福祉 WELFARE

ここが未来か!?公道を最先端のモビリティロボットが走る街【2025の都市を描く】(後編)

朝倉 奈緒

研究学園都市として知られ、2011年に国際戦略総合特区に指定されてから、先進的な研究開発プロジェクトを多数進行するつくば市。最先端技術の開発においては、世界トップクラスの都市といえます。JR秋葉原駅からつくばエクスプレス線で約50分の研究学園都市駅から徒歩7分。都心から一時間弱という意外にも身近な距離にあるつくば市庁舎にて、今年度設置されたばかりの「つくば市政策イノベーション部」部長の神部匡毅さん、また科学技術振興課のみなさまに、つくば市が掲げる未来都市構想について、お話を伺いました。

一般の方が自由に街中でモビリティロボットを走行させるために、一番ネックとなっている現行の法律や規制は何ですか?

今はモビリティが公道を走るときに、安全を確保する保安員を付けなければなりません。ツアーならそれでもよいのですが、自動走行ができるロビッツのような車が将来、高齢者が使うようになるときには、単独で乗れるようになることを目指したいですね。それには乗り物の性能も良くなっていくと思うので、実績を積み重ねて安全性を実証する地道な努力が必要です。またシェアリングを実現するためには、モビリティが無人で移動するような仕組みを作らなければなりません。そのために、今年度からロボットが信号を渡れるような実験を行っていく予定です。信号から赤や青という情報を無線でロボットに発信し、それをロボットが受け取って渡るというものです。そういったインフラを整備する準備を進めています。

モビリティロボットの走行体験をした方たちからは、どんな感想や意見がありましたか?

一番多かったのは、「楽しい」という感想です。ただ移動するだけだったり、単純な作業をするのにも、モビリティに乗っているとささいなことが面白く感じられる、といった前向きなもので、美化パトロールでは、歩行者とのコミュニケーションが増えたなど、いづれもポジティブな感想や意見が多く聞かれました。

2020年の東京五輪・パラ五輪に向けて、つくば市を海外にどうアピールしたいですか?

秋葉原からたった50分足を延ばせば、人気の宇宙航空研究開発機構・JAXAがあり、産総研ではロボットを中心に最先端テクノロジーが体験でき、農研機構では楽しみながら食と農業について学ぶことができる。宇宙あり、最先端ロボットあり、食ありと、全国、はたまた世界のどこを探してもそんな場所はつくばにしかありません。それらの機関を巡るためのツアーもありますし、昼間は最先端の科学技術に触れて、夜は温泉に入ることもできます。そのように、テクノロジーと豊かな自然を組み合わせた、つくばならではの魅力をアピールしていきたいですね。

また、東京オリンピックに関しては、文部科学省が中心となって「ユニバーサル未来社会推進協議会」を立ち上げ、お台場を中心に2020年のオリンピックに合わせてロボットに実際に触れたり、見たりすることができるロボットのショーケースを企画しています。協議会のメンバーにつくば市も入っているのですが、もしかすると、つくば市で実証してきたロボットがその場所で走る、ということが実現するかもしれません。それがまたひとつ、つくば市を発信する良い機会になると思います。

未来にどのような街を実現していきたいと思っていますか?

これだけ多種多様で、かつ量も質も揃っている機関が一箇所に集まっているというのは、前述した通り世界のどこを探してもつくば市だけです。ただ、今市長が目指しているのは、市民が主体となって行うまちづくりです。市民がどのようにまちづくりに加わるかは、研究者や科学者がつくばのまちづくりにどれだけ加わるか、ということです。これまで科学技術の成果は世界に発信されたり、日本全土のために果たされてきた部分が多く、もちろんそれも大事なことですが、せっかくつくばに研究機関が多数あり、科学者がいるのだから、彼らの知見やアイディアをまちづくりに生かしていきたい。かつ、技術も街の中に取り込んで行き、それが人の幸せに繋がったり、更なる生活の質の向上に繋がったり、そういったことが我々、政策イノベーション部の重要な想いとしてあります。

モビリティロボットの事例が、正にそのような取り組みの一環なのですが、これからは幅広く、IoTAIなどといった分野にも力を入れて、市民生活に導入していくことを進めていきたいですね。

2005年につくばエクスプレス線が開通してから、ここ10年強で子育て世代である30代の人口が増えたつくば市。ワクワクするような最先端の科学技術を日々世界に発信しつつ、これからは市民主導で未来のつくばを創っていく。つくば市にしか存在しない発足したばかりの「政策イノベーション部」の方々は、私が今まで見てきたお役所の方の誰よりも生き生きとしていて、そこには日本の首都・東京では実現し得ないエキサイティングな未来が待っているのでは、と感じずにはいられませんでした。

(※前編はこちら)

(text: 朝倉 奈緒)

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今、必要なのは勇気とスピード感。元F1ドライバー山本左近の視点 後編

宮本さおり

F1ドライバーとして活躍、現在は社会福祉法人の理事や政治家としても活躍する山本左近氏。前編では、F1で生み出された車の技術がどのように社会へと落とし込まれていくか、また、福祉の世界に身を置くことで見えてきた「食」という課題についてHERO X編集長の杉原行里が話を聞いた。後編ではどんな話が飛び出すのだろうか。

