スポーツ SPORTS

東京2020まであと1年!俳優・斎藤工「特別記者」就任記念イベントレポート

Yuka Shingai

東京オリンピック・パラリンピックの開催までいよいよあと1年。2002年からJOCオフィシャルパートナーとして日本選手団を応援してきた読売新聞は先日、CMキャラクターを務め、この度、東京2020の特別記者に就任した俳優・斎藤工さんと、3名の豪華オリンピアン・パラリンピアンを迎えトークイベントを開催した。「タレントが記者をやっている、というところはぶち壊して、ギリギリのところを攻めていきたい」と特別記者就任について意気込みを語った斎藤さん。初仕事となったのが、この日開催されたトークイベント「読売新聞スペシャルトーク〜東京 2020 開催まであと 1 年!〜」の司会進行。腕章をつけ、記者としての準備も万全に整ったところで、ゲストが登壇。オリンピック、パラリンピック出場時のエピソードや、今後活躍が期待される選手など、東京2020が一層楽しみになるトークが繰り広げられた。

オリンピアンが語る、注目の選手とは?

ミー太郎 (読売新聞日曜版の連載マンガ「猫ピッチャー」の主人公) から「特別記者」任命状を授与された斎藤工さん。俳優業に加え、映画監督、モノクロ写真家、YouTuber などマルチな活躍ぶりで知られている。

1人目のゲストは、前回リオ2016大会で200m平泳ぎの金メダルに輝いた元水泳選手の金藤理絵さん。東京2020は現役引退後、初めての大会となる。

「リオから3年経ったと思うと時間の流れが速く感じます。現役時代は『あの大会まであと〇日』とカウントダウンすることも多かったし、練習していると、1日1日長かったのに、終わってみると何でこんなに速く感じるのか不思議ですね」と選手時代と今の違いについて語った。

続けて2人目のゲストは、元サッカー日本代表の城彰二さん。1996年アトランタオリンピックで強豪ブラジルを下した、通称『マイアミの奇跡』に貢献した城さんに、サッカー少年だった斎藤さんから「オリンピックとワールドカップは2年おきに開催されてますが、代表に選ばれる意味合いというのは?」という質問が飛ぶ。

「サッカーのオリンピック代表は少し特殊で、23歳以下という年齢制限が設けられていて、プラス3人オーバーエイジで選ばれる。僕が出たアトランタオリンピックでは全員23歳以下でしたが、その勢いで2年後の日本代表に入ろうという気持ちを全員持っていましたね。当時はJリーグの選手がメインでしたが、今は海外のクラブチームに所属する選手も増え、日本のサッカーがレベルアップしたことを感じています。今回の大会では、現在スペインのレアル・マドリーで活躍している久保建英選手に期待しています」と時代の変化や注目選手についても言及した。

運命的なミスが、車いす陸上の金メダリストを生んだ!?

3人目のゲスト伊藤智也さんは、2008年北京パラ車いす陸上金メダリスト、2012年ロンドンパラ銀メダリスト。HERO X でも度々紹介、編集長で株)RDS代表の杉原との競技用車いすレーサーの開発で東京2020を目指す、58歳現役の車いすランナーだ(参考記事:http://hero-x.jp/article/1811/)。パラリンピックまで残りちょうど400日という区切りでもあったイベント当日、伊藤選手は今の心境と現状についてこのように語った。

「選手からするとパラリンピックまでは階段が何段もあって、出場するための階段を確実に一段一段昇っていかなくてはいけないので、今は冷静かつ落ち着いた時間ですね。11月の世界選手権で確実な成績を収めることがパラリンピック出場のカギとなるので、国内の選手はまずはそこに照準を合わせています」

今回登壇したゲストのうち唯一の現役アスリートである伊藤選手は、34歳で多発性硬化症を発症したことから自立歩行が困難となり、車いす生活が始まった。2008年北京パラリンピック、2012年ロンドンパラリンピックでそれぞれメダルに輝き一度は引退したが、この度現役復帰、東京2020のトップを目指している。伊藤選手と車いす陸上競技とのドラマティックな出会いから、トークイベントは盛り上がりをみせる。

