対談 CONVERSATION

テレビゲームの枠に収まらない、本当のeスポーツとは!?犬飼博士がつくりたい未来【後編】

前編ではeスポーツが生まれた背景や現状を語り合った。そして今後は、eスポーツは一般的なスポーツのなかに溶けていくだろうと予測。後編では具体的な未来予想図を展開。犬飼氏が構想する『IT体育館』の可能性について話が展開していく。

人の動きを解析すると未来が見える

杉原:僕は人の動きを解析することが好きなので、リアルイム身体情報を測定してクラウドにストックしていくという犬飼さんの『IT体育館』構想に共感するんです。RDSは車いすレーサーの開発をしているのですが、「人間が45分くらい座り続けるとどんな動きをするのか」、「何回減圧するのか」といったことから、その人の身長や体重、年齢が予測できて面白いんです。

犬飼:そういう研究データはみんな欲しくて仕方がないんですよ。たとえば、『アナグラのうた –消えた博士と残された装置–』という科学展示が、日本科学未来館にあるんですけど。それは、「空間でどういった情報を取って、どう利用すれば、どう幸せになるか」という空間情報科学に関する展示なんです。面白いのは、僕たちがそれを作っている様子を、京大の先生がさらに研究している。つまり、入れ子構造になっているんです。京大の先生たちは、僕らの会議や制作風景をすべてビデオに録画した後、「犬飼が立ち上がった」「◯◯と喋った」とかを全部書き出して、「犬飼が立ち上がると議論はこう変わる」とか「何分くらいでこう変わる」とかを解析して論文にしているんです。そういうことを自動化させたい。

杉原:そんな研究があるんですね。

人間のためではなくて、
テクノロジーが成長するためにやっている

犬飼:最終的には意思決定に使いたいんですよ。AIがディープラーニングした過去のデータと、リアルタイムで起きていることを対峙させれば未来予想ができる。そうなると、未来の選択肢はAmazonのおすすめ商品みたいに表示される。つまり、「今日の会議は何をする?」という時点で、すでに「結論」が出ている。未来の会議は、その結論に対しての意思決定の場になっていく。

杉原:会議室に入ってきたときの雰囲気やサーモグラフィーだったりを踏まえてですよね。

犬飼:今日のような対談も、最初から結論の記事ができあがっている状態。それが対談のなかでリアルタイムに変化していく。

杉原:そのためのデザインや構造はすでにあって、あとはどう数値化、AI化して使えるコンテンツにするかということですか?

犬飼:いまやっているのは入力部分です。発見のための「眼」を作っている感じ。それは人間のためではなくて、テクノロジーが成長するためにやっているんです。そういうと反感を買うんだけど、僕は「人のために働く」とか「ホスピタリティ」とかいうのがすんなり理解できない人間だから。

杉原:その感覚は僕も少しわかるところがあります。RDSで車いすを作ったり、『HERO-X』のようなメディアをやっていると、「いろんな人の助けをしていて偉いですね」とか言われることがあります。でも、僕はただ「無いものを作りたい」だけなんですよね。時速50kmのスポーツカーみたいな車いすがあったら面白いとしか思っていない。

犬飼:そこには、時速50kmの車いすがあるだけですよね、ただ作ってみたいだけ。

杉原:頭の中に描いている未来をやらないと気持ち悪い。やらないなら、キレイさっぱり消し去りたい。

犬飼:そう、「思いついたから」って結構重要で。思いついたから、作らなければいけないから、作るだけ。「誰のために作っているのですか?」と聞かれたら考えるけど。

杉原:コンクルージョンが大事だと思っていて、イントロは誰かが書いてくれればいいかなと思っています。

犬飼:とはいえ、こういう場所に呼ばれたからには、「自分の言葉で話せ」「批評は自分でしろ」とか、そこも含めてやらないといけない。

東京オリンピックの開催が
決まってから空気は変わった

杉原:eスポーツのプラットフォーム化は、今後どんどん大きくなりますか?

犬飼:はい。先ほどもお話したように、まずは『IT体育館』を作りたいんです。過去のデータと、リアルタイムを対峙させて未来予想をすると言いましたけど、そこにみんなが気づき始めたときに、そういうソリューションを提供したいと考えています。

杉原:多くの人が共鳴して、一緒にやっていくイメージですか?

