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車いすと一緒に出かけよう! AI搭載の電動車いすが、あなたの新しい足となる

田崎 美穂子

スマホに話しかけるだけで、車いすが行きたい場所へ運んでくれる。久留米工業大学(福岡県久留米市)の研究グループが、対話システムを得意とするコンピューターサイエンス研究所と地図大手のゼンリンデータコム、電動車イス開発ベンチャーWHILLなどの協力を得て、スマホに話しかけるだけで目的地まで連れて行ってくれる電動車いすの自動運転システムを開発した。障がい者や高齢者が利用することを想定し、今後3~5年間かけて実証試験を行う予定だ。

電動車いす利用者が、スマートフォンなどの情報端末などで音声入力すると、GPSと車いすに取りつけたカメラが現在地を把握。一定のエリア内で目的地までのルートを検索し、連動した装置を取りつけた車いすが自動走行できる仕組みだ。GPSだけでは、数メートルの誤差が出てしまうため、人工知能(AI)を搭載したカメラの画像認識技術を併用し、障害物を避けて安全なルートを進めるようにもした。緊急時は、手動でも操作できるので、状況に応じた操作も可能。

具体的な目的地だけでなく、「~がしたい」「~が食べたい」などの要望にも対応して目的地を設定することもできる。しかし、公道での利用は交通関連法規などの規制があることなどから、当面は商店街や博物館など限られたエリアでの利用となりそうだ。今後、久留米市介護福祉サービス事業者協議会や自治体などと連携して実証試験を重ね、広範囲でも移動可能のシステム開発を目指していく。

同大学交通機械工学科の東 大輔教授は、方言への対応などの言語認識機能の充実や、さらなる安全性の確保などを課題として挙げ、「障がい者や高齢者が、もっと自由に外出を楽しめる社会づくりに貢献したい」と話す。

障がい者や高齢者が外出する際は、介護者などの手配が必要なため、「ちょっとそこまで」くらいの外出でもおっくうになってしまいがちだ。電動車いすが実用化されれば、行きたいときに単独で気軽で移動を楽しめるようになる。近い将来、AIを搭載した「電動車いす」という新たなマシーンが、あなたを行きたいところに、行きたいときに連れて行ってくれるだろう。

久留米工業大学インテリジェント・モビリティ研究所の開発試験の様子
*久留米工業大学インテリジェント・モビリティ研究所HPで記者会見の動画を見ることができます。http://www.12pt.org/azuma/iml/theme.html

今月は、『福岡モーターショー2017』に出展予定。一般来場者の試乗も行えるとのことなので、ぜひ訪れてみてほしい

『福岡モーターショー2017』
会期:2017年12月15日(金)〜18日(月)
9:30〜18:00 *18日(月)は17:00終了
会場:マリンメッセ福岡、福岡国際センター、福岡国際会議場*2F
※久留米工業大学インテリジェント・モビリティ研究所は福岡国際会議場2Fに出展
入場料:大人1400円(前売り1200円) *高校生以下無料

(text: 田崎 美穂子)

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乙武洋匡が人生初の仁王立ち!話題のロボット義足を手掛けた小西哲哉のデザイン世界【the innovator】前編

岸 由利子 | Yuriko Kishi

11月13日、東京都渋谷区で開催されたイベント「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展(通称:超福祉展)」の大トリを飾ったシンポジウム「JST CREST x Diversity」で乙武洋匡さんがロボット義足を付けて電動車いすから立ち上がる姿が公開され、大きな話題を呼んでいる。乙武さんの義足は、科学技術振興事業機構CRESTの支援のもと、遠藤謙氏が率いるソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)のチームによって開発された。その一員として、ロボット義足のデザインを手がけたのがexiii design代表のプロダクトデザイナー小西哲哉氏。電動義手、ヒューマノイド、車いす型ハンドバイク、リハビリ用の長下肢装具など、多彩な分野で手腕を発揮している小西氏のデザイン世界に迫るべく、話を伺った。

引用元:乙武洋匡FACEBOOK

使う人がワクワクできる
“モノ”として魅力的なデザイン

『身体の障がいは現時点では障がいかもしれないけれど、10年後には障がいでなくなるかもしれない。もし足がなかったとしても、足と同じように動くテクノロジーがあれば、その人は普通に歩くこともできるし、走ることもできる。そうなったら、足がないことは障がいなのだろうか。きっと未来は、誰もが身体に不自由はなく、自由に身体を動かすことができるに違いない。そうした未来を目指して、ロボティクスで人間の身体を進化させていく』―このビジョンのもと、ソニーコンピュータサイエンス研究所のチームが始動した「OTOTAKE PROJECT 2018」。義足を付けて歩くには最も難易度が高いとされる四肢のない乙武さんが、最新のテクノロジーと融合することによってロボット義足を付けて歩くという、世界でかつてないハードルの高いチャレンジに挑むというものだ。

