対談 CONVERSATION

「ワクワク」「ユカイ」を日本のリビングに 新しくて懐かしいユカイ工学のロボティクス

吉田直子

家族をつなぐコミュニケーションロボット『BOCCO(ボッコ)』や、センサー内蔵のしっぽのついたクッション型セラピーロボット『Qoobo(クーボ)』、小学生から作れるロボットキットなど、どこかほんわかしたプロダクトを世の中に送り出しているラボ、ユカイ工学。創設者は2001年にウルトラテクノロジスト集団・チームラボを設立した青木俊介氏だ。日常生活や家族の関係をほんの少し進化させてくれるユカイ工学の商品は、どんな発想から生まれるのだろうか。そして、今人々に求められるテクノロジーとは? 編集長・杉原行里が、青木氏の頭の中をのぞく!

チームラボを起業、
7年後に上海へ

杉原:ラジオのご出演に続き今日もありがとうございます。「HERO X」の読者はアンテナの高い人が多く、ロボットがどういうものかはわかっていると思います。場合によっては、すでに青木さんのことをご存じかもしれません。ただ、初めての方もいると思うので、まずはプロフィールからお聞きしたいと思います。学生時代に会社を立ち上げられたんですよね?

青木:はい。それがチームラボという会社で、2001年ですね。今、チームラボに社長として残っている猪子寿之くんと大学で同じクラスになって、会社をやろうということになり、東大や東工大のメンバー5人でチームラボを設立しました。

杉原:青木さんはCTO(最高技術責任者)でしたよね? クラスの仲間で会社をやろうという時に、CTOって結構いい立ち位置だと思うのですが。

青木:そうですね。僕はプログラミングのアルバイトなどをやっていたので技術系を担当して、猪子くんはネット広告の会社でバイトをしながらビジネス担当という感じになりました。

杉原:当時だと、大学時代の起業はかなり珍しいパターンですよね。

青木:めちゃくちゃ珍しかったと思いますね。

杉原:日本でも最近は少し緩和されてきましたが、それでも起業ってなかなか難しいじゃないですか。当時は大変だったのではないでしょうか。

青木:そうですね。親に「お前はソニーとか日立に就職しろ」とか言われて、勘当されかけたりしました。チームラボに7年いて、一度辞めて、そこから中国の大学院(東華大学信息科学技術学院)に2年ほどいてAIの勉強をしていました。

杉原:なぜ中国を選ばれたんですか?

青木:当時の中国は万博とかオリンピックの前だったので、めちゃくちゃカオスだったんですよね。

杉原:北京が2008年ですもんね。万博は上海でしたっけ?

青木:上海ですね。町中で10本同時に地下鉄を掘っているみたいな状態で、地面が穴だらけで面白かったです。

杉原:そのあと、もう1社、ピクシブでもCTOをやられていますよね。

青木:それで2011年から独立して、今までやっています。

杉原:今、改めて聞くと、厳しい方、楽しい方、ワクワクする方にと、かなり自分の気持ちに純粋に進んでいますね。

青木:そう言っていただけると、すごく嬉しいです。

杉原:それが社名になっているわけですもんね。

青木:そうですね。ワクワクとか愉快とか。

杉原:ユカイ工学の由来は愉快な気持ちになるというところからきているんですか? それとも、ほかに何か理由がありますか。

青木:一番は僕も含めて、自分たちエンジニアが愉快に自由な発想でモノづくりができるような場所を作りたいということです。エンジニアって、本来はものを作っているだけで幸せな人間じゃないですか? でも、世の中のエンジニアって、そういう機会に恵まれることが少ないんです。楽しくやっている人はごく一部だと思います。エンジニアが自分の仕事を楽しく愉快にできるようなチームを作りたいと思ったのがひとつですね。あともうひとつは、ソニーの設立趣意書にある「自由豁達ニシテ“愉快”ナル理想工場ノ建設」という井深大さんが書いた一説があって、そこから取っています。

杉原:ユカイ工学がもう10年目ですか? ちょうどクリスマスシーズンということで、いろいろなプロダクトが出てきていますが、今日は青木さんの頭の中を覗きに来たというニュアンスに近いので、まずは簡単に、今CAMPFIREでクラウドファンディングされている新しいロボット『BOCCO emo』についてお聞きしたいと思います。先代の『BOCCO』はいつ発売でしたか?

