対談 CONVERSATION

モノづくり起業はいばらの道!? デザイナー 小西哲哉が経験した困窮 前編

宮本さおり

衝撃的にカッコイイ義手を開発したexiii(イクシー)株式会社。デザインを担当したのはプロダクトデザイナーの小西哲哉氏だ。大手企業のデザイナーを離職し、裸一貫で新たなビジネスに挑戦した小西氏に、誰もまだ聞いたことのなかった起業直後の裏話について、編集長の杉原行里が迫る。

開発へのアクセル
3Dプリンターの存在

小西:行里さんとお酒のないところで1対1で向き合って真剣な話しをするのは初めてかもしれませんね。なんだか緊張します(笑)

杉原:そうかもしれない! 小西くんと出会ったのは、2013年くらいだったかな。筋電義手の開発をするexiii(イクシー)株式会社を立ち上げようとされているところで、小西くんはまだ、家電メーカーに勤めていましたよね。

小西:そうです。

杉原:知人からの紹介で、「起業したいのですがどうしたらできるんでしょうか」的なお話でお会いしたのが初めてでした。あの時、自分のセンサーにビビビっと電流が流れたことをよく覚えています。小西くんがデザインした義手を見た時に「なにこれ! ものすごくカッコイイ!」と直感的に思いました。そこにはもう、それが義手であるということではなくて、単純に見た目がカッコイイし、自分も身に着けたいと思えるものでした。いくつかのアワードで賞も受賞したよね。

小西:はい。いろいろと頂けました。行里さんと出会った頃は、ちょうど義手を作りはじめた時期で「ジェームス ダイソン アワード」に応募するため、電動義手の製作に取り掛かり、電動義手を3Dプリンターで作る試みをしていました。モノづくりの現場で3Dプリンターの普及が加速していて、電動義手もこれでできるんじゃないかなと思い、試していたんです。そうしたら、意外とできるじゃないか!となって。

杉原:3Dプリンターの出現は大きかったよね。

小西:通常のやり方で電動義手を作ると1つ150万円くらいするのですが、僕たちの作り方だと材料費だけで済むため、数万円でできる。このアイデアを形にし、「ジェームス ダイソン アワード」でも賞をいただきました。

杉原:スタートアップあるあるで、資金繰りは最初特に大変だったよね。私が受けた印象では、小西くんはなんだかお金を少し怖がっているようにも見えたのですが。

小西:そうかもしれません。お金儲けじゃなくて、俺たちは社会的起業みたいなところでやっているんだという気概がありました。お金=怖いものと思っていた部分は否めないかと。

倉庫の一角を借りて起業

杉原:だけど、ものづくり系の企業の場合はどうしても資本が必要になる。材料費もかかるし、開発途中ではどうしたってトライアンドエラーを繰り返します。機材や場所もいる。大手を辞めて起業された当時はそのあたりはどうしていたのですか?

小西:住む場所もありませんでした(笑)。株式会社ABBALabや、株式会社nomadの代表取締役をされている小笠原治さんが使っていた倉庫の一角を貸してくれて、そこを仕事場兼、寝床みたいな感じで使わせてもらっていました。

杉原:本当にいい方に出会いましたね!

小西:ありがたかったですね〜。行里さんとはじめてお会いしたのはそんな頃でした。行里さんに会いたいと思ったきっかけは、義足を扱うXiborgに関わられていたからです。確かメンバー構成も僕らと同じで3人でしたよね。

杉原:そうそう、そうです。

小西:賞をいただいて、アイデアが人目に触れるようになった時、実際に義手のユーザーの方から問い合わせが来るようにもなり、チームとしては、起業してこれ1本でいけるのではないかと思い始めていました。Xiborgの中では行里さんもデザイナーで、僕もデザイナー、同じ立ち位置だなと思って、先輩にお話を聞いてみたいという想いでコンタクトを取らせていただきました。

杉原:覚えています。小西くんが会社を立ち上げた当時は食べるものにも困るくらいの時期もありましたよね。

小西:独立前は大手に勤めていたため、少しは蓄えがあるつもりでいたのですが、会社にしようとなった時、3人である程度資本金を入れようという話になって、資本金を出したところ、お金がなくなっちゃったんです(笑)

杉原:アハハハ。本当に困窮していましたよね。

小西:帰る部屋もなくて、オフィスにいる時間がほとんどで、そこで寝袋で寝ているような生活でした。小笠原さんが一緒にやろうと言ってくださらなかったら、本当にどうなっていただろうかと思います。当時はまだ小笠原さんが手掛けたDMM.makeができる前の構想段階で、DMM.make AKIBAもありませんでしたから。

杉原:でも、その一番苦しい時こそ一番楽しかった時期ではないですか?

小西:そうですね。みんなもう、膝が当たるくらいのスペースでやっていました(笑)楽しかったのは確かなのですが、マネタイズをどうしていこうかという部分の不安はありましたね。

賞は名誉だけでしかない

杉原:モノづくり系起業の場合はそこがなかなか難しいところだと思うのです。小西くんたちは「ジェームス ダイソン アワード」をはじめ、いくつも賞を取られ、マスコミにも報道されましたよね。人の目に触れる機会は増えていたけれど、アワードは名誉という要素が強いので、バッチがつくだけなのではないでしょうか。そこからどうするかというのは本当に難しいと思います。賞は注目を浴びるきっかけにはなりますが、〇〇賞を受賞したというのでは、事業としての継続は難しいし、となると、使いたいと思う方々に届けることもできなくなります。エンドユーザーに届けるためには作り続けていかなければならない。作り続けるためには売れる必要がある。

小西:だから、行里さんに会ってみたかったんです。そこから一緒にお仕事をさせていただくようにもなり、今は車いすの開発やロボット開発にも携わらせていただけている。

杉原:何度も食事をしたり、話すうちに、うちのRDSのチームにも加わってもらうことになり、人との出会いって、やっぱり大事だなと思わされています。モノづくり系の企業の場合、モノを生み出すことはできたとしても、先ほども話したようにマネタイズが難しいことも多いです。また、新しいアイデア、構想を一人、あるいは一社で抱えていると、行き詰まりを感じることがある。でも他者と話したり、協力することで突破力が備わったり、構想を大きく膨らませることもできる。だから、今年はそんなお互いが刺激しあえる場の提供をHERO Xでも仕掛けていきたいと思っています。小西くんには今年も我々のチームの一員としても大いに活躍していただきたいと思っています!

後編へつづく

小西 哲哉
千葉工業大学大学院修士課程修了。パナソニックデザイン部門にてビデオカメラ、ウェアラブルデバイスのデザインを担当。退職後、2014年にexiiiを共同創業。iF Design Gold Award、Good Design Award金賞等受賞。2018年に独立しexiii designを設立。現在ウェアラブル、ロボット、福祉機器など幅広いカテゴリーのプロダクトデザインを中心に、さまざまな領域のプロジェクトに取り組んでいる。

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

対談 CONVERSATION

1億円プレイヤーの誕生も夢ではない!テクノスポーツ「HADO」開発者インタビュー 後編

宇都宮弘子

AR(拡張現実)技術とウエラブル端末を使い、新たなスポーツ「HADO」を誕生させ、新ジャンルの“テクノスポーツ”という市場を生み出した株式会社meleap CEO福田浩士氏。「テクノスポーツで1億円プレイヤーを誕生させたい」と意気込む同氏。対談後編は、スポーツとテクノロジーの融合によって広がるテクノスポーツの未来とHADOから展開される観戦ビジネスについて、HERO X 編集長・杉原行里がお話を伺った。

杉原:福田さんはテクノスポーツをこれからどのように拡大していこうとお考えですか?

福田:スポーツはもともと市場としても大きいですよね。サッカー、野球、テニスという昔からの伝統的なスポーツもありますが、その後、F1やバイクレースなどもスポーツの仲間入りを果たしています。F1などを“モータースポーツ”、サッカーやテニスなど伝統的なスポーツを“アナログスポーツ”としたとき、次世代の新ジャンルスポーツ市場が生まれてくると考えて、そこを「テクノスポーツ」と位置付けたいと。「HADO」は、“アナログスポーツ” “モータースポーツ”に次ぐ大きい枠組みの“テクノスポーツ”という市場の中で、代表競技となるスポーツとして、自分たちが創っていくんだという思いでやっています。スポーツって投資すればするほど伸びるものですよね。10億円投資すれば10億円分の伸びをするし、1兆円投資すれば1兆円分の伸びをする。それならば、大きく資金調達をして事業に投資するしかないなと。

杉原:なるほど。今から市場を創り上げていくということですから、かなりのブルーオーシャンですよね。僕がいいなと思ったのは、5試合勝てば1000万円という「HADO BEAST COLOSSEUM」なんです。投資すればするほど成長曲線を示してくれるっていうのを地でいっているなと。やっぱり1000万円って大きいですよね。そうなると、プレイヤーのクオリティーも上がって担保されるし、そこに辿りつくまでのストーリーもおもしろくなる。1000万円がもしかしたら、来年には1億円になっているかもしれないですよね。

