テクノロジー TECHNOLOGY

後ろから乗ったっていいじゃないか!“乗れるロボット”『RODEM(ロデム)』が作り出す未来のカタチ

中村竜也 -R.G.C

車いすはもはや障がい者のものだけではない。そんな概念に変りつつある昨今の風向きの中、ユーザーの生活空間を広げ、質の高い生活を実現するための移動をサポートしてくれる新しい“乗れるロボット”『RODEM(ロデム)』の販売がついに開始した。そこで今回、医療現場にはじまり、災害地、そしてすべての暮らしと産業のためにロボットを開発する、株式会社テムザックの代表取締役・髙本陽一氏にその全貌をお話しいただいた。

新しい概念の前に聳え立った見えない壁

株式会社テムザック代表取締役・髙本陽一氏

介助者と被介助者の負担を軽減できるだけではなく、日常生活に密着した働きを目的とした“乗れるロボット”『RODEM』。機能、デザインを含め、今までの概念を壊すべくコンセプトで販売までたどり着いたわけだが、そこには予想だにしない苦労があったという。

「実はものづくりとしての苦労よりも、RODEMの開発コンセプトである “後ろから乗り込めて、椅子が上下する” という概念を理解してもらうのに最も苦労しました。介護などのプロであればあるほど、『椅子は前から座るものなので考えられない』って言うんです。

彼らは、既存の車いすに乗せるために滑り板を引いてスッと乗れるようにしたり、人によっては古武道を勉強して乗せ
えの負担をなくす努力などをおそらく長い時間やってきていたので、それをある意味否定しているRODEMの概念は、受け入れづらかったんでしょうね。後ろから乗るというのは、目の前に来たら前にスライドするだけでいいので、本当に楽なんです」

逆に言えば、プロとして直接現場で介護に携わっていない人にとってRODEMの概念は素直に受け入れられるのではないだろうか。なぜなら、その一連の動きは、回転などする必要もなく、直線運動だけで済むからだ。実に合理的である。しかし、想定外の壁はこのほかにもあったのだ。実証実験をデンマークで行った理由がまさにそうだ。

「はじめは九州大学の教授と実証実験の話を進めていたのですが、絶対的な安全を確保できたものでないと、実証実験はできないと言われてしまいまして。弊社からすれば、絶対的な安全を確保できたものは、実験する必要がないんです(笑)。それじゃ、日本ではできないねという話になって。

デンマークは、どんなものでもモニターになってくれるお年寄りの集団がいたり、たとえリスクがあったとしても、新しい物を積極的に取り入れてくれる国なんです。責任の所存のなすりつけあいをする日本とは大違い。それならばということで、デンマークで実証実験をすることになったんです。皆さん率先して乗ってくれました。自分たちの生活の向上に対する意識が高い国民性なんでしょう。もちろん日本人にもそういう方はたくさんいるとは思いますが、たとえ本人が受け入れたとしても、組織や変なルールの中で抑止してしまうので、結果、国としてのスピード感がなくなってしまうのだと思います」

柔らかな思考で描く、RODEMが切り拓く近未来

「実は名前を決める会議の最中に、乗馬姿勢で乗るから“RODEO”という名前を提案した人がいたんですが、それを聞いた誰かが急に『ロデム変身、地を駆けろ!』と言い出したんです(笑)。確かに椅子も上下して変身するし、地も駆けるなと思い『いいね!』ってなりました(笑)」この自由な発想と、それを受け入れる髙本氏の柔軟な姿勢が、RODEMのような優れた“乗れるロボット”の開発を成功させたと思うと納得だ。また、改良を加えることにより、さらにこんなシーンで活用できたらといった未来を見据えた開発が進んでいるという。

「いま販売されているのは内型なんですが、今度は外でも利用できるよう、サスペンションを付けた外型を販売します。すでに7月に京都の嵐山で、NTTdocomoと京阪バスの協力のもと、クラウドで自らの場所などを管理し、タブレットで確認できるようにした実験をしました。

嵐山は外国からの観光客も多いので、言語対応にし、店の中も含めた街中を走ってきました。たとえば自らの進行方向にお寺があるとします。そうするとタブレット画面にアイコンが表示され、それをクリックすると説明やナビゲーションが始まるんです。女子高生にも試乗してもらいましたが、タブレットで会話ができることや、相手がどこにいるか分かることが便利だとすごく喜んでもらいました。

先々は、南ドイツの方ではそういった街が実際に出てきているように、自動車は全部郊外に停め、街の中心には自動車を一切入れない。じゃあ、街の中は自転車と人だけかというとちょっと無理があるので、そこでRODEMのようなシティモビリティをシェアリングするんです。そして目的地にたどり着いたら、RODEMが足りていない場所を自ら判断して、無人でそこに向かうという一連のモデルをすでに考えています。最終的には、現在NTTdocomoがやっている7000台の自転車シェアリングと連携して、この構想が実現できたらいいなと思っています」