犬飼:2010年くらいから、苦労して自力でやっていますけど、いまだに始まってない。「いつ儲かるんですか?」と聞かれるから事業計画を書くんだけど、僕がヘタクソなのかそこから動かない。でも、2013年、東京がオリンピックの開催地に決まって、そこから急に空気は変わりましたね。それまでeスポーツなんて誰も興味を持っていなかったですから。日本のターニングポイントだと思いますよ。結局、オリンピックでスポーツへの関心が生まれて、次のスポーツを探したときに、具体的に使えるのがeスポーツだけだったということなんでしょうけど。

杉原:従来型のスポーツとのギャップが面白かったんですかね。

犬飼:2020年までに何かしら投資するに値するものが、そこしかなかったんですよ。「eスポーツ=テレビゲーム」としてくくれば、ゲームプレイヤーの10%が真剣に取り組めば幾らになると試算できる。「超人スポーツ」みたいなものに投資が集まらないのは、その市場がそもそも文化になっていないから。酔狂なエンジェル投資しかあり得ない。

IT体育館が普通になると、
次にくるキーワードは「作る」

杉原:犬飼さんたちは、新たな市場を作ろうとしているんですね。

犬飼:いまはニーズを先に作ればいいと思っているんです。スマホが当たり前の時代になって、次はデータを取ることが当たり前になって、情報が取れる体育館が当たり前になり、取れない体育館に違和感を覚えるようになったら、みんながIT体育館を欲しがるようになる。実際、山口の情報芸術センターでは2015年からやり始めていて、子どもたちは学校にある旧来の体育館に違和感を感じ始めているんです。IT体育館が普通になると、次にくるキーワードは「作る」になんですよ。

杉原:どういうことですか?

犬飼:スポーツ庁のスポーツ基本計画では、「する・見る・支える」をキーワードにしている。するスポーツ、見るスポーツ、支えるスポーツという三角形。その面積を大きくすることで、人々が健康になって、医療費も下がって、健康寿命がながくなるという説明。それを一緒にやっているのが超人スポーツをやっている人たち。

僕らは、そこに「作る」という縦軸を作って立体的に増やしていきましょうという提案をしているんです。やる種目が増えればスポーツ人口が増えるという考え方です。というのも、eスポーツがスポーツに与えた影響のひとつに、スポーツデベロッパーが増えたことが挙げられるんです。テレビゲームでいえば、ゲームクリエーターが増えたのと同じ。問題点としては、スポーツクリエーターには給料や賞がなく、社会的評価もないということ。さらに、新しいスポーツを作ったあとに、それは誰のものかっていうことになる。スポーツって誰のものでもなく、パテントもとれない。

杉原:確かにそうですね。

犬飼:そこで僕が提案しているのは「デベロップレイヤー」、デベロップとプレイをかけた造語です。新しいスポーツを考案して、プレイしながらルールを決めている途中の段階では、「デベロップ」と「プレイ」の境界線がないわけです。プロトタイピングに近い。ITの世界のように、プロトタイピングをアジャイルに作っていき、ちょうどいいところが見つかったら人にプレゼンする。作りながら遊ぶ体験ですよね。とはいえ、これもまだどうマネタイズするのがいいのか、回答は出てないんです。僕たちはまだアイデアがないので、それが「作る」の次にくるキーワード。

杉原:そう考えると、「スポーツ」というワードを使ったほうがいいのか、面白いものが生まれるならスポーツと呼ばなくてもいいのでは? ということになりますよね。

犬飼:そうなんですよね。「スポーツ」や「遊び」という言葉が使いにくくなってしまったので、新たに自分で「運楽」という言葉を作っちゃったんです。運楽の中に、スポーツや音楽があるような感じです。

杉原:なるほど。音楽のなかに、さらにジャズやヒップホップがあって、演歌もあってみたいなものですよね。

犬飼:そうそう、プレイヤーも観客も楽しんでいるに過ぎないというのは、音楽ではすでに起こっている。

杉原:もしかしたらeスポーツはジャズに近いのかもしれない。

犬飼:即興的に作っていくという意味ではジャズに近いかもしれないですね。僕らのやっている『運動会ハッカソン』※1とか、『未来の運動会』※2とかね。
——————
※1 伝統的な運動会の道具、紙、棒、ボールからドローン、コンピューターなど、使う道具の制限をなくした状態で、みんなで新しい運動会の「種目」や「出し物」を作る試み。
※2 『運動会ハッカソン』で生まれた、新しい競技で楽しむ運動会のこと。
——————