福田:そうですね。やっぱりプレイヤーが年収1億円稼げるスポーツに育てていかなければいけないと思っていて、2021年からはテクノスポーツの競技でプロリーグを展開したいと考えているんです。テクノスポーツでもプロになれば1億円稼げるんだっていう夢をみてもらいたい。人生をかけたピリピリ感とか、スポーツでしか味わえないような勝負の瞬間を感じて欲しいんですよね。

杉原:素晴らしい考えだと思います。マイナースポーツって、結局どれだけ極めても生きていけないから、いつまでもマイナースポーツという枠から抜け出せない。パラリンピックにもそういう一面があるなと思っていて、やっぱり1億、2億稼げるプレイヤーが出てこないと、そこに夢が生まれない。サッカーとかF1みたいな大きな枠組みにはなりにくいような気がしているんです。だから、福田さんが考えられているような、テクノスポーツ「HADO」から1000万とか1億とか、それを踏まえた上でのロードマップが出来ているというのは本当におもしろいなと思います。僕も出たいです(笑)。

「HADO」が目指す5年後の未来

杉原:「HADO」が目指している5年後の未来について聞かせてください。

福田:直近の5年間で「HADO」を観戦ビジネスとして広めていきたいと思っています。スポーツを日常的に観戦している人ってまだまだ少ないと思っていて、もっと熱狂できる応援の対象があれば、日々の生活がおもしろくなるんじゃないかなって。ネットが普及し、居住場所にしばられないコミュニティ、コミュニケーションが生まれている一方で、地域性というものがどんどん薄れてきているように感じています。そうなると、スポーツマーケティングを考える上で、なるベく接点を増やしたきっかけづくりをしていくことが大切なのかなと思っています。ワールドカップやオリンピックって4年に1度ですけど、間違いないく日本全体が盛り上がりますよね。全くルールを知らないような競技ですらハラハラドキドキしながら観るし、それがもっと日常になれば人生楽しいだろうな、知らないなんてもったいないなって。今、僕がスポーツで創っていこうと思っている価値はそこにあります。

杉原:福田さんが考えている新しい観戦の仕方というのは、スポーツを日常の中にどのように溶け込ませていくかに集約されるのでしょうか?

福田:そうですね。シンプルに自分事になるかどうかということなんですよね。例えばオリンピックで考えたら、日本人として日本が負けることはプライドが許さないとか、自分のアイデンティティがそもそも日本人だからどうしても日本を応援したくなるとかっていうように、自分事にしていかないといけないんじゃないかと。それを仕組みとしてもっともっと盛り上げていけたらなと思います。

杉原:先日、我々も記者発表をしたのですが、その時のテーマが「自分事」だったんですよね。例えばF1で世界最速を目指しながら最高峰の舞台で培ってきた技術が、実は知らない間に日常に溶け込んでいる。例えばパドルシフトができたことで、脚の悪い人が手で運転できるようになったり。パラリンピックも少し見方を変えるだけでおもしろくて、ここで僕らRDSのセンシング技術が自分の周りにいる人たちの生活を少しでも変える可能性があるんだという見方をすると、自分事になるし、より強いアイデンティティになる。

スポーツを自分事として観戦するという新しい仕組み


福田:新しい観戦ビジネスを目指して僕たちが創っているのは、観客がプレイヤーの一員としてゲームに参加するという仕組みです。あくまでフィールド上にいるのは代表のプレイヤーなんですけど、それを観ている観客もプレイヤーにして、1000人対1000人の闘いにしてしまう。そうなれば、2000人の観客のすべてが自分事として観戦できるようになるんじゃないかなと。

杉原:おもしろい! それって観戦しながら参加できるということですよね。僕もサッカーを観に行ったりするんですけど、あれって観戦しに行っているというよりは、熱い声援を届けに行っているんだと思うんです。観戦だけしたいならテレビの方が断然観やすいですもんね(笑)。結局、その空間にいるからこそ感じられる臨場感を味わうための権利を手に入れたいのだと思います。近い将来「HADO」も現場で観戦した方がより自分事として体感できるようになるということですよね。この仕組みはどのあたりまで出来てきているのでしょうか?

福田:今年の年末にリリースする予定です。

杉原:もうすぐですね。楽しみにしています!

前編はこちら

福田浩士(ふくだ・ひろし)
1986年新潟県生まれ。明治大学工学部卒業後、東京大学大学院を修了。2012年に株式会社リクルートに就職。退職後、2014年1月に株式会社meleapを設立。CCOの本木卓磨らと共にAR(拡張現実)技術とウエラブル端末を用いたテクノスポーツ「HADO」を開発、レジャー施設やイベントなどでサービスを展開している。

(text: 宇都宮弘子)

(photo: 増元幸司)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー