テクノロジー TECHNOLOGY

有りそうで無かった!エポックメイキングなサッカー審判専用アプリ『REFSIX』に注目!

中村竜也 -R.G.C

サッカー審判用アプリなんて需要あるの?なんて思う方も少なくないはず。驚くなかれ、実は国内だけを見ても審判員の登録数って26万人以上もいるそう。これは、サッカーの母国であり、REFSIXが開発されたイングランドと同等の数。すなわちマーケットとしては十分なのである。さらにここ最近のサッカー人気の追い風もあり、世界的に注目のアプリとなっているのだ。

審判技術の向上は、サッカー界の底上げに繋がる

全世界の競技人口を見ても、1位のバスケットボール(4億5000万人)に次ぐ多さを誇るサッカー(2億5000万人)。日本でも人気のJリーグをはじめ、UEFAチャンピオンズリーグ、ましてやワールドカップ開催時には、サッカーファン以外の人も巻き込み、大いに盛り上がる一大イベントとなっているほど。しかしサッカーの試合を見ていても、やはり審判の仕事はあくまでも主役ではなく、影で試合を支えること。

サッカー審判員用アプリ「REFSIX(レフシックス)」は2015年にイングランドで創設され、サッカーの審判の記録をITの力で管理することで、試合の記録や、審判の動きをデータ化し、審判技術の向上からサッカー界の底上げを目指すアプリ。

「試合日程、リーグ、試合名、レギュレーション(競技会規定)、主審、副審など、どの役割を担当するかなどの情報をスマートフォンに入力した後、スマートウォッチに同期し試合に臨むことが可能となりました。
試合中に今までは紙に記録していた、イエローカード、レッドカードの枚数、交代や得点の記録をすべてスマートウォッチで管理できるようになったことはかなりの進歩なのです」。そう語ってくれたのは、現役の大学生でもあり、自身も2級審判員として活躍するREFSIX JAPANの広報・本田大晟氏。さらにこう話しを進める。

「そこから更に派生し、心拍数や試合中に走った距離や自分がいた場所といったパフォーマンスのデータも可視化できます。それらを蓄積していくことで、自らのジャッジの傾向や動き、ウィークポイントをデータとして扱い、審判技術の向上へと繋がっていくわけです。もちろんデータをどう活かすかは個々の判断にはなりますが、REFSIXの真の意義は、そこにあると思っています」

肝心な日本での普及率はいかに?

「日本版をリリースしてからちょうど1年ほど経つのですが、最初は『何だよそれ?』『本当に大丈夫なの?』みたいな、受け入れない空気が正直強かったです。そう考えると、どう馴染んでいかせるかが最大の課題。アプリ自体がクラッシュしてしまうことはほぼないので、安心して使用してほしいと思ってはいるのですが。

『いきなり試合中に電池無くなったらどうするの?』って言われても、それはさすがに自己責任の問題じゃないですか。紙だって飛んでいったり、濡れたり、破れたりしますよね。とは言うものの、それがREFSIXに対する率直な不安なんだなと真摯に受け止めなくてはいけません。いかに不安を取り除いていくかも、普及率を上げるのに重要な点だと認識しています。それでも、リリースから1年経つと、『君も使っているんだ』みたいな会話とかも一緒に審判する人たちからも聞こえてきたりして、若い世代の審判員には徐々に広がっているなと感じています」

他国の話にはなるが、先日アメリカで開催されたダラスカップでは、大会運営側のバックアップを受け、多くの国際審判員に試してもらう機会を得ることができたという。アメリカという国柄を象徴するダイバーシティをコンセプトに、グローバリゼーションとデジタリゼーションを表す「ダラスカップエクスペリエンス」を具現化したこの大会は、今や世界でも有数の国際ユース大会に成長したいい例でもある。

このような世界的な動きがあるなか、日本の審判協会に対しても、REFSIXの普及に関しての働きかけは続いている。また、アプリの進化に対して普及率アップは欠かせない。現状でもほぼ隙がないほどの完成度の中、さらなる進化を目指すならばどのような部分があるか尋ねてみた。

「試合の部分でいうとほぼ出来上がっていると思います。今後はルールの変更にいち早くどう対応できるか。例えば、イギリスのアマチュアリーグではすでに採用されているルールなのですが、ラグビーのルールにある『シンビン(一時的退場)』が導入されたんですね。
試合時間、ロスタイムに続き、選手1人だけとは限らないシンビンという新ルールが加わると、どう時間を計測するかが大きな問題になりますよね。そこの対応が、いち早く、より簡単に出来ればREFSIXが普及できる大きなチャンスなのかなと思っています」


「REFSIXが開発されたイングランドのプレミアリーグ等のトップカテゴリーと言われるプロリーグでは、すでにリーグ毎に開発した審判用システムが実は存在しているんです。ただそれではプロのためのシステムでしかないので、審判員全体の0.1%以下にしか使われないという現実もあります。だからこそ、技術の進歩が著しいスマートフォンやスマートウォッチを使うことによって、審判界全体に浸透させることができるのではないかと考えています」

現状のサッカー審判の世界だけはなく、スポーツ界全体をみても、一般的な世界と比べるとIT化が遅れている現実がある。データの活用という面をみたら尚更。そういった意味も踏まえ、今後は他のスポーツにも対応できるようになっていくのだろうか?

