスがいつ来るのか、そのバスを利用する高齢者はいつ買い物に行くのか、その時間帯にバスは必要なのかということはスマートドライブさんの事業でされていることを活用すれば最適解を導き出せますよね。ということは、イノベーションが起きやすい。

移動を戦略と捉え
営業活動に役立てるためのセンシング

北川:地方にある移動式スーパーとか、EVのカーシェアとか、いわゆるGoogleアナリティクスのリアル版のようなことは今まで可視化されていなかったんですけど、WEBサイトでいうGoogleアナリティクスみたいなものが弊社にはあるので、それを使うと、何時にはどういうお客様が何人来てとか、7時以降は帰りのバスだけでいいとか、ここにカーシェアを置いても使わないからこの時間帯はこっちに持ってこよう、というようなことが出来るんですよね。

杉原:だから、スマートドライブさんのプラットフォームを使えば、要は僕らがそれを使う技術を持っていれば、そのプラットフォームを使うユーザーになれるということですよね。つまり、オープンプラットフォーム。

北川:そうです。裏側に我々が入っているということです。ですので、MaaS事業者と言われる方々の裏側に我々がサポートとして入るというようなケースも出てくるということです。

(プロフィール)
北川烈(きたがわ・れつ)
SmartDrive 代表取締役 (CEO) 。慶應義塾大学在籍時に国内ベンチャーでインターンを経験、複数の新規事業立ち上げに参加。その後、1年間米国に留学、エンジニアリングを学んだのち、東京大学大学院に進学。研究分野は移動体のデータ分析。その中で、今後自動車のデータ活用、EV、自動運転技術が今後の移動を大きく変えていくことに感銘を受け、在学中にSmartDriveを創業した。
https://smartdrive.co.jp

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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対談 CONVERSATION

共有カルテを活用したチーム在宅医療で、患者の希望する「生き方」をサポート

HERO X 編集部

2006年に在宅医療専門のクリニックを開設して以来、地域医療の理想を追及する先進的医療機関として、画期的なチーム医療に取り組む医療法人社団悠翔会。理事長・診療部長の佐々木淳氏にお話を聞いた。

「私は完全に自由」在宅医療で出会った
ALSの患者さんが教えてくれたこと

杉原:まずなぜ、在宅医療にフォーカスしようと思われたのですか。

佐々木:多くの患者さんは、医師に対して「病気を治してもらう」「健康を取り戻してもらう」と期待しています。医者も、医学部では病気を治すための方法を学び、目の前の人を助けたり、手をかけなければ死んでしまう人を助けられることにやりがいを感じています。僕もブラックジャックに憧れて、「何でも治せる医者になりたい」という思いから、医者を志しました。

研修でいろいろな診療科を経験し、キャリアを重ねるうちにとどんどん専門分野に近づいていき、5年半ほど経ったときには、ひたすら肝細胞癌のラジオ波治療をする医師になっていました。この病気の場合、完治は難しく、手術・入院を繰り返しながらやがて亡くなっていく患者さんを多く見て、「亡くなるまでの時間を治療に費やすことは本当に患者さんのためになっているのだろうか」「人の死に医療はどこまで関わるべきなのだろうか」と思うようになりました。

そんな時、アルバイトをした在宅医療の現場で、ある患者さんに出会いまして、その方はALSという難病でした。僕は内科医時代、ALSの患者さんとご家族に「呼吸が止まったときどうしますか。とてもつらいですよ」というスタンスで話していました。喋れず、食べれず、排泄も自力でできないなどの状況を話すと、多くの人は悲嘆にくれて「人工呼吸器をつけない」という選択をすることが少なくありませんでした。しかし彼女は人工呼吸器をつけて治療を続けている方でした。

彼女はそんな私のことを見抜いて、ある日ALSのコミュニケーションツールを使って次のように語りかけてきました。
「先生の目から見ると完全に寝たきりの患者かもしれないけれど、私は完全に自由です。毎日忙しくて寝ている時間がないくらいです。先生は重力に支配されて地上を這いずり回って働かなくてはならない。私は意識しなくても機械が24時間命を維持してくれて、無限の意識の宇宙の中を自由に飛び回ることができる。体が動けなくなるにしたがって意識の世界が広がっていき、今はとても自由なんです」

その言葉に「こんなことをやっている場合じゃない」と。それが2006年3月のことで、その二ヶ月後の5月に開業届を出し、6月に診療をスタートしました。

杉原:それはすごいですね。

回復が見込めない場に医師としていることは、非常に居心地の悪いものだったと語る佐々木氏。

佐々木:人間が幸せに生きるためには、「健康、お金、社会的繋がり、選択の自由」の4つが必要です。健康については、例えば年齢とともに身体が衰えたとしても、それをモビリティで補うことができれば、健康寿命は無限に伸ばすことができます。お金についても、経済的な豊かさが必ずしも幸せにはつながらないことは多くの人が感じているのではないでしょうか。

日本において、社会的つながりと選択の自由は深刻な問題だと思います。高齢や病気で家から出られなくなると、どんどん孤立していき、東京だけで毎年6,500人が孤独死してます。こんなに豊かに見える国で、とても寂しいことです。選択の自由についても、支えてくれる人がいなければ、一人の力で叶えることはできません。自分の生き方を選択できることは、人間の尊厳そのものです。最大限楽しんで旅立っていくために、われわれのコミュニティはどうあるべきかってことはもっと話し合わないといけないと思いますよ。

