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病院での “待ちぼうけ人口” 削減はできるのか!オンライン診療の行方

HERO X 編集部

慢性的な病気を抱えると、定期的な受診が不可欠になる。ところが、高齢者の増加に伴い、受診を必要とする人口も増えてきた。予約制を取る病院も多くあるが、それでも、大きな病院では待ち時間は多くなる。この足止め時間が嫌で必要な受診をしないという患者もいる。また、待ち時間の長さが、働く世代の足を健康診断から遠ざけてしまう原因にもなっている。しかし、病が経済活動を止めてしまうことを、わたしたちは今回のコロナ禍で痛感した。人々が健康でなければ、経済活動は回らない。もしも、自宅である程度のデータが取れるようになったとしたら、どんな変化が起るだろうか。

人により違う「調子が悪い」の基準値

超高齢化社会と言われる日本。現在の40代後半から50歳にあたる団塊ジュニアが高齢者になれば、高齢者人口の増加が頭打ちになるという話しもあるが、少子化の上に平均寿命が伸びているため、人口に占める高齢者の割合はそれほど大きくは変わらないと予測される。死ぬまで健康でいられれば、それが一番良いのだが、そうもいかないのが人間だ。年齢と共に体の衰えはやってくる。すると、病院に通う機会も増えてくる。それを表す一つの数字が、通院人口の割合だ。

国民生活基礎調査を元に厚生労働省が公表している通院状況の調査によると、人口千人に対する通院者率は男性で388.1、女性で418.8(2019年調査)。分りにくい数字だが、人口千人に対してこれだけの人がなにかしらの理由で通院しているということだ。そしてもちろん、年齢が上がるにつれ、通院人口も増えていく。調査では、ケガではなく、疾病により通院しているという人達にどのような病気で通院しているのかを聞いたものもある。それによると、男女共に1位は高血圧。男性の場合は2位に糖尿病が入っている。

2019年 国民生活基礎調査(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa07/3-2.html

高血圧や糖尿病はどちらも生活習慣病と言われるものだ。疾病の改善には食生活や運動などの生活改善が不可欠と言われるため、その目的で定期的に受診をしている人も多い。もちろん、受診時には、血液検査や尿検査など、体の中の状態を数字として可視化するための検査も行われる。だが、これらの生活習慣病の場合、データが自宅で取れるようになれば、オンラインでの診療も可能になると言われている。これが進めば、病院に足を運ぶ人の数は減るだろう。つまり、本当に対面受診が必要な人だけが病院を訪れることになる。するとどうだろうか。上手く回りはじめれば、待合室の混雑や、予約の取りづらさが緩和される可能性が出てくるのだ。

未来の受診スタイルを支える
検査事情最前線

しかし、患者の顔を見るだけでは状態を把握できない。遠隔診療を進める上で必ず必要になるのが検査データの取得だ。血圧については家庭用血圧計がかなり普及したため、すでに自宅での計測が可能となっている。さらにデータをスマホで管理できる便利なアプリも出回り、日々の記録を手書きで付けていた手帳からは解放されつつある状況だ。体重計もここ数年でかなり開発が進み、体重だけでなく、BMI値や骨密度まで測れる体組成計へと進化を遂げた。

さまざまな基礎データの取得が手軽にできるようになってきた現在、尿や唾液の検査も手軽にしようと試みる会社がある。イギリス、アメリカ、日本と、多国籍のメンバーで挑戦を続けるBisu, Inc. 。HERO Xでの対談から2年(http://hero-x.jp/article/8393/)、代表のダニエル・マグス氏の元を訪ねると、当時のアイデアはさらにブラッシュアップされ、サービスのローンチに向けた準備が進められていた。

スタートアップが入居するシェアオフィスを卒業、東京駅近くのビルに自社オフィスを構えるまでになっていた。スタッフは相変わらず多国籍。海外に居住するリモートメンバーもいるという。

「細かな開発はほぼ終わり、今は生産ラインをどうするかという段階まできています。2年以内のローンチを目指して、頑張っています」と、流暢な日本語で説明するダニエル氏。試作品も以前のものより完成形に近づいていた。