最先端のシティモビリティとして、すべての人が乗れるということ。真の意味でのユニバーサルとはこういうことなのだろう。では、髙本氏が考えるRODEMも含めた、ロボット技術でのパラダイムシフトはどのように考えているのだろうか。

「皆さんが一般的に考えるロボットって、まだまだ受付案内やスマートフォンに車輪を付けたようなことだと思うんですね。その手のロボットは、IT屋の考え方なんです。ロボット屋が考えるロボットというのは、物理的に何かしないと面白くないし、意味がない。たとえば、先日積水ハウスミリ単位の精密さで行う溶接や、天井部分の作業をこなすロボットを開発したように、AIを搭載しながら物理的な作業ができるものが、我々の考えるロボットなので。

弊社は、大企業の様々なニーズのロボットを、片っ端から作ってきた歴史があります。いま言った積水ハウスのロボットもそのひとつ。最近ではよく、ロボットが人の仕事を奪ってしまうとか言いますけど、そうではなく、日本が直面している少子高齢社会の歪みをカバーするような視点で物事を見ていかないと、本当にまずい時代に突入しているんです。

人材を募集したら応募が来るような職場にロボットを入れている暇があったら、人が足りていない職場をロボット化にするべき。実際に受付案内のロボットを作ってくれという問い合わせはたくさん来ますよ。でもすべて断ります。なぜなら、受付案内は人間の方がいいじゃないですか。そこはアナログであってほしい(笑)

ロボットの需要は凄まじいスピードで増えている現実があるので、本当に急がないとまずいと感じています。我々も様々な分野で活用できるロボットの開発に取り組んでいるので、あと数年すれば、『あれもテムザックさんだったんだ』というのが沢山出てくると思いますので楽しみにしていてください」

「RODEMに乗った人は絶対に笑顔になるんです。それに前傾姿勢で乗ることで気持ちも前向きになる」と話してくれた髙本氏。どんなにテクノロジーやロボット技術が発展したとしても、人間はほんの些細なことで、今までの考えや環境を一変できる生き物。その感性がある限り、ロボットやAIと人間の共存に不安を感じることはない。

株式会社テムザック
http://www.tmsuk.co.jp/rodem/

髙本陽一
1993年から災害救助、警備、介護、医療、 コミュニケーションロボットなど30種類以上もの実用ロボットを手掛ける日本のロボット開発のパイオニア企業のCEO。ロボット黎明期から独自の遠隔操作システムを開発。その後日進月歩で新技術を次々と開発している。本社(福岡県宗像市)、台湾、イギリス、京都、横浜と国内外に5拠点を持ち、グローバル展開を行っている。MBS「情熱大陸」テレビ東京「WBS」「未来世紀ジパング」「ガイアの夜明け」NTV「真相報道!バンキシャ」等に出演。」

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 壬生マリコ)

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スポーツは「観戦」から「同化」するものへ。高専生が生み出した『シンクロアスリート』の可能性 後編

吉田直人

独立行政法人国立高等専門学校機構東京工業高等専門学校の学生たちが開発した“選手と同化する”スポーツ体験システム『シンクロアスリート』。ジェットコースターの仮想体験というアイデアからスタートしたこのプロジェクトは、東京2020への機運も相まって、国内のコンペティションで高い評価を受けた。後編では、『シンクロアスリート』の今後のロードマップや、開発に携わった学生と教員が抱くテクノロジーへの期待について聞いた。

課題は「速度」と「ユーザー体験」。
ゆくゆくはオープンソース化

左から瀧島和則さん、米本毬乃さん、一瀬将治さん

VR技術は市場の成熟を見ても、これから、という段階にあると思いますが、VRを活用したスポーツ観戦システムは、俯瞰映像が多い中で、選手の身になって見る、体験するタイプは珍しいですよね。今後のロードマップで考えていることがあれば教えてください。

瀧島:現段階ではライブ配信をすると、タイムラグが生じるため、通信スピードを改善したいです。こればかりは、私たちの問題というより回線速度技術の発展が必要になってくる部分です。『シンクロアスリート』は、ライブ配信モードで今まさに競技をしている人の生中継が可能ですが、その際にスムーズに配信を行うには、どうしても、インターネットの回線速度が必要になってきます。現状は、選手が競技をしている場所から中継映像を配信する場合に、多少の遅延が発生してしまいます。目標は、その待機時間を減少させた上で、動きと同時に高画質な映像を観戦者に届けること。そこは現状の技術だと難しい部分がありますが、将来的には、映像遅延の原因となる映像圧縮が不要で、高画質のまま映像を送信できるよう,ネットワーク回線の高速化について、研究機関や企業で研究していきたいと思っています。

米本:今私が取り組んでいるのは、『シンクロアスリート』のユーザー体験の改善です。スポーツの再現ができていても、やはり乗り物であって、VRを用いていることもあるので、いわゆる「VR酔い」なども起こりえます。そういった感覚的な違和感を低減する作業をしています。乗って頂いたいろいろな方からのフィードバックを踏まえて、どんな人がどう感じているかを分析しながら、『シンクロアスリート』を通じたスポーツ体験に心地よく没入できる状態を目指しています。誰が体験しても、純粋にコンテンツを楽しんで頂ける状態まで持っていきたいです。