伊藤智也選手(以下、伊藤):「たまたま同じ病院に入院して友だちになった方の息子さんが車いすを扱う会社に勤めていて、買ってくれないかと言われたんです。渡りに船だと思って『持ってきてください』とお願いしたところ、営業担当の人が間違って競技用の車いすを持ってきた。それが競技を始めたきっかけです。

初めて出場した2004年のアテネパラリンピックではボコボコにやられました()。ですが僕は究極の負けず嫌いで、このままでは終われないと思いました。そもそも競技を始めた年齢が引退するくらいの年齢ですが、僕たちの競技は競技者個人だけでなく、道具の進化も大きく関係してきます。競技用マシンが変貌を遂げていくのを見て、育てていくことも楽しい。それが努力という形となり、成果として現れたのかもしれません」

城彰二さん(以下、城):「嘘みたいな話ですね、僕は絶対嘘だと思っていますけど ()

斎藤工さん(以下、斎藤):「金藤さんと城さんは負けず嫌いな一面はありますか?」

金藤理恵さん(以下、金藤):「我が家は兄弟3人とも水泳をやっていて、同じ平泳ぎ専門だった3つ上の姉に対しては勝ちたいって気持ちがありました。あとは男子には短距離では勝てないのも、どうしてどうして、と思っていましたね」

:「僕は意外と負けず嫌いではないんです。エースの下で可愛がられる子分みたいに、要領の良さでやってきたタイプ。あと、ゴールキーパーはちょっと変わった人、ディフェンスは緻密で真面目な人、中盤は色んな対応ができる人、ストライカーは勢いがある人みたいにポジションによっても変わる傾向がサッカーにはありますね」

斎藤:「なるほど。おふたりがオリンピックを意識しだしたのはいつ頃ですか?」

金藤:「私は小学校の卒業文集に将来の夢はオリンピックって書いていたんですが、その時は絶対行きたいというより、ぼんやり思っていた程度でした。本当にオリンピックに行きたいと思ったのは、北島康介選手が2連覇を果たして『なんも言えねえ』と言っていた北京オリンピックの時で、やっぱり私もここに立ちたいって思いました。それから10年くらいかけてオリンピックが絶対叶えたい目標に変わっていきました」

:「サッカーというとやはり大きな大会はワールドカップなので、僕はそっちに目が向いていて、オリンピックを意識したのは予選大会くらいからでした。アトランタでのオリンピック出場はメキシコ大会以来28年ぶりで、僕たちがまだ生まれてなかった頃というのもあって、なかなかピンとこなかったのかもしれませんね」

斎藤:「確かに、オリンピックでサッカーというイメージを作ったのはアトランタのマイアミの奇跡があったからかもしれませんね」

競技用レーサーは自分専用にカスタマイズ。値段はなんと

マシン側面には HERO X のロゴも。

ここで伊藤さんが、競技用レーサーに乗って再登場。その近未来的なデザインに斎藤さんの口から思わず「AKIRAの世界みたい」と感嘆の声が漏れた。もちろんこのモデルは、エクストリーム・スポーツのマシン開発に精通したエンジニアや気鋭のプロダクトデザイナーらと結成したRDS社のチーム伊藤で開発したマシン。

伊藤:「普段使っている車いすはアルミ製ですが、この競技用レーサーは素材にカーボンを使っています。最大の特徴はマシンに乗って漕いでいる姿を全てデータ化して可視化しているんです。そこから一番早く走れると思われるフォームを想定した形で自分の体にフィットするマシンを作っていただいています。実はこのレーサーに正座する形で乗っているので、12時間も乗っていると周りには『脚が痺れてきませんか?』と心配されるんですが、元々痺れてるんで分からないんですよ()

齋藤:「そこ、突っ込み方が分かりません()

:「笑っていいのか分からないですよ! ちなみにこれ1台でおいくらくらいするんですか?」

伊藤:「従来のマシンですと、ホイール込みで560万円くらいですかね。僕が今乗っているものだと、開発からワンセットなので、正確な値段は言えない、というか分からないというのが正しいですね。」