ダニエル氏の考える尿検査キットは、独自開発の棒状の「テストスティック」と呼ばれるものに尿をかけ、小型検査デバイスに差し込むだけで、データが手元に届くというもの。テストスティックは使い捨てのため、一つの検査デバイスを家族で共同利用することも可能だ。

白い箱型のものが検査デバイス。隣に並ぶカラフルな色が施されたものがテストスティック。スライドすると中から棒状の検査装置が出てくる仕組みだ。

スティックのケースをよく見ると、色が分かれていることに気が付く。埋め込まれたチップにより、検査項目を変えることができるため、どの検査が行えるかを一目で分るように色分けしたのだ。これまでの家庭検査の倍にあたる20項目の検査が自宅で手軽にできるようになる見込みだ。唾液検査ができるスティックも開発、サービスローンチに向けて地道な開発が続いている。

取れたデータの活用についての開発も急ピッチで進められている。検査デバイスと連動したスマホアプリを使えば、⽔分やビタミン、ミネラルなど、体にとって重要な栄養素に関するフィードバックをわずか数分で得られるようになるというのだ。睡眠データや活動パターン、個⼈の⽬標などを紐付ければ、これらに基づいた健康改善のアドバイスも表⽰されるようになる。

「今考えているのは、身体情報を元にしたコミュニケーションです。ただ、数字を表示できるだけでなく、データを軸に、健康であるためのアドバイスをすることで、みんなが健康でいるための伴走者となっていく、そんなイメージです」

生産拠点は日本に置く!
「Made in Japan」にこだわる理由

生産拠点は日本国内に置きたいと話すダニエル氏。

検査キッドとデータの可視化について、技術的な問題はほぼクリアしたというダニエル氏。データの取得という部分に重きが置かれていた2年前の構想から比べると、サービスに広がりが生まれている。アプリを通じてデータの共有が可能になるため、医師やトレーナー、家族などとの連係も可能になる。そうなれば、通院する回数をグッと減らすことにも繋がる。

しかし、これだけのものを作るには、かなりのお金が必要となる。特に検査キットの量産化の部分は要となるため、潤沢な予算が必要だが、どうやらその壁についてもダニエル氏はクリアしたようだ。10月、シードラウンドで総額3億円の資金調達を達成、本格的な生産に向けて大きな一歩を踏み出した。出資元の一つはスポーツセンシング分野を牽引しているアシックス・ベンチャーズ社。資金調達と同時に同社との協業も発表している。そんなダニエル氏が目指すのは、検査キットの日本での生産だ。

「開発だけ日本でして、製造その他は海外にという会社も多いのですが、僕たちが開発したキットは生産を請け負う工場との綿密な打ち合わせも必要です。日本の技術は優れていますし、機密保持もしっかりしています。労働力の安い海外に出せば、我々がそちらに出向く時間と費用がかかる上、目が届きにくいため、技術が漏れてしまう危険も高くなる。だから僕たちは、日本国内での生産をと考えているのです」

多国籍メンバーが作る「Made in Japan」の健康管理サービス。世界に向けての挑戦が始まろうとしている。

ダニエル・マグス
Bisu, Inc. 代表取締役 。ロンドン生まれ、東京在住のイギリス人。ケンブリッジ大学で日本語を専攻後、法科大学院に進み法律事務所に入社。英国法弁護士資格取得。投資銀行でアナリストなどを務めた後に日本のディー・エヌ・エーで新規事業企画を担当。その後独立しヘルスケアIoT商品の開発を手掛ける同社を立ち上げた。現在は日々の健康を見える化する IoT尿検査装置の開発に挑戦している

(text: HERO X 編集部)

(photo: 増元幸司)

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新型授乳スポットはマルチな意味でママパパの強い味方に 省スペースで設置できるIoTベビーケアルーム「mamaro®(ママロ)」