杉原:それをテレビのショーとしてやるのか、YouTubeとしてやるのか、ジャズバーでやるのか。

犬飼:そうそう、IT体育館をそういう場所にしたいんです。そういう場所を用意しておけば、コンペティティブな環境が生まれて、そのうちにすごい奴が現れますから。

杉原:xでも、eスポーツというものをテレビゲームの大会では終わらせず、ここまで広げて考えている方は少数派ですかね。

犬飼:そんなに難しくないし、便利で普遍的な捉え方だとおもうんですけどね。でも、eスポーツ=テレビゲーム大会のような認識になってしまったことには、僕も反省があるんです。2005年頃は、「eスポーツって何ですか?」と聞かれたら、みんながわかりやすいように「たとえばテレビゲームをスポーツとしてとらえるようなことです」と答えていたので。

杉原:今後、犬飼さんの考えるeスポーツが普及していくと、「ゲームばかりやっていないで、少しは体を動かしなさい!」という定番文句が家庭から消えていきそうですね(笑)

犬飼:『ポケモンGO』をやって、1日5km歩いている子どもを否定できないですよ。「お母さん、僕は今日ポケモンがんばったよ。」って言ったら、「ゲームばっかりしてないで外で遊びなさい」と、なぜか怒られてしまう矛盾と戦ってきた人生なんです。僕はお母さんに苦言を言われる理由がわからなかった。そこを説明したくて、苦肉の策で生まれたのがeスポーツでもあるんです。

前編はこちら

犬飼博士
1970年、愛知県一宮市生まれ。運楽家/遊物体アソビウム/ゲーム監督。映画監督山本政志に師事後、ゲーム業界にて『TOY FIGHTER(アーケードゲーム)』、『UFC(ドリームキャスト)』、『WWF RAW(Xbox)』といった作品を制作。2002年より、スポーツとゲームを融合する「eスポーツ」の事業を開始。『World Cyber Games』、『Cyberathlete Professional League』、『Electronic Sports World Cup』といった国際eスポーツ大会の日本予選をオーガナイズ。2007年度文化庁メディア芸術祭にて、ゲームソフト『Mr.SPLASH!』が審査員会推薦作品に選出。2012年には、日本科学未来館で常設されている『アナグラのうた 消えた博士と残された装置』に参加。2013年には、YCAM公募企画『LIFE by MEDIA』国際コンペティションや、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞などを受賞した『スポーツタイムマシーン』を発表。

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

RECOMMEND あなたへのおすすめ

対談 CONVERSATION

【HERO X × JETRO】月面探査ロボットの開発で出会った超音波モータ、最新技術で長寿命化を実現

HERO X 編集部

JETROが出展支援する、世界最大のテクノロジー見本市「CES」に参加した注目企業に本誌編集長・杉原行里が訪問。ロボット開発が盛んだった1990年代、自身が所属していた月面探査ロボットの開発チームで有用なモータとして注目されたモータがあった。それが、超音波モータだ。当時からこの開発に携わってきたのが多田興平氏。それ以来、27年間以上超音波モータの研究開発に取り組み、現在は株式会社Piezo Sonicを興し「人の役に立つ製品のため」の超音波モータやそのモータを応用した製品づくりを行なっている。同社の手掛ける超音波モータについて、同社代表の多田氏に聞いた。

共同開発を経て生まれた技術を、
もっと身近に人のために役立てたい

杉原:Piezo Sonicを立ち上げたのが2017年と伺いました。主要技術である超音波モータはいつから関わり始めたのですか。

多田:大学時代に、私の所属していた中央大学國井研究室とJAXAが共同で月面探査ロボットを開発するプロジェクトを始め、私もそのプロジェクトに関わることになりました。そこで月面探査ロボットに有用なモータとして超音波モータが挙がり、超音波モータの宇宙仕様化を自分のテーマとしたことが大きなきっかけでした。

当時は他大学も共同で開発にあたっていて、私たちの研究室は主に回路などのシステム設計や遠隔制御などのソフト面を担当していたのですが、動くモノ:ハードがないとなかなか開発が進められない、という状況が発生していました。ハードウェアとソフトウェアを別々の組織で開発していると、どうしても足並みを揃えることが難しいことがあります。そのため、自分達のシステムやソフトウェアが正常に動くかを確認することを目的として、まずは探査ロボットに搭載することを予定しているロボットアームを作って、サンプル採取実験ができる環境を構築しようという話があがりました。その時点から、制御する対象となるハードウェアは自分で開発した方がハード・ソフトともによりよい結果が得られると考えるようになりましたね。とは言え、私が所属していた大学の学科はどちらかというとハードウェアよりもソフトウェアよりの研究が主体でしたから、ハードウェアの開発は手探りの状態から始まりました。

