スポーツ SPORTS

来たるべきスポーツビジネスとイノベーションの未来は?「スポーツ テック&ビズ カンファレンス 2019」レポート 後編

長谷川茂雄

日本では2019年から、ラグビーワールドカップ、東京オリンピック、ワールドマスターズゲームズと、3年続けてビッグなスポーツイベントが開催される。それに伴って、スポーツとテクノロジーを結びつけた今までにない観戦方法や医療の在り方、そして地方創生といった社会課題の解決策が提案されつつある。加えて、あらゆるビジネスも生まれようとしているが、それを見据えて「スポーツ テック&ビズ カンファレンス 2019」が開催された。パネリストに山本太郎氏(ホーク・アイ・ジャパン代表)、澤邊芳明氏(ワントゥーテン代表)、モデレーターに河本敏夫氏(NTTデータ経営研究所)を招いた特別講演のレポートをお届けする。

スポーツとエンタテインメントを
掛け合わせていくことで可能性が広がる

澤邊:これからは、スポーツとそれを取り巻くビジネスを発展させていくためには、スポーツとエクササイズの中間という考え方も必要だと感じています。あまり競技性が高すぎると、そこまで極めたいわけではない、と敬遠されてしまう。だからスポーツとエクササイズの間というイメージです。そういった掛け合わせ、フュージョンしたようなスポーツが出て来ればいいなと思っています。

今後は、パラリンピックがオリンピックの記録を抜いていく時代が来るはずです。例えば、義足などはそもそも補完する装具ですが、これからは、パワードスーツを着て格闘技をやったりするようなことになっていくのではないかと。補完ではなく拡張ですね。

それが進んでいくと、ロボットを使ったボクシング大会とか、そういう方向に広がっていく。スポーツというものが、もっと産業のなかに入っていって、イノベーションのコアになっていくのではないかと思っています。

河本敏夫氏(以下河本):今回のカンファレンスのテーマのひとつは、グローバルでもあるのですが、お二人に、日本から世界にスポーツビジネスを広げていくにはどうしたらいいのかをお伺いしたいのですが?

モデレーターを務めたSports-Tech & Business Lab 発起人の河本敏夫氏。

山本:ホーク・アイの場合は、コンサルテーションのような形で入って行って、(スポーツ団体やチームと)お付き合いをしないと、なかなかグローバルでの展開が難しいという現状があります。

可能性を感じるのは、プロリーグがないスポーツですね。ある国では流行っていて、ある国では流行っていないスポーツを掘り下げてみる必要があるのかもしれません。日本には高校野球や高校サッカーというマンモスコンテンツがありますが、それがどうやったら他で流行るのだろうということを考えてもヒントが出てくるのかな、と思います。

澤邊:パラリンピックでいえば、タイはボッチャが強かったり、中国がものすごくパラリンピック自体に力を入れてきたりと、新興国に、まだまだ伸びがあります。

そういう状況下で、「観るスポーツ」をエンタテインメント化してファン作りをしていくことで、「するスポーツ」との連携もできるだろうと思うんですね。

ソニーのプレステのように、日本はエンタテインメントを作るのがそもそも上手い。それをスポーツと掛け合わせることで、楽しく家庭やフィットネスの現場でできたり、試合にも参加できたり、観に行けたりと、一気通貫というか、ひとつの大きなコミュニティを作っていければ、日本は先導していけるのではないかと感じています。

どうしてもスポーツとエクササイズが混乱しているケースも多いので、その中間を作ってエンタテインメント化することで、新たなデータを取っていく。そういうことができると、新しいのかな、と思います。

パネリストの山本氏(左)と澤邊氏。

河本:どのように、スポーツをやらない人、興味を持っていない人を引き込むか? 裾野はどう広げるか? そのためには、エンタテインメント化は、必要かもしれないですね。

あとお聞きしたいのは、日本から世界に出て行くときに、コンテンツを作っていくのがいいのか、コンサル的に関わっていくべきなのか、はたまたアマゾンやウーバーのようなプラットフォーマーのような存在がいいのか? 日本企業はどういう戦い方をしていけばいいのでしょうか?