富山英三郎

赤ちゃんとお出かけしたくても、授乳やおむつ替えの場所を探し回るのが面倒で気軽に外出できない。それはお母さんだけの悩みでなく、イクメンなお父さんにとっても同じだ。一方、施設側としても費用対効果など諸事情の関係から無闇に増やすことができない。そんななか注目されているのが、約1畳ほどのスペースで完結する個室タイプのベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」。同社の試みは、ベンチャー企業への投資を通じて株主として応援ができる日本初のマッチングサービス「FUNDINNO(ファンディーノ)」でも高く評価され、募集開始から10分で目標金額に達したほどだ。

100万人のベビーに対して
授乳室は約1万8000箇所

ウッドを全面に使った、丸みを帯びた優しいフォルム。スライドドアを開けば白いソファがあり、正面にはモニター(デジタルサイネージ)も装備されている。ここは授乳やおむつ替え、離乳食など、赤ちゃんのケアができるプライベート空間。外装は横幅180cm、奥行き90cm、高さ200cmと畳一畳程度のスペースながら、室内は必要十分でゆっくりと過ごすことができる。そんな可動式ベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」が、全国の商業施設を中心に広がりを見せている。提供しているのは、横浜にあるベンチャー企業のTrim株式会社だ。

画像提供:Trim株式会社

「前職で立ち上げた、授乳室・おむつ交換台検索アプリ『ベビ☆マ』を買い取って2015年に起業しました。でも、これまでにない情報提供はできているものの本当の意味で子育て世代を救えていないと感じたんです」

そう語るのは、CEOの長谷川裕介氏。現在もTrimが運営を続ける、授乳室・おむつ替え無料検索地図アプリ『Baby map®』(『ベビ☆マ』より改称)は、利用者からの情報提供によって内容が充実していく。CGM(コンシューマー ジェネレイテッド メディア)と呼ばれるもので、口コミサイトは一般的にこの形式で運用されている。

「それまで1日100件とかのペースで授乳室のデータが集まっていたんです。それが、立ち上げから2年くらいでピタッと止まってしまった。総数でいうと1万8000弱くらい。理由として考えられるのは、全国でその程度しか授乳ができるスポットがないということ。少子化とはいえ毎年100万人弱赤ちゃんが生まれているのに、授乳できる場所が1万8000箇所程度しかないことに驚きました」

施設側もコンパクトに
設置できるなら置きたい

ベビーケアルームをなんとか増やせないものかと、長谷川氏は商業施設などに話を聞きにいった。すると、施設側にも増やせない事情があることを知る。

「皆さん取り組みはされているんです。施設によっては1000万円以上の費用をかけている、でも費用対効果が見えにくい。売り上げも厳しいなか、本当ならばそのスペースをテナントに貸し出したいというのが本音でした。それならば、コンパクトでどこにでも置けるものがあればどうか? と聞くと、皆さん良い反応を示してくれました」

ものづくりの経験はなかったものの、自ら慣れない手つきでスケッチを描き、アイデアを具現化してくれる工房を探し回ったという。ある内装屋さんが協力してくれ、まずは初号機を制作。しかし、施設側からすると大き過ぎるという声があがった。そこで、居住性はそのままにひと回りコンパクトにしたところ、設置してくれる施設が増えていったという。

「コンパクトにどこでも置けるというメリットだけでなく、お母さんたちのニーズにも適った。というのも、きれいな授乳室であっても、それぞれはカーテンで仕切られているのが一般的。すると、隣の子どもの声で起きてしまった、子どもにカーテンを引っ張られて開けられてしまったなど不満が多く、個室を求める声が高かったんです」

IoTを搭載した
子育て世代感激の個室空間

できあがった空間は、モーションセンサー(人感センサー)や熱を測るセンサー、利用時間の計測などができるIoTを装備。利用時間が長すぎる場合は、施設側にアラートメールが届く仕組みになっている。また、利用者数を個体ごとにカウントする仕組みも付与した。SIMを搭載しているので、Wi-Fi環境のない場所でも電波さえ届けば設置することが可能だ。

また、ドアが閉まるとモニターにはコンテンツが流れ始め、サイドボードに設置されたトラックパッドで見たいコンテンツを選択することができる。今後は協賛企業の広告が流れるなど、デジタルサイネージによるターゲティング広告の場としての収益も拡充していく予定だ。すでに、液体ミルクに関する東京都からの情報提供などの実績がある。