杉原:大学在籍時から、現場でものづくりもやりつつ、研究も進めていたのですね。超音波モータが開発されたのって1980年くらいでしたっけ。

多田:誕生したのは1975年です。自分と同じ年なので、勝手に運命的なもの感じています。超音波モータ「重量が軽く、同サイズのDCモータよりも高トルク、電力ゼロでバックラッシュレスで姿勢を保つことができる」という特徴があるのですが、当時の超音波モータは制御方法や組み付け方法にクセがあり、このモータを組み込んだロボットアームの制御はハードウェア、ソフトウェア双方からアプローチしてようやく実現していました。その後、ロボットアームのギアユニットを応用して、ロボット本体の走行用タイヤにも超音波モータを組み込んだものを作っていきました。

杉原:月面探査ロボットのモータとして超音波モータが選ばれた理由として、どんな優位性があったのですか。

多田:日本の探査機や人工衛星の場合、ソーラーパネルや搭載しているバッテリーなどの限られた電力で動作することが求められます。特に駆動力となるモータに対してはできるだけ軽く、小さく、消費電力が小さく、かつ高トルクであるという条件が望まれます。そこで、前述の特性、同サイズのDCモータよりもトルクが高く、姿勢を保つために電力を消費しないという超音波モータが注目を集めました。何よりロボットアームなどの多関節構造物に利用した場合、電源を切ってもそのままの姿勢を保てることが素晴らしいと考えられました。姿勢を保つために電力を必要としないだけでなく。ブレーキやクラッチを使う必要がないため、全体の構成をシンプルかつ、軽量にすることが可能になります。現在も、人工衛星のアンテナの展開装置やジンバルなど、超音波モータは宇宙探査機に幅広く応用可能だと考えられています。

杉原:超音波モータの研究に27年以上携わっているとのことですが、大学院の後の超音波モータの研究・開発はどのように行われていたのでしょうか。

多田:大学院を出てからは、研究開発に参加していただいた超音波モータメーカーに就職しました。今までの研究成果もあったため、入社して1年後には技術開発部長として、超音波モータとその駆動回路の研究・開発に携わらせていただきました。その会社の当時の社長さんは超音波モータを世界で初めて生み出した方で、素晴らしいエンジニアだった方でした。さらに超音波モータ以外の「今までにない新しいモータを作りたい」という熱意のある方で、私も新しい超音波モータやその応用製品を作りたいと思っていましたから、お互いに目的も一致していて、研究開発しやすい環境をいただきました。大学での研究はまずはチャンピオンデータがとれればよし、という傾向が強く、繰り返し同じ結果が出ることが求められる「製品」作りとは大きく異なります。超音波モータという同じ題材で、取り組み方が大きく違うことを経験できたことはPiezo Sonicでのモノ作りの成功に大きく影響していると思います。

杉原:前職である超音波モータの会社は2017年まで約10年間勤め、それから、ご自身の経験を総結集させた新しい超音波モータの開発を中心に据えたPiezo Sonicを始めたわけですね。

多田:はい。もともと私は、子供の頃からロボット漫画やロボットアニメが大好きで、将来は人間に係わる、人の生活をサポートするロボットを作りたいと考えていました。そのロボットを実現するための重要な技術であるアクチュエータとして、大学時代から研究開発に係わっていた超音波モータを活用したい、宇宙探索のような特定の分野だけではなく、人の生活に関わるような製品にこそ、超音波モータを応用していきたいという思いでPiezo Sonicを立ち上げました。この考え方が源泉になっていますから、Piezo Sonicが超音波モータとロボットを開発するのは私たちの中では当然のことと考えています。

杉原:なるほど。その考えがあるからこそ、超音波モータだけではなく、その応用製品としての人の生活をサポートするロボットの開発をされているのですね。
「2018年度 モノづくり賞」も受賞した御社の超音波モータ:PSMシリーズの特徴とは?

