対談 CONVERSATION

WOWOWスタッフが、「WHO I AM」で伝えたいこと、見えてきたこと 後編

川瀬拓郎|Takuro Kawase

TOKYO2020に向けて、IPCとWOWOWの共同で立ち上げた、パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」。16年の放送開始から、すでに折り返し地点をすぎた今、残された時間はあとわずか。プロデューサー太田氏とHERO X編集長杉原の対談は、さらにその先を見据えた話題へとヒートアップ。他人ゴトではなく自分ゴトとして捉えてもらうためのコミュニケーションから、ボランティアについて、今の日本社会にある雰囲気、「WHO I AMシーズン3」の見どころまで、興味深い意見交換が繰り広げられる。

エンタテインメントとしても成立する大会へ

左:HERO X編集長:杉原行里 右:WOWOW 制作局 制作部「WHO I AM」チーフプロデューサー:太田慎也氏

杉原 パラスポーツも他のメジャースポーツの様に、やっぱりエンタテインメントとして、興業として成立させることが大事だと思うのですが、今までは残念ながら、会場に来るのはパラリンピック関係者がほとんどで、それ以外というのは1割にも満たなかったかもしれません。だから、まずはやっぱり、好きな選手や熱中できる競技を見つけてもらうこと。そのきっかけを作ってあげないといけないと思うんです。

太田 好きになるきっかけ作り、仕掛けが必要ですね。

杉原 あと、来てくれる人へのホストとしての自覚がもっと必要なのかとも思います。最近の広島カープや横浜ベイスターズの盛り上がり方がヒントになるのかなと。そこには興業側の努力があると思うし、エンタテインしようという意図が明確にある。

太田 僕も横浜ベイスターズの試合を観に行くことがあるのですが、筒香が出てきて大合唱が巻き起こると、ウワーって会場全体が盛り上がるんですよ。クローザーの山崎が登場する時の音楽がかかると、こっちもテンション上がりますから。興業側の演出や仕掛けも重要になってきますね。

どうやって心の中のスイッチを入れるのか?

杉原 ワールドカップがまさに象徴的なのですが、日本って一回スイッチが入れば、盛り上がり方が半端ないですよね。だからどうやってスイッチを入れるのか、どうやってコミュニケーションすればいいのかを、ずっと考えています。

太田 今僕がやっている活動のひとつとして、大学に映像をお持ちして、自分たちが世界中を訪れてのドキュメンタリー制作で得た経験を講義しています。そこでWHO I AMのフィロソフィーを伝えた上で、もっと自分を出しましょう!と学生たちに問いかけるのです。講義の終盤に質疑応答の時間を設けるのですが、ほとんど誰も手を挙げてくれない。

杉原 そういうシチュエーション、大学外でもよく見かけますよね。

太田 講義が終わった後になってちょっといいですか? 拙い質問なんですが…”と言ってくる学生が必ずいるんですよね。さっきまで90分間、自分を出そう! という話をしていたのにも関わらず。それなら講義中に言ってくれたらいいのに! って(笑)。

杉原 日本人ならではの反応なのかもしれませんね。海外ではそういうシチュエーションにあまり出会ったことがないかもしれません。僕が学生時代留学していたイギリスの場合、ノートを見返せば答えが分かるような質問をする学生がいるんですよね。でも彼としてはしてやったりなんです(笑)。彼にとっては、発言をすること自体が一種のアピールなんです。一回でも、自分の中のスイッチを入れることができれば、周囲の目なんか気にせず挙手をして、発言できるようになるんですが

太田 極端な例え話ですが、みんながお茶を飲みたいと思っているときに、自分はビールが飲みたいと思っているのであれば、ビールが飲みたい!と言えばいいだけだと思うんですよ。周囲の目を気にして、集団における自分がどう見られているかではなく、自分自身はどうありたいのか? ということの方が大事だと思っているからです。

杉原 太田さんが何千人もに講義をしてきて、その内容が胸に突き刺さっている学生がたくさんいるわけですよね? もちろんその時に手を挙げたて質問した方がいいのですが、講義の後で、自分なりに調べて考えてくれればいいと思うのです。