金藤:「値段がつけられないレベルなんですね」

伊藤:「はい、絶対に壊せないですね(笑)」

金藤:「以前、競技用の車いすを拝見したことがあるんですが、メカって感じですよね。すごいとしか言葉が出てきません」

そんな伊藤さんの注目マシンから、話題は現在放映中のNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』へシフトする。本作でアムステルダムオリンピックのメダリストでもある競泳選手、高石勝男役を演じる斎藤さんを中心に話が飛び交い、終始笑いの絶えないトークイベントは無事に終了。

その後は斎藤さんの単独記者会見。記者としてどのように情報源やインプットを広げていくかという質問には「情報が蔓延するなかで、どういうことが人の奥底まで記憶に残せるのか例題を挙げていっている最中。自分自身を実験することで見える景色もあるので、記者としての活動も特殊なものになっていくのではないかと今探っているところです」と特別記者として意欲をみせ、また「レーサーの機動力に感動しましたし、競技者とメカニックの共同作業だなと実感しましたね。水泳やサッカーなど期待しているオリンピック競技もありますが、パラリンピックは更に選手のドラマがありそうで楽しみです」とパラリンピック競技やマシンへの強い関心も語られた。

(画像提供:読売新聞東京本社)

(text: Yuka Shingai)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

スポーツ SPORTS

日本と世界でこれだけ違う!フォーミュラEで見るモータースポーツの捉え方

高橋二朗

2014年からスタートした最も新しい世界選手権シリーズのフォーミュラEはシーズン7 に突入している。カーボンニュートラル、脱炭素社会を目指すために世界各国が電気自動車(EV)の普及に躍起になっている。EVの普及が本当にカーボンニュートラルのベストソリューションかどうかは別として、EVの存在は、モータースポーツに新風を吹き込んだことは確かである。

スペインの実業家、アレハンドロ・アガグ氏が中心となり、国際自動車連盟とともにスタートさせたのがフォーミュラEである。既存のモータースポーツのイメージを一新させるアイデアを盛り込んで、世界中を転戦、開催地は首都や世界的に有名な観光地とした。2020年からはグローバルに広がったコロナ禍によって、そのコンセプトが必ずしも踏襲されてはいないが、それはモータースポーツに限らず、あらゆるイベントが規制されるという如何ともし難い状況なのである。モータースポーツ、特にサーキットモータースポーツは、専用のパーマネントサーキットで競技が行われる。広大な敷地に造られたサーキットは、人里離れていることが多い。しかし、フォーミュラEは、街中の公道を一時的に閉鎖、または、公園内の道路を使用した特設サーキットを利用する。観光地では海岸やハーバー近くの幹線道路を閉鎖することはあるけれど、各国の首都開催の場合は、ど真ん中で行うことは叶わず、ロンドンで開催された時には、テムズ川の河畔公園を利用した。ローマ開催もやや郊外だが、イタリアの古都ローマの雰囲気を感じられるサーキットを設定した。

市街地、それも首都で開催できるのはなぜか? その最大の理由は、排気音がしないからである。以前にも記したことがあるがEVはとてもシンプルなコンポーネンツで構成されている。モータースポーツの魅力でもある排気音(エキゾウストノート)がEVのフォーミュラEにはない。フォーミュラEは内燃機関のエンジンを持っていない。エンジンは、化石燃料を主体とした燃料をエンジンシリンダー内で燃焼させて動力を発生させる。しかし、フォーミュラEは、電気でモーターを回してそれを動力としているので、エンジンの燃焼時に発生する爆裂音が無いのである。“音”という魅力を削がれているが、市街地や観光地の目抜き通りでモータースポーツという非日常的なイベントが行われるという新たな魅力を生み出したのがフォーミュラEなのである。
フォーミュラEのマシンは、最高速度こそ280km/hに達するが、最大出力は270馬力(レース中)であり、レースの形態はタイムレースで45分+1周である。F1のように1,000馬力以上の怪物マシンが走り回るわけではないのだ。フォーミュラEはマシンのシャシーはワンメイク、統一されており、他のコンポーネンツがシンプルであるが故にハードウェアの差は少なく、車両にいたっては差がほとんどないと言って良い。またコースの幅員はモータースポーツ専用のパーマネントサーキットに比べて狭く、1周の距離も最大で3.5キロ程度なので接戦が演じられるという面白さがある。フォーミュラEのマシンパフォーマンスの現状とオーガニゼーションの思惑がマッチしているから特設サーキットで十分楽しめるイベントとして成立しているのだろう。