集まったデータについての活用法を聞く編集長杉原(左)。

杉原:実際に佐々木さんが実践している在宅医療は、「共有カルテ」と「チーム医療」という画期的な取り組みによって、在宅医療の質の向上を実現していますよね。

佐々木:チームでシステマティックに取り組むことで、「100点はだせなくても85点以下は絶対に出さない」というふうに、業界全体の質の向上に努めています。

従来の日本の在宅医療は密室のソロ活動で、カルテもブラックボックスです。目の前にいる人が弱っていくのを見ているだけなら誰でもできます。そのような状態が、質の低下を招いてしまうのです。

患者さんにとって一人の医師にずっと診てもらえるとうのは理想的に思えるかもしれませんが、それは名医であるということが前提です。一人残らず名医であるというのは非現実的ですが、一人の医師の足りないところや失敗をチームで補ったり、間違いを指摘したりすることは可能です。それには、チーム全員がカルテを閲覧できるように公開する必要があります。

杉原:これを日本で実践するというのはとてつもないことですし、自信があるからこそだと思います。医療という閉鎖的な分野でとても革新的な取り組みだと思います。

佐々木:患者さんの同意さえあれば、患者の家族や看護師・ケアマネジャーも、自分のアカウントを発行すればカルテを見ることができます。だから診療を適当にできないということもあります。

杉原:なるほど。オブザービングのシステムとしても機能しているんですね。

佐々木:本院のチーム医療体制は、常勤は月から金曜の日中のみで、夜は夜間のチーム、週末は週末のチームと担当を分けています。それによって医師のワークライフバランスにも配慮するとともに、「他のチームに迷惑はかけられない」という相互のプレッシャーも発生します。良い意味で緊張感も生まれ、「なにか起きたらいつでも呼んでください」ではなくて、昼の担当医師が夜間も何かが起きないよう確実にしておくという意識が強くなります。

チーム医療がもたらす安心について語り合う二人。

杉原:「24時間365日いつでも駆けつける」のではなく、「24時間365日安心して過ごせる」が本質ということですね。

佐々木:もちろん万が一には対応できるようにはしていますが、夜中の2時に医師が来てくれることよりも、夜中の2時に医者を呼ばなくて済むことのほうが、患者にとってハッピーじゃないですか。

杉原:まさにその通りですね。

どんなドクターでも名医と同じくらい
洗練された医療が提供可能になる

杉原:実際にデータベースの活用方法としてはどのようになっているのですか。

佐々木:常時5万人くらいの症状が蓄積されていくので、一人では不可能な数の統計的なデータが集まっていきます。そこからいろいろなものを抽出して、「患者の満足度と相関が高いのはどれか」とか「どんな治療が最適なのか」を解明していくことができます。

たとえば高齢の方が罹りやすい尿路感染症の一つに、膀胱炎があります。多くは大腸菌が原因なのですが、大腸菌にも種類があるため一般的な抗菌薬が効かないというケースが多くあるんです。培養検査によって有効な抗菌薬を特定することも可能ですが、数日がかりになってしまいます。それがデータベースを分析すると、地域によって効果の出ている抗菌薬に違いがあることがわかり、「この地域で膀胱炎だったらこの薬が効く」という判断ができるようになったのです。

また診断の難しい高齢者の肺炎について、老人ホームと協力してデータを集めているところです。センシング機能つきのベッドでデータ集積をしてみたところ、誤嚥性肺炎を起こす2日くらい前にほんのわずか10%ほど呼吸回数が増え、そのあとにどっと症状が現れることがわかりました。症状が出てしまうと酸素吸入や点滴などが必要になり、しばらく食事もできなくなりますが、その前に飲み薬などで早期治療ができれば日頃と何ら変わりなく食事などをしながら過ごすことが可能になるんです。

名医の勘と言われていたようなものが明らかになり、どんなドクターでも、名医と同じくらいの洗練された診断と、精度の高い薬の選択・治療ができるようになるはずです。

杉原:素晴らしいですね。このようにデータを生かした未病対策が進んでいけば、日本は医療費が要らなくなるんじゃないかなって思います。まだまだ面白い未来が待っていますね。

医師は人がそれぞれ望む人生を
ゴールまで走るためのナビゲーター

杉原:日本でいうと、高齢化の進む過疎地の医療問題も大きな課題ですね。

佐々木:15,00人くらいの集落単位でデータを集め「私たちが本当に必要としている医療とは何か」ということを過疎地で実証したいと考えていて、去年から鹿児島県の与論島などで調査を始めています。

医者は本人や家族と寄り添って、その人が自分の人生をどのようにプロデュースしたいのかという希望を叶えるために、健康サポートという面からちょっとアドバイスをしていく存在になるべきです。目先の治療ではなくてもっと先を見て、アドバイスすること。車が壊れたら直すのではなく、ゴールまで走れるようにナビゲートしていく、これからの医者はそんな存在になれればいいなと思っています。

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(text: HERO X 編集部)

(photo: 増元幸司)

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