性能を向上しつつも小型化に成功した超音波モータ:PSMシリーズ

多田:PSMシリーズは、他社従来品と比べ最高トルクと制御可能回転数域が20%向上し、サイズは25%の小型化に成功しています。また、超音波モータの短所であった寿命も大幅に延びました。今まで、超音波モータはトルクがあって軽いけど、寿命が短いというイメージを持たれていました。一方、弊社の超音波モータは材料と構造を1から見直すことで他社の超音波モータと比べて2倍以上の寿命を実現しました。位置制御に利用されるモータとしてステッピングモータというものがあります、弊社の超音波モータは同価格のステッピングモータと同等以上の寿命を実現しているため、モータの置き換えとしてエンジニアが細かな寿命計算をすること無しにスペックで検討できるようになっています。また、弊社ではお客様の利便性を第一に考え、モータシャフト(軸)の形状や長さの変更は1個からカスタマイズに対応しています、これもPSMシリーズの大きな特徴だと考えています。

介助する人もされる人も幸せに。
家族の代わりに遠慮なく頼れるロボットをつくりたい

杉原:このモータを活用した人の生活をサポートするロボット、そのロボット作りに対するビジョンやお考えを教えて下さい

多田:私が考える「人の生活をサポートする」ロボットは、単に省人化やコストカットのための製品ではありません。人に代わって、人では難しいことを実行するロボットのことを指します。「人に代わって、人では難しいことを実行する」、10年後の日本が直面する事案として、ロボットが行うべき重要な仕事は「いろいろな理由で介助が必要になった方のサポート」を行うことだと考えています。一般的に、高齢化になり体が不自由になったり、怪我や病気になってしまうと、殆どの場合は家族が介助を行うことになると思います。自分の親族のことですから多くのご家庭で最初は「自分が面倒をみる」という話がでると思います。しかし現実にトイレや入浴、食事の介助などが毎日積み重なってくると、最初の1週間はがんばれたとしても、それを例えば10年続けられるかといわれると、難しいと言わざるを得ないと考えています。

介助する側に精神的、肉体的に大きな負担がかかることは容易に想像出来ますが、実際のところ、介助される側にも精神的に大きな負担が発生します。ちょっとしたことでも毎回頼んでいると、頼むこと自体を遠慮して言えなくなってしまう、例えばトイレに行きたくても我慢してしまう状況が発生し、それが体調不良の原因になってしまうこともあります。ちょっと外に出たい、話に相手になってほしい、今、トイレに行きたいなどの小さな要求を家族に代わって実行できるロボット、そういうロボットができれば介助する側はもちろん、介助される側も楽しく生活ができると考えています。ヘルパーさんなどが同じ仕事をすることは当然できていますが、人ではなく、あくまでも道具であることが気軽に要望を伝えることができる重要な要素だと考えています。

一方、超音波モータのトルクの高さと動作音の静かさ、薄さの観点から、介助する人の足腰をサポートするユニットを作れないか?というお話しを頂くことがあります。ロボットとはちょっと異なりますが、人の生活をサポートする、という意味ではすごく興味深い製品です。

杉原:ロボットそのものではなく、パワードスーツのような発想ですよね。いいですね。

多田:ところが、この超音波モータの特性を生かしてパワードスーツ系の製品をつくろうとしたところ、僕の妻と妻の母からありがたい指摘がありまして……。ふたりとも看護師なので、病院で使うことを想定した利用シーンやデザインを見せて話してみたところ、酷評されました。話を聞いてみるとすごく納得してしまったのですが、病院では患者さんからのナースコールがあれば急いで看護師が駆けつける。それでも待たせてしまうこともあり、家族はすごく心配した状況になっている。そんな中、重装備の人間やロボットがノシノシ歩いてきたら、患者さんやご家族は決していい気分にはならない。介助する側の腰痛などを軽減できればありがたいけれど、走れるものを作ってくれないと困ると。せっかく作ったサポートユニットでも、患者さんやご家族に不愉快な思いをさせることが容易に想像できてしまいました。

でも、倉庫や工場、農場など違った利用シーンではそういうサポートユニットも活躍出来るのでは、と考えています。また、ちょっと変わった発想ですが、ロボットアームを肩や横腹などに固定して自分の考えに反応して動く新たな腕ができたら、それは自分でも使ってみたいです。取り外しできないと怖いですが。

月面探査ロボットの技術を応用した
これからの物流を変える搬送用自律移動ロボット

杉原:現在の御社のロボットはどのような製品ですか。

多田:弊社では人の生活をサポートするロボットの第一弾として、物品の搬送業務の省人化や誘導などの業務に貢献できる「搬送用自律移動ロボット:Mighty」を販売しています。搬送ロボットは最近ではレストランの配膳ロボットなどで目にすることが増えていますが、私たちのMightyは月面探査ロボットの開発経験を活かし、走行性にはこだわっています。具体的には15cmの段差乗り越えやその場旋回、真横移動ができる、整地されていない屋外から屋内へと自動搬送を実現することができるロボットです。現在は研究機関や大学だけでなく、ラスト1マイルのロボットによる物流を実現しようとされているお客様のもとで使っていただいています。

杉原:Mightyのこれからの使用用途・ターゲットとしてどのようなところを目指していますか?

