テクノロジー TECHNOLOGY

最先端ロボットを実際に体験できる!藤沢に誕生した「ロボテラス」が凄い

Yuka Shingai

経済産業省が昨年5月に発表した調査結果「ロボットを取り巻く環境変化等について」によると、世界の産業用ロボット販売台数は2013年から2017年の5年間で2倍に増加し、今後も年平均14%増見込みとのことだ。ロボットを活用したビジネスや取り組みについても益々拡大することが予想される一方、私たち一般消費者がロボットを実際手に取って気軽に試すことができる場はまださほど多くない。もし身近な場所にそんな場所があったら…? まだまだ先と感じていたロボットと共生する未来も、すぐそこにあることを多くの人が体感することになるだろう。

60種類以上のロボットが常設で
展示・体験できるのは日本でここだけ

そんな場所を提供しているのが、今回取材した藤沢市にある『ロボテラス』。

ロボット業界でいま神奈川が “アツい” のをご存知だろうか? 藤沢市を含む神奈川県の10市2町を対象区域とした「さがみロボット産業特区」は、地域活性化総合特区として (2013年2月に国から指定) ロボットの開発・実証実験の促進、普及啓発や関連産業の集積促進事業に取り組んでいる。

対象区域のひとつである藤沢市は、生活支援ロボットに関して先進的な取組を開始し、2015年から「藤沢市ロボット産業推進プロジェクト」をスタート。 ロボットと共生する未来社会を目指して、関連事業への支援やロボット実用化の推進に積極的に取り組んでいる。『ロボテラス』は、そのプロジェクトの一環として普及・啓発を担う、最先端の生活支援ロボット展示・体験施設なのである。

昨年12月の某日、辻堂駅からすぐのロボテラスを訪れると、同施設の管理運営を行う公益財団法人 湘南産業振興財団の業務課課長補佐である秋本英一氏が出迎えてくれた。

公益財団法人 湘南産業振興財団 業務課課長補佐 秋本英一氏

早速試乗を勧められたのは、折り畳み式のトラベルスクーター『ブギウギ・ラギー』だ。

正式にはハンドル型電動車椅子(シニアカー)に分類されるが、公道走行可で最高速度は時速5㎞。実際のスピードを体感してみると、「高齢者のサポートを目的としたゆったりした乗り物かな」という想像が覆され、驚いた。スピードは歩行者とほぼ同じで、従来のシニアカーとは異なりコンパクトなので、幅狭な場所も気にせずスイスイ移動ができるのだ。

また、電動アシストウォーカー『RT.2』は、歩行器を押す速度と傾斜を検知してタイヤの回転数を自動で制御する機能により、傾斜があるところでは軽くなり、下り坂ではブレーキがかかって歩行をよりスムーズにしてくれる。

クラモトのトラベルスクーター『ブギウギ・ラギー』

『ロボテラス』には、これらの移動支援機器やロボットスーツ、ベッドからの移乗アシストを行うものなど介護・リハビリ系のロボットが豊富に揃っているが、スピーカーや掃除機といったかなり馴染みのあるスマート家電、さらには「癒し」効果にフィーチャーしたペットや赤ちゃんの形をしたヒーリングロボット、また会話を目的としたコミュニケーションロボットなど、取り扱うロボットの用途は多岐に渡る。

なかでも、子ども受けバツグンの『しっぽクッション Qoobo (クーボ)』は、秋本氏も一番のお気に入りだという。思わず抱きたくなる毛並みと、撫でると愛らしくしっぽを振るようすに、多くの人が虜になっていると聞く。製造販売元であるユカイ工学の実証実験でも高齢者から10代まで、セラピーロボットの癒し効果が確認されているようだ。

「最初は『何だろう、これ?』と訝しげに見ていた人も、抱いてみるとすぐに魅力にハマってなかなか手放せなくなるほど。可愛らしい、癒し系の商品でロボットを身近に感じてもらいたい」(秋本氏)

ユカイ工学の『しっぽクッション Qoobo (クーボ)』

2014年のオープン当初は、サイバーダイン社のロボットスーツ『HAL®︎』の実装を行う「湘南ロボケアセンター」がロボテラスの運営にあたっていたため、福祉系ロボットの展示がメインとなり、対象者が限定されることにより集客は若干難航していたという。