太田 最近の社会全体の雰囲気からも感じるのですが、どこか人々が一様化しているのかなぁと。自分を出さず、ポジション取りばかりに必死になっている人が多いという印象を受ける。だからこそ、WHO I AMを観て感じることがあったのなら、それを持ち帰って自分の頭で考えてもらえたら嬉しいなと。

2020オリパラにおけるボランティアの考え方

杉原 本当にそう思います。みんなで議論しましょう、みんなで考えましょうっていうみんなという定義はすごく曖昧ですよね。やっぱり、まずは個人個人で、自分ゴトとして考えて欲しい。例えば、オリパラにおけるボランティア問題がまさに象徴的だと思うのです。交通費がどうとか、そういう話に終始してしまいがちです。本来のボランティアという言葉の意味が、ちゃんと伝わっていないのかなと。

太田 ボランティアっていう言葉の解釈が、ちょっと違ったニュアンスになってしまっているかもしれませんね。海外に行くと、ボランティアってひとつのアクティビティとして認識されているんですよね。例えば、週末に家族とキャンプに行く、カラオケに行く、家でゆっくり過ごす。そうしたことと同列の選択肢のひとつとして、ボランティアがあるのです。それが日本だと無償奉仕という意味合いの言葉になってしまう。

杉原 ボランティアっていう呼び方がダメなのでしょうかね。例えば、チームスタッフという呼び方に変えれば、オリパラに関わっているんだという自覚が生まれると思うんです。何か大がかりなことではなくて、誰もができそうな道案内をするところから入るとか、そのくらいのことからでもいいと思うんです。

太田 リオ・パラリンピックで国枝選手の取材に行ったとき、そのことを強く感じました。ゲートからテニス会場まで1kmくらいあるのですが、その道案内してくれるボランティアの方の道案内や標識がことごとく間違っていたんです。だから重い機材を抱えながら何度も往復しなければならなかったという(笑)。ただ、本当に陽気でいい人たちばかりだったので、どこか悪い気もしなかったし、気持ちさえ伝わればいいんだなって。

次世代の力をどうやってつなげていくか

杉原 だからこそ2020オリパラには、たくさんの若い人たちに主体的に参加して欲しいのです。自分ゴトとして考えて欲しいのです。

太田 社会人よりも学生の方が、圧倒的に熱量があるし反応がいい。大学生より高校生、高校生より中学生というように、年齢に比例するんですね。そうした若者たちの熱量をつなげて、何か具体的に新しい取り組みができないものかと常に考えています。

杉原 だって、世界中からスーパーヒーローが東京に来るんですよ! 日本に暮らすみんながホストにならなきゃダメなんです。

太田 本当にその通りですね。2020年がゴールじゃない、その先が大事なんだと、多くの人が口にする。でも、その先って何ですか? レガシーって何ですか? と問い質すと、ふわっとした答えしか出てこない。もちろん簡単に一つの結論を出せるものではないのだけれど。でも僕らは、WHO I AMでやってきたことを通じて、自分たちなりの結論を出したいと思っています。そして、今のところ僕が考えている結論としては、2020年以降に大人になる若い世代に何かを残すことだと考えています。

WHO I AMシーズン3の見どころとは?

杉原 ひとつだけでもいいから、興味を持ってもらえる競技を見つけてもらうこと。気になる選手を見つけてもらうことが、その後に繋がっていくと思うのです。シーズン3に登場する選手で、特に注目して欲しい選手がいますか?

太田 ドイツにニコ・カッペルという低身長症の選手がいるのですが、彼はそれを隠すのではなく、自分からさらけ出して、常に周囲を笑わせてくれるんですね。こういう選手ってなかなか出会ったことがなかったから、取材中も本当に楽しかった。それから、ポーランドのナタリア・パルティカという、片腕の卓球選手も取材しています。彼女は直近のパラリンピック4大会で無敗、ポーランド代表のオリンピアンでもある。とっても魅力的で、本当に素敵な選手なんです。今回の8人のメダリストもすごい選手ばかりなので、是非とも観ていただきたいですね。

