対談 CONVERSATION

シーディングポジションのデータから、想像を超えた次のイノベーションへ!「SS01」後編

長谷川茂雄

未来のためのロボット開発を行うfuRo(千葉工業大学・未来ロボット技術研究センター)と、編集長・杉原が代表を務めるRDSとの念願のコラボプロダクト「SS01」が発表となった。技術面の核になったのは、日本を代表するロボットクリエイターの一人、fuRo所長、古田貴之氏。前編では、「SS01」が生まれた背景やモノづくり哲学について盛り上がった杉原と古田氏の対談は、いま日本が直面している問題とその処方箋という大きなテーマへと話が進んだ。画期的な技術やサービスが、ワクワクする未来を作るために必要なものとは?

高齢化の著しい日本は
最高のモニター国家

古田「これからの日本社会の課題は、ベタなところで言えば、少子高齢化ですよね。でもみなさん問題の本質を勘違いしている部分があります。よく、医療、福祉、介護の充実が大切だと言われますが、本当の素敵な未来は、アクティブシニアっていわれる高齢者が主役でも成り立つような社会なんです。若者には負けないぞって言って高齢者が文化活動とか、経済活動を引っ張るような社会」

フューチャリスティックなデザインのSS01。シーティングデータを計測するシミュレーターという新たな発想がついに形になった。

杉原「確かにそうですね。世代に関係なく活躍できるような社会ですね」

古田「若者も高齢者も盛り上がって、コンヴィヴィアルな共生社会って素敵だと思うんです。65歳以上の高齢者は、老後のためや医療のために、お金を貯めていればいいということではないんです。そういう見方をしたときに、今回、杉原さんと作ったSS01のようなもので、ビッグデータを集めると、うまく活かせるところはいろいろと出てくる。そうすると世の中変わるはずなんですよ。だからデータを取ることは重要なんです」

杉原「僕もそう思います。日本はこれから最高のモニター国家になると思っていますよ。(これだけ高齢化する国は)日本が一番はじめですからね」

古田「ですよね、ピンチはチャンス! 北欧も(高齢者は)多いけど、先進国では日本が群を抜いて高齢化が進んでいる。だからこのピンチを突破できるインフラとかサービスなんかができれば、輸出大国になるはずでしょ」

古田氏は、日本の高齢化は、逆に大きなチャンスだと語る。

杉原「そのままパッケージとして他国に売れますからね。例えばユーザー各々がデータを提供する事で、収入やトークンを手に入れられるシステムの構築って面白いと思うんですよ。高齢者も住んでいるだけで、収益を上げられるような未来作りがしたいですね」

ハンディをマイナスと捉えずに
人間の想像を超えたものを目指す

古田「確かに、ビッグデータや生体データは重要ですね。実は、今年からfuRoは改めてドロイド研究所になると宣言しているんです。これから少子高齢化が進んで圧倒的に人が少なくなるから、4足や2足のロボットというのは絶対的に需要が高まるんです。でも、いまは、人ができないことをやるロボットがまだちゃんと出てきてない。そういったものをしっかり作ろうと」

杉原「人ができないことをやって不自由を無くしたり、人に選択肢を付与したりすることは、これまでもfuRoさんはやられてきましたし、他を圧倒していますよね。それを改めて新しいロボットで実現するということですね」

杉原が運転にチャレンジしているのは、古田氏が開発したライドロイドの一号機「カングーロ」。2018年に発表され、世界で絶賛されたこのプロダクトは、人への自動追従機能も搭載している。単なる移動手段ではなく、馬のようにパートナーにもなる。

古田「杉原さんが時速50kmで走る車いすを作るというのも、そういうことですよね。不自由をマイナスと捉えて、それを0に戻そうとするのではなくて、人を越えようとする。そこが重要。それが振り切るってことです」

杉原「ハンディがマイナスで、それを0に戻すという補完的な考え方は、もう終わっていますよね。例えば、おばあちゃんがすごく高くジャンプできたら、びっくりするし面白いと思うはずです(笑)。なんでそう思うかというと、“おばあちゃんはそんなことできない”と誰もが思い込んでいるから」

 古田「そういうことです。でも人類の歴史を振り返ると、最初は補完的なものだったのに、新たな価値が加わったケースはいくつもあります。服だって、もともとは体毛が少ないから体を守るだけのものだったのに、ファッションって概念が生まれたじゃないですか。眼鏡だって、今では単なる視力補正の道具ではなくなっている。そういう事実を忘れると、ワクワクするもの、ワクワクする社会を目指そうという気にならないんですよ」

