スポーツ SPORTS

世界初の車いす鬼ごっこ「ONIGOCCO」バトルに、あのブレイクちょい前芸人が参戦!

岸 由利子| Yuriko Kishi

毎年夏に先駆けて、お台場で開催されるアーバンスポーツフェスティバル「CHIMERA GAMES」。大人も子どもも本気で遊べる“夢の遊び場”に、今年、HERO Xがプロデュースする「車いすONIGOCCO」が初登場。新しいスポーツの誕生を祝うとともに、イベントでは初代チャンピオンを決定するべく「ONIGOCCOバトル」が行われた。パラリンピックの花形競技・チェアスキーのメダリストである村岡桃佳選手や森井大輝選手、松葉杖ダンサーのダージン・トクマック氏など、豪華な顔ぶれに混じって参戦したのは、昨年、情報番組「シューイチ」の「ブレイクちょい前芸人」で優勝した芸人・みんなのたかみちさん。たかみちさんは、TBSラジオ番組「ビヨンド・ザ・パラスポーツ」で専属パラスポーツ案内人としても絶賛活躍中。果たして、結果はいかに!?まずは、車いすONIGOCCOのルールからご覧いただこう。

ONIGOCCO。それはオニと子、1対1の真剣勝負

ONIGOCCOバトルに参戦中のチェアスキーヤー・森井大輝選手(左)。窮地に立たされるも、満面の笑顔!

従来の鬼ごっこでは、“オニ”を1人決め、それ以外のメンバーが“子”となるが、ONIGOCCOは、“オニ”と“子”が1対1で戦う形式だ。ルールは至ってシンプル。障がいのある人もそうでない人も車いすに乗って、10メートル四方のコート内で対戦する。1ゲームの制限時間は45秒。オニが子に触れば、その時点でオニの勝ちとなり、逆に、45秒間逃げ切ることができれば、子の勝ちとなる。

チェアスキーヤー・村岡桃佳選手(左)と森井大輝選手。この時のオニは村岡選手。巧みな車いすさばきによる接戦が繰り広げられた。

車いすでプレイする鬼ごっこならではの醍醐味。障害物に挟まって、うまく動きが取れなくなることも。

コート内にはあちこちに障害物が散らばってあり、中央とコーナーには傾斜のある大きな台が設置されている。オニは子を捕まえるために、子はオニから逃げ切るために、障害物を乗り越えるもよし、台に上って時間稼ぎするもよし。ONIGOCCOは、従来の鬼ごっこに車いすを融合し、ボーダレスとスピードを追求してアップデートした新しいスポーツなのである。

 

松葉杖ダンサーのダージン・トクマック氏(左)。オニが子を捕まえる時に“タッチ”する体の部位はどこでもOK。

みんなのたかみち、いざ参戦。
「ハート全開、真っ向勝負でいきます!」

今回、そうそうたるメンバーとともにONIGOCCOバトルに参戦した芸人みんなのたかみちさん。高校時代、地元の京都大会でベスト4まで進出したこともあり、芸人になる以前はプロ野球選手を目指していたというだけあって、「身体能力には自信があるというか、スポーツとなると、体が勝手に動いてしまう」と余裕しゃくしゃくの様子。

たかみちさんの初戦の対戦相手は、チェアスキーヤーの村岡桃佳選手。2018年のピョンチャンパラリンピックで日本選手史上最多のメダル5個を獲得し、世界を沸かせた“冬の女王”だ。トップ・オブ・ザ・トップのアスリートと戦うにあたって、たかみちさんは意気込みを語ってくれた。

「すごい人やと思ってしまうと、心が折れてしまうので、同じ人間やと思って接しさせてもらいます。卑怯なことは一切しません。ハート全開、真っ向勝負でいきます! 僕なりのONIGOCCOを見といてください!」

そして、第1戦がスタート。オニはたかみちさん、子は村岡選手。早くも村岡選手は、機敏な動きで中央の台に上り、たかみちさんを牽制。いつも笑っているように見えるたかみちさんだが、その顔にもはや笑みはなく、まさに真剣そのもの。車いすをこぐ手にも力が入っているのが見て取れる。

村岡選手を捕まえようと、中央の台に近づくまではよかったが、スロープを上がろうとした瞬間、バランスを崩して車いすごと転倒。車いすに乗り直すうちに、45秒はまたたく間に過ぎ、村岡選手の逃げ切りであっけなく勝負はついてしまった。

えっ?真剣勝負の最中にフォーリンラブ!?

続く第2戦では、たかみちさんが子、村岡選手がオニ。ゲームがスタートするやいなや、「僕、捕まりませんよ!」とたかみちさんは叫び、中央の台をめかげて突進。その後も全力で逃げ続けたが、軽快なリズムでグングン攻め込む村岡選手。時速120km近い速度で滑走することもあるチェアスキーヤーのスピード感には、やはり太刀打ちできないようだった。ゲーム開始から18秒、村岡選手がたかみちさんの背中にタッチして、ゲームは終了。

結果は、1回戦で敗退。だが、たかみちさんは、いともご満悦の様子だった。

「やっぱり(村岡選手は)迫力がすごかったです。こういう遊びの場でも、きっと自然と出てくる闘志があるんでしょうね。目が合った瞬間、ライオンに睨まれているような感じで、これは勝てへんわって思いました。同時に、ハートをガッツリ掴まれました。村岡選手って、セクシーですよね。僕、目が合うたびにドキッとして、それもあって逃げられへんみたいな感じもありました(笑)。でも、18秒も逃げ切ることができたのは、やっぱりハートで勝負したからかなと」

ONIGOCCO初代王者は、やはりあの人

過酷なトーナメントを勝ち抜き、ONIGOCCOバトル決勝戦に残ったのは、たかみちさんを手もなく倒した村岡選手と、彼女にとって兄のような存在であるチェアスキー界の強豪・森井大輝選手。一点一画もゆるがせにしない真剣勝負の末、初代王者に輝いたのは、森井大輝選手だった。

MCを務めたのは、HERO X編集長の杉原行里。

優勝した森井選手には、ONIGOCCOのスポンサーを務める『JUSTIN DAVIS』のリングが贈呈された。

「率直に楽しいですね。いわゆる鬼ごっことは、全然違いますから!」とたかみちさんが言うように、障がい者や健常者といった垣根を超えて、みんなが混じり合い楽しめるスポーツ、それがONIGOCCO。バトルの最中、大人たちに混ざって、熱心に見入る子どもたちの姿があった。終了後に、「ONIGOCCOを体験したい」と、コートに入っていく子どももいた。もし、この楽しさの波紋が広がっていけば、ONIGOCCOはやがて、令和を生きる子どもたちにとって、新たな遊びのスタンダードになることだろう。

みんなのたかみち
ワタナベエンターテインメント所属のお笑いコンビ「プリンセス金魚」のツッコミ担当。2016年10月より、相方の大前亮将が拠点を名古屋に移したため、遠距離コンビとなる。以来、単独でライブなどに出演し、ピンネタを披露する機会も増えている。2017年10月8日、芸名を「たかみち」から「みんなのたかみち」に変更した。
http://watanabepro.co.jp/mypage/4000019/

(text: 岸 由利子| Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

スポーツ SPORTS

たったひとつの勝利が、彼を本物の勝負師に変えた【池田樹生:HEROS】

中村竜也 -R.G.C

今回、HERO X連載企画【パラリンピックのヒーローを発掘】にご登場いただいたのは、中京大学陸上部に所属し、400メートル部門の日本記録保持者・池田樹生選手。2016年に開催された“ジャパンパラ陸上競技大会”にて、自己ベストを2秒近く縮める「57秒40」の日本記録を叩き出し、一気にトップアスリートの仲間入りを果たした池田選手に迫るべく、様々な角度からお話を伺った。

日本記録を出した今、
池田選手が目指す場所とは?

記録を塗り替えるということは、同時に背負うものが増えるということ。だからこそ得るものも大きく、そこから来るプレッシャーに勝つためのフィジカルやメンタルの強さが要求されるのだ。そのきっかけとなった57秒40」の世界に初めて足を踏み入れた時の感覚は、どのように感じていたのだろうか。

「この時は、他のクラスの方も一緒に走るレースだったので、1位でゴールしたのは僕ではなく、すぐにはタイムが分からなかったんです。自分の中では、自己ベストは出ただろうという手応えは持っていましたが、まさか57秒台で走っていたのには驚きました。ただ、レースプランとして、はじめから突っ込んでいこうということだけは決めていたので集中力は高かったんだと思います。

そして、日本記録保持者になったことで、今までには持ち得なかった感覚のプライドが生まれ、もっと世界で勝負がしたいという気持ちがその瞬間に芽生えたのを覚えています。もう一つは、レース用の義足を使って走る技術が向上したのも確実に感じたので、そこも自信になりました」

たったひとつの勝利が、その人を今までとは違う人間に一瞬で変えてしまう。我々には決して理解することが出来ないであろう、研ぎ澄まされた世界がそこにはあるのだ。

池田選手にとっての日本記録は、一つの通過点であるのは間違いない。ならば、さらに早く走るためにはどのような意識変革が必要だと考えているのだろうか。

「僕の場合は、右半身に障がいが偏っているので、意識して強化していかないとかなりもったいない走り方になってしまうんですね。だから、トレーニングも右を集中的に鍛えられるよう組んでいます」

コンマ何秒で競い合う厳しい世界で戦うために、日常生活の中でも心掛けなくてはいけないことが多々あるはず。

「僕は普段、中京大で健常の方々と同じ陸上部に所属しながら練習をしているんですね。そこで僕がやることは、たとえばスタートダッシュなどでも、海外の選手と走っているイメージを持って練習することが可能なのです。そう言った意味では、かなりレベルの高い練習を、少し意識を変えただけで出来たりするんです」

自らが置かれている状況や環境を俯瞰することで、今やるべきことを合理的に見出す池田選手。確かに、質の高いイメージを持った練習は、高い費用をかけて海外遠征に行くよりも、確実に身になることは想像に難しくない。様々な苦労を乗り越えてきたらこそ、たどり着いた境地なのかもしれない。

義足の開発に関わり、成し遂げた進化


自分の足の代わりをこなす義足。ましてやレース用ともなると、細かなインプレッションや感触などがとても重要になってくるのは間違いないだろう。1/100秒を争う世界なら尚更だ。

「以前は、基本的に市販で売られている義足のアライメント(角度)などを調整して使用していました。しかし今回は、自分で履く義足の開発に関わらせていただけるということでしたので、走った時に感じた違和感や、もっとこうしたいという自分の意見をしっかりと持って伝えていかないなくてはと考え方が変わりました。

現在使用しているジェネシスの義足ももちろん気に入ってはいるのですが、開発に関わるという事はもっと僕自身も義足について知らなくてはいけないので、とにかく色々な種類の義足を履き、経験値を上げたいです」



「それに今は、100mのレースも400mのレースも同じ義足で勝負しているのですが、僕自身が義足に対しての知識をしっかりと持っていれば、将来的にはレースごとに義足を履き替えるというのも夢ではないと思います。特に去年のレースで失敗してしまった経験があるので」

確かにそうだ。選択肢が増えるという事は、レースごとに変わる環境に細かく対応出来るようになる。そうする事で、ポテンシャルを最大限に引き出す一つの要素として弱点を詰められるようになるのは、記録の更新やメダルに近づくための大きな役割となっていくのは明確である。

高い壁でもある、憧れのアスリートは?

「僕が勝手に意識しているだけですけど、佐藤圭太選手です。国内トップの座をずっと守り続けている人なので、やっぱり倒さなくてはいけないと思っています。もし、僕が圭太さんを抜かすような時が来たら、お互いの刺激にもなりますし、さらに二人が切磋琢磨することで、国内のレベルを上げることができたらいいなと思っています。

やはり、義足を使って走るという経験は、絶対的に圭太さんの方が上だと思っているので、まずそこの差を埋めなくてはいけませんね。ただ健足は僕の方が優れているとデータが出ているので、競技用の義足をつけたことで、それを無駄にしないように練習を進め、結果を残していきたいです。

それと先日、アメリカのジャリッド・ウォレス選手と一緒に練習する機会がありまして、その時に “もっと一歩目から義足を蹴っていけ” とありがたいアドバイスをいただきました。陸上のスタートっていうのは、レースの中でももの凄く集中力を要す大事な場面なので、そのアドバイスを完璧に自分の物に出来るまで突き詰めていき、佐藤選手に勝ちたいです!

最後に、我々を含め陸上競技ファンが最も気になっている「9秒台は狙っているのか」と質問をぶつけてみた。

「もちろん出してみたいです!でも、それだけではなく、パラリンピックに出場している他の選手が9秒台で走るところも見てみたいし、もっと言えば、そのレースで一緒に走っていたいなというのはありますね。世界的なレベルの上がり方を見ていても、それはもう遠い未来の話ではないと感じています」

その誠実な笑顔の奥に、アスリートの証である熱い魂を確かに感じることができた今回のインタビュー。東京2020までとは言わず、池田選手にはその先まで全力で駆け抜け続けてもらいたい。


(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 河村香奈子)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー