テクノロジー TECHNOLOGY

転倒リスクも分析!? 26種のパラメータで歩行を分析するウェアラブルシステム「Gaitup」

HERO X 編集部

世界人口の5%が歩行障害に影響を受けているといわれている。実際に、高齢者が寝たきりになるきっかけは、転倒による骨折や、病気による歩行障害の場合が圧倒的に多い。「歩行」に着目したスイス生まれの歩行分析システム「Gaitup」は26種ものパラメータを使って、スポーツ、老年医学、パーキンソン、脳卒中などの分析に活用できるシステム。現在、すでに国内外の企業や大学、病院で活用されている。

キメ細かなセンシングで
医療につながるデータも取れる

「歩行」は健康にとって非常に重要なテーマだ。健康に歩けることが老化を防ぎ、病気を予防するのはもちろん、現在ではセンシングの発達により、歩行から様々な健康リスクを予測することができるようになった。また、リハビリの効果などを、歩行のセンシングで測定することも多い。

株式会社クレアクトの歩行分析システム「Gaitup」は、転倒リスクの評価や虚弱高齢者のスクリーニングだけではなく、臨床現場でも利用できるデータを提供する。脳卒中やパーキンソン病の分析、または様々な老年医学の分野に有用なデータを提示することができる。

パラメータは、歩行速度や左右の足の非対称性、つま先の上げ下げ、荷重、接地など全部で26種類。細かなセンシングで、歩行者の状態を素早く分析する。歩行データはPCに送られ、歩行分析ツールPhysiGaitで分析される。クリニックやリハビリサービスでの活用にも最適だ。利用者の転倒リスクの評価や、疾患進行のモニタリングができることは、介助する側にも大きな助けとなる。

歩行者はわずか11グラムのモーションセンサー「Physilog5」を靴ひもに着けるだけ。わずらわしいベルトやリングの装着がなく、認知症が進んだ患者にも気軽に利用してもらえる。標準レポートの作成をPDFで行えるなど、汎用性が高い仕様もメリットだ。国内では聖マリアンナ医科大学でも採用されている。

歩くことは人間の生活に密着しており、利用者の負荷なくウェアラブルで歩行データを収集し、医療や生活改善に役立てようという流れは大きくなっている。この流れが一般に広まれば、予防医療の浸透につながり、結果的に医療費の削減にも貢献できる。いずれは若年層も気軽に歩行データで健康状態をチェック、という時代が来るかもしれない。

(text: HERO X 編集部)

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テクノロジー TECHNOLOGY

車いすユーザーのQOLを向上させる 『bespo』が導き出す未来とは?

長谷川茂雄

2019年、株式会社RDSが発表した車いすシーティングシミュレータロボット『SS01』は、国立障害者リハビリテーションセンター研究所、千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)、そしてパラアスリート・伊藤智也氏とともに研究を重ねた末に誕生した画期的なプロダクトだった。それから3年後の2022年、アップデート版として発表された『bespo(べスポ)』は、よりコンパクトでスタイリッシュになり、車いすユーザーのトルク(車輪を回す力)や重心位置の計測精度も圧倒的にアップ。加えて、さらに効率的に計測結果の活用もできるようになり、ユーザー各々のシーティングポジションの最適解を導きやすくなった。今後、『bespo』は、車いすユーザーのQOLをどのように向上させるのか?

シーティングシミュレータは、
さらなる高次元化を果たした

車いすを日常使いするユーザーのQOLは、シーティングポジションが適切か否かで大きく変わってくる。長きにわたりその数値的な追求や可視化、データベース構築の実現はとても難しいと考えられていた。そんな状況を打破してユーザーのパフォーマンスを最大化すべく、RDSが開発したシーティングシミュレータ、それが『SS01』だった。適切なシーティングポジションは、理想的な座位姿勢、漕ぎやすさ、転倒のしにくさ、褥瘡(じょくそう)の防止などと直結している。それを数値的に割り出し、ひいてはユーザーのQOLを向上させるのがシミュレータの大きな役割だ。

『SS01』は、それを具現化したことで話題となったが、『bespo』は、さらに高次元でシーティングの最適解を導き出すことを可能にした。

RDSが得意とするフィーチャリスティックなプロダクトデザインは継承され、さらに進化を遂げた。

クラウドデータベースや
解析システムと連携が可能

まず、日常用車いすと同様に、足を車いすの内側に引き込むシーティングが可能になったことは大きな進化だ。それにより胸椎損傷、頚椎損傷者も負担なく計測できるようになった。

また、身体の重心位置、そして左右それぞれの車輪回転スピードとトルクの計測精度が上がったことで、より最適なシーティングポジションを導き出すことが可能になった。よりリアルな漕ぎ心地を再現する新開発の回転負荷システムで、現実に近い走行シミュレーションができるのも大きな特徴だ。

そしてなにより、『bespo』の強みとも言えるポイントが、クラウドデータベース及び解析システムと連携することだろう。計測したデータは、クラウドデータベース上で集約され、体格や障がいの度合いとシーティングの関係をAIが解析し、より高い精度でマッチングしたシーティングポジションを提示できるのだ。『bespo』に座って計測しながら結果を確認し、即座に調整。最適解がワンストップで、そして短時間で判明する。ユーザーにも介助者にも、負担が少ない点も特筆すべきだろう。

また、とくにリハビリをはじめて間もないユーザーに有効な回転アシスト機能も搭載していることから、シーティングシミュレートはもちろん、障がいの状況に応じた幅広いリハビリやトレーニングとしての活用も期待できる。もちろん、パラアスリートのように競技成績の向上を見据えたトレーニングにも対応する。

『bespo』は国際福祉機器展2022にてお披露目され、話題を集めた。

よりスタイリッシュに、お手軽に、
ユーザーのQOLを向上させる

なお、『bespo』の開発は、『SS01』同様、RDSと国立障害者リハビリテーションセンター研究所、およびfuRoとの共同研究によるものだ。

イタリアのA’ Design Awardやグッドデザイン賞を受賞したフューチャリスティックなデザインはさらに洗練されただけでなく、大きさもコンパクトに改良された。今後、リハビリ施設や病院でも導入しやすいように配慮したという。何より、ユーザーが実際に座って車いすの座面や車輪の配置を電動で動かしながら、角度や寸法を微調整できるというお手軽さは、大きな魅力だと言える。

『SS01』よりもコンパクトになった『bespo』。後方に3セット分のハンドリムが付属しているのも特徴だ。

『SS01』から『bespo』へと橋渡しされたシーティングポジションのシミュレート技術は、間違いなく大きな進歩を遂げた。今後、ひとり一人異なる車いすユーザーのニーズにきめ細かく対応し、シーティングポジションの最適解が簡単に導き出せるようになれば、QOLの向上はより目覚ましいものになるに違いない。

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(text: 長谷川茂雄)

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