テクノロジー TECHNOLOGY

ダンスに音は必要ない!?鹿子澤拳「Sync-pulse 振動で踊ってみた」

HERO X編集部

動員数16万人超えと、過去7年間の最高動員数を更新した「ニコニコ超会議2018」にて、音にとらわれないダンスの可能性がプレゼンテーションされた。音楽と連動した触覚振動(Haptic vibration)を通信で届けるシステムを用いて、Deaf Dancer (耳の聞こえないダンサー)がダンスを披露した『Sync-pulse 振動で踊ってみた』プロジェクトである。

この日ダンスパフォーマンスでステージを盛り上げてくれたのは、プロとして活躍する Deaf Dancer 鹿子澤拳さん。鹿子澤さんは、生まれつき聴覚に障がい(感音性難聴 /骨伝導が適用できないタイプ)があるが、「千本桜 feat 初音ミク」の高速ビートをもコンプリートしたダンスを華麗に披露した。

『Sync-pulse 振動で踊ってみた』プロジェクトは、NTTコミュニケーション科学基礎研究所が、専門技能を持つ社外コラボレーターとともに実現したものだ。同研究所は、人には聞こえない周波数の音「非可聴音」を使った通信で、ダンスをするために作られた触覚振動(Haptic vibration)を届けるシステムの開発を行った。

システムの仕組みはこうだ。まずは、ダンサー自身が曲に合わせて振動を感じられるよう、譜面を作成。音楽に合わせた振動のタイミングを設定する訳だ。それにあわせて、人には聞こえない周波数の音「非可聴音」を使い、ダンサーの持つスマートフォンに接続されたデバイスを振動させる。(ダンサーの胸と背中に振動子が装着されている)

「非可聴音」は、スマホでは検知可能な信号のため、情報伝達ができるのである(非可聴音通信の仕組み自体はエヴィクサー株式会社が開発)。スマホの中には、音楽に合わせた振動情報が入っており、非可聴音信号を検知することでそれが再生されるといった仕組みだ。

また、この振動は、音楽に合わせて踊るために作られた振動であり、リズムを強調したり、振りやメロディに合わせて作られているとのこと。

さらに、このシステムは同時に多くの人に、ダンスのためにデザインされた振動を伝えることができるため、同じデバイスをつけた複数のダンサーが同時に振動信号を受け取り、団体でのダンスも可能にした。

音楽は、言葉も人種も超える力があるが、ダンスはそれ以上だ。耳が聞こえても聞こえなくとも、すべての人がダンスを楽しめる試みの先が、非常にたのしみである。

「Sync–pulse 振動で踊ってみた」プロジェクト
企画:渡邊淳司 (NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
ダンサー:鹿子澤拳
プロジェクト・インタープリター:和田夏実
触覚デザイナー:鈴木理絵子
触覚制作ディレクター:鈴木泰博 (名古屋大学 情報学部)
ウェラブル技術協力:吉田知史 (of Sheep inc.)
運営協力:野口綾子
非可聴音通信技術協力:エヴィクサー株式会社
システム開発協力:株式会社カタリナ

渡邊 淳司 (Juniji Watanabe)
NTTコミュニケーション科学基礎研究所所属。人間の触覚の知覚メカニズムを研究。主著『情報を生み 出す触覚の知性』(毎日出版文化賞受賞)。同時に科学館 やメディア芸術祭等において研究の展示公開も行う。

鹿子澤 拳 (Ken Kanokozawa)
生まれつき聴覚に障がい(感音性難聴)がある。幼い頃からダンスに興味があり、高校 1 年より少女時代等 の k-pop の分野で踊ってみたを始める。ストリートダンス歴(Lock / Hip Hop)4 年。2017 年、東京2020 公認文化オリンピアード SLOW MOVEMENT Next Stage ショーケース&フォーラム「聞こえなくても、 聞こえても(ダンス劇)」 / ヨコハマ・パラトリエンナーレ 2017 空中パフォーマンス(エアリアル) / Rock Carnival ミュージカル 2017 あうるすぽっとタイアップ公演シリーズ:「夏の夜の夢」。2018年、アジア太平洋障害者芸術祭「TRUE COLOURS FESTIVAL」BOTAN x DAZZLE メンバーとして出演。