虎ノ門ヒルズのカンファレンス会場は、ほぼ満員状態の大盛況だった。

スポーツビジネスの裾野を広げるには
子供たちの育成が急務

山本:グローバルに持って行っても、すべてがウケるわけではないと思います。各々にフィットした持っていき方、やり方を考えていく必要がある。絶対にこれはウケるというやり方は、結局のところは、ないですから。

澤邊:僕は、プラットフォーム作りじゃなくてコンテンツ単位やソリューション単位で、一個一個攻めていくほうが、日本ぽいなと思います。これからAI等の発達も含めて、自由に使える時間が増えていくじゃないですか。人々は、有意義に時間を過ごしていくために、観戦も含めてスポーツを取り入れるという選択肢が増えていくと思います。それはアジア全域で一気に起こると思っているので、1つの経済圏としてアジア全体を見ていく必要はあると思います。

河本:経済圏というのは、大切な考え方ですよね。ローカルの経済圏もあれば、アジア全体の経済圏もありますよね。弊社が運営するコンソーシアム「Sports-Tech & Business Lab」でも地域という視点だけでなくビジネスとしての輸出可能性の視点を重視しています。最後に、今後のスポーツ産業を見据えた、展望や野望をお聞かせください。

山本:これから大きなイベントが続きますから、ビジネスを広げるチャンスです。

そこでいろんな形でデータが出てくるわけですが、それを使ってなにができるのか? これは個人的にも興味があります。データを使ったアスリートの育成ですとか、スポーツに興味を持ってもらう子供たちを増やすとか、そういった方向に流れが向かえばいいなと思っています。

澤邊:直近では柔道を盛り上げようと考えています。柔道人口は日本が15〜20万人ですが、フランスは60万人。全然日本は負けているんですね。柔道は、武道ですから、子供の頃から礼節を教えるものとしてフランスでは取り入れています。では、日本は子供に対してどういった教育を施していくのか? そういうところを、いま考え直さなきゃならない時期に来ているのだと思っています。

やはりスポーツの役割は大きいと思っていて、表面的なものではなく、健康作りも含めて、人との付き合い方など学べる部分がいっぱいある。サイバースポーツプロジェクトなどでパラスポーツに触れることでも、その後の子供たちの振り幅は大きく変わると思うんですね。そこが結局大きなビジネスに繋がっていく。教育という側面にもっと注力すべきだと僕は思います。

河本:本日は、貴重なお話をありがとうございました。

前編はこちら

山本太郎(やまもと・たろう)

ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ スポーツセグメント部担当部長。ホーク・アイ・ジャパン 代表。米国の大学を卒業後、ソニーに入社。通算18年の海外駐在で、マーケティング及び新規事業立ち上げに従事してきた。2013年からは、インドのスマートフォン事業を統括。2016年に帰国し、現在は、スポーツテック・放送技術等を活用したスポーツや選手のサポート、チャレンジ・VAR等判定サポートサービスを提供するホーク・アイの事業展開を担当。

澤邊芳明(さわべ・よしあき)
1973年東京生まれ。京都工芸繊維大学卒業。1997年にワントゥーテンを創業。ロボットの言語エンジン開発、日本の伝統文化と先端テクノロジーの融合によるMixedArts(複合芸術)、パラスポーツとテクノロジーを組み合わせたCYBER SPORTS など、多くの大型プロジェクトを手がける。 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 アドバイザー。

河本敏夫(かわもと・としお)
NTTデータ経営研究所 情報戦略事業本部 ビジネストランスフォーメーションユニット スポーツ&クリエイショングループリーダー Sports-Tech & Business Lab 発起人・事務局長。総務省を経て、コンサルタントへ。スポーツ・不動産・メディア・教育・ヘルスケアなど幅広い業界の中長期の成長戦略立案、新規事業開発を手掛ける。講演・著作多数。早稲田大学スポーツビジネス研究所 招聘研究員。

 

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 増元幸司)

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日本一かっこよく義足を履きこなすパラアスリート、佐藤圭太【HEROS】

朝倉奈緒

陸上競技で活躍する義足のパラアスリート、佐藤圭太選手。ロンドンパラリンピック4×100mリレー4位入賞、リオパラリンピックでは同種目で銅メダルを獲得。東京2020でもメダルが期待される彼が東京・豊洲でトレーニングを行うという噂を聞き、早速駆けつけた。台風一過の晴天の元、静寂に包まれた新豊洲Brilliaランニングスタジアムで一人走る姿を追いつつ、活躍ぶりを伺った。

「負ける気も負けるつもりもない」
意志で挑む、東京2020

佐藤選手は昨年9月に福島で開催された「2017ジャパンパラ陸上競技大会」で、100m、200m、走り幅跳び競技において1位(T44クラス)という好成績を収めた。しかし、「満足のいく走りができましたか?」という問いには「そうでもない」と意外な返答が。新しい義足で挑んだところ、板部分の反発の感覚を掴みきれず、スタート時の角度が高くなり、体が起き上がってしまったそうだ。そのため、効率よく加速できるスタートダッシュが行えなかったのである。義足10年選手の佐藤選手であっても、義足のアスリートにとって、競技用義足をいかにマスターするかが、タイムを縮める大きな鍵となるのだ。

メダルが期待される東京2020まであと2年となったが、同大会では、リレーの選抜方法が変わり、男女混合リレーが初めて採用されることになった。これまでは、佐藤選手のいる「切断」を含む種類のクラスから4名選出されていたが、東京2020では障がいクラスがミックスされ、選手たちにとってはより厳しい選抜形式になる

