プロダクト PRODUCT

車いすも電動アシストの時代へ。傾斜方向に流れない「JWスウィング」が登場

平山 麻衣子

ヤマハ発動機株式会社は、車いす用電動アシストユニット「JWX-2(ジェイダブリュエックス・ツー)」と電動アシスト車いす「JWスウィング」に、世界初の電動アシスト片流れ制御を搭載した。それにより、横に傾斜している道でも真っ直ぐに走行できるという※1。

「JWX-2」は、電動アシスト自転車PASの技術「パワー・アシスト・システム」を応用し、車いすのハンドリム操作の負荷に応じて電動の補助力がはたらく車いす用電動アシストユニット。「JWスウィング」は「JWX-2」を装着した電動アシスト車いすだ。世界初※2となった片流れ制御機能※3に加え、下り坂はスピードを抑えたり、アシストの速度を調整したりといった従来のアシスト制御も兼ね備えている。使用者の身体の状態や使用環境に合わせて、ひと漕ぎあたりのアシスト走行距離をより短く、あるいはより長く、細かな調整ができるようになった。

アシスト距離制御の共同開発者である福祉技術研究所株式会社 代表取締役 市川洌氏によると片手片足で車いすを駆動する動作は筋緊張を高め、関節変形の遠因になっているという。また、「電動アシスト車いすを利用すれば、障がいを有する高齢者であっても容易に、筋緊張 を高めることなく、駆動することができます。 速度や加速度、そして今回のアシスト距離制御が特にポイントですが、一人一人に合わせて調節すれば、高齢者施設内等で使用しても、ご本人の自立促進はもとより、施設職員などの介助負担軽減含め、周りも安心して見守ることができるなどの利用効果が分かってきました」とコメントしている。電動アシスト搭載の車いすを使用すれば、環境や身体状況により手動車いすでの駆動が困難だった方でも、介助者の力を借りずに自分で外出する可能性を広げることができるのではないだろうか。

※1: 路面状況や漕ぎ方、片流れ制御パラメータの調整状態等によって、真っ直ぐ走行できない場合もあります
※2: ヤマハ発動機株式会社調べ(2017年9月現在)
※3:国立大学法人東京大学先端エネルギー工学専攻堀洋一研究室と共同開発

<参考>
https://www.yamaha-motor.co.jp/wheelchair/lineup/jwx2/

(text: 平山 麻衣子)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

プロダクト PRODUCT

まさに雪上のF1。極寒の舞台裏にある、エンジニアたちの闘い【KYB株式会社:未来創造メーカー】前編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

チェアスキーほど、命の危険と背中合わせのパラ競技は他にない。時速100km以上の豪速スピードで、雪山の傾斜面を一目散に滑降するアグレッシブさとスリルが、アスリートを奮い立たせ、観客を熱狂させる。2014ソチパラリンピックでは、森井大輝選手がスーパーG(スーパー大回転)で銀メダル、鈴木猛史選手がスラローム(回転)で金メダル、狩野亮選手がダウンヒル(滑降)とスーパーG(スーパー大回転)の2種目で金メダルを獲得。日本のヒーローたちは、圧倒的な強さを世界に知らしめた。そんな彼らの疾走を裏舞台で支えているのが、日本トップクラスのシェアを誇る総合油圧機器メーカー、KYB株式会社(以下、KYB)のショックアブゾーバ開発者、石原亘さんだ。別名・油圧緩衝器と呼ばれるこの部品、一体どのように作られているのか?目前に迫る2018ピョンチャンパラリンピックに向けての開発は?石原さんにじっくり話を伺った。

KYB所属のチェアスキーヤー、ソチ金メダリストの鈴木猛史選手。

日本が誇るショックアブゾーバ開発の最高峰メーカー

1935年、株式会社萱場(カヤバ)製作所として創業したKYBは、「一歩先のモノづくり」をミッションに、高度な油圧技術を創り出す独立系油圧機器メーカー。自動車・二輪車用ショックアブソーバのリーディングカンパニーとして、世界の主要自動車メーカーとの取引を行い、業界を牽引するかたわら、独創的な技術開発を活かして、鉄道・建設機械・航空・新幹線・特装車両・免制震など、油圧をベースにした制御機器を幅広い分野に供給している。

長野パラリンピックの開催を控える中、ヤマハ発動機株式会社、神奈川県総合リハビリテーションセンターや横浜市総合リハビリテーションセンターなどが、連携して取り組む競技用チェアスキーの開発プロジェクトがあった。KYBが手掛ける二輪用リアクションユニットが、チェアスキーで使用するショックアブゾーバの形状に似ていることから声がかかり、同社独自のチェアスキー用ショックアブゾーバの開発が、本格始動した。

以来、ソルトレイク、トリノ、バンクーバー大会で、日本代表選手にショックアブゾーバを提供し続け、2015年8月より、日本障害者スキー連盟アルペンスキーナショナルチームのオフィシャルスポンサー及び公式サプライヤーとなり、前述した同社所属の鈴木猛史選手をはじめ、森井大輝選手、狩野亮選手ら計5名の強化指定選手に対し、強力なサポートを行っている。

挫折があったからこそ、大切な今がある

冬季パラリンピックにおける日本人初の金メダリストであり、通算10個のメダルを獲得した大日方邦子選手や、長野パラリンピックのスラローム(回転)で銀メダルを獲得した青木辰子選手など、名だたるトッププレイヤーたちにショックアブゾーバを提供してきたKYB。しかし、現在に至る道のりは決して平坦ではなかった。「ソチ以前と以後とでは、体制は大きく変わった」と石原さんは話す。

「ソチ以前の当社は、選手の要望をしっかり聞いて仕様を変更するなど、満足のいくサポート体制を提供することが厳しい状況でした。ちょうどその頃、スウェーデンの自動車部品メーカー、オーリンズが開発するショックアブゾーバが、チェアスキーの世界でも注目されていました。製品の性能はもちろんのこと、日本のアンテナショップで各選手の話を聞いて調整を行うなど、サポート体制も含めて、当時の弊社よりも優れていたため、当然ながら、選手の方たちは、そちらのメーカーにシフトしたのです」

これを受けて、KYBは心機一転、社内体制を立て直すことに。選手たちからの信頼を取り戻すべく、ショックアブゾーバをほぼゼロから作り直していくという命運をかけた一戦に挑んだ。マイナスからの厳しいスタートだったが、たゆまぬ努力と熱意が実を結び、選手たちは皆、KYBに帰ってきた。そして今、目前に迫るピョンチャンパラリンピックに向けて、一歩ずつ、着実に歩を進めている。

極上の乗り心地を実現するために
調整、改良、試乗を繰り返す

チェアスキーの競技用マシンは、一枚のスキー板の上に、シート、フレーム、サスペンションが取り付けられた構造になっている。滑走中の風の抵抗を減少するために、足元にカウルを付ける選手もいる。石原さんらが開発するのは、サスペンションの中枢を担うショックアブゾーバ。滑走中の衝撃を緩衝するための部品で、人体に例えるなら、身体にかかる衝撃を和らげる役目を持つ膝や股関節にあたる部分だ。

重量は、スプリングを抜いた状態で、約1200g。各部品において必要のない肉をできる限り削ることで、軽量化を目指す。

こちらが、KYBのチェアスキー用ショックアブゾーバ。基本的には、二輪車用のショックアブゾーバをベースとしているが、チェアスキー用ならではの工夫や難しさがあるという。

「シリンダーやガスタンクは、できるだけ大きくしたいのですが、フレームのサイズは予め決っているので、いかに性能を上げながら、その中に収まるものを設計するかということが、私たちの課題です。製品が出来上がると、実際に選手に乗ってもらい、率直な感想や要望などをヒアリングします。それを踏まえて、スプリングの長さを調整したり、シリンダーの中にあるさまざまな部品を一つずつ見直すなどして、仕様を煮詰めていきます。全ては、各選手にとって、快適な乗り心地を実現するためですが、最適な落とし所を見つけるのは喜びであると共に、苦心するところですね」

ショックアブゾーバの中身をばらして、仕様を変えて組み直し、また試乗する。これを可能にするのは、現状日本だけだという。

無限大の中から、最適な仕様を見つけ出す

「高性能なオートバイやレーシングカーに使用するショックアブゾーバの中には、油が入っています。それをピストンで押した時に発生する“減衰力”で、ダンパーの動きを制御しているのですが、より精度良く制御するためには、ガスによる加圧がポイントになります。それによって、性能がより安定します。この技術は、チェアスキーのショックアブゾーバにも活かしています」

シリンダーの中には、何枚もの金属の板が積まれている。ピストンに取り付けられたピストンロッドの前進運動によって、油がそれらを押し上げる時に発生する力で、減衰力を発生させるという仕組みだ。減衰力の強弱をコントロールするのも、これらの板だ。

「金属の板の大きさは1mm違いで、板厚も0.1mm違いのものを数枚用意しています。選手からの要望で、仕様を少し変えたいという時は、この板を1枚抜いたり足したりして微調整を行い、試乗してもらうことを繰り返します。選手ごとに、枚数も仕様も違います。試験機にかけてデータを取るのですが、選手が実際に感じている領域はデータに現れないことが多いです。例えば、1枚抜いても、データ上ではほとんど差がないのに、体感では違いを感じてもらえたり。板の組み合わせですか?無限大ですね(笑)」

後編へつづく

石原 亘(いしはら・わたる)
チェアスキーショックアブソーバ開発者。2009年、KYBモーターサイクルサスペンション株式会社に入社。スノーモービル、ATV用ショックアブソーバの設計を経て、2015年よりチェアスキー用ショックアブソーバの設計に携わる。また、設計開発を行う傍ら、チームの国内遠征にも同行し、現地での仕様変更などのテクニカルサポートも対応する。趣味はモトクロス、自動車ラリー競技への参加や、スキー、スノーボードなどのウィンタースポーツ。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー