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人類進化ベッド!?究極の寝具のヒントは、チンパンジーの寝床にあった!!

中村竜也 -R.G.C

眠りについて真剣に考えたことはありますか?人間の一生を80年と考えた場合、その3分の1、27年もの時間を睡眠に費やしていると言われている。こうして数字にしてみると、初めてその重要性に気が付く人も多いのではなかろうか。そんな我々の生活に密接に関わる“眠り”について、寝具という角度から天保元年(1830年)より関わっている会社がある。

188年もの歴史を誇る寝具のプロ集団

睡眠環境、睡眠習慣のコンサルティング、眠りに関する教育研修、睡眠関連商品の開発、寝具の開発などを行う快眠術の専門家、京都の老舗・株式会社イワタ。その代表取締役を務める傍ら、睡眠改善インストラクター、睡眠環境アドバイザーとしても活躍するのが、今回お話を伺いに行った岩田有史氏である。

株式会社イワタ代表取締役・岩田有史氏

永きに渡り睡眠と向き合ってきたからこそ、睡眠環境の重要性を唱える氏であるが、なぜ科学的と言うのには程遠い、チンパンジーの寝床にヒントを得た“人類進化ベッド”を開発したのだろうか。完成までの製作秘話や、そのきっかけをお話しいただいた。

「京都大学内に、学術的なことを主に展示する総合博物館というのがあるのですが、そこで諸民族のゆりかごや枕などねむりの文化の多様性と進化多角的に展示する “ねむり展 –眠れるものの文化誌”というイベントが2016年に開催されました。そこでの展示品として、チンパンジーが毎日作る寝床をヒントに、人間用のベッドを作ってみようと。それが一番原始的で心地よい寝心地が得られるのではないかということから、プロジェクトが発足しました」

ねむりを科学する最先端な会社が、なぜチンパンジーの寝床に目をつけたのか気になるところ。

「ねむり展で、どのような形で展示をしていくかという話し合いの中で、長年にわたりチンパンジーの研究をしている、長野県看護大学の耕一郎准教授(当時は京都大学アフリカ地域研究資料センター研究員)のお話を聞く機会があり、チンパンジーは365日、毎日木の上にベッドを作るということを知りました。5歳くらいからベッド作りはじめ、平均寿命が50年程度ですので、一生で1万個以上ものベッドを作ると言われています。

そして他の研究の目的でチンパンジーの寝床に上がり、あまりにもふかふかで気持ち良さそうだったので実際に寝てみたら、なんと爆睡してしまったらしいんです。その経験から、あのようなベッドが人間用としてあったら、絶対に良く眠れると話してくれたので、それならば座さんがいうチンパンジーの寝床をヒントに、人間用のベッドとして作ろうと、弊社と座さんとねむり展全体の展示企画をしていたデザイナーの石川新一さんとで、展示用の試作品を作り出したのがきっかけでした」

「チンパンジーのベッドは、太い枝を折り曲げて土台を作り、その葉っぱが沢山付いたクッション性のある枝を重ねます。ある時、出来上がったベッドに寝転がり、微調整をするチンパンジーがいることに座さんが気付いたんです。日によって体調や環境も変わってくるので、微調整をするという行動は彼らにとって当たり前。そこから学びを得て、人類進化ベッド自体も自分好みに合わせて枕部や土台部分のカーブの調整などを簡単にできるように作りました。また、彼らの寝床のような柔らかさを出すために、自然なカーブがある水鳥のフェザーを使用し、葉っぱのような寝心地を実現することができました」

我々が知っている通常のベッドはもれなく四角であり、楕円形のものは目にしたことがない。また、上記の写真を見れば分かると思うが、通常のベッドより少し小さいのかなとも感じる。きっとそこにも意味があるのだろう。

「チンパンジーのベッド、仰向けになった時足首が出るくらいの大きさなんです。楕円形で、周囲全体に枕のような膨らみがあり、木の上にあることで適度な揺れがある。ですので、人類進化ベッドも仰向け時には少し足が出て、胎児型に横を向いた時は、縁の中にすっぽり入る安心感のあるデザインにし、細かい特徴まで再現しています」

眠ることに対してのプライオリティーが低い日本人

冬場にはこのような付属品を身に着けることで、寒さを防ぐよう考えられている。

「まず睡眠時間の短さに関しては、先進国の中でも1、2を争う日本です。高度成長期が盛り上がる1960年くらいから2000年までで、日本人の平均睡眠時間は50分も短くなってきています。寝る間を惜しんで仕事をするといった、もはや古い考えの美徳がいまだに根付いているではないでしょうか。もっと眠りに“楽しみ”があってもいいじゃないですか。あの寝床が好きだとか、自分のベッドに入ると安心するとか、寝室に行くこと自体が楽しみになるといったようなこと。気に入った場所にいることで入眠しやすくなるというのは、実際にありますからね」

確かにそうだ。旅行の最終日が近くなると自分の布団が恋しくなったりするのもそういうことなのかもしれない。その感覚を毎日感じることができたら、より眠るという行為が楽しくなる。

「人類進化ベッドを使っていただいている方からも、寝床に行くのが楽しみだというお声を多数いただいています。すごく嬉しいですよね。そう考えると、寝床にもっと“文化”があってもいいのかなと私は考えます。楽しいと思えることがリラックスに繋がり、その結果、眠りに入りやすくなるので


枕を選ぶだけではダメだった 枕選びの誤解

寝心地の改善で、一般人が最も考えがちのなのが枕。巷には、枕コンシェルジェや専門店も増え枕外来を標ぼうする病院までも登場、都内の量販店でさえも寝具売り場に枕だけのコーナーができるほどになっている。しかし、実際にオーダーメイドの枕を作った人にその後を聞いてみると、今は使っていないと答える人が多いのも事実。睡眠を取る上での枕の重要性とはいかに。

「私は、みなさん枕に対しての期待値が大きすぎると思っています。一番手を出しやすいというのもあり、枕だけ変えたら眠りが良くなると思われがちなのですが、実際には寝具のひとつに過ぎないのです。本当は他の要因でよく眠れていないのに、枕のせいにされがちですよね(笑)。やはり質の良い眠りを意識するならば、トータルで考えるべきだと私は思います。

それだけではなく、枕使用時の背骨全体のカーブを含めた姿勢、すなわち敷布団の沈み込みと枕の相関性。たとえば柔らかい寝具で寝ると背中の沈み込みが頭よりも大きくなるので、枕が高く感じますよね。その逆もしかり。ということは、売り場で枕を合わす時も、自分が使っている寝具を加味した選び方をしないといけないのです。また、高さや硬さ、感触以外にも、蒸れを防ぐというのも重要なポイント。

良質な睡眠を取るためには、温度、湿度、光、音などの寝室環境や、布団の中の温度や湿度といった寝床環境についても、四季の環境変化が大きい日本ではもっと配慮した方が良いと思います

眠ることにしっかり向き合うことで開ける未来

「睡眠不足による社会的損失が、3.5兆~15兆円近くあると言われています。計算方法が違うのでこれだけの差はあるのですが、いずれにせよ、とてつもない金額には変わりありません。中でも、睡眠不足による作業効率の低下が大半を占めています。そのうえ、病気にもかかりやすくなるし、事故が起こりやすくもなるわけです。そう考えるとちゃんと睡眠をとることの重要性が、否応なしに大切ということが分かりますよね」

「朝起きた時が1日の始まりではなく、ベッドに入った時が1日の始まりと考えるべきだと私は思います」と最後に岩田氏は話してくれた。衝撃的な言葉であった。我々の人生の中でかなりの時間を寝具で過ごすという意味を、もう一度考え直す時期なのかもしれない。

岩田 有史 (いわた ありちか)
株式会社イワタ 代表取締役社長。睡眠環境、睡眠習慣のコンサルティング、眠りに関する教育研修、睡眠関連商品の開発、寝具の開発、睡眠環境アドバイザーの育成などを行っている。睡眠研究機関と産業を繋ぐ橋渡し役として活躍する。著書に「なぜ一流のひとはみな『眠り』にこだわるのか?(すばる舎)、「疲れないカラダを手に入れる快眠のコツ」(日本文芸社)、「眠れてますか?」(幻冬舎)など。

TOP画像:撮影:座馬耕一郎 | 撮影場所:タンザニア マハレ山塊国立公園] 

(text: 中村竜也 -R.G.C)

(photo: 増元幸司)

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いつか、宇宙に手が届くかも。仮想空間でモノに触れるデバイス「EXOS」【exiii:未来創造メーカー】

朝倉 奈緒

筋電義手「handiii」やその進化版である「HACKberry」などの開発、また画期的な福祉機器デザインで世界的な賞も多数受賞する注目の企業、exiii(イクシー)。今年1月に発表されたばかりの外骨格型の力触覚提示デバイス「EXOS」とは? CEO山浦博志氏とCCO小西哲哉氏に、開発に対する思いを聞きました。