前編はこちら

太田慎也
WOWOW 制作局 制作部「WHO I AM」チーフプロデューサー。2001年WOWOW入社。営業企画・マーケティング・プロモーション部門を経て、2005年に編成部スポーツ担当に。サッカー、テニス、ボクシング、総合格闘技などの海外スポーツ中継・編成・権利ビジネスに携わる。2008年、WOWOWオリジナルドキュメンタリー「ノンフィクションW」立ち上げ時の企画統括を務め、自身もプロデューサーに。日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー賞選奨受賞を獲得。IPC&WOWOWパラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ「WHO I AM」のチーフプロデューサーを務める。

WHO I AM 番組情報>
IPCWOWOW パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM」(シーズン3 全8回)10月スタート
特別ミニ番組「10月シーズン3スタート!パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM」(全8回)822日(水)より 随時無料放送
IPC & WOWOW パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ WHO I AM」シーズン1(全8回)&シーズン2(全8回)全16番組 公式サイト&WOWOWメンバーズオンデマンドで絶賛無料配信中
WEB会員ID登録が必要となります(登録無料)

<最新情報はこちら>
公式サイトwowow.bs/whoiam
公式Twitter & Instagram@WOWOWParalympic #WhoIAm

(text: 川瀬拓郎|Takuro Kawase)

(photo: 壬生マリコ)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

対談 CONVERSATION

「ちがいを ちからに 変える街」とは?渋谷区長に突撃取材! 前編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

ありとあらゆる世代や人種が集まる街、渋谷。そこは、多彩なコミュニティが生まれ、新たな文化が沸き起こる一大メトロポリス。障がいのある方をはじめとするマイノリティや福祉そのものに対する“意識のバリア”を解き放つべく、従来の枠に収まらないアイデアから生まれた「カッコイイ」、「カワイイ」プロダクトや「ヤバイ」テクノロジーを数多く紹介する『超福祉展』をはじめ、街がまるごとキャンパスとなり、教えると教わるを自由に行き来できる新しい“共育”システム『NPO法人シブヤ大学』や『渋谷民100人未来共創プロジェクト』など、多様性社会の実現に向けて、多彩な取り組みが次々と行われている。本当のダイバーシティ(多様性)とは?渋谷の未来はどうなる?渋谷区長を務める長谷部健氏にHERO X編集長・杉原行里(あんり)が話を伺った。

「YOU MAKE SHIBUYA」で作る、
未来の街『渋谷』

杉原行里(以下、杉原):早速ですが、お聞かせください。ダイバーシティの定義は、企業や行政によってもさまざまにあると思いますが、長谷部区長はどのようにお考えですか?

長谷部健氏(以下、長谷部):人種や性別、国籍、出身地、あるいは趣味や嗜好も含めて、互いの違いを認め合い、尊重し合うことが、ダイバーシティと言われていますが、そこで終わりではなく、その先でしっかりと調和していくことが大切だと思います。色んな音色が混じり合って、ひとつの作品になっていくという、音楽でいうところの“ハーモニー”ですね。違う音色を奏でる人もいれば、音色が上手く出せない人もいるでしょう。ハーモニーが乱れることがあるかもしれないけれど、それを寛容に受け止めていくのが、社会のあるべきダイバーシティの姿だと思うんです。

杉原:なるほど、多様性調和ということですね。オーケストラに例えるなら、やはり区長は指揮者になるでしょうか?

長谷部:いえいえ、私も演奏しているひとりです。もしくは、指揮者はいなくて、皆で演奏しているのかもしれません。

杉原:音楽の話でいうと、20年ぶりに策定した渋谷区の基本構想のキャンペーンソング「夢みる渋谷 YOU MAKE SHIBUYA」が配信されています。

長谷部:区長に就任した時(2015年)、最初に取り掛かった仕事が、基本構想の改定でした。基本構想は、地方自治体にとって政策の最上位概念にくるものなんですね。全ての計画がそこに紐づき、その傘の基に運営する重要な核となるものです。改定する前の「創意あふれる生活文化都市 渋谷―自然と文化とやすらぎのまち」という基本構想も非常に良かったのですが、20年前に比べると、やはり時代背景は大きく変わっています。

これからの鍵は、先に述べたダイバーシティと、それをエネルギーに変えていくインクルージョンであると考えています。これらを強く意識して打ち立てた将来のビジョンが、「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」です。このスローガンに基づく新しい基本構想は、審議会答申を経て、2016年10月に議決いただきました。そして、“ちがいを ちからに 変える街”を実現するために必要なのは、「YOU MAKE SHIBUYA」だということを訴求しています。「YOU MAKE SHIBUYA」と繰り返し言うと、「ユメイクシブヤ(夢行く渋谷)」と聞こえてきませんか?

杉原:本当だ!聞こえますね。

長谷部:夢をもっていこう、自分たちで渋谷の街を作っていこう。「YOU MAKE SHIBUYA」には、この二つの意味を込めました。渋谷には、区民の方をはじめ、働いている人や遊びに来る人、学生時代を過ごした“第二の故郷”として慕う人など、想いを寄せてくださる方がたくさんいます。そうした方たちも含めて、渋谷区の基本構想をもっと多くの人に広く知っていただきたいと思い、その価値観や未来像を、ポップなキャンペーンソングやアニメのPV、絵本テイストのハンドブックなどに反映しました。

杉原:誰にとっても分かりやすい共通言語のようなものを作りたかったのでしょうか?

長谷部:言語というよりは、共通のビジョンであり、共通のステートメントと言えるかもしれません。とりわけ基本構想を「歌」の形にした背景には、そう遠くない未来に、この街の主役になる子どもたちにこそ、ぜひ知っておいて欲しいという想いがありました。今年の夏、SHIBUYA109周辺エリアで初開催した「渋谷盆踊り大会」では、「夢みる渋谷 YOU MAKE SHIBUYA」のボーカルを担当された野宮真貴さんが“盆踊りバージョン”にアレンジしてくださり、大盛況のうちに幕を閉じました。来年は、あるアーティストの方にダンスバージョンを作っていただく予定です。渋谷区内にある学校の運動会で、催し物のひとつとして、子どもたちに踊ってもらえば、楽しみながら覚えてもらうことができるかなと。

杉原:楽しそう!これは名案ですね。

http://www.peopledesign.or.jp/fukushi/

「超福祉」は、心のバリアを溶かす
“意識のイノベーション”

杉原:今年で4回目の開催となる「超福祉展」。今回は、渋谷ヒカリエ「8/(ハチ)」を中心に、渋谷キャストやハチ公前広場、代官山T-SITEなどにサテライト会場が設けられ、街そのものが大きな舞台になっています。そもそも、この展覧会は、どういった意図で始められたのですか?

長谷部:障がい者をはじめとするマイノリティや福祉に対して存在する負い目にも似た“心のバリア”。平たく言うと、その人たちは、「手を差し伸べる対象」であると、これまで多くの人が感じていたのではないかと思います。渋谷区では、2015年4月1日より、「同性パートナーシップ条例」(正式名称「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」)を施行していますが、この課題に取り組んだ時に痛感したことがあります。それは、マイノリティの抱える問題を解決するためには、マジョリティの意識の変化こそが求められていること。LGBTがマイノリティだとしたら、それ以外のマジョリティの人たちが意識を変えていくことで、世界は少しずつ変わっていくと思うんです。

障がい者に対しても、同じことが言えると思います。既存の福祉の概念を超えていくことで、心のバリアが溶けて、人々の意識が変わっていけば、「一緒に混ざり合う対象」であることに気づいていけるはず。超福祉展は、そんな意識のイノベーションを目指して、開催を続けています。

後編へつづく

長谷部 健(KEN HASEBE)
渋谷区長。1972年渋谷区生まれ。株式会社博報堂に入社後、さまざまな企業広告を担当する。2003年に同社を退職後、NPO法人green bird(グリーンバード)を設立。原宿・表参道を皮切りに、清掃活動やゴミのポイ捨てに関する対策プロモーションを展開。活動は全国60ヶ所以上に拡がり、注目を集める。同年、渋谷区議に初当選。以降、3期連続でトップ当選を果たす(在任期間:2003~2015年)。2015年、渋谷区長選挙に無所属で立候補し当選。2015年4月より現職を務める。

超福祉展
http://www.peopledesign.or.jp/fukushi/

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 河村香奈子)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー