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障がいとパラスポーツを理解する最初の一歩。「パラバディ研修」とは?

富山 英三郎

東京2020オリンピック・パラリンピックの開催まで2年を切った現在、リクルートマネジメントソリューションズでは、障がいやパラスポーツへの知識、理解を促進するための企業向け「パラバディ研修」をスタートさせる。ここでは、記者発表の様子や概要とともに、公開された研修の一部をレポートしていく。

東京2020パラリンピックに関心を持つ人が増えてほしい

東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャルパートナーであるリクルートの関連会社であり、企業の人材育成を支援するリクルートマネジメントソリューションズは、東京2020パラリンピックの成功に向けた支援策の一環として「パラバディ研修」と名付けた企業向け新研修をスタートすると発表した。

パラバディとは、「パラレルな個性と、バディ(仲間)になろう」というブランドスローガンを短縮したもの。なお、同社はパラレルを「自分と違う」という意味で使用している。

記者発表の壇上にて、同社の代表取締役社長・藤島敬太郎氏は、「2012年のロンドン大会、2016年のリオ大会と、過去2回のパラリンピックはそれぞれ200万枚以上のチケットを売り上げており会場は大盛況となった。一方、日本では障がい者スポーツを試合会場まで足を運んで観戦しようという意識が低く、そこが課題となっている。パラバディ研修を通じて、障がいに対する知識や実体験を学んでいただき、日常や職場において障がい者への理解や関心が高まり、さらにはパラリンピックに関心を持つ人が増えてほしい」と語った。

また、同社の広報兼オリンピック・パラリンピック支援チーム シニアスタッフの小川明子氏は、「弊社は”個と組織を生かす”をブランドスローガンとして掲げている。これは、東京2020パラリンピックの、”多様性と調和”、”パラリンピックを通じて目指す、共生社会の実現”という大会ビジョンと通じるものがある。この研修を通じて、企業や日本におけるダイバーシティへの一歩にしたい」と抱負を語った。

当日は、同社所属のパラアスリートである、車いすバスケットボールの村上慶太選手、山口健二選手(ともに千葉ホークス)。さらに、シッティングバレーボールの田澤隼選手(千葉パイレーツ)も登壇。さらに、バレーボールの福澤達哉選手、清水邦広選手(ともにパナソニック パンサーズ)も加わり、トークセッションが行われた。

「障がいをもって生活をすることへの理解や、障がい者スポーツに興味をもってもらうきっかけになってほしい。また、障がい者スポーツは実際に見て体験して初めて気づく魅力がたくさんある。この機会に、僕らのスポーツを知ってもらうきっかけになれば嬉しい」と山口選手。

「街で見かけたら、気軽に声をかけていきたい」と参加者

パラバディ研修の主な狙いは、「パラリンピックスポーツのすごさを知る」「障がい者とのコミュニケーションを実践する」「障がいを身近なものとしてとらえる」の3点。

研修の流れとしては、1.導入 2.肢体不自由アクティビティ 3.視覚障がいアクティビティ 4.座学(障がいについて/東京オリンピックについて/パラバディの必要性/パラリンピック競技の種類や魅力について)。最後にパラバディとしての行動宣言を各自がおこない終了となる。

1回の研修は約2時間、30~40人制で参加費はひとり2万円。運営はユニバーサルデザインのソリューションを提供している(株)ミライロがおこない、リクルートマネジメントソリューションズは企業研修向けの「監修」という立場で関わる。

記者発表の第2部では、田澤選手、福澤選手、清水選手によるシッティングバレーのデモンストレーション。さらに、実際の研修でおこなわれる車いす体験(乗降方法/進め方や曲がり方/サポート方法/段差の登り降り/コミュニケーション方法)。視聴覚障がい体験(アイマスクを使った体験/白杖に関する説明/お声がけの仕方や誘導方法)も公開された。

参加者たちは、「視覚障がいの方への声のかけ方、実際のサポート方法はすごく勉強になった。街で見かけたら、今日から気軽に声をかけていきたい」。「小さな段差が車いすの方には大きな問題だということがわかった」。「コミュニケーションの重要性が理解できた」など、大きな気づきがあったようだ。

前述の小川明子氏も、「障がいや障がい者を身近なものとしてとらえることができ、彼らとの接し方に自信が持てるようなプログラムになっています」と意欲をのぞかせる。

健常者と障がい者が触れ合う機会が極端に少ない日本においては、まずは企業から積極的に活用し、その輪が広がっていくことを切に願う。

(text: 富山 英三郎)

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前人未到の2連覇から4年。「豪速のナポレオン」が胸に秘めた覚悟と野望【狩野亮:2018年冬季パラリンピック注目選手】前編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

冬季パラリンピックの花形競技、チェアスキー。中でも「高速系」と呼ばれる2種目で圧倒的な強さを誇り、世界のトップに君臨し続ける男がいる。スーパー大回転で金メダル、ダウンヒル(滑降)で銅メダルを獲得したバンクーバーパラリンピックに続き、ソチパラリンピックでは、両種目で金メダルを獲得するという大快挙を見せた狩野亮選手だ。前人未到の2大会連続制覇を成し遂げてから4年が経とうとしている今、ピョンチャンでの三連覇達成に世界中の期待がかかる。金メダリストとしての覚悟とは?大会に向けたマシンのセッティングから今後の展望に至るまで、狩野選手に話を聞いた。

一意専心。
本番に向けて1ミリずつ上げていくボルテージ

26日間に渡る南米チリ合宿から帰国した取材当日にも関わらず、疲れた表情一つなく、颯爽たる風姿で現れた狩野選手。合宿での充実ぶりを物語るかのように、その目は生き生きと輝きを放っている。

「ある程度、まとまってきたなという手応えは感じています。ピョンチャンのコースも知っていますし、自分なりのベストなランをするための準備はできてきたかなと。ざらめ雪みたいな雪質のソチ大会ほどではないけれど、ピョンチャンも、日本寄りの雪質です。気候は東北地方よりやや寒い感じで、湿度も同じくらい。うまくハマるといいなと思います」

その一方、今の自分をシビアに客観視するもう一人の狩野選手がいる。ソチ大会では、他の追随を許さない強さを見せつけ、高速系種目のスーパー大回転とダウンヒル(滑降)で史上初の2冠を制覇したが、「あの時の自分では、ピョンチャンは勝てない」と話す。

「ソチに限らず、僕はパラ大会が終わった初年度には、4年間かけて作り上げたものを一度、自分の中でガラッと崩しにかかるんです。そこから、4年後に向けて、またいいもの作っていこうと、フレームやサスペンションなどを何度もテストしていくわけですが、どうやら僕は、その最中には結果が出ないタイプの人間らしく、本当に全てが整った時にしか、いい滑りができない。年間を通しても、半分ほどしかゴールできない選手です。ちょうど4年目の今のタイミングでは、前大会で金メダルを獲ったからどうという感覚ではなく、1レースにバシッと合わせていくことだけに集中しています。

予想していたことですが、ここ2~3年は、大輝さん(森井大輝選手)、猛史くん(鈴木猛史選手)や僕の滑りを見てきた若手選手が、僕たちの知らないマシンやサスペンションの使い方をし始めています。次の大会がどうなるか、こればっかりは分からない。覚悟はしているつもりです」

アスリートとエンジニアの
感性を併せ持つヒーロー

チェアスキーと言えば、昨今、F1顔負けのオリジナルマシンの開発に注目が集まっている。日本のトップアスリートたちは、マシンにとって不可欠なパーツの開発を手掛ける各メーカーとタッグを組み、全てをオーダーメイドで誂える。揺るぎないこだわりを持つアスリートにとって最高の一台に仕上げるために、試乗と改良を何度も繰り返し、極限のレベルまで完成度を高めていくのだ。最新技術をふんだんに投入したマシンも開発される中、狩野選手のマシンはピョンチャンに向けてどのように進化したのだろうか。

「出来る範疇で、今のマシンをどこまで高めていけるかということにフォーカスしています。フロントカウルの形は変えました。ジャンプした瞬間、ちょっと前から落ちるなど、滑っていて少し違和感があったので、どうすればそれをなくせるかという発想で作りました。あとはマシンの重量バランスですね。後部に錘(おもり)を積んでみるなど色々試して、新しいカウルとマシンの最適な重量バランスを見つけて、それを新たに組み込んでもらう予定です」

狩野選手は、自分の滑りを客観的に分析するエンジニア的視点を持ちながら、自分のフィーリングを何より大事にする人。「こんな滑りをしたいから、ここをこんな風に変えたい」と各メーカーのエキスパートに伝え、改良を重ねていくという、“感覚主体”のスタイルで開発にあたっている。

後編へつづく

狩野亮(Akira Kano)
1986年生まれ。北海道網走市出身。小学3年の時、事故により脊髄を損傷。中学1年より本格的にチェアスキーに取り組み、2006年トリノ大会からパラリンピックに3大会連続で出場。2010年バンクーバー大会ではスーパー大回転で金メダル、滑降で銅メダルを獲得。2014年ソチ大会ではスーパー大回転、滑降の2種目で金メダルを獲得。同年、春の叙勲で紫綬褒章受章。株式会社マルハン所属。

[TOP動画 引用元]The IPC(The Internatinal Paralympic Committee)

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

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