レーシングカーが公道に出たら即逮捕!?
日本と海外とのギャップ

市街地特設のサーキットをどう設営するかは、当然ながら国レベル、開催地の自治体レベルの理解と協力がなければ実現はできない。世界的な観光地における開催は、アトラクティブなイベントが加わるというメリットがあることは容易に理解できる。首都のような大都市での開催はどうだろう。一般社会へのEV促進のキャンペーンの思惑を持って参加している自動車メーカーの場合、系列のチームや中国系の新興EVメーカーの宣伝としては格好のイベントである。

さて、ここからはモータースポーツの文化と伝統には国によって格差があるという話になってしまう。動力は別として自動車が発明されたのはヨーロッパで、その自動車を使って競走したのは都市間レースが初めだった。サーキットが存在しなかったので当然公道でレースが開催されたのである。このような素養がヨーロッパにはあるから、公道レースに対するアレルギーみたいな拒否感は無いのであろう。ところが、日本は極端に異なる。

筆者は、都内、お台場で何年にもわたってモータースポーツイベントを開催したNPO法人の理事を務めている。そして、できることなら周辺の公道でレーシングカーを走らせたいと考えて、関係各所に折衝した。最後には、公道を使用する許可と、安全性を確保するために公安、警察とのやりとりが大変であることが身に染みた。所轄の警察署の担当者が了解してくれても本庁が許可してくれなくては走行が実現できない。われわれのNPOのイベントではなかったけれど、F1の日本グランプリの事前プロモーションとして、あるチームのスポンサーが東京浅草の目貫通りを走行するイベントを企画したが、警察からの許可が出なかった。スポンサーと企画会社は、山車にF1車両を乗せて仲店をお練りし、浅草寺の境内で走行することとした。その際に警察から通達されたことは、「一瞬でもF1車両が公道に下ろされたら、責任者を逮捕する」だったのである。

日本の公安関係は、前例が無いことに対する拒否反応が強い。モータースポーツに対する理解と歴史、伝統が理解してもらえていないのは残念である。日本のモータースポーツを統轄する省庁は、4輪レースが警察庁と国土交通省、2輪レースは文部科学省である。何故官庁が異なるのかは筆者も知らない。そして、両官庁共にモータースポーツは、“スポーツではなく、興行である”と認識していると知った。現在スポーツ庁が縦の組織に横串を入れ、そのスポーツ性を伝えてくれそうなので少しは安心し始めたところである。

物理的に開催できるかどうかではなく、精神的に、公道でレースを行うというコンセプトに対し賛成か反対かという点では欧米では賛成に挙手してくれる数は多いだろう。あとは、物理的にどうかである。

まず、コースの設定とともに付帯する施設を設けるだけの敷地の広さがあるかどうかだ。そして、国際自動車連盟の自動車レースの安全規則に則ったコース設定が必要である。公道の両脇、内周と外周にコンクリートバリアを設置。3キロのコースを作るのであれば、それだけのコンクリートブロックを用意しなければならないということが分かるだろう。さらにバリアの上には金網のキャッチフェンスが設備される。万が一マシン同士が接触して跳ね上がった場合にも、コース外に飛び出さないようにするためだ。主催者は少なくともこのような仮設施設を造ることができるだけの資力がなければ、開催へ漕ぎ着けることはできない。そして開催地の政府、自治体との連携は不可欠である。公道を閉鎖するわけであるから、交通規制を敷くために公安、警察の協力はどうしても仰がなければならない。また、フォーミュラEのイベントは短期間である。予選と決勝は、ワンデー。よって、設営と撤収も短期間に終えなければならない。それが実施できる機動力、大規模なイベントをコントロールできるだけのオーガニゼーションがベースになければ開催は不可能なのである。しかし、だからこそ、開催できる都市においてはメリットもある。開催できる都市が少ないということは、世界からの注目を集めるチャンスにもなる。果たして日本の都市はこれをどう捉えるか。モータースポーツを愛する者としては開催できる都市の出現に期待したい。

関連記事を読む

(text: 高橋二朗)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー