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科学とファッションの結合。アヌーク・ウィプレチェットが手掛ける、鼓動を纏った服とは?

長谷川茂雄

オランダ人デザイナーのアヌーク・ウィプレチェットは、デジタル技術とファッションという異なる要素を結びつけることで、新たな表現を生み出し続けている。それは前例のない“ロボティック・ファッション”として多くの人々を魅了して止まない。例えば3Dプリンターで作られた“スパイダードレス”は、着用者のパーソナルスペースに近づいた人を攻撃するように、クモの足が飛び出す。そんなユニークなファッションは、「人々が自分の感情に嘘をつかなくてもよい世界」に繋がるという。そして彼女が次にデザインしたのは、心臓の鼓動に合わせて光が点滅するドレス。その気になる意図とは?

オランダで生まれ育ったアヌーク・ウィプレチェットは、ニューヨークやカリフォルニアのシリコンバレーで、若い頃からクリエイターとしての資質を高めてきた。14歳の頃にはファッションの世界に魅せられ、やがてロボット工学に出会うと、のめり込んだという。

「ロボットは、基本原理として脳と心臓の鼓動(に相当する構造)を持っている。だから生地や衣服にも、そういったものがあってもいいのではないか?」と思うようになった。

2000年代の半ばに、彼女は、オープンソースコンピューターハードウェアとソフトウェアの会社である「アルディーノ」の存在を知る。北イタリアの街、イヴレーアのバーから名付けられたという同社は、開発したキットを使い、新しいデジタル機器を作るコミュニティでもあった。

彼女は、そこに身を置きながら興味深い実験の一つとして、3Dプリンターで「スパイダードレス」を作り上げた。ロボティックの技術が随所に取り入れられたこの画期的な衣服は、クモの足が襟になっている。そして、着用者のパーソナルスペースに誰かが踏み込み過ぎると、クモの足が飛び出すという仕組みだ。そのドレスを世界各国で発表し、彼女は面白い発見をしたという。

「オランダの人々は、とても素早く人の近くに来るが、アメリカ人は、人と少し距離を保って立つことがわかった。彼らは他人を尊敬する観念が強く、紳士的なのだ」

そんな活動を続けるウィプレチェットが次に手がけたのは、クリスタルメーカー「スワロフスキー」と共同開発したドレスだ。内蔵されたセンサーにより、着用者の心臓の鼓動に合わせて光が点滅する。

例えば、片思いをしている相手と話をするときのように、緊張する場面でそれを着用していたら……? そう、このドレスを纏うことで、緊張や恐怖、興奮といった内面の高まりを周囲にさらけ出すこととなる。

「自分の鼓動を身に纏うというのは、とても純粋なことです。自分の感情を可視化することで、気まずい場面に直面することもあるかもしれませんが、それはそれで興味深いのです」

どうやらデジタル技術とファッションの結合は、その相乗効果で、これまでにない表現と新しい気づきをもたらすようだ。

ウィプレチェットの挑戦は、まだ始まったばかり。“ロボティック・ファッション”の未来に期待せずにはいられない。

[TOP動画引用元:https://youtu.be/vBjmzvd84xs

(text: 長谷川茂雄)

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トップアスリートのためのスポーツ用義足「Xiborg ν」、いよいよ受注生産開始

HERO X 編集部

義足のランナーが世界最速の記録を出す、そんな夢の実現にまた一歩近づいた。株式会社Xiborg (サイボーグ)は同社に所属する4人の義足ランナーの走りを解析、結果を基につくられたトップアスリート向けのスポーツ用義足「Xiborg ν (サイボーグ ニュー)」の受注生産を開始した。9月1日と2日に香川県で行われた日本パラ陸上選手権大会では、トヨタ自動車所属でXiborgサポート選手の佐藤圭太選手がこの義足を履いて出場、T-64の100m、200m競技において、見事に1位を獲得した。

この義足は、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターによる「障害者スポーツ研究開発推進事業 公募型共同研究」として選ばれ、これまで共同開発を進めてきた株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所、技術協力を受けてきた東レ株式会社東レ・カーボンマジック株式会社との連携に加え、都産技研との共同事業として開発されたもの。

重さは720~760g。同社が2014年から販売してきた 「Xiborg Genesis」の後継モデルとして生まれた。ギリシャ文字で「ν(ニュー)」と名付けられ、その名にふさわしく、形状は「Xiborg Genesis」とはかなり異なり、接続部分から一気に美しい「くの字」を描く。

左が「Xiborg ν」右が Xiborg Genesis

この形状により、大きな変形から生まれる推進力を持ちながら、重心が上部にあるため、より扱いやすくなったという。サポート体重は60~75kg。8月から受注生産を開始している。問い合わせは株式会社 Xiborg コンタクトフォーム  http://xiborg.jp/en/contact/ で受け付ける。

画像提供:株式会社 Xiborg

(text: HERO X 編集部)

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