多田:大手ショッピングモールや病院、工場で屋外~屋内をシームレスに移動する搬送業務に活用していただきたいと考えています。とは言え、弊社の提案は単純に配送をロボットにより自動化して省人化する、というものではありません。例えばショッピングモールでは、日中は各テナントで販売・利用する商品をこのロボットがバックヤードから自動搬送します。しかも、配送中にお店のセール情報やイベント情報をデジタルサイネージとして表示してアドバタイジングする。それだけではなく限定クーポンを表示できるようにして、そのQRコードをスマホで撮影すると後でサービスが受けられる、などは非常に面白いサービスになると考えています。また、病院や工場では全体の配送システムにこのロボットを組込み、商品・材料が切れる前に自動配送を行うというシステムも非常に有用だと考えています。

同社が開発した搬送ロボットは独自の技術で15cmの段差も乗り越えることができる。

杉原:なるほど。ショッピングモールや病院などの比較的大きな私有地での運用に取り組むことを考えているんですね。

多田:はい。弊社の取り組みとしてはまず、大きな私有地での運用実績を積み上げたいと考えています。現在までに取り組んだ実証実験で感じたことですが、公道を走って荷物を配送する際には、環境認識や行動生成などの技術的な問題点よりも、接触事故などのトラブルが生じた際に利用できる保険制度の構築が重要だと考えています。今年もしくは来年には道交法が代わり、自動搬送のロボットの運用は実現できるようになると思いますが、公道で人とロボットが自由に行き交うまでにはもう少し時間がかかると考えています。

杉原:御社のコンサルティング開発サービスの特徴とは?

多田:弊社の強みは高トルクな超音波モータを販売しているだけではなく、このモータを活用した応用機器を開発できることです。その実証例の一つが搬送用自律移動ロボット:Mightyで、このロボットは2022年の1月にはラスベガスで開催されたCES2022においてイノベーションアワードも受賞することができました。コンサルティング開発サービスでは、弊社が持つハードウェアとソフトウェア、双方の開発力に加え、広報・宣伝までお手伝いする開発サービスです。

コンサルティング開発サービスは従来の受託開発とは異なり、お客様の製品やサービスの開発をお客様と一緒に取り組むことがその要になっています。たとえば新製品のアイデアがほしいとか、自社製品の特長を生かして新製品の設計を行って欲しいというご要望に対応するだけではなく、デザインやコンセプトを考えて欲しいなど、開発対象の内容や状況毎に区切りをつけて、サービスを提供しています。もちろん、その過程の中で必要となる試作や最終製品の量産対応などについても弊社の協力メーカー様と一緒に対応しています。コンサルティング開発サービスはお客様と共に創り上げる開発サービスと考えていますので、駆動力に弊社のモータ以外の製品も積極的に提案しています。

杉原:最後に、なにかメッセージはありますか?

多田:Piezo Sonicは、モータとロボット技術で人の生活を支え、「ケガや病気になっても楽しめる生活ができる社会」の実現を目指しています。これからも多くの協力メーカー様との共創によって、利便性のよい超音波モータの開発・製造と、「人の生活をサポートする」ロボットによる社会課題の解決に対して、取り組んでいきたいと考えています。

多田興平(ただ・こうへい)
1975年、神奈川県生まれ。中央大学大学院理工学研究科修了。大学在学時よりJAXAとの共同研究で月面探査ロボット用モータの開発に従事。共同研究先のモータメーカーに就職後は、超音波モータをはじめとするロボット技術において、機構設計、駆動回路の設計、開発、製造までに至るまで、ほぼすべての工程を担当。2017 年に株式会社 Piezo Sonic を設立。

関連記事を読む

(text: HERO X 編集部)

(photo: 増元幸司)

  • Facebookでシェアする
  • LINEで送る

PICK UP 注目記事

CATEGORY カテゴリー