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枕元に置くだけで、赤ちゃんが泣いている理由を判定!「クライアナライザー・オート」の秘密

富山英三郎

今年の1月にアメリカはラスベガスで開催された、世界最大級の電子機器展示会『CES 2020』。そこで初出品されたのが、枕元に置くだけで赤ちゃんが泣いている理由がわかるプロダクト『CryAnalyzer Auto(クライアナライザー・オート)』。開発したのは、「テクノロジーで子育てを変える」をミッションとする日本企業のファーストアセントだ。今回は、赤ちゃんの泣き声診断が生まれた背景と仕組みについて、同社のCEO(最高経営責任者)である服部伴之氏に話を訊いた。

子育てのリアルな悩みから
アプリ開発を着手

「最初から育児関連だけでいこうと思っていたわけではないんです。会社を立ち上げる少し前に、一人目の子どもが生まれまして、その時に育児って大変だなと実感をしたんです。特に妻は子どもができる前とはだいぶ変わりまして、かなりストレスを抱えているなと。当時は恥ずかしながら『産後うつ』という言葉も知らず、どうしたのかな? と思っていたんですが、いろいろと調べて『産後うつ』という言葉を知って、あーこれがそうなのかなと理解することができました」

子どものいる家庭では「あるある」のひとつだが、奥様が美容室などに行く間にミルクを頼まれ、「何ccあげればいい?」と聞くと、「そんなことも知らないの?」という反応をされる。数週間後、同じような状況で、また怒られるかなと思いながら改めてミルクの量を聞く。これに似たような状況が服部さんにもあったという。

「あるとき、妻が手書きでつけていた育児記録(日記)を見たんです。そこで、これよりも簡単にできるアプリがあるだろうと調べたんですが、当時はいいものがなかった。そのうちに、『一般的にこの年齢ならばもう○○ができるらしい、でもうちの子はまだできない』という会話も増えるようになって。心配している妻を安心させるため、正しい情報を調べようとしたんですけど、インターネットの検索では何が正しい情報なのかがわからない。そういうことが重なって、育児記録アプリを作ったんです。みんなの育児の実態がわかれば、正しい情報や新たな価値が生み出せると思ったわけです」

「赤ちゃんの生活リズムの見える化」を目的にしたアプリの制作。しかし、コンセプト段階においては、身近なママ友からの評判は悪かったという。

「『見える化できると便利でしょ?」という聞き方が悪く、『そういうのは男性脳的な発想で、私たちは求めてない。』という声が大半でした。ただ1名だけ、『女性にその発想は生まれないから、作って見てもらうしかないと思うよ』と言ってくれた方がいたんです。そこで、2013年にアプリ『パパっと育児』をリリースしてみました。結果は想像以上に『見える化』の部分が利用されていた。つまり、本当は求められていたわけです。その後は口コミ的に広がって、広告費を一切かけず現在までに60万ダウンロードされています」

アイコンをタップするだけで育児記録がつけられる

『パパっと育児』利用者のボリュームゾーンは0~2歳。主な機能は、全20種類のアイコンをタップするだけで、ミルクをあげた時間や排便の時間などが簡単に記録できるというもの。また、各記録をグラフや統計にして表示することができ、予防接種の推奨スケジュールなどもわかる。そのほか、各種便利機能を搭載した同アプリは、2014年に第8回キッズデザイン賞を受賞。2017年からは、国立成育医療研究センターと共に、子どもの成長、発達、生活習慣の実態解明を目指す研究もスタートした。

「2013年のリリース時点から、5年間はまずデータを溜めようと考えていました。ただ、集めたデータが価値を生み出せるのかを事前に検証しておく必要があるので、成育医療研究センターとの取り組みをスタートさせました。また、ビッグデータを用いた子どもの生活習慣と、成長や発達の関係にまつわるエビデンスって、世界的にほとんどないんです。そういう意味でも検証する価値がすごくある分野であることがわかりました」

見える化されると
男性の育児参加が進む

『パパっと育児』から得られるデータは、医療的な研究に使われるのみならず、「子育てをする親のストレスを下げる」という本来の目的にも役立つ。

「夜泣きアラートという機能が特徴的です。一般的に、ほかの子どもと比べて夜泣きが多いかどうかを比較することは非常に難しいです。でも、私たちには統計的なデータがあるので、『同じ週齢の子と比べて、お子さんの夜泣きの多さは上位何%ですよ』とお知らせすることができる。すると、上位10%と表示された家庭の約5割は、旦那さんと話し合うという結果が出ている。さらに、そのうちの約6割の旦那さんに行動変容がおこる。寝かしつけを手伝ってくれたり、夜中に起きてくれたりするようになるんです」