そんな佐藤選手のライバルともいえるのが、池田樹生選手。大学(中京大)の後輩で、同じ障がいクラスの義足義手のアスリートだ。池田選手もXiborgの義足を履いており、2016年ジャパンパラ陸上競技大会の400m部門で佐藤選手の持つ日本記録を更新し、金メダルを獲得した。「負ける気も負けるつもりもない」と意気込む佐藤選手だが、その表情は後輩の顔を想像してなのか、心なしか穏やかだ。

ちなみにリレー種目においては、走順も大きなポイントとなる。佐藤選手は第2走者だが、基本的に4×100mリレーは第1,3走者が曲線、第2,4走者が直線コースを走る。義足の選手はカーブ走行が苦手な傾向があるため、腕などの上肢にハンディのある選手が第1,3走者となるのだそう。パラスポーツならではの連携プレーが試される競技であり、パラスポーツ観戦を楽しむ醍醐味ともいえる。

「義足」ばかりが注目されるべきではない。
「義足の図書館」がきっかけで社会に働きかけたい思い

この日取材に訪れた新豊洲BrilliaランニングスタジアムXiborgラボ内には、佐藤選手もチームの一員となっているクラウドファンディングプロジェクト「義足の図書館(http://hero-x.jp/movie/603/)、2017年10月中旬にオープンしたばかり。愛知県豊田市に本社があるトヨタ自動車の正社員である佐藤選手も、オープンしてから初めてこの場所を訪れた。

佐藤選手がこのプロジェクトの一員となったのは、発起人であるXiborg社の遠藤謙さんからの声掛けだ。はじめは迷いもあったそうだが、プロジェクトの内容に共感し、何より自分自身が楽しめそうだと思い、参加することにしたのだという。「ここはあくまでも拠点として、いいきっかけづくりができたらと思います」と、佐藤選手はプロジェクトの構想について話しはじめた。

「例えば義足で生活している子どもが、日常用の義足で走ることが好きになれるか?といえば、難しいと思います。体育の時間でも、他の子と同じようには走れず、それが苦痛な時間になってしまう。僕は競技用の義足を15歳のとき初めて履きましたが、『もう一度走ることができるかも』と、すごく嬉しい気持ちになった。日常用の義足では『走るのは無理だな』と諦めていたのですが、競技用の義足は弾むように走ることができて、走ることの楽しさを思い出したんです」

日常用の義足は、生活必需品なので保険が適応され、自己負担金が少ない。一方、競技用の義足は“趣味のもの”扱いになり、保険適応外となるので、高額な義足を個人が購入するにはかなり負担が大きくなるのだ。

「これは義足だけでなく、例えば競技用の車いすにも、同じような取り組みができると思います。『義足の図書館』が社会にそのようなアピールをするきっかけのひとつになればと感じています」

義足を体験!

目の前にこれだけの種類の義足があるのに、健常な足がある限り、どれも試せないなんて….。と悔しさを思わず言葉にした筆者に、佐藤選手は子ども用ではあるが、義足を体験するための機器を試させてくれた。両足を固定されるので最初は立つのもやっとではあったが、体験義足でスタジアム内のトラックを思い切り駆け抜けた。「気持ちいい!楽しい!…そして、重い」というのが率直な感想。「重い」というのは、自分の体重に合った義足であれば、克服できるとのこと。(子ども用の義足は私の体重に対してバネの反発力が小さかったようだ)

義足のパラアスリートは、義足をどれだけ使いこなせるかがポイントとなる。身体的な要素よりも技術的な要素が重要となり、それらの進歩によって一人の選手が現役でいられる年月も長くなる。佐藤選手は現在26歳。これから10年、20年と、グレードアップされる義足と共に、佐藤選手のテクニックも磨かれていくだろう。そして、未来には足の有無に関わらず、競技用の義足を履いてスポーツを楽しむ人たちで、スタジアム内は活気に満ち溢れているに違いない。

佐藤圭太(さとう・けいた)
1991年生まれ静岡県藤枝市出身。トヨタ自動車所属の障がい者陸上競技選手。種目は短距離(100m200m)、障がいクラスはT4415歳のとき右下肢にユーイング肉腫を患い、膝下15cm以下を切断。2012年ロンドンパラリンピックに出場し、4×100mリレーで4位、2014年仁川アジアパラ競技大会では100m200m4×100mリレー全ての種目で優勝。2016年リオパラリンピックでは4×100mリレーで銅メダル、2017年パラ世界選手権でも同種目にて銅メダル。100m200mにおける自己ベストでは、共にT44クラスにおいて日本記録、アジア記録を樹立している。東京2020での金メダル獲得に向けて猛トレーニング中。

(text: 朝倉奈緒)

(photo: 増元幸司)

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