そこで、地元の住民にとって、より馴染みの深い施設を目指し、生活支援ロボットを取り扱うスペースとして2018年8月にリニューアル。新事業の創出や創業支援、中小企業等を支援し、地域産業の振興を図る公益財団法人 湘南産業振興財団が施設の運営を引き継いだ。同時に、今回取材対応をいただいた秋本氏がこれまで20年近くインキュベーションマネージャーとして起業家支援に携わってきた経験から施設責任者として抜擢されたほか、ロボットの使い方やスペックについてレクチャーする常駐のコンシェルジュが配属された。

期間限定のイベントや展示会、企業のショールームなど、特定のロボットが展示される機会は全国各地にあるものの、60種類以上のロボットが常設で展示・体験まででき、かつロボットの説明を受けられる展示場は、現在日本ではここだけであると海外からの見学者は口々に話すという。

「私が着任する少し前に、友人の家で遊んだ「aibo」が欲しいが、高価なためもう1度ここで触ってから買おう」と思っていた高齢の女性がいらっしゃったのですが、そのタイミングではまだ取り扱っておらず、体験してもらうことができなかった。その時の残念そうな顔が忘れられなくて今でも悔やんでしまうほど。

1万、2万の買い物ではないのだから絶対に体験した方がいいし、いろんな種類を自分の目で見比べてみた方が実際ご家庭で使用されるイメージも沸くでしょう。だから1種類でも多くのロボットを展示したいし、どんどん増やしていきたいと思っています」(秋本氏)

 開発段階から積極的に企業にアプローチを行い、
早期からの展示を実現

(株)エルエーピーの『パワーアシストハンド』

販売代理店や企業から直接持ち込まれることもあるが、なかには開発側が製作初期の段階から、ロボテラスに置かせて欲しいとアプローチしてきたものもあるという。体験者だけでなく、開発者にとっても魅力ある施設のようだ。

『ロボテラス』は、マッスルスーツなど最新モデルが登場すると早々に展示がスタートしていることもあり、話題の製品にはかなりの高確率で巡り合える場になっている。ロボットの導入を検討するベンチャー企業や起業家などの視察も多く、ロボットに関心のある人や企業を繋ぐハブの機能も果たしている。

来場者数はリニューアルから1年と2ヶ月強で1万人を突破し、順調な推移を見せているが、一方で日本国内での認知拡大は大きな課題と捉えているそうだ。

「実は来場者のうち割り合い多くが海外からのお客様。自分の生活をサポートしてくれるロボットが欲しいと、インターネット検索から私たちの元にたどり着いています。

日本でも急速に高齢化社会について言及されるようになったものの、当事者意識を持って捉えられている人は海外の方に比べるとまだ少数派なのかなという印象を受けています。

子どもはコミュニケーションロボットに触れて楽しめるし、祖父母世代には福祉・介護ロボットなど、全世代にとって生活支援ロボットが身近なものになっていくことが理想だから、ぜひ一度家族連れで遊びにきてほしいです」(秋本氏)

子ども向けのプログラミング教室やセミナーの開講で、
認知を広めていきたい

地域に根ざした団体が運営するからには、ゆくゆく、藤沢市に拠点を置く企業からロボットが生まれるのが目標だが、2020年から小学校でのプログラミング教育の必修化も始まることから、子どもたちへの教育にも力を入れていきたい、と秋本氏は語る。

すでに数回開講したScratch(プログラミングソフト)の講座は毎回すぐに満席になるほど好評を博し、小学校教員向けのプログラミングの勉強会も開催した。

「教育系のイベントは財団としての管轄ではないから、どこまで踏み込んでいいのかは探り探り。ただ、神奈川県の青少年課からはいち早く、ここでイベントをやりたいとオファーしてもらっているので、これからうまく情報共有していきたい」と、県の関連部署を越えた連携にも意欲を示す。

地域と密着した施設、そして最先端の技術を国内外に発信していく場として、ロボテラスが今後どのように飛躍していくか要注目だ。

(text: Yuka Shingai)

(photo: 増元幸司)

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義手の世界に革命を起こす、22歳の若き起業家

岸 由利子 | Yuriko Kishi

必要とする人のために、高機能なカスタムメイドの義手を作り、手の届く価格で提供したい――その情熱が、22歳の米国の起業家Easton LaChappelleを突き動かし、最先端の3Dプリント技術を駆使したロボットアームの製造企業「Unlimited Tomorrow」を創立するに至った。従来の義肢業界に風穴を開けるべく現れた革命児、LaChappelle氏の軌跡とUnlimited Tomorrowの活躍に迫る。

原点は、14歳で作ったロボットアーム

引用元:Unlimited Tomorrow https://www.unlimitedtomorrow.com/

LaChappelle氏が初めてロボットアームを作ったのは、14歳の時。レゴブロックと釣り糸、電線管、模型飛行機の小さなモーターを組み合わせたもので、当初は、「面白半分でやってみた」と回想するが、それ以来、より精度を上げるための方法を探すために、インターネットで情報収集し、独自に改良を重ねていく。彼の生まれ故郷、コロラド州の田舎町で得ることができない情報については、ロボットとエンジニアリング分野の専門家たちに、直々にメールを送り、スカイプでインタビューを行うなど、体当たりのアプローチで、水を得た魚のごとく、義手開発のノウハウを培っていった。

2011年、16歳の誕生日に、500ドルの3D プリンターを両親と折半して購入し、ワイパーモーターで駆動する3Dプリント義手を製作した。EEGヘッドセットを通して伝わるユーザーの脳波信号によって動かすことができる、というもので、LaChappelle氏は、この義手を科学展覧会に出展し、グローバルサイエンス賞(高校生の部)を受賞。当時の米国の大統領、バラク・オバマ氏と接見したほか、NASAの夏季インターンシップを経験する機会などに恵まれた。

たったひとりの少女のために
6年をかけて、3Dプリント義手を開発

この科学展覧会では、LaChappelle氏にとって、その後の人生を大きく左右する運命的な出会いがあった。彼女の名は、Momo。生まれつき右腕の肘から先のない幼い少女は、群衆をかき分けて飛び出し、彼の作った義手の指が動くのをじっと見つめていた。その時、Momoがつけていた義手は、手のひらを開いて、閉じるという動作しかできないもので、“かぎ爪”のような形状をしていたという。

「(Momoの両親によると)その義手は、80,000ドルもするのです。私は、たった数百ドルで、より優れた機能を備えた義手を作れたというのに」

その時、目からウロコが落ちる想いがしたという。特に、子どもの場合、洋服や靴と同じように、成長と共に、義手もサイズが合わなくなり、新たに買い換える必要が出てくる。高価な義手を子どもに与えることには、さまざまな問題があり、また、それらの義手は、多くの人にとって、あまりにも高すぎるため、手の届かないものでもある。

Momoとの出会いをきっかけに、LaChappelle氏は、学校には行かず、彼女の義手を作り上げるための研究やテスト作業に専念した。マイクロソフトをはじめ、Unlimited Tomorrowの設立に協力したトニー・ロビンズ氏など、さまざまなサポートを受けながら、実に6年もの歳月を費やし、思い描いた通りの3Dプリント義手を完成させた。

2018年末までに、カスタムメイドの
3Dプリント義手100本を生産予定

Momoのために開発した義手は、筋肉制御が可能で、指の1本ずつに触覚のフィードバック機能があり、物を触った感覚を得られる。義手の表面の色は、好みの色にカスタマイズできるし、爪には、色を塗ることだってできる。

こうして、ロボットアーム第1号を世に生み出したLaChappelle氏。現在、Unlimited Tomorrowは、前述のマイクロソフトのみならず、3Dプリント技術の専業メーカーのストラタシスや、3Dソフトウェアプロバイダーのダッソー・システムズといった大企業と提携し、2018年末ごろまでに、個人向けの義手100本を生産する予定で、製作に取り掛かっている。これら2社とのコラボレーションにより、開発のスピードをさらに加速させると共に、一人ひとりに合ったカスタムメイドの義手を作るために、重量やコスト面などを考慮しながら、改良を重ねているところだ。

Unlimited Tomorrowの公式サイトによると、現段階において、カスタムメイドの義手の製作期間は、約1~2週間、重量は1ポンド(0.45kg)。1本20,000 ~ 100,000ドルと、極めて高価な義手が大半を占める義肢業界において、その4分の1に相当する価格、あるいは、それ以下で手に入れられるとしたら――「義手の指を自分で動かす」という一番の夢を叶えたMomoのように、世界のどれほど多くの人が喜びを得て、人生を豊かにすることができるだろうか。若き起業家、Easton LaChappelleの革命は、ここからが本番だ。

UNLIMITED TOMORROW
https://www.unlimitedtomorrow.com/

[TOP動画引用元:https://youtu.be/HNvLtst7Gjo

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

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