数字的な根拠を持って「うちの子は夜泣きが多い」というと、男性も納得して行動するというわけだ。このような機能を付けたのも、服部さんにとっては懺悔のような気持ちがあったという。

「一人目の子どものとき、夜泣きをしたら当然気づいて自分も起きるだろうと思っていたんです。でも、すぐに慣れて起きなくなるんですよ。『昨夜は夜泣きがすごかった』と、妻に言われて初めて知るという状況。でも、自分はスルーしていたんです。このアプリを開発してデータを見てみると、想像以上の頻度で皆さん夜中に起こされていることがわかった。これは大変だと改めて思ったんですよね。そこで、二人目のときは自分も頑張ろうと心を入れ替えたんですけど、その子はよく寝る子でした(笑)」

ここから、冒頭の『クライアナライザー・オート』につながる、「泣き声診断」機能が2018年に生まれるのである。

泣いている理由がわかれば
ストレスはさらに下がるはず

「『育児のときにストレスを感じるタイミングはいつですか?』という、ミルクメーカーさんがおこなった調査で、1位が『赤ちゃんが泣いているとき』だったんです。そこで、どうして泣いているかがわかれば、ストレスを取り除けるかもしれないと思って研究をスタートしました」

以来、「赤ちゃんの泣き声の録音」と「泣いた理由」をモニターユーザーから募集。約2年間で2万人のデータを収集した。

「泣いてすぐに理由を聞くと親の直感になってしまうため、ひと段落したタイミングで『先ほど泣いた理由はなんだと思いますか?』と答えてもらうような方法を取りました。そこから音声解析をしてアルゴリズムを組んでいったのです」

『パパっと育児』においては、アプリで『泣き声診断』を起動し、泣いている赤ちゃんに5秒間マイクをかざす。すると、「お腹が空いた」「眠たい」「不快」「怒っている」「遊んでほしい」の5つの分類の中から、可能性が高いと分析された分類と確率が表示される。現時点では生後0~6ヶ月くらいまでの赤ちゃんに最適化されたアルゴリズムとなっており、正解率は8割と高い。なお、これは本当に泣いた理由は赤ちゃんにしかわからないため、医療的なものという位置づけではなく、子どもの生活習慣を研究する会社が本気で作った、エンターテイメント的な位置付けとなっている。

「この『泣き声診断』を単体の機能として取り出し、多言語化して世界で使えるようにしたアプリが『クライアナライザー』です」

さらに、『クライアナライザー』をもとに、プロダクト化したものが『CES 2020』に出品した『クライアナライザー・オート』というわけだ。

泣き声診断をプロダクト化して
CES 2020に出展

「アプリだと能動的にかざさないと診断ができませんが、ハードウェアであれば枕元に置いておくだけで、泣く声を感知して録音をスタートします。そのため、夜泣きの発生頻度や、寝かしつけの際にどれくらい赤ちゃんがさわいだかなど、ご機嫌の変遷を分析することができます」

世界中から新しい電子機器や試作品が集まる『CES 2020』のなかでも、『クライアナライザー・オート』は大きな注目を集めた。

「欧米の方々を中心に興味を持ってもらえました。彼らは、『自分の子どもの頃は、親に別室で放置されて寝かされていた』と言うんです。その点、見守りカメラなどを使ってる自分たちは、子どもを大事にしているし、育児をアップデートしているというわけです。日本ではカメラで監視するのは育児の劣化と考える人も多い。もちろん、家の大きさが違うというのもありますが、欧米の方々はこういう機器を使うことに抵抗がないのは確かです」

現在は試作品の段階で、今後はデバイスと組み合わせたソリューションやサービスなども開始していくとか。

「発売は来年になるかなと思っています。コロナ禍もあり部品調達コストもあがっている状況なので、いま無理して作るよりも、よりバージョンアップした完成度の高いものを作っていこうと考えています」

■プロフィール/服部伴之(Tomoyuki Hatori)
1998年、東芝にてナノテクノロジーの研究者として従事。
2001年より、IT系ベンチャーのシステム責任者を数社歴任。企業向け情報共有サービス、懸賞メディア、マストバイキャンペーンのASPシステムなどの開発を行う。
2005年、エンターモーション(現インサイトコア)にて取締役CTOに就任。店舗集客をサポートするモバイルCMS「MobileApps」事業の立ち上げなどを行う。
2011年、tattvaの取締役に就任。ソーシャルサービス「i.ntere.st」の立ち上げを行う。
2012年、ファーストアセントを設立し代表取締役に就任。