SHOEBILL Ototake Model
©ソニーコンピューサイエンス研究所

乙武さんの義足は、Xiborgと同研究所が開発するロボット義足「SHOEBILL」をもとにカスタマイズされた。普段、乙武さんは、常に座位の状態で生活しているため、膝付きの義足を付けて立ち上がろうとすると、重心位置が前になって前方へ倒れやすくなり、膝折れが起きやすくなってしまう。両手がなく、受け身の姿勢を取ることも難しいため、安全性を考慮して膝の回転軸を後ろ側に付けるという特殊な構造になっている。小西氏はデザインについてこう話す。

「今回は、人の足のシルエットを大事にしたいと考えていました。乙武さんが今までなかった足を手に入れて、長ズボンを履いたり、好きなスニーカーを選ぶなど、私たちが当たり前にしていることができるようになることは、義足を使って“歩く”ことと同じくらい大切だと思うからです。シルエットをより人の足に近づけるため、従来ふくらはぎ部分にあったバッテリーをすね側にレイアウト変更しました。膝の回転中心を含め、全体のシルエットをできるだけ前側に移動させることで、後ろ側にある膝が不自然に目立たないように配慮しました」

このロボット義足は、単に人の足にシルエットを似せているだけではない。

「健常者にはできない自分の足の外装を簡単に取り外し、カスタムができるようにしていたり、装着するだけで美しいラインの足が手に入ったり、使う人がワクワクできる“モノ”として魅力的なデザインになるよう心がけています。すべてのモノのデザインに対して、常に考えていることのひとつですが、義肢や生活に使うモノはあくまで道具であって、大事なのはそれを使うことで日常をより良い状態にすることができるということです。乙武さんの義足で言うと、このロボット義足を使うことで、日常をもっと楽しくできるということです」

ユーザーと心の距離を近づけ、
チーム一丸となってモノづくりする喜び

「今後、歩くのがどんどん上達して、乙武さんが街中を歩いている姿を想像するとワクワクが止まらない」と話す小西氏。福祉機器から家電に至るまで、さまざまな分野のプロダクトデザインを手掛けているが、「そのモノを“使う人”がしっかりと見えているプロジェクトほど、良いモノが出来上がる」と言う。

「どんなプロジェクトでも、必ずユーザーの方と会って話をするようにしています。実際に話し合うと、どんな人なのか、どんなモノが欲しいのかといったことが見えてきますし、特に義手や義足、車いすといった福祉機器など、自分自身がユーザーではない場合は、話を重ねることでユーザーとの心理的な距離が近づくと、より具体的にイメージできるようになります。自分だったらこうあって欲しい、こんな風に動いて欲しいということが考えやすくなりますし、その方のために、もっといいモノを作りたいという気持ちが湧いてきます」

Handiii ©exiii design

小西氏は、パナソニックデザイン部門でビデオカメラやウェアラブルデバイスのデザインを担当したのち、2014年にメカエンジニアの山浦博志氏、近藤玄大氏とexiiiを協同創業。GUGENやジェームズ・ダイソン・アワード、iFデザインアワードなど国内外のコンペで受賞した、低コストで優れたデザインを兼ね備えた3Dプリント筋電義手「handiii」を皮切りに、その進化版であるオープンソースプロジェクト「HACKberry」、義手プロジェクトで培った知見を活かして開発したVR空間に存在するデータに触ることができる触覚提示デバイス「EXOS」など、革新的なプロダクトを次々と生み出してきた。

Hackberry ©exiii design

EXOS ©exiii design

exiii創業から目まぐるしく過ぎた4年を経て、よりモノづくりに集中するために、新しいデザイン事務所「exiii design」を立ち上げ、独立したことを2018年10月17日に発表した小西氏。exiiiのフルタイムメンバーからは卒業するが、社名からも分かる通り、exiiiのプロダクトデザインは今後も担っていきながら、新たな気持ちでモノづくりに挑んでいく次第だ。

「デザイナーにも色んなタイプの人がいると思いますが、僕はどちらかと言うと、尊敬し合えるメンバーとチームを組んで、一緒にモノづくりしていくのが楽しいですね。これは、exiii時代からずっと変わっていないです。“ここ、もうちょっと削れないですか?”、“ここ、スペースに余裕がありますよね?”というように、エンジニアをはじめ、関わるスタッフとは包み隠さず、ひとつずつ洗い出していくタイプです。そうすると、目の前にある課題の解決策も一緒に探していくことができるので」

後編では、小西氏が手掛けたデザインをさらに紹介するとともに、インスピレーションの源など、その人物像に迫っていく。

後編へつづく

exiii design
https://exiii-design.com/

小西哲哉
千葉工業大学大学院修士課程修了。パナソニックデザイン部門にてビデオカメラ、ウェアラブルデバイスのデザインを担当。退職後、2014年にexiiiを共同創業。iF Design Gold Award、Good Design Award金賞等受賞。2018年に独立しexiii designを設立。現在も継続してexiii製品のプロダクトデザインを担当。

(text: 岸 由利子 | Yuriko Kishi)

(photo: 増元幸司)

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