一瀬:直近では、EVカーレースや、馬術、バスケットボールなどといった競技を収録していく予定ですが、今後も、東京2020に向けて多くのコンテンツを作っていくことになると思います。その過程で、よりこういったスポーツ観戦システムが浸透していくには、誰でもコンテンツを作れる状態が理想的だと考えています。例えば、撮影した動画とスマートフォンで収録した動きをパソコンにインストールするだけで『シンクロアスリート』との同期が可能になるソフトウェアを開発し、最終的には、コンテンツ制作の場をオープンにしていきたいと思っています。

「スポーツ体験のスタイルを根底から変えていく」

シンクロアスリートは今後スポーツにどのような影響を与えると考えていますか。

米本:私自身も今までいろいろなスポーツをやってきました。そこで感じているのは、やはり自分の身近にある競技でなければ体験する機会がないということです。例えば友達がやっていたからなど、何かの縁で触れる機会があるという具合ですね。その点で、『シンクロアスリート』はスポーツ体験の選択肢を広げることができると考えています。競技を選手目線で擬似体験した後に、そのスポーツを実際にやってみるきっかけになりうるということです。子どもたちがさまざまなスポーツに触れる機会を作ることができれば、結果としてスポーツ人口の裾野を広げることにもつながり、将来的に、オリンピックやパラリンピックでメダルを獲る選手が育っていくかもしれません。

松林:『シンクロアスリート』は、スポーツ体験のスタイルを根底から変えていくポテンシャルを秘めていると思っています。今までは絶対に不可能だった観戦ができるようになるので、例えばマラソンのペースメーカーにカメラとセンサーを付けて貰えれば、自分自身がペースメーカーになれる。周囲の選手も見えるし、実際には走っていないけれど、走っているような動きを体感して、選手たちの息遣いまで聞こえてくる。また、VR技術とモーションベースを組み合わせた機構という特性を活用すれば、スポーツのトレーニング方法も革命的に変わってくるのではないかと想像しています。

数値化だけでなく、
芸術性のトレーニングにも

松林教授と山下晃弘准教授(右)

目下、注目している分野はありますか?

山下:今までスポーツを教えたり、体験したりしようと思うと、感覚的な言葉で表現されるシチュエーションも多かったと思います。「シュッと」とか「ガッと」といった表現ですね(笑)。それが今、いろいろなセンサーが小型化されて、体に身につけることが容易になっています。そういった機器を使って動作を細かく数値化することで、今の動きは理想的な動きからこれだけズレている、ここをこう動かしたらこうなるといったシミュレーションを用いた評価やコーチングが簡単にできるようになっていくと思います。それは選手にとっても、コーチにとっても、かなり革命的なことで、センシング技術は、これからのトレーニングやコーチングの方法をドラスティックに変えていくと思います。それがチームスポーツにおける戦術や相手チームの分析にも転用されていくはずですから、ひいては観戦者の楽しみ方も変わってくるでしょう。

松林:私が今、面白いと思っているのが、画像処理技術が凄く向上してきており、それをスポーツに応用する事例が増えてきている点です。よくあるのがテニス。ボールがラインに乗っているか、いないかをリプレイで確認する場合がありますよね。あれはエンターテインメントとしてもよくできていて、選手が「チャレンジ」としてアピールし、確認するシステムになっています。確認の結果に応じて、周りの観客も拍手して盛り上がるように、技術を使って試合の運営上でうまく使っている好例だと思います。カメラを何十台も使っているようですが、そんなことが可能になった画像処理技術に注目しています。

山下:テクノロジーの発展に伴って「数値化する」ことはかなりのレベルまで来ていると思いますが、一方で、小説や芸術分野にコンピュータが入り込み始めていますよね。コンピュータが小説を書く、俳句を読む、絵を描く、音楽を作る。スポーツにも芸術的な側面があると思っていて、他方で競技における芸術性を高めるトレーニングはまだ確立されていないと思うのです。「人間の芸術性を磨くためのサポート技術」が生み出されたら、それはそれで面白くて、フィギュアスケートの表現力をどうやって高めるのかなど。非常に感覚的な領域なんだけれども、そこにコンピュータが何らかのサポートをすると、もう少し芸術力を向上させることができる、そんなサポートがこれからできてくるんじゃないかなと期待しています。

審査員の評価は得点で示されても、必ずしも数字では計測できないような部分ですよね。

山下:測れないと思います。コンピュータ自体が芸術作品をつくる、という方向があるとすると、それを人間の発想と組み合わせた時に、自分の中になかった新しい発想を与えてくれて、表現力や芸術性が高まっていくような共存もあるのではないかと思っています。そういうところをサポートできたらテクノロジーの用途としてますます貢献できると期待を持っています。

前編はこちら

(text: 吉田直人)

(photo: 河村香奈子)

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