世界と戦うためにはスピード感と判断力がカギ

杉原: 前半ではF1から社会に落とし込まれる技術や山本さんが作られた新しいスタイルの介護食の話を伺ってきましたが、世界中をめぐってきた山本さんから見て、昔と今で、変わってきたなと思われるのはどのようなことでしょうか。

山本:50年前と今で、最も変化したのはスピード感だと思います。例えばイギリスから見た世界と日本から見た世界って見てる視点が違うじゃないですか。視点が違うのは当然なんですけど、それぞれの国の歴史や発展の状況により、世の中が動いていくスピード感が違うんですよね。残念ながら過去10年ほどで世界における日本のプレゼンスは下がっていっているという印象を受けていますが…。日本が下がっているのか、諸外国が上がっているのかバランスはあるとは思うのですが、日本はやはりスピード感が失われているんじゃないかと。例えば白物家電の分野など日本が得意としていた領域においても負けてしまっている状況があり、あまりにも完璧なものを作ろうとしすぎてしまっているがゆえに、スピード感が犠牲にされている気がします。スピード感というのは、これからグローバルな社会になっていく中ではとても大事なキーワードだと思っていて、いかに応用するのかと同時に、いかにスピード感を持った判断ができるかだと思います。

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山本:そうですね。1000分の1秒ごとに判断を求められるスポーツですし、300キロで走ってたら1秒間で約80メートル進むわけですよ。1秒迷った瞬間に壁にぶつかってしまいますよね。そういう世界で常に判断を続けてきましたから、もしかすると、判断スピードの大切さについては他の方よりも敏感なのかもしれませんね。

新しい方法も恐れずに取り入れる勇気

杉原:僕が今年初めに当媒体でコラムを書いたテーマが、「自分ごと化」なんですよ。山本さんも「自分ごと化」というのをキーワード的に書かれているのを見て、おっ!と感じました。自分がそれに関係しているかということがその人にとって、自分を突き動かすうえではすごく大事なことだと思っていて、僕達の年代でいうと、親がどんどん高齢になってきていますよね。そうすると、車いすって結構自分ごと化になってくるんです。今、山本さんが掲げられているキービジョンのように、一般の人たちが少しでも自分ごと化していくには、僕らにどういうマインドがあると良いと思いますか?

山本:怖がらないことですね。人間は本質的に、自分の知らないことや、今まで無かったものに対しては恐怖心を感じると思うんですよね。構えちゃったり、関係ないと閉ざしてしまったり。でも、次なる未来を見たときにいろんな課題があるなかで、その課題解決をしていくためには、新しい方法も取り入れなきゃいけないし、今あることだけを継続していては破綻してしまう未来が見えているじゃないですか。もちろん今まで培ってきた技術や制度は素晴らしいもので、今すぐ変えなきゃいけないとは思っていないですが、未来に目を向けたときに、人口構造が変わったその時に社会システムが変わらなくていいのかなと考えると、どこかで変換していかなくてはいけないと思います。みんなが幸せになるためにイノベーションが必要なんですが、ここにつまずきがあって、イノベーションが起きるときというのは、今までの自分の生活が脅かされるんじゃないかとか、大変な生活になるんじゃないかと思いがちなんです。ですが、12、3年前に iPhone は世の中に存在してなかったじゃないですか。でも iPhone が出てきたことによってコミュニケーションの手段が変わり、コミュニティーのあり方が少し変わった。でも、人が人として生きていくうえで大切なものは昔から変化していないんですよ。なので、あんまり構えず、受け入れる幅を持つことが大切だと思いますね。

杉原:今まで様々な方々に取材をしたなかで、医療や福祉の分野で何か新しいものを導入しようと思うと、日本の場合は段階を踏まないと導入できず、時間がかかってしまう。そうすると、今、世の中に出していきたいと思った時に、スピード的に世界に負けてしまうということをよく聞きました。なかには、先に別の国で発表しておいて、日本に逆輸入のような形にしようと考える会社もでてきている。そのあたりの日本のスピード感についてはどのように考えていますか。

山本:日本で導入するのに時間がかかるのはなぜかというと、人の命に関わるものなので、100%完成されているものでなければ認められないんですよね。そこは僕も納得できます。でも、例えば画像診断ソフトの補助的運用、最終的に医師が判断するための補助的ツールという使い方であれば、それは80%の完成度でもいいと思うんです。トライ&エラーが繰り返されて100%になるので、80%の技術を100%にするという最終的な部分は、実は一番大変で時間がかかる部分なんです。そこが100%になってはじめて世の中に出るというのが今の日本の基準。しかし、直接的に人への影響が少ないであろうモノに関していえば、僕は80%でもある程度のゴーサインが出るような仕組みの方がスピード感は上がると思いますし、そうすることによって進化が加速していくと思います。

前編はこちら

山本左近
愛知県豊橋市出身。1982年7月9日生まれ。36歳。豊橋南高校卒業、南山大学入学。1994年、レーシングキャリアスタート。2002年、単身渡欧しF3参戦。2006年、当時日本人最年少F1ドライバーとしてデビュー。以降2011年まで欧州を拠点に世界中を転戦。2012年、帰国後ホームヘルパー2級を取得。医療介護福祉の世界に。医療法人・社会福祉法人 さわらびグループの統括本部長就任。 現CEO/DEO。全国老人保健施設連盟政策委員長。自由民主党愛知県参議院議員比例区第六十三支部長。

(text: 宮本さおり)

(photo: 増元幸司)

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