青木:2015年です。

杉原:今回、5年経ってアップデートされたと。

青木:はい。大幅にハードウェアがアップデートしました。

杉原:これは簡単に言うと、どういうロボットですか。

青木:最初にBOCCOを発売した2015年はまだスマートスピーカーがない時代だったのですが、ネットにつながってしゃべってくれるものが家にいたら面白いんじゃないかと思いました。家に置いておくと、例えば留守番中の子どもがお父さん・お母さんとやりとりができるとか、1人暮らしのお年寄りがスマホが使えなくてもやりとりができるとか。あとは子どもが帰ってきてドアを開けるとセンサーで検知して、お母さんの携帯に通知されピロンと鳴るとか。そんな風に考えて「家族をつなぐコミュニケーションロボット」ということで製品化したんですね。

『BOCCO emo』
『BOCCO』の機能(音声メッセージの送受信、センサー連携、天気通知やリマインド機能、IoT機器との連動など)に加え、ハンズフリー対話やLTE/Wi-Fiの通信方式に対応、さらにコミュニケーション機能もプラスされた新商品。

杉原:もう1つ、今年の年末に発売になる『Petit Qoobo(プチ・クーボ)』という商品、これができたきっかけが非常に社風を表していると思ったのですが、もともと社内コンペで生まれた商品だそうですね。

青木:はい、初代『Qoobo』が社内コンペで生まれました。この時は、会社のメンバーをシャッフルしてチームを作り、営業だろうがエンジニアだろうが経理だろうが全員参加で、均等にいろいろな職種の人がバラけるようにして、1チーム5人くらいで商品のアイデアをコンペ形式で出してもらったんです。

杉原:それで優勝したのが女性デザイナーのチームだったんですよね。

青木:そうですね。女性のデザイナーが発案したアイデアが『Qoobo』でした。

『Petit Qoobo』。撫でるとしっぽを振ってコミュニケーションしてくれるクッション型セラピーロボット『Qoobo』の機能に、マイク機能などを追加。物音に反応する、鼓動をトクトク感じられる、性格があるなど、よりペットに近いものに。

杉原:不思議なのはこれ、カテゴリーとしてクッションというのに重きを置いていますよね。本来だったらここに顔とかつけたくなりませんか? 普通はLEDをつけて、何かしらのセンサーをつけて、それに反応するように作りたくなると思うんです。ところが、これは加速度センサーだけでしたっけ?

青木:はい。加速度センサー1個だけ。めちゃくちゃシンプルです。

杉原:それで表現しているのがすごいですね。

青木:オリジナル『Qoobo』にはない機能なんですが、『Petit Qoobo』のほうは性格が一匹ずつ少し異なるようにプログラムされています。ですから触わった時の反応も、すぐ元気になるやつとか、鈍いやつとか、いろいろあります。あとは鼓動を打つという新しい機能がありますね。触ると犬や猫みたいに鼓動を感じることができるんです。なおかつ、マイクがあるので周囲の物音に反応します。

杉原:税抜9,000円という値段を聞いてびっくりしました。安くないですか?

青木:はい、手頃だと思います。1万円を切りたかったんですよね。

人間の本質を再構築する
余白を楽しむロボット

杉原:僕は余白を楽しむロボットを、青木さんをはじめとするユカイ工学チームは大事にされているのではないかと思います。何かを解決するというよりは、ロボティクスを通じてワクワクや愉快を提供していくコンセプトがある気がします。ここに行き着くまでには何かあったんでしょうか? というのは、ほかの商品にしても、すべてがやさしいじゃないですか。

青木:そうですね。「やさしい」は結構いわれますね。あんまりテクノロジーをむき出しで「ドヤ」と出すよりは、愛される存在、可愛がられる存在であってほしいなと考えています。やはり家の中に置くとなった時に、女性が主導権を握っていることが多いと思います。ガンダムみたいなものはお父さんのオモチャという位置づけになってしまいますよね。そうすると、「食事中は片付けなさい」という感じになる。僕たちが作りたいのは、食事中もリビングルームに置いておけるようなものですね。

杉原:しかも家族が共有して一緒に遊べるというか、使えるものですよね。新たなコミュニケーションの1つみたいな感じで提案しているんでしょうか。

青木:はい、そうですね。特にスマートデバイスといわれる、スマホやタブレットは、基本は1人で見るものですよね。ファミレスとかに行くと家族4人で来ているのに、みんなそれぞれ携帯をいじっているじゃないですか?

杉原:あれは結構キツい感じがしますよね。

青木:そうですよね。だから、家の中にいる時くらいは、スマホがなくてもいろいろなことがわかるようにしたい。例えばニュースが流れるとか、天気予報がわかるとかを家族で共有している。そういうほうが本来、あるべき姿だと思うんです。

杉原:いいですね。古き良きというか、人間が本質的に大事にしてきたものをテクノロジーで少しばかりアップデートしているという感じですね。しかも、やり過ぎずに。

青木:おっしゃる通りですね。テクノロジーが出てきて便利になった。ただ、便利さというのが必ずしも幸せにつながっていないことっていうのがあるのではないかと思っています。

ユカイ工学株式会社 代表 青木俊介 (あおき・しゅんすけ)
東京大学在学中にチームラボを設立、CTOに就任。その後、ピクシブのCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。「ロボティクスで、世界をユカイに。」というビジョンのもと家庭向けロボット製品を数多く手がける。2014年、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」を発表。2017年、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」を発表。2015年よりグッドデザイン賞審査委員。

(text: 吉田直子)

(photo: 増元幸司)

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対談 CONVERSATION

始まりは“かめはめ波を撃ちたい!”という発想。テクノスポーツ「HADO」開発者インタビュー 前編

宇都宮弘子

「かめはめ波を撃ちたい!」という圧倒的にシンプルな発想から、AR技術を駆使して生み出された最先端・新感覚スポーツの「HADO」。“テクノスポーツ”という新たなジャンルの創造を手掛ける株式会社meleap のCEO・福田浩士氏からHADOの誕生秘話についてHERO X編集長・杉原行里がお話を伺った。

テクノスポーツ「HADO」の誕生 

杉原:福田さんとは初めてお目にかかるのですが、僕は新しい領域・新しいスポーツを創っていくということに大変共感していて、御社の開発された“テクノスポーツ”「HADO」を興味深く見ていました。まずは「HADO」について教えていただけますか?

福田:頭にヘッドマウントディスプレイ、腕にアームセンサーを装着し、体を動かして戦うという新しいスポーツです。公式の大会は3人対3人の対戦型で、80秒という制限時間の中でどれだけスコアを取るかを競い合います。技のメインは手を動かして放つ「エナジーボール」と呼ばれる攻撃と、その攻撃を防御する「シールド」の2つです。チームの3人はそれぞれ役割分担を決めて、戦略を立てながら戦っていくというものです。

杉原:おもしろそうすね。僕は最初に“テクノスポーツ”というこれまで耳にしたことのない言葉に惹かれました。“テクノスポーツ”って、いったいどんな領域のものなのでしょうか?