画像提供:ファーストアセント

(text: 富山英三郎)

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入院中の病室で生まれた、愛着の湧くものづくり 天然素材デザイナー・吉田道生氏

岸 由利子 | Yuriko Kishi

新しいデザインが生まれるのは、何もアトリエや工房だけではありません。優れたデザイナーは、時として、大学病院の病室さえ、クリエイティブな空間に変えてしまう。そのことを身をもって証明したのが、天然素材デザイナーの吉田道生氏。17年間、株式会社キヤノンで、カメラやプリンターなどのデザインを手がけたのち、デザイン戦略に興味を持った彼は、2000年にサムスン電子に転職し、長きにわたって、デザインチームを運営してきました。突然の病が襲ったのは、2015年初めのこと。隔離病棟に入院中、彼が発明した“心地良いプロダクト”とは、何なのか?具現化に至るプロセスや天然素材にかける想いについて、じっくりお話を伺ってきました。

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「結核だから、明日入院してくださいと言われて。びっくりしましたね」

―前兆はあったのですか?

吉田道生氏(以下、吉田):ずっと咳をしていたんですね。その後、息子と一緒にインフルエンザにかかってしまって、急激に体力も低下して。しばらく経っても、あまりにも咳が止まらないので、病院で診てもらったら、「レントゲンに影があるので、大学病院で再検査してください」と。

その時、具体的な病名は伝えられなかったのですが、「ガンになっちゃったのかな…」とか、色んな想像が頭をもたげ、ビクビクしたね。検査から1日経って「結核です。明日入院してください」と言われて。びっくりでした。

―入院するのは、初めてでしたか?

吉田:いえ、今回が3回めでした。結婚してすぐくらいの時に、スポーツジムでトランポリンをやっていたのですが、背骨を圧迫骨折しまして、2ヶ月ほど入院しました。若い頃から、馬鹿なことばかり色々とやらかしていましたね(笑)。あとは、扁桃腺の手術を受けた時です。

―結核の治療って、どのように行われるのですか?

吉田:元々、自覚症状は咳だけで、だからというわけではないのですが、入院して、薬を飲んだら、すぐに止まったんですよ。でも、結核って、殺菌のようにパッとはいかないそうで、菌自体が増えるのも減るのもゆっくりなので、一旦、菌が治まったことが確認できてから、週に1回行われる検査で、確か3回以上OKが続かないと、中々、退院には至らないんですね。

狛江の慈恵医大に入院していたのですが、隔離病棟はその時期、たまたま空いていて、ほぼ個室のような状況でした。結核だけをを患った患者は私ぐらい、ほかには、合併症を抱える高齢者の方が数名いました。圧迫骨折で入院した時は、ベッドから出ることすらできませんでしたが、今回は、自分で動けるし、体は至って元気。回復を日々、実感しつつも、隔離病棟からは出られないという、ちょっとはがゆいシチュエーションでしたね。

病室の“ひとりワークショップ”で生まれた、最高級木材・ヒノキの「木こちい(ここちい)」とは?

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―病室では、どんな毎日を過ごされていたのですか?

吉田:インターネットがどうにか繋がっていたので、フェイスブックなどを通して、友人や知人と交流したり、スマートフォンやタブレットで電子書籍を読んだり、動画を見たりしていました。が、最も多くの時間を過ごすのはやはりベッドの上で、なおかつ横になった状態です。書籍よりも、電子書籍の方が読みやすいけれど、動画にしろ、長時間、端末を使っていると、やはりその体勢ではすぐに疲れてしまうんですね。「横になったまま、どうすれば、スマートフォンやタブレットを快適に使えるだろう?」と考えるうちに、病室のテーブルで、“ひとりワークショップ”を始めたんですよ(笑)。

―“ひとりワークショップ”とは!?

吉田:必要なものは随時、アマゾンで注文して、看護師さんが病室まで届けてくれていたのですが、アマゾンって、小さな商品を頼んでも、かなり立派なダンボールで梱包されて届きますよね?お掃除の方にわるいなと思って、出来るかぎり小さくたたんだりしていたのですが、ある時ふと、「コレ、捨てるのもったいないな」と思って。入院時に持参したペンケースの中に、カッターと金属製の定規が入っていたので、それらを使って身近な必需品をダンボールで作る工作を始めました。

スマホスタンドや自撮り棒、スリッパなど、色々と作っているうちに面白くなってきて、「見舞いに行くけど、何か要る?」と弟に聞かれた時に、「のり、持ってきて」と(笑)。62日の入院中、10個ほど試作を作りましたね。

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これは、金属製のスマートフォンホルダーにダンボールと輪ゴムを使って、キンドルを取り付けられるようにしたものです。輪ゴムもかなり頑丈で、いいなと思って、留めてみたら本当に良くて。ただ、この金属製のフレキシブルパイプを使った製品では、位置決めがしづらく、何か他によい方法はないかなとひとりワークショップをやっていて、国産のヒノキ材を使った「木こちい(ここちい)」の枕上タイプのアイデアが生まれました。

「木こちい(ここちい)」枕上タイプ

―うわ、これは快適ですね!高さの位置調整がスムーズ。留め具がないのに、どうしてちゃんと固定されるんですか?

吉田:横板にゴムバンドでスマートフォンなどの端末を固定し、縦棒にテコの原理で止めることで、簡単に高さや左右の角度を調整することができるようになっているんです。囲炉裏って、鍋の高さを自在に変えられるようにできているじゃないですか?あれと同じ構造なんですよ。

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―ヒノキの香りに癒やされます。素材のこだわりについて教えてください。

2015年6月末に、サムスン電子を早期退職するまでの32年間、私は、プラスチックや金属の大量生産される製品の開発に携わってきました。むろん、今も企業の多くは、いかに効率よく、それらの製品を開発するか、そこに注力していますが、よりユーザーが愛着を持って使える多品種少量生産型の製品への要望が強まっているということも、また事実です。近年、私自身も、木材をはじめとする天然素材を使った、愛着の湧くものづくりをしていきたいと考えていました。

友人のデザイナーが初めた「日本スギダラケ倶楽部」というユニークな集団があるんですね。彼らと関わっていくうちに、国産材の有効活用など、社会性のあるデザイン活動に、より強く興味を持つようになりました。完治して退院後、この倶楽部を通じて知り合った木工の町・栃木県鹿沼市の栃木ダボさんの協力を得て、入院中に描いたデザインを具現化し、世界初のチケット購入型クラウドファンディング『ENjiNE(エンジン)』でお披露目するに至りました。ちなみに、試作で輪ゴムを使った部分は、石川県かほく市の気谷さんのヘアゴムを使用しています。

より快適に、心地よくをめざして。「木こちい」専用のクッションや抱きまくらの展開も検討中

「木こちい(ここちい)」横タイプ

―こちらの製品も、快適です。自宅にあったら、ベッドから離れられなくなりそうです。

吉田:これは、枕の横に置くタイプなので、「木こちい(ここちい)」の“横タイプ”と呼んでいます。ゴムバンドでスマートフォンなどの端末を垂直に固定できるので、横になりながら、読書や動画鑑賞を楽しめる仕様になっています。コンパクトなデザインですが、キンドルやタブレットにも対応できるんですよ。

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―今後の展望についてはいかがですか?

吉田:医療系の通販サイトをはじめ、こだわりのある商品を扱っているところで、「木こちい(ここちい)」を展開していきたいと考えています。専用のクッションや抱きまくらなども作っていきたいですね。抱きまくら、こうやって使っている方(上記、右)、けっこう多いと思うんですけど、抱きまくらに傾斜をつけたら、より見やすくなるでしょうし、快適に使える方法を色々と思案中です。恋愛小説を読む時なんか、ぎゅーっと抱きしめられますし、特に女性にとっては、一石二鳥になるでしょうか(笑)。

このクッションと抱きまくらの中身は、ヒノキのチップにしてみました。寺院の柱などを製造する時に出る研磨の廃材ですが、リラックス効果の高い“フィトンチッド”成分が含まれていますし、ヒノキ自体、木目の美しい、耐久性に優れた最高級の素材です。病院や老人ホームをはじめ、ご自宅などでも、心地よく使っていただけたら本望です。

開発者のリアルな入院経験と必要性から生まれた「木こちい」。「さらなる心地良さを追求し、改良を重ねています。商品名は、“きこちい”と読まれることが多く、心地良さが少し伝わりにくかったので、“木もちんよか”(きもちんよか)に改めました」と吉田氏。心地良さへの徹底的なこだわりが詰まった製品、今後の展開に注目したい。


京都大学デザインスクールでの講演内容
http://www.design.kyoto-u.ac.jp/activities/forthcoming/7077

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 壬生 マリコ)

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