杉原「僕は、(古田さんが作った)カングーロを見て、ワクワクしない人は正直話が合わないと思いますけどね(笑)」

古田「マイナスを0にする発想じゃダメってことですよ。斜め上、いやもっと圧倒的な到達点を目指さなければ、人を惹きつけることはできないんです」

杉原「そういうことですよね。今回のシミュレーターSS01で得られる情報をもとに、これからは、僕も自分たちが考える新しいモビリティやプロダクトを改めて作っていきたいんです。例えば座るポジショニングが変わるモビリティですかね」

古田「SS01は、計測してビッグデータ化した情報をもとに、最適化するわけですよね。そこから車いすや様々なモビリティを作るのはもちろんいいんですが、時間が経ってから、あれ?作ったときよりも筋力が弱ってきたぞ、とか、押す力が強くなってきたとか、生体の健康状態がセンシングできますよね」

杉原「そのとおりですね。自分は、すでに3漕ぎで左腕の力が弱まることがわかったんですが、それで体のバランスが変わってくるので、そういうところをチェックしていけば、腰痛とか体の負担とかがコントロールできるようになるんですよ」

古田「つまりSS01は、生体センシングそのものですよね」

正面から見ると流線型のフォルムが美しいSS01。

杉原「はい。次はそれをモビリティ化したもので、いろんな人に体感、体験してもらうという段階ですね」

古田「例えば、SS01の技術を使って、ゴルフスイング矯正システムなんかもできるかもしれないですね。あるいはモーターアクチュエーターを入れて、プロの人のショットを体験させるとか。いろいろできることはありそう」

技術のダウンサイジングが
新しいワクワク感を生む

杉原「そうなんです。このシミュレーターを有効活用して、選手にパラリンピックで金メダルを取ってもらうというのが、すべての目的ではないんです。高めた技術力が、そのあとどうやって転用されていくのか、どういうワクワクする未来に繋がっていくのか? そこが重要ですよね。感度の高い人たちは、もうそこを予測して見てると思います」

古田「アポロ計画みたいなものですね。ランドマークプロジェクトというのですが、月に行くことが主たる目的だったわけではなくて、あのワクワク感に加えて、あそこで生み出された数々のテクノロジーをダウンサイジングして、民生用にする。そして、いろんなプロダクトを作ることが目的だったわけです。

オリンピックに向けたモノづくりも、選手が勝つことだけではなく、そのワクワクを次にどう繋げていくか。大事なのはそこですね」

杉原「古田さんは、次に発売されるパナソニック製のロボット掃除機も手がけているんですよね。そこには、超カッティングエッジなカングーロの技術が、使われていると聞きました。言い方がちょっと悪いですが、超最先端の技術が、家庭のゴミを拾うためだけに使われるって、すごいことですよね(笑)。ダウンサイジングってそういうこと。日本人は転用とか、応用とか、それほど得意ではありませんが」

古田「応用って、本来難しい話をどうシンプルにするかっていう話なのにね。そういうことがわかっていれば、可能性はいくらでも広げられるし、そういう人が集まれば、イノベーションが生まれる。1+1を3にできるってことです」

前編はこちら

古田貴之(ふるた・たかゆき)
1968年、東京生まれ。工学博士、fuRo(千葉工業大学未来ロボット技術研究センター)所長。青山学院大学大学院理工学研究科機械工学専攻博士後期課程中退後、同大学理工学部機械工学科助手を経て、2000年、博士(工学)取得。同年、国立研究開発法人科学技術振興機構で、ロボット開発のグループリーダーとしてヒューマーノイドロボットの開発に従事。2003年より現職。自動車技術とロボット技術を融合させた「ハルキゼニア01」、大型二足歩行ロボット「コア」、搭乗型変形ロボット「カングーロ」ほか、世界から注目を浴びる開発プロダクトは数知れず。著書に『不可能は、可能になる』(PHP出版)がある。

(text: 長谷川茂雄)

(photo: 壬生マリコ)

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対談 CONVERSATION

【HERO X × JETRO】スマホの次のデバイスはARグラス!? 空間認識情報が人々の生活を変える未来

HERO X 編集部

JETROが出展支援する、世界最大のテクノロジー見本市「CES」に参加した注目企業に本誌編集長・杉原行里が訪問。先日、ARグラスの分野で7億円もの資金調達を達成したCellid株式会社(セリッド)は、世界マーケットに進出する日本発のベンチャー。ARグラスは、我々の生活に何をもたらすのか。セリッドのCEO・白神 賢氏にお話を伺った。

光学のテクノロジーは日本が世界一

杉原:まずは、JETROが支援するCESに出展された狙いを教えてください。

白神:我々はARグラスを開発しているスマホメーカーやビッグテック、テックベンチャーの企業に対してBtoBのビジネスを行っています。もちろん、日本の市場もありますが、欧米、中国、韓国がメインのマーケットになります。そのような企業に効率的にアクセスするためにCESに出展し、開催期間中は会議室を押さえて、CESに来場した企業と1on1で商談をしていました。もちろん、ウォークインでブースに来訪いただき、我々の製品を知らなかった企業への訴求も目的としていましたが、既にコンタクトのあった企業数十社と事前にアポイントを取り、デモを披露し、商談をするということをメインの目的としていました。

杉原:やはり欧米、中国、韓国はこの分野に注目していますよね。ARグラスや、その周辺の技術に携わる御社の創業の背景などをお聞かせください。

白神:会社設立は2016年で、空間認識エンジンとARグラス用ディスプレイを販売しています。人工知能の一種であるSLAMとナノテクに強みをもっているベンチャーです。AR用のグラスにナノテクを使用しています。それらの技術をARグラスのメーカーに提供しています。

Cellidが開発したFOV60度のディスプレイ・モジュールである 「Cellid Waveguide 60」

白神:私はずっと素粒子の分野で研究者をしていて、コンピュータで大量のデータを一気に計算して非常に小さい確率で起こる事象を再現する実験をしていました。その技術を、社会実装したいと思ったのが創業のきっかけです。コンピュータの始まりはメインフレームで、パーソナルコンピュータになって誰でも1人1台所持できるようになり、さらにモバイルになって持ち運べるようにもなり、今度はそれがグラスに変換されようとしています。ARグラスの市場を調べたら、グラスに必要なオプティクス(光学)は日本が世界でナンバーワンだとわかりました。そこで、日本でチームアップをすると、実は世界に向けていい製品を発表できるのではないかと思いました。

杉原:例えばARグラスができた時に、世の中はどう変わっていくのでしょうか。『ドラゴンボール』のスカウターのようなものを想像する方が多いと思いますが。

白神:『ドラゴンボール』のスカウターよりは『アイアンマン』の眼鏡のように、コンピュータのサポートを常に得るイメージをしています。スマホは非常に便利ですが、画面に限界があり、常にのぞきこまなくてはいけません。しかし、ARグラスでは、例えばドライブをしている時、作業をしている時、ディスプレイを見るまでもない時にでもコンピュータのサポートが得られるようになります。すべての体験は3Dになり、想像できないようなアプリケーションがどんどん出てきます。スマホメーカーをはじめとしたビッグメーカーがARの分野に参入してきており、彼らの力の入れ具合を考えると、マーケットの立ち上がりをリアルに感じています。今、ARグラスの出荷台数は、スマホで言うと2000年代のBlackBerryの時代です。あと数年すると、スマホが爆発的に普及したのと同じように、「これだけ便利だから着けざるを得ない」という時代がくると考えています。

杉原:そのARグラスは10万円、20万円くらいのレベルですか? それとも100万、200万くらいのコストですか?

白神:もちろんコンシューマー市場を狙っているので、10万円前後になると我々は考えていますし、多くのメーカーもそのように考えています。

杉原:携帯電話は通話料金が高額なので、かつては1円ピッチのように機器自体を安くして、そのあとの契約料や通話料で徴収するサブスクモデルを導入していました。ARグラスも同じような形で市場を作るのでしょうか?