その他、すべての角を曲線処理し、ライトカバーをシリコン素材にするなど安全面にも配慮。コンセントを装備しているのは、まだ日本ではあまり馴染みのない搾乳機の使用を想定している。

「働く女性が増えているなかで、搾乳室の需要もあがってきています。8月には事業所としては初めて大日本印刷さまに導入していただきました。今後は、社内に設置する企業さまも増えていくと予想されます」

ベビーケアルーム「mamaro」の浸透により、意外なところからの問い合わせが増えている。それは神社なのだとか。

「お食い初め、お宮参り、七五三など小さいお子さんが来られる機会はあるのに、そういう設備がないところが多いんです。私たちも盲点でした」

改めて施設側のメリットを整理すると、これまで授乳スペースを作るには30平米くらい必要で確保が難しかったが、「mamaro」であれば1.6平米と最小サイズで設置できる。また、圧倒的にリーズナブルに運用が可能。商業施設においては、これまで子ども服売り場など1箇所作るのが精一杯で、ファミリーがその階に留まり回遊性が乏しくなっていた。しかし、「mamaro」であればフードコートをはじめ各フロアに設置できるので回遊性が増え、利用者数もわかるので効果を判定しやすい。その他、移動可能なのでイベントなど短期利用もできる。料金はサブスクリプション型で、契約期間の長さによって価格が変わっていくといったところだ。

将来的には子育てインフラにしていきたい

「一般的には授乳室だと思われていますが、私たちはベビーケアルームだと考えています。ここで赤ちゃんのお世話をするだけでなく、今後はヘルスケア領域にも着手していきたい。母子の健康状態がわかったり、小児科の少ない地方に関してはモニターを通じてお医者さんと繋がることができれば利便性も高まると考えています。住む場所を選びやすくなりますし、情報格差の解消にもひと役買うことができる。子育てインフラになっていければと思っています」

画像提供:Trim株式会社

Trimが掲げる企業ミッションは「All for mom. For all mom.」。そして、お母さんへの感謝を次の世代へとつないでいく善意のバトン「Pay It Forward」を広げていくことだ。ベビーケアルーム「mamaro」という製品への期待だけでなく、そのような志も注目され、ベンチャー企業への投資を通じて(未公開)株主として応援ができる日本初のマッチングサービス「FUNDINNO(ファンディーノ)」でも大きな成功をおさめた。

「スタートから10分で、目標額の1200万円に到達したときは驚きました。ファンディーノに参加したのは資金調達という側面もありますが、事業の公共性を高めていきたいという気持ちがあったんです。私たちはお母さんへの感謝のギフトを贈る気持ちで仕事をしています。その思いに協賛してくれる方、応援してくれる方が個人株主として参加できるのは面白いと感じたんです。
それと、IPOをした際にどれくらいのインパクトがあるのかを事前に見たかったというのもあります。私たちの偏見かもしれませんが、投資家さんはリターンを愚直に求めるドライな方が多いのかなと思っていたんです。そうであれば、弊社がIPOをしてもそんなにインパクトが出せない。でも、意外にも”応援”というカタチで投資される方が多くて心強かったです。もちろん、志やミッションという側面だけでなく、ビジネスとして大きくしていかなくてはサスティナブルではない。今後は両方を成長させていきたいと考えています」

将来は「海外展開も視野に入れていきたい」と語る長谷川氏。利用者、設置者双方のニーズを愚直に実現してきたサービスだけに、日本のみならず世界中に需要があることは間違い無いだろう。

2016年に出生数が100万人を切り、現在も右肩下がりの日本。即効薬はないが、さまざまな方面から子育てをサポートしていかなくてはいけないのは確か。そのひとつとして、授乳やおむつ替えの空間が増えれば、お出かけもスムーズになり社会も活性化される。また、働きやすさも生まれる。長谷川氏が思い描くように、今後ヘルスケア領域を含む子育てインフラへと成長していけば、社会的インパクトがさらに大きくなっていくだろう。

※一部画像提供:Trim株式会社

https://www.trim-inc.com

(text: 富山英三郎)

(photo: 増元幸司)

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