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チェアスキー界のワンダーボーイの素顔は、超ピュアな17歳【佐藤林平: 2018年冬季パラリンピック注目選手】

朝倉 奈緒

どんな競技や業界においても、若手ホープは貴重な存在です。日本を代表するチェアスキーヤー、夏目 堅司選手が育成に力を注ぐ、佐藤林平さんもそのひとり。とりわけ「チェアスキー」という特殊で高額な用具が必要な競技で、既に世界を舞台に勝負している17歳は少なくとも日本では佐藤林平さん以外にはいないでしょう。そんな稀少な高校生チェアスキーヤー、佐藤林平さんに、来年のピョンチャンパラリンピックに向けての心境や、地元である野沢温泉村のことなどを聞いてみました。

野村温泉村はGW前までスキーオンシーズン

長野県・野沢温泉村からはるばる東京・表参道にやってきた林平さん。東京では半袖の人も多く見られる5月中旬に、ほんのり小麦色に焼けた青年は、いかにも健康そう。「屋外でトレーニングしているのですか?」と尋ねたところ、野沢温泉村ではGW前までスキーができるのだとか。日焼けしているのは、数日前までチェアスキーの練習をしていたからだそうです。

そんな林平さんの地元・長野県の野沢温泉村はスキーが盛んで、林平さんが通う県立の飯山高校は、長野県で唯一スポーツ科学科を設けており、スキーの各種目において、歴代のオリンピック選手を輩出する、スキーのエリート高校です。スポーツ科学科は他の普通科などに比べて実技の授業が多く、スポーツ心理学の先生が講義をすることもあるそうです。

林平さんは高校のアルペン部と、クラブチーム「野沢温泉ジュニアスキークラブ」に所属しており、シーズン中はスキー三昧の生活。地元にいるチェアスキーヤーは林平さんのみで、コーチに自分から積極的にコミュニケーションを取ったり、独学で勉強したりと、人一倍努力が必要とされる環境でありながら、「チェアスキーはとにかく楽しい!」と満面の笑みで話してくれました。

雪のない夏のシーズンは主に有酸素運動や体幹トレーニングで体力をキープしているのだそう。
「アルペンスキーの男子の座位クラスのレースは女子が滑って、立位クラスが滑った後になるから、コースはボコボコで走りにくい。そういった悪いコンディションの中で、いかに軸をずらさずに、バランスを保って滑ることができるか。そこが勝敗を決めるポイントになるので、コアトレーニングで体幹を鍛えて、イメトレをすることが大切ですね。」と林平さん。先ほどまでの人懐っこい笑顔も一変、チェアスキーの話をするときの眼差しは鋭く、真剣です。

スーパー高校生、卒業後の進路は?

林平さんが初めて東京に来たのは中学1年生くらいの夏、日本のトップチェアスキーヤーである森井大輝さんが「一緒にトレーニングをしよう」と招いてくれ、ウェイトトレーニングを中心に教わったのだそうです。「東京は地元に比べて道が平で走りやすいし、ジムにも器具が揃っている。それはいいんだけど、とにかく電車の乗り換えが大変()。」地元の野沢温泉は坂ばかりで、車いすで外を走ることがほとんどできないそうです。森井選手とは、毎年一度、秋葉原のメイド喫茶に行くのが恒例の楽しみになっているという、プライベートな暴露話もしてくれました。高校生の林平さんにとって、東京は刺激的な街に映っているのでしょうか。

去年は、チェアスキーの大会に出場するためにオーストリアに遠征し、スキー場の規模が大きく、雪質の違いに驚いたといいます。「日本の雪は柔らかいけれど、少しでもバランスを崩すと板が埋まっていってしまう。それに比べてオーストリアの雪は硬く、締まっていて滑りやすい」。雪質をこんな風に分析できるのは、さすが雪国生まれで、ほぼ一年中雪と共に生活しているチェアスキーヤーならでは。
来年、韓国で行われるピョンチャンパラリンピックを目指して、トレーニングと、その間に卒業後の進路についても考えているという林平さん。地元で、野沢温泉村の地域活性化にも貢献したいという力強い言葉もありました。「チェアスキー」という武器を持つスーパー高校生は、そこにいるだけでこちらが元気になれるような、輝きと期待感に満ち溢れていました。

(text: 朝倉 奈緒)

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東京2020。100m全米王者から届いた「世界最速」への果たし状 ジャリッド・ウォレス 前編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

2015年、2016年の全米選手権を制覇し、リオパラリンピック陸上男子100mT44(下肢切断)5位入賞を果たしたスプリンター、ジャリッド・ウォレス選手。2017年5月、日本の競技用義足開発メーカーXiborg(サイボーグ)社と共同開発契約を結び、7月にロンドンで開催された世界パラ陸上競技選手権大会2017では、Xiborg製の義足で出場し、200mで優勝。多くのトップアスリートが、競技用義足の圧倒的なシェアを誇る欧州企業の義足を使用するなか、日本製の義足を選んだ全米王者のウォレス選手は、極めて異例だ。同社をパートナーとして選んだ理由とは?世界一のスプリンターになるために行っていることとは?開会まで953日に迫る東京パラリンピックでの金メダル獲得を目指すウォレス選手に話を伺った。

世界が注目する義足開発のエキスパート、
遠藤謙に寄せる厚い信頼

昨年、Xiborg(サイボーグ)社と共同開発契約を結んで以来、アメリカと日本を行き来しているウォレス選手。今回インタビューを行ったのは、新豊洲Brilliaランニングスタジアムに隣接した同社のラボラトリー。ここでは、「2020年までに100mを走る義足アスリートが健常トップアスリートを追い抜くこと」を目標に、義足研究開発が行われているほか、スポーツ用義足を自由にレンタルできる世界初「義足の図書館」も併設している。

ウォレス選手が同社の代表取締役・遠藤謙氏と出会ったのは、2016年5月。遠藤氏は、マサチューセッツ工科大学でバイオメカニクス・ロボット義足の研究開発などに従事し、同大学が出版するTechnical Review誌が選ぶ「35歳以下のイノベーター35人」に選出されるなど、義足開発のスペシャリストとして世界的に注目を浴びている異才。対して、義足アスリートとして全米王者に君臨するウォレス選手。「以来、僕たちは友人として素晴らしい関係を築いてきました」と話すように、2人の出会いは、いわば必然的に訪れたのだ。そして、2016年夏、遠藤氏は競技用義足の共同開発をウォレス選手に依頼した。

「Xiborg社を選んだ理由は、卓抜した義足開発の技術力に対する信頼はもちろんのことですが、やはり遠藤さんの存在が大きいです。アスリートやスポーツを心から大切にし、ケアしてくれます。その姿勢は、彼が手掛けるプロダクトに対しても同じ。正真正銘の義足エンジニアだと思います。彼が率いるXiborgチームは、僕がここ数年温めていたアイデアに挑戦することを歓迎してくれましたし、さまざまなアイデアについて話し合う時間はエキサイティングでワクワクしました」

密なコミュニケーションで、
進化し続ける『
ウォレス・モデル』

Xiborgチームは、ウォレス選手の走り方を分析し、板バネの形状や厚み、素材の種類などについて対話を重ねたのち、“ウォレス・モデル”を開発した。板バネとは、特有の形状を持つ、炭素繊維強化プラスチック製の部分を指す。

「Xiborg社と僕の間には、何か特別なものがあると当初から感じていましたが、その予感は的中しました。Xiborg製の板バネで、初めて一歩を踏み出した時、その素晴らしさを実感しました。一番の特徴は、能率的に跳ね返る力。より自然で、体重を前にかけてもしなやかで、力強く地面を蹴ることができます。これまでにも、幾つかの企業が僕のために開発した義足を試したことがありますが、それらを履いて走ることは考えられませんでした。自分の体に心地良くマッチするXiborg製の板バネとは真逆だったからです」

競技用義足は、陸上アスリートの体の一部となり、共にトラックを駆け抜ける“相棒”だ。「最高のパフォーマンス力を発揮するために、一番重要なのは、いかに僕の体に効率的にマッチするかということであり、その方法を共に、極限のレベルまで探っていくこと」とウォレス選手が語るように、Xiborgチームと対話を重ねるごとに、その義足は進化し続けている。

「僕は義足を装着した右足と、健常な左足で走っています。義足が健常な足のように感じたいし、その逆に、左足も義足のように感じたい。言い換えれば、義足を装着していることを感じないくらいの感覚と、心地良い左右対称のバランスを実現すること。それが目指すゴールです。昨日も、さらに改良を加えた板バネのテストを行いましたが、信じられないような結果が得られました。その成果は、彼らがいかに優れた開発者であるかということの証です」

全米王者が恋に落ちた!?

義足開発の高い技術力と共に、ウォレス選手の胸をときめかせるのは、Xiborgというブランドそのものだという。

「彼らは、妥協することなく、常に変化を起こしたいと思っています。現段階で僕がベストだと信じている板バネを具現化してくれますが、そこで満足するのではなく、より良いものにしようと、さらにアイデアを練るなどして、全力で取り組むのです。自分と同じ想いを持つチームと一緒に開発できることは光栄ですし、楽しくて仕方がない!Xiborgチームに恋をしてしまいました(笑)」

ウォレス選手が、より速く走ることを心から願い、東京2020での金メダル獲得に向けて、一丸となって義足開発に尽力するXiborgチームの存在について、「これほど、心強いことはない。米国のアスリートとして、日本に歓迎されることを心から幸せに思う」と熱く語った。

後編につづく

ジャリッド・ウォレス(Jarryd Wallace)
1990年5月15日、米国・ジョージア州生まれ。高校時代に州大会の800m、1600mで優勝。20歳の時、コンパートメント症候群により右足を切断。その12週間後、義足をつけて走り始め、15ヶ月で国際大会優勝。Parapan American Games 2011で世界記録を打ち立て、2013年には世界パラ陸上選手権大会(200m・4×100mR)で優勝。2015年、2016年の全米選手権チャンピオン(100m)に輝く。リオパラリンピック男子(100m)5位入賞。2017年5月、日本の競技用義足開発メーカーXiborg(サイボーグ)社と共同開発契約を締結。同月21日に開催されたセイコー ゴールデングランプリ陸上2017川崎の出場時より、Xiborg製の義足を使用している。同大会のパラリンピック種目男子100メートルT44(下肢切断)で優勝。自己ベストは100mが10秒71、200メートルが22秒03。

[TOP動画 引用元]Sony-Stories

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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