白神:マーケットの勃興期はそのような販売手法も考えられます。一方で、製品自体に魅力があり、所有したいと思えるようなデザインでリーズナブルな価格で提供できれば、よりシンプルな販売手法も考えられます。

このようなデザインの場合、無理に売るのではなくて、商品自体がヒットすることを目指せますし、各社、ユーザーに自然に受け入れられるデザインを採用しようとしています。

群雄割拠の中、7億円の資金調達を達成

杉原:御社は昨年7億円の調達額を達成しました。ARやVRの世界は群雄割拠だと思うのですが、その中できちんと資金調達できた強みはなんでしょうか。

白神:ウェイブガイド方式といわれるナノテクを用いた薄型のディスプレイが出始めて、現在はこの方式が標準になり始めています。ARを実現するためにはシースルーでなくてはいけませんが、シースルーディスプレイを実現する上で、プリズム方式、バードパス方式、ウェイブガイド方式の3つの方式があります。いま一番注目されているのがウェイブガイド方式です。眼鏡のテンプルの中にプロジェクタを配置して、眼鏡レンズの端から光を入射し、端から入射した光を、光ファイバーと同様の全反射の原理を用いて瞳にガイドします。これが薄くできるポイントで、当社もウェイブガイド方式を採用しています。ウェイブガイド方式を設計できる会社は弊社以外に数社ありますが、その中で当社の特徴は視野角が60度あることです。これは世界最大で、かつ画質もよくてエネルギー効率が高いというのが強みです。

杉原:御社が掲げられているビジネススキームやプラットフォームを活用して、中小企業やスタートアップなどが参入するとしたら、やはり一番はアプリケーション開発でしょうか?

白神:そうですね。答えになっていないかもしれませんが、スマホと同じようなマーケットになると考えています。スマホは数十社、ないしは数社が世界市場の9割を占めている状態です。ARグラスも、世界のメーカーたちがほぼ数社で独占するマーケットになると予想します。我々は今世界の主要な企業をリストアップして、それらの企業に対して集中的にマーケティングを行っています。彼らに当社の製品を採用してもらってシェアをどんどん取っていくというのが戦略です。ですので、スマホメーカーが当社のディスプレイを採用したARグラスを商品化し、そこにアプリケーションが乗せられていくというのが起こりうる流れだと考えています。

ARグラスから拡がる新しいビジネスモデル

杉原:例えば、僕はiTunesがあるからアップルは成長したと思っているんですね。iTunesを使いたいからMacから逃れられないというか、ゼロベースでほかのOSを入れるのは大変、ということになる。御社が掲げているプラットフォームに、今後どのようなアプリケーションが期待されますか?

白神:当社が提供するSLAM(自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術のこと)は、空間を認識しつつ、空間のデータをデータベースとして保存します。当社のSLAMが使われれば使われるほど、データを溜めることができ、最終的には、世界中のどこからでも、ストックされたデータにアクセスができて、その個人に最適化された情報が提供できるようになります。このデータベース自体がiTunesのようなプラットフォームに相当すると考えています。

杉原:利用者側もインセンティブがもらえるようになれば、どんどんARグラスを着けて歩くかもしれません。それは御社にとって何百倍何千倍の価値にできるわけだから、そういうのがあったら面白いなと考えながら、今お聞きしていました。

白神:例えば、あるエリアに入るとユーザーの好きなキャラクターが出てきて、そのキャラクターについていくと、いつの間にかお店に誘導されている、などが考えられます。そうすると、そのキャラクターを出すための広告市場が存在することになります。空間データをキーにしながら、様々なサービスやビジネスモデルが出てくるのではないかと我々は考えています。

杉原:すごく面白いですね。もうひとつ、日本はこれまでモノづくりに強みがあったのに、今、世界ランキングでもふるいません。今回の技術は日本がもう一度返り咲くチャンスなのでしょうか。どのように考えていますか?

白神:残念ながら、日本でARグラスの最終製品を出そうとしている企業は多くありません。ただし、先ほど申し上げたように、ARグラスに使われているナノテクや素材、オプティクスの分野では、日本が非常に強く、大きなプレゼンスを発揮しています。実際に海外からもそのように認識されていて、我々のような後発のオプティクス分野のベンチャーが出てきたことに関しても、「やはり」という市場の評価が多いです。当社は、以前は日本の光学メーカーで働いていて、“強い日本”の時代を知っている、非常に技術のあるエンジニアの方々に参画いただいています。今後もそういった採用を進めて、世界のマーケットを攻めていきますので、モノづくりに強い、熱い方々にぜひご参加いただきたいなと考えています。

杉原:楽しみですね。ぜひ、世界のマーケットで勝ってください。

白神 賢(しらが・さとし)
早稲田大学院物理学修士課程修了/素粒子物理学専攻 欧州原子核研究機構(CERN)、米国フェルミラボ(Fermilab)、イタリア原子核研究所(INFN) にて研究を行う。 修了後、Cellidを創業。

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(text: HERO X 編集部)

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