「まずは、一番サッカーの審判に近いラグビーですね。すぐにリリースというよりかは、来るべき時が来たらすぐに対応できるよう、すでにプロトタイプ版はできています。フットサルやハンドボールなども考えられますが、そこでネックになるのが、スポーツがマイナーになるとそれに関わる人口も減っていくというところ。ある程度のマーケットの大きさは必要なのかなと考えています」

最後に、REFSIXが切り拓く未来をどのように捉えているか尋ねてみた。

「選手はテクノロジーを取り入れたトレーニングによって、競技スピードや競技自体のレベルが上がっていることに、審判自体がついていかなくてはならない。そこについていくために、自分が審判をした試合の情報を、正しくデータとして扱うことができるようになったということは、サッカー界の発展に繋がると信じています」

現役の大学生である一人の青年が、日本のサッカー審判会に変革を起こそうとしている。この若い力を信じ、サッカーだけはなくスポーツ全体の進展をこれからも期待したい。

REFSIX JAPAN
https://refsix.com/japan
japan@refsix.com

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 増元幸司)

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スポーツから保育まで。体の動きや状態を計測するスマートアパレル「e-skin」の可能性

浅羽 晃

東京大学発のスタートアップである次世代スマートアパレル e-skinは、伸縮性エレクトロニクスの技術を用いた“着る”インターフェイス。ジャイロセンサ、歪センサ、バイタルサインのセンサなどの各種センサを適所に配置することにより、体の動きや状態を、正確に計測し、通信することができる。用途は、スポーツのフォーム解析、リハビリテーションのサポート、乳幼児の午睡の見守りなど幅広い。株式会社Xenomaの網盛一郎代表取締役CEOにお話をうかがった。

ドイツの人工知能研究センターとともに
高精度モーションキャプチャを実現

場所を問わず、リアルタイムで高精度のモーションキャプチャを取ることができる。

東京都大田区の工場アパートに入居するXenomaのオフィスを訪ねると、まず目に入ったのはハンガーに吊るされたシャツやスパッツ、マネキン、裁断の作業台などだった。オフィスを見る限り、IT企業というよりは、アパレルメーカーのイメージである。この意外性は、Xenomaが開発した次世代スマートアパレル e-skinの特質を象徴していると言えるのかもしれない。e-skinは、着心地のいい衣服でありながら、その実、さまざまなデータを採取・通信できるインターフェイスなのだ。

着脱式のハブ(黒い円盤状のパーツ)を外せば水洗いできるので、繰り返し使える。

「僕は東京大学のJST ERATO(科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業・総括実施型研究)、染谷生体調和エレクトロニクスプロジェクトで伸縮性エレクトロニクス開発を行っていました。次世代スマートアパレル e-skinはその技術を用いたものです。通常、電気の流れる物質は、金属がそうであるように、あまり伸びないのですが、Xenomaの伸縮性エレクトロニクスは1.5倍くらい伸びます。そのため、服に組み込んでも壊れることがありません」

ひと言で言うなら、次世代スマートアパレル e-skinは、電気信号を伝えることのできる服だ。つまり、脈拍、温度、呼吸といったバイタルサインのセンサ、ジャイロセンサ、歪センサなどの各種センサを配置することにより、体の動きや脈拍、体表面温度、呼吸などの体の状態を、服を着たままで正確に計測することができる。たとえば、スポーツやスポーツ医療の分野で役立つモーションキャプチャは、e-skinの得意とするところだ。

「モーションキャプチャは、ドイツのDFKI(ドイツ人工知能研究センター)というところといっしょに研究開発しました。彼らは地磁気を使わないモーションキャプチャのアルゴリズムを持っていて、それと僕らのe-skinを組み合わせると、ほぼリアルタイムで、どんな場所でも高精度のモーションキャプチャを取ることができるのです」

現在、モーションキャプチャはカメラを用いる方法が主流となっているが、e-skinを用いるとカメラにはないメリットが得られる。

「カメラの場合、撮影のできる場所であることが必須条件であり、また、そのような場所では運動に多少の制約が出ることもありますが、e-skinなら場所や動きの制約はありません。マラソンのように、長距離を移動する運動でもパフォーマンスの解析ができます」

午睡チェックのサポートに
54の保育園で1500台が稼働している

高齢化社会が進み、より重要性が増しているリハビリテーションの分野でも、e-skinは有効利用されることになるだろう。

「日本ではまだ顕在化していませんが、世界的には、在宅リハによる運動機能の低下が問題になっています。病院でリハをして運動機能が回復し、家に戻っても、その後のリハが不十分であったり、不適切であったりすることで、運動機能が低下してしまうのです。在宅でもe-skinを着用してのリハなら、理学療法士さんがデータを見ることによって介入することができますから、適切なリハを続けることができます。日常の行動を見ながらトレーニングプログラムを提供することができれば、運動機能の低下は防げるはずです」

保育の分野に目を向けても、e-skinは有益性が高い。乳幼児の死亡原因として多い乳幼児突然死症候群(SIDS)は、何の予兆や既往歴もないまま乳幼児が死に至る原因不明の病気で、窒息などの事故とは異なる。SIDSの予防方法は確立していないが、厚生労働省が真っ先に挙げる予防法は、“寝かせるときは仰向けに寝かせる”ということだ。データ上、仰向けのほうがSIDSのリスクは低いのである。

「e-skinであれば、赤ちゃんの姿勢を常に見守ることができます」

東京都福祉保健局などの行政は保育施設に対して、SIDSの予防と睡眠中の事故防止のために、“0歳児は5分に1回、1~2歳児は10分に1回、必ず1人1人チェックし、その都度記録すること”という指針を出している。乳幼児の生命を守るためには必要な策だが、保育士の仕事量はその分、増えている。

「以前は添い寝をして寝ついたら、自分の書類仕事ができたのに、いまは5分に1回見て、うつ伏せだったら仰向けにして、記録する必要があります。書類仕事は後回しになるので、残業時間は確実に増えていると思います」

0歳児は概ね3人に保育士1人、1、2歳児は概ね6人に保育士1人という配置基準もあり、午睡の安全を確保するためにはかなりの労力が必要だ。見守りが自動化できれば、保育施設の労働環境は少なからず改善できる。

「オムツに取り付けるタイプのセンサが、すでに54の保育園で、1500台くらいが稼働し、毎日、午睡のデータを取っています」

日立製作所や紳士服のAOKIなど
有名企業とのコラボレーションも話題

e-skinは着心地のいい服でもあるので、被験者に負担をかけずにさまざまなモニタリングができるのも特徴だ。たとえば、睡眠の科学的研究とは親和性が高い。

「ドライバーの眠気を察知し、事故を防止することができると考えています。カメラによって眠気を察知する方法もありますが、これだとマイクロスリープを見逃してしまう。心拍の間隔変動や体温、呼吸、上体の動きなど、総合的に見ることによって、察知の精度は高くなるのです」

またe-skinは、IoTで利用することもできる。

「温度や湿度が不快で眠りの質が悪いときは、e-skinがバイタルサインや動きによってそれを察知し、エアコンを調整する。これは一例ですが、e-skinはインターネットとつながっている機器との連動ができるのです」

e-skinに搭載されたすべてのセンサは着脱できる1個のハブによって管理される。数多くのセンサを1つにつなげるこの技術もXenomaならではの技術だ。センサと配線には防水加工がされているため、ハブを外せば洗濯も可能だという。

「一般的にウェアラブルのデバイスは、1デバイスに電池が1個ついて、通信機能もそれぞれについていますが、e-skinの電池と通信機能はコントローラ的なハブに搭載しています。1個のハブを充電すればいいのですから、管理は楽です」

e-skinの技術は確立しているので、今後の展開の鍵を握るのは、市場の開拓であり、他企業とのコラボレーションだ。

「ローカルミニマムに陥りがちになるので、会社の陣容においても、ビジネスの選択肢においても、多様性を意識しています」

すでに寝具メーカーの西川、紳士服のAOKI、日立製作所などとコラボレートしている。次世代スマートアパレル e-skinが身近な存在になる日は近いのだろう。

網盛一郎(Ichiro Amimori)
株式会社Xenoma Co-Founder & 代表取締役CEO。1994年、東大院農・農芸化学専攻修士課程修了後、富士フイルム株式会社入社。2012年、同社を退職、フリーランスとして大学や企業と共に新規事業開発を行う傍らで、東京大学大学院情報学環・佐倉統研究室において科学技術イノベーション論として「先端技術をどうやって社会価値に結び付けるか」や「人と機械の関係の未来」を研究し、その実践として2014年より東京大学・JST ERATO染谷生体調和エレクトロプロジェクトに参画、2015年11月にXenomaをスピンオフ起業。2006年、米・ブラウン大院卒(Ph.D.)。

(text: 浅羽 晃)

(photo: 増元幸司)

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