福田:“テクノスポーツ”とは、僕たちが創った言葉なんですけど、当初はスポーツジャンルにしようとは思っていませんでした。ただ単純に「身体を拡張したい」というのが一番の目的だったのです。そんななかで、一番シンプルで分かりやすかったのが「マンガの『ドラゴンボール』みたいにかめはめ波を撃ちたい!」と。じゃあ、かめはめ波を撃って何がしたいのか。ゲームとかエンタメのコンテンツでは、そもそも大手との競争には勝てない、せっかくコンテンツを作るならスポーツにした方が楽しいんじゃないかっていう発想にたどり着いたんです。例えば原っぱにボールが1個あるだけで、そこからいろんなものが創造されるというように、ユーザーが自分で考えて僕らが想像もしなかったような新しい遊び方を開発してくれたらおもしろいんじゃないかなって。そこからスポーツという路線に進んだのです。

杉原:“テクノスポーツ”はITの文脈だったり、新しいテクノロジーによって創られていくスポーツという広義な捉え方ができるということですよね。実は僕もずっとかめはめ波を撃ちたいと思っていたんです!(笑) ですので、「HADO」を知ったとき「やった! ついに撃てる!!」と興奮しました。身体的な拡張はもちろん、心の拡張という面もありますよね。ところで、「HADO」が最初に導入されたのが長崎のハウステンボスだったと伺ったのですが。

福田:そうです。本木 (株式会社meleap CCO・本木卓磨さん) がハウステンボスに泊まり込みで行きましたね。初めてのことで分からないことが多すぎて、長崎まで行ったものの、宿泊している部屋から一歩も出られずにひたすら開発していたそうです(笑)。

杉原:新しいことってとにかく不安だから現地に行きますよね。動かなかったりしたらどうしようとかね。でも、未知のコンテンツでいきなり最初からハウステンボスってすごいですね。

福田:当初はスポーツというよりも少しアトラクションよりのものを作ったんです。たまたま当時社長をされていた澤田秀雄さんをご紹介いただいて、最初はこんなものを作りたいというイメージVTRを制作して、是非導入して欲しいとお願いしたら「いいよ」って言っていただけて。そこから頑張りましたね。

杉原:では最初はコンテンツとして出来上がっていたわけではなく、イメージVTRで売り込むところからスタートしたということですか?

福田:そうですね。プロダクトがなかったので、素人ながらCG合成した動画を作って持って行きました。今改めて見るとクオリティの低い動画です(笑)。

スポーツやeスポーツとの違いはどこにあるのか

杉原:「HADO」の他とは違うところやコンテンツの強みについて教えていただけますか?

福田:明らかにサッカーや野球とは違って、新しいテクノロジーを使わないと実現できないスポーツであるということ。さらに、eスポーツとはフィジカル面で全く違うんですよね。指先だけを動かすのではなくて、身体を根本から鍛えないと勝てないような競技です。

杉原:ARのスポーツ化って、世界的にはどのくらい進んでいるのでしょうか?

福田:実はまだ競合はなく、うちしかやっていないんです。市場がゼロの状態から形にするのが難しいからでしょう。「HADO」には既に公認チームを対象とした日本ランキングもあって、最近はスポンサーの付くチームも増えてきています。

杉原:すごいですね! スポンサーも付いているなら、もう完全なスポーツですよね。僕は努力を重ねて戦うという点で、eスポーツもテクノスポーツもどちらもスポーツだと思っているんです。IT革命が進化し続けるなかで、今の子どもたちは、eスポーツもテクノスポーツもサッカーも同じスポーツだよねって言うようになるでしょうね。もうその段階にきているのではと。グランツーリスモっていうゲームがありますが、そこから実際にプロドライバーが生まれています。違いと言えば、画面の中の世界かリアルな世界かということだけ。実際に、F1ドライバーもコースをインプットするために、ちゃんとGをかけながらシミュレーターを使って練習していますから。

福田:すごい! それは知りませんでした。既存スポーツでシミュレーション系のeスポーツはみんなにとって分かりやすいから、スポーツとして認められやすい傾向にありますよね。

後編へつづく

福田浩士(ふくだ・ひろし)
1986年新潟県生まれ。明治大学工学部卒業後、東京大学大学院を修了。2012年に株式会社リクルートに就職。退職後、2014年1月に株式会社meleapを設立。CCOの本木卓磨らと共にAR(拡張現実)技術とウエラブル端末を用いたテクノスポーツ「HADO」を開発、レジャー施設やイベントなどでサービスを展開している。

 

(text: 宇都宮弘子)

(photo: 増元幸司)

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