浅草橋と馬喰町の間、衣料品店が立ち並ぶ街の雑居ビルの一室。重い扉を開けると、まるで大学の研究室のような活気と混沌に満ちたexiiiのオフィスに到着しました。手製だという木目調のテーブルの上には、開発中と思われる製品の試作品やそれらに繋ぐ配線のアダブターがずらり。その絡まった配線をひとつずつほどくように、exiiiについて紐解いていきたいと思います。

exiiiは、はじめは個人のものづくりプロジェクトとしてスタート

パナソニック勤務時代に、趣味で色々なものを作ってSNSにアップしていたという山浦氏。2013年頃家庭用3Dプリンターが普及しはじめ、以前大学の研究で作っていた義手(ロボットハンド)を、それで作れるということに気がついた彼が、同社で働いていたデザイナーの小西氏を巻き込み、本格的に製品化。筋電義手は国際的なデザインエンジニアリングコンペで世界2位を獲得。「自分たちのやろうとしていることは社会的に意義のあることなんだ」と盛り上がり、実際に「その義手を使いたい」と名乗り出る人に出会ったことも奮起になり、会社設立に至りました。

「義手の市場は大変狭く、国内で1万人も使う人がいない。製造業としてビジネスは成り立たないため、オープンソースという形で自分の作っているものを公開しました。そうして面白がってくれた人たちがどんどん開発に参加してくれるので、資金を大きく割かずに開発が広がっていく、というアプローチを取ったのです」と山浦氏。現在義手は開発した内容を上肢障がい者のために活動するNPO法人Mission ARM Japanに移管して、開発と普及を進めています。

EXOSで、将来深海や宇宙にあるものに触れることができる!?

さて、今年発表されたばかりの「EXOS」はVRを用いたゲームが楽しめたりと、より大きな市場が見込めます。

山浦氏が当時大学の研究で人間の指を外部から操作するメカを作っており、2016年に初めて体験したVRと組み合わせたら、「物に触った感触が表せる」と思いついたのがEXOS開発の経緯だといいます。VRの中で「存在しないものに触れることができる」革新的なデバイス、EXOSの実用性について聞いてみました。

「例えば、製品開発の課程で、通常ならパソコン上で図面を作成し、実際にそれを作ってある部分を削ってみたりするわけですが、EXOSを使えばVRの中で製品を組み立て、それを実際に触ることまで体験できるんです。もうひとつは、“手に触った感触を生み出すことができる”ということ。例えば遠くにあるロボットハンドを遠隔操作で動かし、ペットボトルをつかむ感触を感じることができます。それによって、原子炉内での作業が安全な場所でできたり、人間の入れない深海や宇宙にも行けるかもしれない。」EXOSのポテンシャルの大きさに、夢が広がります。

もともと趣味でやっていたものづくりが仕事にでき、会社まで設立したわけですから「毎日楽しくてしょうがないでしょうね」と思わず漏らしてしまいましたが、そうばかりは言っていられません。

「VRがビジネスで使われるようになったのがここ最近なので、市場がまだしっかりできていない。なので、EXOSのような新技術デバイスを使った新しいビジネスも一緒に作らなければいけないんですね。また技術面でいうと、人が使うものはデザインも技術も、身につけるゆえの制約がすごく多いんです。置いて使うものだったら重たくてもいいし、電源繋いでいいなら強いモーターとかも使えるんですけど、手でつかんで使うとなると、着け心地や重さなど、色々と制約が出てきてしまうんですよ。」と楽しそうに話す山浦氏。難解な側面を攻略するのも、研究者としての腕の見せどころのようです。

デザインによって受け手の価値観を変えていきたい

「僕の場合は義手や義足、下肢装具などのデザインに携わってきていて、そういう医療機器や福祉用具は機能がしっかりしていればいい、みたいなところがあるのですが、そこにデザインが入ると、色々なことが一気に進んだりするんです。世の中の目がそちらに向いたり、患者さんがそれを着けてみたい、と思ってくれたり、デザインひとつで受け手の価値観ががらりと変わったりするんですよね。そうやってデザインすることによって外に発信できたり、新しい展開になったりという前向きな力になったときが最高に楽しい。ですので、これからまだデザインされていないものをデザインによって変えていきたいです」と語るデザイナー、小西氏からは、落ち着いた物腰から滲み出る、デザインという仕事に対する情熱が感じられました。

「僕らは“プロダクトを通じて人間の可能性を広げる”、ということを目指しているので、たとえ他社の製品であっても、人ができることが増えるプロダクトを魅力的に感じますね。自分が好きな”ものづくり”には制約があって、それを3Dプリンター、VRが出現したことで取り払ってくれた。自分もそこに繋がるような新しいツールを作れたら、と思っていたので、自由にモノに触れることができるものであるEXOSが、今一番自分がやりたい、欲しいものなんですよね。」と山浦氏。

3次元のデータに自由に触れて、感じられて、操れて、というのができるようになるのが開発中であるEXOSのゴールとのこと。4/25(取材日の一週間後)には、一般の人にも公開する体験会を予定。

少年のように夢いっぱいの青年たちの元から飛び出すEXOSが、然るべきアイディアで社会的に大きく羽ばたいていくことになる日も近いでしょう。

株式会社exiii(イクシー)
http://exiii.jp

(text: 朝倉 奈緒)

(photo: 壬生マリコ)

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