テクノロジー TECHNOLOGY

動物たちにも希望の光を。メキシコ初、犬のための3Dプリント義足が実現

岸 由利子 | Yuriko Kishi

彼女の名前は、ロミナ。犬種は、グレーハウンドを祖先犬に持つハウンドドッグのウィペット。筋肉質の引き締まった体と、スラリと伸びた脚が物語るように、走ることが大好きな犬だ。時に、時速40マイル(約64km)ものスピードで俊足に駆け回り、素早く体をひねり、俊敏に方向転換する様は、究極のスプリンターのよう。一気に最高速度に上げていく加速力で右に出る犬はいない。走るために生まれてきたようなロミナが、芝刈り機の事故に遭い、右の前足を失ったのは2013年のこと。

右の前足には義足を付け、事故で同様にダメージを受けた左の前足は、幸い、チタニウム製のプレートで再建できたが、自分で中々上手く動かすことができない。ロミナの飼い主は、彼女が歩行を取り戻すための方法を探し続けた末、ユニバーシダッド・デル・ヴァレ・デ・メキシコ動物病院(UVM)にたどり着いた。

獣医たちは、ロミナの既存の義足を外科手術で取り除いた後、3Dプリント技術を使って、“関節のある義足”の開発にあたった。ロミナが肘を曲げれば、義足全体がそれに応じて曲げることができる。そんな自然な前足の動きを再現するために、ABS樹脂とポリカーボネートで2種類のプロトタイプを作成した。

ロミナにとって、新しい足で歩くことは大きなチャレンジだった。病院内にあるリハビリテーション科と理学療法クリニックで、じっくり時間をかけて、義足の動かし方を練習していった。

「膝を曲げて、自然に歩いてみてごらんと言っても、彼女は理解できません。エクササイズと指示出しを繰り返し、義足の使い方を教えることが大切でした」とリハビリテーション科長は話す。

やがて、ロミナが義足で歩くことに慣れてきた。彼女の義足の最終形は、皮膚に似た素材でカバーされたアルミニウム製。ロミナは、メキシコで初めて3Dプリント義足を受け取った犬だ。

3Dプリント技術なしに、本物の前足のようにしなやかに動く義足は存在しなかった。6ヶ月という短い時間で開発できたのも、この技術の恩恵だ。

「ミリ単位で、患者のサイズに合わせて容易に調整することができるので、不具合があったり、違和感があれば、すぐに作り直せます」と話すのは、同病院で義足を専門とするスタンティアゴ・ガルシア氏。

今後、ユニバーシダッド・デル・ヴァレ・デ・メキシコ動物病院は、犬や猫の他にも、亀やクロコダイルなどにも同様の義足を開発していく意向だ。多くの動物が歩く力を取り戻し、溌剌と生きるきっかけになるだろう。

[TOP動画 引用元]Vocativ(https://youtu.be/Jp-wXU92u74

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

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温もりや冷たさが遠隔でそのまま伝わる!テレイグジスタンスシステム「TELESAR V」

Yuka Shingai

HERO Xではこれまで、ハプティクス、テレロボティクスといったVR/AR内のオブジェクトや、遠隔地にある物体を実際に触ったような体験ができるコンテンツを数々紹介してきた。果たして「実際に触ったような」とはどれくらい本物に近い感覚なのか。初めて3D映画を見たときに感じた「まるで本物みたい!実写映画にしか見えない!」という衝撃が待ち受けているのだろうか。これらのテクノロジーは、多くの人が関心を抱いているもののひとつであろう。

最新テクノロジーとしての印象が強い遠隔体験、遠隔就労などは、実はコンセプトとしては長い歴史を持ち、日本では東京大学名誉教授、慶應義塾大学特任教授である舘 暲(たち・すすむ)氏がこの分野の先駆者的研究者として知られている。

1980年代より「テレイグジスタンス」という概念を提唱し、感覚伝達技術の研究開発を進めてきた舘氏らの研究グループが2011年に開発した「TELESAR V(テレサファイブ)」は人と同期して同じ動作をするアバター(分身)ロボットを介して、遠隔地にいながらまるで目の前の物に直接触れているかのような感覚を味わえるシステムだ。

指先が押し込まれる力(押下力)と指先に加わる水平方向の力(せん断力)と物体表面の温度を伝えることで、ユーザーは物を握ったときに指先に力を感じ、温もりや冷たさまでも感じることができる。この時点では、まださらさら、ゴワゴワといったオブジェクトの質感までは伝達できなかったが、圧覚・振動覚・温度覚を伝える触感伝達技術を新たに開発し、「TELESAR V」と統合することにより、遠隔環境の細やかな触感を伝えることに世界で初めて成功した。

エンターテインメントや教育、福祉などテレイグジスタンスが貢献できる分野は幅広い。近年人気のライブビューイング、パブリックビューイングなどはより「体感型」のエンタメに昇華されていくだろう。

そのほか、ネットショッピングではなかなか確かめることのできない商品の質感、実際手にしたときの重量から、日本国内ではなかなかお目にかかれない動物や植物など、リアルに触れてみたいものがより身近になっていきそうだ。

[TOP動画引用元:https://www.youtube.com/watch?v=KoC1iTOmYTg

(text: Yuka Shingai)

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