Photo提供:NTTコミュニケーション科学基礎研究所)
(Movie提供:野口綾子)

(text: HERO X編集部)

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外来にかかる時間を短縮、医師も喜ぶ「AI問診Ubie」

HERO X 編集部

病院に通うたびに書かされる問診票。日本では病気になってから病院に通うケースが多いため、毎度この問診票の記入をゼロから行うことが多い。病気を見極める大切なファーストステップとわかっていても、記入は億劫になるものだ。また、患者の負担もさることながら、医師の負担も大きい。患者と医師、双方の時間的負担を減らす取り組みとして期待がかかるのがAIを使った問診票だ。2017年創業のベンチャー企業が開発した「AI問診Ubie」。今年は新たに大学病院をはじめとする6つの施設で試験導入がはじまった。

AIによる問診票を開発したのは東京都に本社を置くベンチャー企業のUbie。同社によればすでに100以上の医療機関で導入が始まっているという。問診は、すべての医療の入り口であり、医師が患者の容体を把握するために欠かせないプロセス。多くの内科的疾患は問診でおおよその判別ができることも少なくない。現在、多くの医療機関で使用されているのは、いわゆる紙の問診表。患者が記入した内容に沿って医師が診察室で問診し直し、ゼロから電子カルテに記載するというのが大まかな流れだ。こうした従来の流れは、医師がカルテ作成や問診にある程度の時間を費やす必要があるほか、問診内容にばらつきが生じる可能性も指摘されている。患者一人ひとりの診療時間に制約があるなかで、いかに問診にかかる時間短縮と問診の精度を高めることができるか。これは、外来医療の現場を担う多くの医師が抱える課題のひとつとなっている。

「AI問診Ubie」は、こうした課題を解消すべく、現役医師とエンジニアが開発した問診専用システムだ。約5万件の論文から抽出されたデータに基づき、AIが患者一人ひとりの症状や年代、地域に合わせた質問を自動で分析・生成する。患者は、受付で渡されたタブレットから出てくる質問に沿ってタッチするだけで、およそ3分で入力が完了する。入力データは即時に医師に送られ、患者が入力した問診内容が医療用語に変換された上でカルテに落とし込まれる。これにより、診察室では速やかに治療方針を決定することができる。当システム導入によるスムーズな診察は、医師の労働時間削減に向けて効果が期待されており、メーカー試算によると、患者一人あたりの初診問診時間が1/3になることで、年間約1,000時間の業務時間削減が可能となる見込みだ(100床程度の医療機関で、従来の初診患者数9,000人/年、一人あたり初診問診時間10.2分とし推計)。

小島英吾医師(長野中央病院副院長)は、「看護師の問診業務を受付事務でもできるようになり、いわゆる”タスクシフティング”を進めることができました」と導入効果を語る。問診業務を職種間で委譲(タスクシフト)することが可能になったことで、各担当者が本来すべき業務に集中できるようになり、現場の生産性向上につながっているという。現場の生産性向上は、医療の質の向上にもつながり、患者にとっても大きなメリットとなる。

また、従来のタブレット問診票では、高齢の患者などの入力が難しいという課題があったが、「AI問診 Ubie」はユニバーサルデザインを徹底しており、70代でも約9割の患者が入力可能。医療従事者と患者、双方の目線に寄り添った使い勝手の良さも、当プロダクトの持ち味だ。

「AI問診 Ubie」は、2019年7月より⻲⽥総合病院糖尿病内分泌内科、慶應義塾大学病院、社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院、順天堂大学医学部附属順天堂医院、東京大学医学部附属病院、長野中央病院の6施設にて、試験導入および共同研究が開始されている。

患者一人ひとりの背景が多様化し、個別化された療養指導の必要性が高まっている昨今。医師をはじめとする医療従事者の負担増加が懸念されているなか、AIの力が、医療現場の強力な助っ人として大きく貢献しようとしている。

(text: HERO X 編集部)

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